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初めて大きな世界地図を見て驚いた。世界といっても、人間が踏破している大陸の地図だが。それを見たのはいつの日か、サラが見せてくれたのだ。それまで自分はそんなもの見てこなかった。故に、見た瞬間のあまりの大きさにびっくりしたものだ。
インド半島を大きく拡大したようなこの大陸は、様々な国が存在している安定期。大陸中央部には巨大な山脈が存在し、あの日アデル含む山脈だと勘違いしていたのはその山脈。アデルを含む山脈はその山脈を越えて初めて見えるらしい。
自分たちの出身地であるプルミエは、アンバー大陸南端に存在する小さな国。今現在自分たちがいる場所は、そこから北に、ルリコンを抜け西にいった場所にある国。そこまでは問題がない。そしてそこから北に行こうとするのならば、5つの国を抜け山脈を越える必要がある。本当は最短で向かうならば国2つと山脈1つ超えれば最北の山脈が見えてくるのだが、いかんせん山脈が越えられない。標高がどれだけの高さなのかはわからないが、特級モンスターが跋扈しているらしい山脈は人の手のあまりついていない場所。雪が降らないのが唯一の救いで、それ以外は人の足で超えるには少々問題がある。故に物流も滞り、そこを超えようとはしない。それを超える方法は全部で3つ。
まず1つ目、ライラックの北にあるエボニー王国、そのまた北に存在する国にある地龍のトンネルを使用する方法。絶滅した龍が明けたとされる大穴は山脈を貫いており、それを使えばいけるそう。トンネル内にはモンスターは背即せず、迷い込んだとしても討伐される故非常に安全だそう。
次に2つ目、大陸東部に存在するウラネズ王国に行く方法。ウラネズ王国は山脈の東端に存在していて、そこまでいけば徒歩で北部に向かうことができる。ウラネズ王国までの道のりでは、どんなに強くとも特級下位か中位程度のモンスターしかいない。
3つ目はこのまま山脈の西端を目指すルート。トープ連邦にその西端は存在し、トープ連邦へは国を4つ超えれば辿り着ける。そこから巨大な湖を航路で進む方法。
3つの案以外にも、海路を使う、地元の民しか知らないような小さな道を使うという方法もある。が、そんなあるかどうかも疑わしい道をあてにして進むのは危険なかけすぎるし、海路は時間がかかりすぎる。
トリスと相談をする。今の位置からして、2つ目は遠すぎる。移動するだけで結構な時間を食ってしまうのではないだろうか。さて、あと2つ。距離的には似たようなもの、どちらを選んでも何の問題もない。しかし、最後のトープ連邦のほうにすることに決める。理由は自分の勝手なもの、魚が食べたい。かれこれ相当の間魚は食べていない、それ故久々に食べて見たくなったのだ。時間も距離もほぼ同じだとしたならば、金が少し多めにかかったとしても魚を食べたくなってしまった。聞いてみると、トリスもほぼ食べていないそう。食べる機会はあるのだが、やはり遠い分価格も高くなってしまうそう。川魚ならまだしも、海魚はそうそう食べれるものではないとのこと。
方向性が決まった、故に西に向かう。目指すトープ連邦、行くには街道をひたすら渡り歩くか、もしくは野の中を突っ切るか。かかる時間は似たようなもの、街道は整備されているがゆえに非常に歩きやすいが都市間を繋いでいるためロスが多い。逆に突っ切るのは距離は圧倒的に近いが、進行速度では負けるのと、危険が存在すること、そして迷う危険性がある。
迷う危険、これが一番怖い。大体モンスターのレベルはたかが知れているし、奥地に進まなければそうそう危険なモンスターに出会うことはないのだから。歩きにくい、これも結構自分たちは森の中を突っ切った経験があるために問題にはなりにくい。多少遅れるだろうが、それでも遠回りするよりは近いだろう。急がば回れとも言うが。しかしながら、もしも方角を間違えてしまったら。人気のない場所を通ることが多いわけで、そうした場合どのようにして進む方向を確認する?太陽?それだけではどうも足りない。コンパスを手に入れる必要がある。
とりあえずながらルートを決める。途中の補給も考え、2度は街に行きたい。そうなると直線状に進むとして、時折街道を横切り、そして時折逸れていくルートを作成しなければならない。
地図に線を引いてみる。はたして、残念なことに直線状に街は1つもない。村ならあるのかもしれないが、途中で逸れる必要がある。街道は結構な数横切らなければならない。大体距離にして1500キロ。2ヵ月は歩く必要がありそうな距離。人間は30、40キロ程度1日に歩けるが、山道。50日以上、いや60日程度が最短だと予想したほうがいい。
朝食を終えると共に宿を出る。できるだけ早く出発したいが、先ずはコンパスを手に入れなければならない。今まで生活してきて何故持ってないといわれたらそうなのだが、今までそんな大きな旅路をしていないということもある。特に先の森行軍はただただ北に向かっていただけなのだから始末に負えない。
道具屋が店を開くまで多少の時間がある。ただ、もしかしたら市場に売っているかもしれない。そう思いとりあえず市場を覗く。
雑多なものが多量に広げられている市場、とりあえずほしいものはコンパスだが、他にも買うものがあるかもしれない。適当に見回る。
やはり、意外と欲しい物は沢山あった。まずは果物、アイテムボックスに入れるとはいえ腐敗等が怖いので、干したものと生のものを半々で購入する。次に酒、酒はたまに飲むことで気分転換になる。いや、それだけが理由ではなく、他にも使い道はあるため購入。洗濯板と盥、すっかり忘れていた。結構な期間の行軍、洗濯をしなければ続かない。食料も追加で買いこむ。そして、補遺買ったものは見つかった。簡単なもので、方角を示すことしかできないが十分すぎる。そういえば、自分たちの世界ではコンパスなどほぼ使わなかったと思う。全て電子製品で代用されていて、よく存在を知っていたなと自分でも笑う。
さて、買うものは買った。ネリカともおさらばして次の場所へ向かうとしよう。目指すはトープ連邦、いや、都市国家ヴァレヌ。




