表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

ナンバープレートの怪

「ユリカさん、送ってくれてありがとうございます」

「いーのいーのっ」

 ユリカのファミリーカーから降りた彩音は意を決した様子で自宅に入った。施錠を忘れられたドアを開けると、三信がいつもの定位置に横たわっていた。

「あ、おかえりっ」

 慌てた様子で起き上がり、机に置きっぱなしだった弁当ガラと電子タバコのフィルターを片付け始める姿に一瞥だけくれて雅春の手を洗わせに脱衣所の洗面台まで行った。何のリアクションも無いことが不安なのか、給付金を使い込んだことが後ろめたいのか、三信はそれについてくる。

「楽しかった?俺も行きたかったな〜」

「………うん」

 低く返し、横をすり抜ける。雅春が眠たいのか目を擦り始めたのを見て寝室に入ろうとした瞬間、背後で大きな音がした。

「!?」

振り返ると、脱衣所にあったはずの脱衣カゴがリビングに投げ出されていた。

「っ…」

「んだよ!無視しやがって!ふざけんなよ!」

 三信が怒鳴りながら洗剤や柔軟剤を次々とリビングに投げている。

(怒らせたっ…面倒なことになったっ…)

 出てきた三信は手にカッターナイフを握っていた。

(ヤバいっ!)

 彩音は即座に家を飛び出す。雅春は不思議そうに彩音の顔を見上げていた。

(雅春を守らなきゃ!)

 夜道を走り、実家を目指す。息が切れ、胸が痛くなったが脚を止めることは無かった。追いかけてきているかもわからない。何をされるかわからない。雅春を守りたい一心で彩音は走り続けた。

 時間にすれば5分もかかっていないだろう…それでも彩音にとっては何時間も走ったかのような感覚だった。実家の呼び鈴を何度も鳴らして来訪を知らせると両親が顔を出してきた。

「ど、どうしたの?こんな時間にそんな慌てて…」

 両親の顔を見た途端、緊張が解けたのか彩音は泣き崩れた。

温かな室内で温かい紅茶が出され、落ち着くまで背中を優しく擦られて30分ほどで彩音は落ち着きを取り戻した。

「三信くんと何かあった?」

「うん…今日、友達と遊びに行ってたんだけど…その中であいつが給付金ガメてたことがわかって…帰ってからめっちゃ顔色伺ってきたから適当に返してたらブチギレてカッター出してきて…」

「カッター!?怪我はっ?」

「無い…いつも通り、ビビらせるためだけのポーズだったと思うから」

 思い出すと手が震えた。三信は産前と変わらない勢いでやったのだろうが、子供が生まれた今彩音が同じ捉え方をするわけがなかった。

「いつもって…普段からそんなことされてたのっ?」

「最初は家具倒したり程度だったけど…最近はそれじゃ効かないとわかったみたいで…」

「なんてこと…」

 母親は愕然とし、父親は黙り込んでいる。話しながら彩音は不安に駆られていた。三信の外面の良さは勿論彩音の両親にも向けられている。虫も殺さぬように見える表向きの顔に両親も騙されてしまっている可能性は十二分にあった。彩音の言い分を信じてくれないのではないかと思えてならない。

「お父さん。とにかく今日は休ませた方が…」

「そうだな。三信くんが来たら私達が話すから彩音は雅春と休みなさい」

「う、うん…ありがと…」

 信じてくれたのか彩音が疲れていると思ったのかは図れないが、とりあえず接触する心配は無くなったようだ。彩音は2階の自室で雅春と眠りに就くのだった。

 そして翌日…目が覚めた彩音は考え、そろそろ三信も落ち着いたろうと家に1度帰ることにした。離婚の話もしなくてはならないし、荷物も纏めなければならない。恐怖心はあったが、いつでも通報できる体勢を取って自宅へと向かった。メゾン前の道路沿いにある駐車場に停めている自分の車の前まで来た彩音はそこで愕然と立ち止まった。そこには確かに自分の車が停まっている。しかし、何かが足りない。

「……ナンバープレートが…無い…」

 後ろのナンバープレートが綺麗に消えていた。前に回れば前のナンバープレートはそのままだ。

「ど、どうしよ…警察?え…盗られたのかな…」

 混乱しつつも、ある可能性が頭に浮かんだ。

「まさか…」

 確認すべく玄関のノブを回すが、鍵がかかっていて開かない。

(あいつ、こんな時だけしっかり施錠しやがって!飛び出してきたから鍵忘れて入れないし…仕方ない。1回実家戻るか…)

 道路まで戻ったところで、スマホの着信に気付いた。ユリカからだ。

「ユリカさん…?もしもし?」

「もしもしっ?彩音ちゃん、今大丈夫?昨日の様子が途中変だったから気になって連絡してみたんだけど…」

 神がかりなタイミングに、彩音は溢れてくる涙を堪えきれなかった。

「っ…う…」

「どうしたのっ?やっぱりなんかあったっ?」

「ユリカさんっ…私っ…もう嫌ですっ…」

「どこいるのっ?すぐ行くからっ」

 自宅前にいて閉め出されていることを伝えると、ユリカは「待ってて」とだけ言って電話を切った。

「まーま…?」

彩音の胸から見上げてくる雅春の頬に彩音の涙が落ちる。それを親指の腹で拭った。

(泣いてる場合じゃないっ…この子のためにも強くならなきゃっ…)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