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月待ちの灯(あかり)  作者: しゅう


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常撫子(とこなででしこ)3

主人公 牧野まきの 賢治けんじ

牧野まきの 志津しづ

娼館の女 おおらん

「……わたくしがそう申し上げたものですから、両家は再び大騒ぎです。特に父は、相手の山男のような姿に怒り心頭でしたから。」

志津は穏やかに笑い、お欄にお茶をすすめた。


「ですが、一度わたくしの決意を固めてしまえば、あとは簡単でした。家同士は色々と揉めていたようですが、わたくしはただ静かに、あの人の心が山にあるように、わたくしの心はもうあの人にある、と伝え続けただけです。」

お欄は感嘆したように小さく息を漏らした。


「すごいお方だわ、志津さんは。まるで最初から、賢治さんの行く道も、その先も、すべて見通していたようです。」

「そうでもありませんよ。ただ、あの人には世間的な器や形式は必要ない。あの人の持つ清明な気は、この町や、社会を支える大きな力になる。それだけは、あの時、はっきりと分かったのです。」

志津は静かに続けた。


「案の定、結婚してすぐ、両家の都合で仕事に就くことになりました。あの人、最初は山に籠もろうとしていたようですが、それもすぐに諦め、真面目に働き始めた。愛する者のために働くという使命を得れば、あの人はその力を最大限に発揮できる人です。わたくしは、その力を信じています。」

志津は茶碗を置き、お欄の目を見つめた。


「結婚とは、人生の道連れを選ぶこと。夫は、家庭の『灯台』のような存在です。私は、世間的な体裁ではなく、あの揺るぎない魂の光を、生涯の道しるべにしたいと思いました。特別な言葉は何もありません。あの姿こそが、わたくしへの求婚の言葉だったと、そう思っているのです。」


お欄は、目を潤ませて静かにうなずいた。

「ああ、志津さん…。だから、賢治さんは、あんなにもあなた様のことを愛おしく思っていらっしゃるのですね。納得しましたわ。あなた様こそ、賢治さんの、世間という名の山を歩くための、清らかな道しるべですわ。」


二人の間に、ほんのりと温かい沈黙が流れた。窓の外では、八戸の賑やかな街の喧騒が聞こえている。

読んでいただきありがとうございます。

『常撫子』終話となります。

楽しんでいただけたでしょうか。

小説って、書くって、難しいですね。


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