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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
7 北上-地球人と変革-
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 ギルドは予想していたのと同じような光景だった。この時間だというのに人が相当数いて、中には備え付けの酒場でもう酔いつぶれているものも1人や2人ではない。受付は2つあり、待ち人は結構いる。10人程度、だいたい40分くらいは待つ必要があるだろうか、いやもっとか。整理番号が彫られた札を取り、酒場の席に腰かける。まずはワインとつまみを。1杯やっているうちに呼ばれるだろう。

 出されたのはワインと白いチーズ。どこでもチーズか干し肉が基本、場所によってはその国、地方の伝統品らしいが。それも変化することだろう。珍味なんてものを追求する人たちが出てくるだろうから。ワインは樽の味が深く、そして酸味の強い物。ここらのブドウの品種はプルミエやウルムスのものとは違うのであろうことが想像つく。


 ワインを舌先で転がしていると自分の番に。残った僅かなそれとチーズを口に放り込み受付に向かう。


 「本日はどのような用件でしょうか。唯あいにく依頼はもう数が……」


 すらりとした青年が問う。ただ目元には隈ができていて、服も所々ヨレている。どうやらなかなかに大変だったようだ。


 「情報収集とドロップアイテムを売りさばきたい。あぁ、安心してくれ。二束三文になるのは予想している。」

 「では、ギルドカードのほうを失礼いたします。Aランクのアスカ様とCランクのトリス様ですね。」

 「まず売るものから。オーガの牙なんだが、どうだ?」


 これでどうなるか、最悪売れずとも構わない。適当に捨ててしまえばいいのだから。


 「すみません、オーガ種のものは大量にもうありまして、ええ、騒動はご存知でしょう?」

 「あぁ、わかっている。どうやら大変みたいだな。じゃぁこれはどこかに捨ててくるとしよう。」

 「あ、いえ、一応買い取らせていただきます。ただ、どうも価格もまだ決まっていなくて数だけ増える状態で、なので大体の数に応じて少ないですが……」

 「100本以上はある。いくらだ?」

 「銀貨20枚でも大丈夫ですか?」


 やはり、大銅貨20枚を切っている。恐らくオーガの数自体が多いこともあるのだろうが、それにしても下がりすぎだ。本当に混乱しているのか、受付の裏には様々な素材が散乱していて。


 「どうやらこれでは鍛冶屋も大賑わいかな。」

 「えぇ、そうです。ただ向こうは儲かっているのですがこちらはもうほとんど……」


 大方買っていたら金がなくなったということだろう。当然これはどこの街でも起きているだろう、しばらくは混乱から抜け出せそうにない。牙を売り、次に情報を収集することに。


 「ええ、ご指摘の通りです。モンスターを討伐しても死体が消えなくなってしまい、それを買い取るうえでの価格制定ができていません。また、モンスターの部位によっては買い取れないものもあるのですが、それも制定できておらず、そのまま死体を引き摺ってくるような人もいました。今はお断りしているのですが……」

 「そして取れるものが増えたことにより街には物が氾濫し、手が付けられない状況になっています。これでも昨日よりかはマシになったんですよ?今では道が通れますから。この状況は領主さんも全くどうしようもないらしくて。」

 「どのくらいで通常営業になるか、ですか。お察しの通り価格制定ができて初めてしっかりとした買い取りや依頼の発布ができるので……ギルド総本部の発表を待たなければ動けません。なので恐らく1週間か下手すると2週間は……」

 「あとは街の治安も今崖際で踏みとどまっている状態なので……」


 青年は額の汗を拭きながら答える。相当堪えているのだろう、感謝を告げ、ギルドを後にする。1週間、2週間、それで収集が付くのなら儲けものだろう。このままだと物価が崩壊し、街が街でなくなる可能性もある。国が動かなければならない、もしくは大陸単位か。どちらにしても、街によってもしばらくの間利益がないことは誰の目にも明らかだ。

 依頼のない掲示板、死んだ目をする泥酔した冒険者、街は金が飛び交う巨大な市場となり、その中で荒波に揉まれる市民たち。必要なものだけ購入して離れよう、どうせ森の中を歩き続けるのだ、何の問題もないだろう。



 街を出て、街道を北に向かう。どの程度歩けばいいかはわからないが、適当なところで西に向かう。ずっと北に向かってから西に向かい、次南にずれてももとの進路にできるだけ近くなるように、ということもできたのだが、次本当に南にずれるかどうかはわからない。だったらできるだけ元の進路通りに進むようにしようと思う。

 あの街で購入したのは主に食料。あとはポーション少しに調味料。布を沢山購入し、前まで使っていた布を捨てた。血を拭う用、体を擦る用、食事用、それ以外にも様々な用途がある。枕も折角だから購入した。最後にあのナイフ。

 ナイフを取り出し、鞘を外す。文字が刻まれた鉄板、一度使ってみたい。そのためには獲物が必要で、恐らくオーガあたり。


 そういえば、モンスターを討伐した後どうすればいいのだろう。剥ぎ取りと簡単に言うし、昔やったゲームでもボタン1つでできたのだが。当然動物を解体した経験なんてあるはずもなく、何よりどの部位を持っておくべきかもわからない。ただ言えることとしては、以前以上のことをするのは避けたほうがいいということ。たとえば、ヴィヴィッドラビットの肉をそぎ落とし食用にするのは大丈夫だろうが、オーガや他のモンスターの肉をそぎ落としたとして食用にできるのか。石橋を叩いて渡るという諺があるが、用心に越したことはない。あとついでに言えるのは、オーガ程度を解体したとして金にはならないだろうということ。確かに多少の金、装備のもとにはなりうるだろうが、所詮上級中位以下。たとえば、あの変異種のフォレストシザーマンティスのような今より確実に上のレベルのモンスターならば解体すれば金になるだろうし、良い装備が作れるだろう。しっかり見定めて、使えそうな部位を保存していく必要がある。攻撃方法によっても取れる部位が違うだろうし、毎度毎度同じものが入手できるはずもない。中々大変なことになってしまった。ただ、これが本来のこの世界と言われればそうなのかもしれないが。

 ナイフを手の中でくるりと回す。刃がないということは素晴らしい、こういう手遊びをしても危険ではないのだから。

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