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城塞都市、そう呼ばれるだけあって、プルミエは堅牢な姿を日の下に晒していた。軽く4メートルほどはある所々補修のあとが見られる塀、自分の目の前には鉄製だろうか、酷く重そうな門が鈍い光を放っている。プルミエには北と南の方角にそれぞれ門があり、大北門と大南門と呼ばれている、とはアルトの言葉で、大とついているのはかつて北門と南門が別にあった名残だという。それぞれの門からは、街道が続いており、騎士王国マルーンの様々な村や都市に続いているという。その途中から別れた小さな道を進んだ先にラツィア村は位置し、ときたま草原の奥の森に生えている薬草を売りに来る程度の非常に小さな村だったという。まぁそうだろう、何も知らぬ自分が見てもそこまでしっかりとした交易のある村には決して見えなかったのだから。
そういえば、と、自分はラツィア村から物を借りているということを思い出す。アイテムボックスからものを取り出し、どうやらこれはほかの人にもあるようで、大きさはまちまちらしいが、彼らに相談する。
「それは、持っておいて大丈夫だと思うよ。ラツィア村にもう誰も住むことはないだろうし、あそこは廃村になるだろうからね。その村の持ち物は、打ち捨てられるだけだから、新しい持ち主に使ってもらうほうが幸せなんじゃないかな?特に珍しい物もなかっただろうし。まぁ決定権は市長にあるから、それとなく聞いてみるといいよ。」
どうやら壊滅したとの報告のみで、そこまで重要な場所ではない故か、そのまま忘れ去られた村となるとのこと。往復にも2日近くかかり、あげく何もない村を再調査、復興する労力は無駄だということか、随分と利己的な話だと思う。
都市に入るに当たり検査が必要とのことで、自衛のためには当然必要だろう。しかしいくら召喚したとはいえモンスターは中に入れることは無理らしく、どうすればいいか聞いたところ、ベス曰く召喚魔法は2種類あるとのこと。魔力をもとに自分の味方となるモンスターを召喚する、いや、正確には創造する、といったほうが正しいのだろう、それが1つ。そんなものとは別に、召喚したモンスターを消すことなく一旦別の場所に転移させておく魔法があるようで、そういえば所持魔法の中に、モンスター転移陣生成、というものが増えていたのを昨日見つけている。ベス曰く、この魔法はモンスターを転移させることのできる魔方陣を生成するもので、それを使えばどこかしら安全な場所に転移させ、自由に呼び出せるらしい。ベスは知識だけ知っているんだけどね、と笑っていたが。はたして転移は成功し、呼び出せることも確認した。この魔法はMPを使用しないようで、召喚魔法のおまけみたいなものだろうか。
門の前には兵士が立ち警備をしていた。お昼時だからか、都市に入るための検査の列はそこまで大きくなく、15分ほどだろうか、そのくらいで自分たちの番。ギルドカード、ギルドに登録しているものが持つもの、村に住む者は村の代表であるという証のカード、商人には商人用のカードがあるらしい、をアルト達は提示し、ラツィア村に行った旨を伝える。
「こいつはアスカって子で、ラツィア村にいたゴブリンを退治してくれた人だ。記憶喪失みたいで、カードも何も持っていないが、魔術師としての力は新人ながら意外とあるみたいで、市長さんのところにいかせてくれないかな?報告と彼の処遇を相談したいんだ。」
アルト達はこの都市では名前が知られているのだろうか、兵士は、素直に通してくれた。アルト達に連れられ、先ずは報告しに市長のところにいくらしい。その後ギルドに冒険者として登録してはどうか、とのこと。
プルミエの街並みは日本とはかけ離れた物で、中世のヨーロッパの街並み、といわれて想像するような、そんな光景だった。その街並みの中にいる人々は、金髪が多い、茶髪も少なくないが、しかし黒髪は全く見当たらず、アルトとセロも金髪で、地球でいう白人に似た体形、顔だちの者が多い。つまりは自分よりガタイのいい人が多く、美しい女性が多い、という意味だが。その中で黒髪の自分は目立ってはいるが、周りの興味を引くほどではない、なぜなら時折人間以外の人族が歩いているからだ。竜人だろうか、竜のような尾が生えている男、耳の先がとがっている、エルフという想像を体現したようなカップル、果たしてあれはなんなのだろうか、側頭部から左右2本の逆巻き角が生えている、あとで魔族だと教わった、そんな人々が10人に1人くらいだろうか、そのくらいの頻度でいるのだ。杖を持っている人もいて、他にも大剣を背負っていたり、弓を背負っていたり様々だ。人族が協力して生活している、そんなことを素直に納得できる光景だった。
