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月待ちの灯(あかり)  作者: しゅう


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32/80

靴磨き

主人公 牧野 賢治

妻 牧野 志津

賢治が帰宅し、玄関で重い革靴を脱ぐ音が響いた。

志津は、賢治が火鉢の前に座り、安堵のため息をつくのを見届けてから、玄関へ向かった。賢治の革靴は、先日焼いた蜜芋のように、泥をたっぷりと吸い込んでいた。靴の表面だけでなく、靴紐の下や、革底とアッパーの境目にも、雪解け水と土のぐちゃぐちゃした泥がこびりついている。

(この泥濘を、一日中歩いてきたのですね。)

志津は、この重く汚れた革靴こそが、、、

賢治は口を開かないが、この靴がすべてを物語っていた。


志津は何も言わず、靴を火鉢の傍に運び、手入れを始めた。

まず、湿った布で大まかな泥を拭き取る。この時、硬いブラシは使わない。革を傷つけることなく、泥濘から解放してやるように、優しく、汚れを溶かし出す。次に、古い歯ブラシで、靴紐の穴や、縫い目の間の細かい泥を丁寧にかき出す。

この行為は、志津にとって、賢治の疲れを癒やすための静かな儀式だった。

「ご苦労様でした」という言葉は、ここでは不要だった。泥を拭き取り、革を磨くその行為こそが、志津なりの心からの労いだった。火鉢の炭の熱が、僅かに湿気を帯びた革をゆっくりと乾かしていく。


泥が落ち、水気が引いた後、志津は油を染み込ませた布を取り出し、優しく磨き上げた。

革靴は、元の深い艶と光沢を取り戻した。それは、泥濘にまみれ、一時的に重さを感じた賢治の心が明日への確かな足場を取り戻したかのように見えた。


志津は、磨き上げられた革靴を眺めながら

(明日、この靴が再び泥濘の道を歩まねばならぬのなら、賢治さんを優しく包んであげられますように)。

志津は、明日賢治が履きやすいように、靴をきちんと揃えて置いた。家の中には、温かい火鉢の熱と、磨かれた革の匂いが静かに満ちていた。

読んでいただきありがとうございます。

下の★~★★★★★で評価してもらえると勉強になります。

感想などいただけると嬉しいです。

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