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序章:別れ


「ごめん、俺…雪とうまく付き合えそうにない…」

夏の蒸し暑さが残る夕闇の中体を震わした青年、俊哉は静かに口を開けた

「えっ・・・」

雪は突然の俊哉の言葉に顔をひきつらせる

「どうして…分からないよ?」

 生ぬるい風がまるで二人の間を隔てるかのように吹いた

しばらくの無言の後俊哉はゆっくりと鉛のように重たくなった口を開けた

「ごめん…俺さ、今受験生だし勉強と恋愛をうまく分けることなんて出来そうにないんだ… それに雪は今仕事が順調なんだろ? 俺みたいなガキが近くにいたら邪魔になるだけだ!」

 俊哉にとって雪という存在は憧れでもあり、またそれ以上の好意を抱いた始めての女性であった。

今でもその気持ちに変わりはない。しかしそれ以上に胸の中に迸る己への嫌悪感が溢れ返っていたのだった。

己の立場上、社会人である雪に対して負い目を感じていた。なにより誰よりも頼られたい気持ちの強い俊哉にとってその負い目は想像以上に強いものだった。

俊哉にとって始めての恋愛はその真髄を垣間見ることなくただ己との葛藤の中ひとりでに収束していった

しかしその中で俊哉は雪に対して感謝の気持ちを感じていた

何もできなかった自分を愛してくれて支えてくれたこと。

 静かに涙を流す俊哉に雪は震える声を押し殺しながら胸の奥底から湧き出る感情を言葉にした

「俊哉……俊哉は受験生だもんね 俊哉には夢があるんだもんね… ごめんね。私俊哉の気持ち何も考えないで 勝手な事ばっかり言ってたね」

俊也の頬を伝う涙はやがて地面を濡らしていく

「雪・・・本当にごめん 俺がもっと大人だったら こんなに雪に迷惑をかけることなんてなかった… もっとたくさん思い出作れたのに」

 俊哉は雪の顔を見ることはできなかった。ただ雪の静かな嗚咽が脳を揺らした

「うん・・・はぁ・・ うん!俊哉は俊哉で自分の夢を追いかけ続けて! 私も今の仕事を絶対に成功してみせるから・・だから約束して…絶対に自分に負けないで」

雪にとって俊哉という青年はどう写っていたのか、ただいえることはこのような不意な別れの言葉に己の感情を押し殺してでも伝えるべきことを言える強い女であるということ。その中に感じる優しさに俊哉はただ体を震わすことしかできなかった。握り締めた拳はまるで己を戒めるかのように強く握られていた。

 そうして二人の男女はその関係に幕を閉じることとなった。

高校生である俊哉にとって始めての恋人との別れであった。

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