商店街のような、いや露店街といったほうが正しいか、市場を抜けるときには、様々なものが売っていて、食物等を見たところ地球とはやはり全然違うようで。
市場はまるで中心部にある建物を囲むように円形になっていて、その外側に住宅や店が並んでいた。中心には、市庁舎というべきか、ほかの住宅に比べると圧倒的に大きな建物、その中心から塔が天を衝くように伸びていて、10メートルほどだろうか。中は見張り台兼灯台替わりになっているようで、時計台にもなっており、鐘もあり、様々な重要施設を複合しているそうだ。入口を抜けると広間になっていて、受付でアルト達が作業をしている間、広間を見渡す。受付の左手には、あれがギルドと呼ばれるものだろうか。大きな掲示板に大量の紙が貼られていて、横に小さな番台がある。右手には都市の権威を示すための物か、何かの大きな頭蓋骨が展示されていたり。天井には電球はなく、これは魔法の明かりだろうか、火ではこんなに明るくはできないはずなので。ランタンのようなものがそこそこの量つるされている。
観察しているうちに作業は終わったようで、市長に報告をするということで市長室に向かう。アルトもついてくる。もし来ていなかったら、何もしらないこの場所で1人、そっと胸をなでおろす。市長室は、受付の奥の扉を抜け、廊下をある程度歩いた一番奥にあった。中に入ると質素なソファと机が置かれている部屋で、来客用の部屋なのか、奥に扉が見えた。あの扉の先が本当の市長の部屋なのか、と考えつつ、指示された通りソファに座り、市長の到着を待つ。
しばらく待つと、市長が奥の扉を開けてでてきた。ちらっと見えた奥には、書類が大量に積まれた机が見えていた。意外と大変な仕事なのだろう、市長は60歳くらいのおじいちゃんだった。
「待たせてすまないの。ワシが市長のゲイチャックだ。アルトよ、此度はラツィア村に援軍に行ってくれたことを感謝するぞ。しかし、ラツィア村のことは残念だったの。あそこはいい薬草が取れ、人々も非常に優しくいい村じゃったが・・・」
「いえ、自分たちも間に合わず残念です。予想以上にゴブリン達が多く、結果想定より早く村が壊滅してしまったのでしょう。」
「うむ、ゴブリンが8匹、だったかの?2匹ほどなら2日ほどは耐えられると踏んだのじゃが、下級下位レベルとはいえども8匹もいては普通の村は耐え切れんか・・・」
「おぉ、そういえば、君がアスカ君かの?アルト君から報告は受けているぞ。記憶喪失、とのことじゃが、大丈夫かね?そして、どうやら仇を討っていただいたようで、手数をかけたの。」
アルトが市長に敬語で話していたのを思い出し、ベスの言葉も思い出す。
「お心遣い感謝します。過去のことは全く覚えていませんが、肉体的な問題はありません。」
「残念ながら自分がラツィア村に着いた時には、既にゴブリンに蹂躙された後でした。仇を討ったのは当然のことですので、そこまで感謝されるようなことではないかと。」
「ほっほ、それに亡くなった人たちも弔ってくれたようじゃの。若いのによく気が回るの。さて、ラツィア村に関してじゃが、残念ながら、生き残った者は連絡しに来た少女一人、ということで、少女はこの都市で暮らしてもらうことにするかの。」
やはり、ラツィア村は廃村となるらしい。その後、市長は今回の報酬の話をしてきた。どうやら、アルト達にはある程度の報酬が与えられるようで、自分にももらえるらしい。偶然居合わせただけ、と丁重に断ると、市長は、無欲なのはよいことじゃがこちらも仇を討ってもらった手前何か報酬を受け取ってほしい、とのことで、無償でギルドに登録させてもらうというところにしてもらった。登録に銀貨1枚かかるようで、大銅貨30枚しかもっていない自分はどうせ登録できなかったのだ。また、村から物を借りている旨を話すと、正直者じゃのと褒められた上で、それは君の物にしていいとの許可をもらった。
その他いろいろと話をし、主にアルトと市長が話していたので自分にはあまり関係なかったが、市長室を後にする。セロとベスと合流し、感謝を告げて彼らと別れる。またいつか機会があれば会えるだろう。
2012-11-23修正
2013-2-12修正




