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ミセリコルデは刺突という動作をするにおいて非常に役に立つ。鋭く、固く、軽いそれは素早く刺すという簡単かつ単純な動作において有利だからだ。しかしながら、短剣といっても差し支えないサイズであるが故にリーチは短い。自分の腕の長さに30センチほど加えた程度の長さでは、残念ながらモンスターと切り結ぶなんて芸当は難しい。まぁ、ミセリコルデ自体が刺突という動作に特化しているため刃なんてついてもおらず、切るなんて動作は元より不可能なのだが。
故にモンスターがバランスを崩して動けない状況であったり、瀕死であったり、そういった場合の止めとしてくらいしか利用できない。ミセリコルデという名前自体そこから来ているので使い方は正しいのだが。
そんなことを考えながら、ダークソードでオーガの首を刎ねる。これならば、長く、そして鋭利な闇の刃ならばオーガの首を両断することは可能だ。研ぐ必要もなく、血を拭う必要もない。問題点は持続時間が短すぎるため、切り結ぶというより1刃の元に切り殺すという使い方しかできないということ。
体を反転させ、こちらに近づいてくるオーガの頭にフレイムを当てた後、仰け反ったオーガの首を顕出させたダークソードで刎ねる。右腕を振り、血を振り払うような動作。決して血が付いているなどということはないのだが、それでも何か振り払いたくなるのはいつからのことか。首から血を吹き出しながら倒れるオーガを尻目に、奥で詠唱を始めるオーガス2体に照準を合わせる。
≪ヘルフレイム≫
少しばかり距離があったが、それでもヘルフレイムならば届く距離。火の玉1つでオーガスは燃え、悶える。火が付いた体を手で擦り、必死に消そうとするも身に着けた毛皮のようなものについた火は消えない。くぐもったうめき声をあげる仲間に視線を移したもう1体のオーガスの頭に闇の槍が刺さる。これも持続時間は短いが、それでも投げて刺さり、しばらくの間は残っている。ダークソードの3倍か4倍、手に持って戦うには短すぎるが。地に体を押し付け、芋虫のようになりながら転がり火を消すオーガスに近づく。類人猿の大きなものがあげる様な酷い声の元にミセリコルデを突き刺し、後ろに跳びすさる。地に叩きつけていた手を首にあて、しばらく暴れた後止まる動き。1人、オーガ程度のモンスターならば4体ほどは討伐できる。結構強くなったものだ、何よりも魔法の威力が上がっていることが大きいか。
トリス達に合流する。血まみれのオーガリーダー、周りには肉が焼けた嫌な臭いが蔓延し、焦げて煙を出す死体が転がっている。トリスはガルムの治療を。何かで切られたような傷、屍の手にはナイフ。盗賊でも襲って手に入れたのだろうか、そこらに落ちていたものだろうか。ただ、そんなものではガルムの厚く固い毛皮の表層を切るのみで、トリスもいるので怖くはない。
回復薬がいるだけで、安心して傷を負える。当然トリスにもMPの限界はあるのだが、スキルのお陰でそれもそこまで怖くはない。安心して傷を負えるといったら本人には怒られたのだが。それはそうだろう、本人としては仕事がないのが一番いいことなのだから。それに、大怪我は対処しきれない、彼女の魔法のレベルが低いからだ。治せて擦り傷や、切り傷の軽い物。回復魔法は、時間ごとに定められたMPを消費する形式らしい。回数制ではない、はたしていいことなのか悪いことなのかわからないが。故に、大きな傷は時間がかかり、足に傷を負ったエルフを治療したときは多量のMPを消費したそうだ。当然使える回復魔法のレベルがあがる、つまり光魔法のスキルレベルが上がれば、より上位のものも使えるようになり効率も上がるそうだが。
これで一体何体討伐しただろうか。延々と増えていく牙、角。オーガばかりに会い、時折ヴィヴィッドラビットやホーンドスネークにも出会う。アイテムボックスに入れられた素材は、スタックされ数が表示されているが、カウントはどこまでされるのだろうか。999までだろうか、それとも255までだろうか、もっと少ないのか、もっと多いのか、それとも存在しないのか。いつかそれを知ることができるときが来るのだろうか、トリスは知らないようだ。
レベルも上昇し、それはそうだろう、ネリカを出発して2日目、これまでの討伐も含めたら日数が随分と開いたなと思うくらい。洞窟に居た期間が随分と長かったのもあるし、ネリカではほとんど狩りをしていなかったというのもある。オーガクラスのモンスターを60体、いやもっとだろうか、100体にはいかないくらいで1レベル上がる。しかし、ここらで頭打ちになるだろう。そうしたら上級上位モンスターを狩ることのほうが効率が良くなる。正確な言い方をするならば、上級中位のオーガではいる経験値が減ってくる、ということだが。
そんなこんなで行軍は続く。3日目、4日目も対して代わり映えはしない。5日目までもゆったりとオーガを討伐していくのみ。面倒なのはフォレストイーグルのみ、空中の奴をたおすのは少々面倒くさい。大きな変化が起きたのは、6日目のことだった。




