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蜜柑の香りを体に纏い、自分の横に立つのは右手に杖を持った少女。
白銀の鎧を身に纏い、頭部は何もつけず、金髪が風になびくままになっている。その頭頂部付近には2つの耳。
「でも、いくらなんでも自分を過剰評価しすぎだよ?こんなんじゃあダメダメだよ。」
そう言って少女は杖をくるりと回す。痛みも忘れて、その横顔を見る。美少女、それもその中でも上位に属するような。少し大きなぱっちりした目、鼻は高く、口からは少し尖った犬歯が覗いている。顎は鋭く、頬はすっきりとしている。全体的に細い顔立ち、眉は薄く、化粧の影も見えない。しかしそれでいて未だ成長期のような、10代前半の幼い顔立ち。
右腕に暖かい光、トリスの回復の光。
「ふふふっ、お掃除だっ!」
杖をもう一度くるりとまわし、杖の先端をガルムに襲い掛かろうとしているオーガに向ける。
≪ホーリーアクア≫
凄まじい水の奔流がオーガを弾き飛ばし、そのまま段差を登ろうとしているオーガ達を飲み込む。そしてオーガスさえも。バケツをひっくり返したどころではない、数百リットルにも及ぶ水の奔流。
一瞬で崖を登っていたオーガはいなくなり、オーガもオーガスも、リーダーでさえ体制を崩し倒れ込んでいる。少女が杖で地面を叩き、もう一度くるりと回す。
≪マイクロバースト≫
突如オーガ達が倒れている場所上空に魔方陣が現れる。そして顔に感じるのは強風、目もあけてられなくなるほどの。強風が止み、やっとこさ顔を抑えた左手を外し前を見る。半ばぬかるみ、水たまりだらけの場所に上空から暴風を叩きつけられたオーガ達は泥に塗れ、ぬかるみに突っ伏している。
少女はもう一度地を叩き、杖を回す。
≪ソイルバインド≫
見ればわかる、何が起きているのか。オーガ達に纏わりついた泥が固まり、地面からも泥が彼らに纏わりつく。そして固まり、動きを阻害する。
見ていればわかる、少女が唱えているのは水、風、地属性の特殊な系統の魔法3種。全てヘルフレイムと同じスキルレベルで覚えられる魔法。
少女が杖をもう一度回す。くるり、くるり、2回転。
≪アイシクルレイン≫
オーガ達の上に魔方陣、そしてそこから落ちてくる無数の氷柱、氷柱、氷柱。オーガ達の皮膚を容易く切り裂き、刺し殺していく。
数秒後、そこにいたのは人型のモンスターの塊ではなく、モンスターの死骸の山でしかなかった。
右腕を抑え、ガルムの元へと向かう。
「トリス、俺の右腕はいったんおいておいて、ガルムを頼む。」
ポーションを振りかけ、ガルムの様子を見る。消耗はしているが、平気なようだ。シェムも平気らしい、煤に塗れながらも自分の肩にとまる。振り返り、少女に感謝を述べる。
「ありがとう、助かった。おかげで命を長らえることができた。」
「いい案だったと思うよ。でも、少し見通しが甘かったかなー。気を付けてね?」
少女は笑う。白銀の鎧が陽光を反射している、胸にはマークがある。盾とそこから生える8枚の羽。何のマークだろうか。
「名前を聞いてもいいか?」
問う。命を助けてくれた人、感謝してもしたりない。
「私はリヒト!助けたのは、面白そうだっただけだからだよ、アスカくん。随分とまぁ珍しいユニークスキルみたいだね、ただ私の劣化版だけれども。」
何故、この少女は名前を知っている?いや、鑑定魔法か。ということはステータスも見られ、故に予想も付けられた、と。では劣化版の意味は?鑑定魔法をかけるも、表示されない。
「あぁ、見えないよー妨害スキルもってるもん。」
「待って、リヒト、そのマーク……まさか、大長老様ですか?」
トリスが慌てたように問う。大長老、8枚の羽……まさか……
「ん~そうだね。そういう名前もあるね、じゃあ自己紹介するよ。私はリヒト、人族最高戦力集団“8翼”の第5翼、“大長老”だよっ!」
「8翼……」
人族最高戦力集団、そのうちの1人。自分とは軽くレベルが違う。一体なぜここに?
「なんでここにいるのかって?そりゃぁ今から任務だからね。最北の砦まで行かなきゃならないんだ。その途中に運よく出会ったってわけ。あ、だから私そろそろいくね!じゃぁね!」
手を振り、にこやかに去ろうとする少女。ふと振り返り、
「ちなみに、私のユニークスキルは<魔力増幅>、20倍だよっ!」
そういって走り去っていく。圧倒的速度、見る見るうちに見えなくなっていく姿。嵐のように去り、残されたのは自分たちとオーガ達の死体。20倍、自分の4倍の速度で成長していく……壊れ性能すぎやしないか?
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※これも向こうもエタらせるつもりは毛頭ありません




