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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
7 北上-地球人と変革-
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 トリスに全員の傷を癒してもらう。


 「残念ながら、もうMPが残り少ないわ……」


 トリスは無念そうな顔で言う。それだけ今回の傷が多かったということ、かなり無茶をしてしまった。地の利、個々の戦力が上といっても、圧倒的数の前には圧倒的力以外では対処できないのだということをむざむざと見せつけられる結果。今まで所詮オーガと舐めていたが、ここまでの数になるとこうも変わるものとは、少々気が緩んでいたとしかいいようがない。死体はおおよそ100近く。普段10程度でしか行動しないオーガが何故こんなにも集まっていたのか。




 疑問は段差を降りて森林に入ることで氷解した。辺りには様々な骨、鎧、食いかけの肉、排泄物など様々なものが打ち捨てられている。酷い臭気、吐き気がこみあげてくるほどのもの。どうやらここがオーガの巣だったようだ。錆びついた剣、ひしゃげた鎧、柄が折れた巨大な槌、ナイフ……様々な冒険者の持ち物が無造作に。兎の頭蓋、蟷螂の鎌、巨大な何かの頭骨……オーガの食生活をまざまざと見せつけられる。排泄物は適当な木の根もとにしてあったり、彼らの知能水準さえも見せつける場所。知能の低い、雑食の野蛮なモンスター、それがこの巣から感じた彼らの評価、別段もとのものとは変わっていないが。


 歩いていくと、森の中に祭壇があることに気が付く。祭壇といっても、石を適当に積み上げ、骨を周りに突き刺した程度の非常に原始的な物。ただ、そこに様々な肉や金属製品が積み上げられていることからこれが祭壇だと予想する。オーガの宗教、はたしてそんなものが彼らにあるのかは全く分からないが、ゆっくりと近づく。

 ひどくなっていく臭気。祭壇の中心部には、様々な物が打ち捨てられていて。

 人の足、人の体、鎧、剣、兎の毛皮、蟷螂を丸めたもの、その他もろもろ原型さえも留めていないもの……


 その中央には巨大な石。これが彼らにとっての崇拝の対象だったのか。その前には人の死体が転がされている。近づいてみると、黒髪の女。裸に剥かれ、至る所に青あざができている。腕はひしゃげ、白い骨が肘からは飛び出ている。足は丸まり2本であっただろうそれは1つに押しつぶされている。左腕は手首から先がなく、上腕には齧られた痕、骨が覗いている。肝心の顔は……


 「トリス、見ないほうがいい。」


 一言告げ、トリスを離す。これはひどい、思わず口まで吐瀉物が逆流してくる。そのまま木の根元に吐きだし、もう一度。頭痛がする、女の頭蓋はかち割られ、中から脳漿が漏れ出している。半開きの口には歯がなく、いや、もう無理だ。

 離れ、吐く。胃の中のものを全て吐きだす。あまりに酷い、正視に絶えない。


 吐き気が収まり、胃液しか出なくなった頃。涙目を拭い、その死体に火を放つ。恐らく、ここらを冒険していた冒険者パーティーの成れの果て。そこらに転がっている肉にも火を着けていく。祭壇自体は、周りの木が切り払われていたため火が燃え移る心配はない。燃え尽きるまで待ち、ふらふらとした足取りで森の奥へと歩いていく。流石に酷過ぎる、ここまで野蛮な種族だとは思ってもなかった。

 いや、これが彼らの正義なのだろう、しかしそれは自分とは相いれない正義、だったらそれは自分にとって悪だ。


 その日の夜、その女の顔が何度も何度も夢に出てきた。起きだし、吐瀉を繰り替えす自分をシェムが心配する。


 「あぁ、わかっている。人の死でここまで弱ってしまっては、これからが怪しい、だろ?」

 「でもわかってくれ。こちとらそうそう見たこともないんだ、心の整理は簡単につくもんじゃない。」


 結局その日はしっかりとした睡眠をとることができず、次の日の戦闘はほぼテン達にまかせっきりとなってしまった。





 そこから3日、相も変わらず森の中。予定としては、あと7日以内には街道を横切るはず。それがグラスグリン聖女領とクロッカス騎士団領の国境を走る街道。

 クロッカス騎士団領、名前の通り神聖オルケー騎士団が領有する土地。だからといってそこが聖地であったり、重要な場所であったり、騎士団員が常時大量に駐屯しているわけではない。ただ、その中心都市リヴォニアには騎士団学校が存在し、騎士団員となるために必要な様々な教育を受けているそう。ただ、トリスに言わせてみれば、やっていることは戦闘訓練と宗教講話だけだと言う。これは騎士団崩れの冒険者から聞いた話だそうで、最初は意気揚々と騎士団目指して頑張っていたその冒険者は、途中でふと目が覚めたらしい。それほどまでにオルケー教の色が強い騎士団、故に様々な国と反対立状態にあったりするらしい。ただ結束力は、なまじ中心に宗教があるだけ凄まじい物であるそうだ。ちなみに、グラスグリン聖女領と隣接している理由は、聖女領と隣接させることで有事の際でも援軍をすぐに送れるようにするためだそうだ。


 この3日間、戦闘はほとんどホーンドスネークか、フォレストシザーマンティス、ヴィヴィッドラビットにフォレストイーグルなどのモンスター。オーガ系のモンスターに会うことが格段に減った。会わないというわけではないが、今まで毎日15、20体程度あっていたのが1日あたり5体程度まで減少したのだ。これは大きな変化だろう、恐らく、あの巣を壊滅させたということがあるだろう。オーガは比較的人の手がついていない森に大量に住んでいるので、あの巣が全ての総締めというわけではないことは容易に想像がつく。しかしながら、ここら一体の縄張りを持っていたであろう巣が壊滅したことにより、そこから離れて動いていた別働隊もしくは別の縄張りの斥候程度しかいなくなったのではないか、と考えている。ただ単に運が良いだけではない、確実に会う量が減っているのだから。そのおかげで進軍が非常に捗っているので、特に文句をいう予定もないのだが。ちなみに、あの4日前のあの戦闘のお陰でレベルが1つ上がった。100体程度、いや前からの分も合わせると150体程度で1レベル上昇、結構大変なものだ。

 ちなみに、クロッカス騎士団領付近の森より、生息するモンスターの強さがまた一段階上のものになる、とはトリスの弁。オーガも当然いるらしいのだが、その上位種であるハイ・フォレストオーガが生息する領域がそこから北部らしい。当然ハイ・フォレストオーガスメイジやハイ・フォレストオーガリーダーも存在しているそう。彼らは上級上位のモンスター、集団だと最上位、恐らくこの前のような群れであれば特級下位に片足突っ込むのではないだろうか。

 気を引き締める必要がある。ただその上であの件はタイミングが最適だったのではないだろうか、そう密かに考えている。

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