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月待ちの灯(あかり)  作者: しゅう


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48/80

雪掻き

主人公 牧野 賢治

妻 牧野 志津

昨日から降った雪は朝方には降やんでいた。志津は窓を叩く冷気に、いつもより早く目を覚ました。

障子を開けると、そこには昨日賢治が「……っ」と絶句したままの、重く厚い白銀の世界が居座っていた。

(これは……賢治さんが出るまでに道をつけなくては。)

まだ眠りの中にいる賢治を起こさぬよう、志津は手早く身支度を整え、防寒の頭巾を被って外へ出た。

玄関の戸を引くと、膝まで届きそうな雪が雪崩のように入り込んでくる。志津は木製の雪撥ねを手に取り、まずは賢治が銀行へ向かう最初の一歩を確保するため、玄関先から門までの細い一本道だけを、一心不乱に払い退けた。


「……済まないな、志津」

身支度を整えた賢治が玄関に現れた。昨夜の「決算」の疲れが完全に抜けたわけではないだろうが、志津が切り拓いたわずかな道を見て、彼は申し訳なさそうに、しかし心強そうに目を細めた。

志津は、冷えた手をおしぼりで温める間もなく、彼に温かい茶を差し出し、外套の雪を払って送り出した。

「お気をつけて。足元、滑りますから」

賢治の背中が雪の壁の向こうへ消えるのを見届けてから、志津は深く息を吐いた。ここからが、今日という日の本当の戦いだった。


賢治を送り出した志津は、腰紐を締め直し、本格的に雪掻きを始めた。

表通りへ出ると、案の定、隣近所でも同じように雪を撥ねる音が響いていた。ザッザッ、と木が雪を掻き寄せる音が、冷たく澄んだ空気に共鳴している。

「おはようございます。いやぁ、昨夜はひどかったねぇ」

「本当ですね。お宅も、お怪我のないように」

向かいの商家のお内儀や、隣の隠居した老人が、真っ白な息を吐きながら声をかけ合う。

普段は格式や商売の垣根がある街の人々も、この大雪の前では平等だった。皆、必死に自分の家から公道までの道を作り、雪を積み上げていく。

志津もまた、その連帯の中にいた。木撥ねを動かすたびに肩や腰が重くなっていくが、それと引き換えに、自分の家の前が整っていくことに、不思議な誇りを感じていた。


数時間後、ようやく家へと続く道が「道」としての形を取り戻した。

志津が撥ねた雪は、通りの脇に立派な壁となって積み上がっている。

(これで、賢治さんが今夜帰る頃には、少しは歩きやすくなっているはずだわ。)

志津は、汗ばんだ額を拭い、自らが切り拓いた清らかな道を見つめた。

賢治が銀行という密室で仕事を行っているように、自分はこの雪の中で私の家を守っている。

八戸の冬を生き抜く。その静かな、しかし確かな実感が、冷え切った志津の指先に心地よい熱を与えていた。

読んでいただきありがとうございます。

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