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第2話 怪しい影

 蘇生魔法がかかり、女の人の血色がどんどん良くなる。

 しばらく放っておいたら自分で意識を取り戻すだろう。

 他の人たちは残念ながら助けられそうにない。

 僕の蘇生魔法は死後二時間以上経てば完全復活はできずにゾンビになって復活してしまうから。

 それにしても一体なにがあったんだろう。

 この死体の数。普通じゃない。

 魔法使い同士で殺し合いでもやったんだろうか。

 やめとこう。これ以上は僕が関わる事じゃない。

 事件に首を突っ込みたくなるのは僕の悪い癖だ。

 東京で魔法使い同士の抗争が起ころうと僕には関係ないのだから。

 でも、この人を助けられてよかった。

 誰かに死なれるよりは生きていてもらった方がいいから。

 僕はそう思う。

 さてと、そろそろ立ち去るとしよう。

 長居は無用だ。

 路地裏から出て、僕は帰路についた。


「おかえり、彼方。ずいぶん遅かったわね」

「友達と寄り道をしててね」

 家に帰って出迎えてくれたのは日奈子叔母さん。

 両親が死んだことをきっかけに僕は叔母さんの家に引き取られた。

 死んだ母さんの妹で僕の面倒をとてもよくみてくれるありがたい人だ。

「カレーできたけど今すぐ食べる?」

「頂くよ」

「最近、物騒な事件が続くけど巻き込まれないようにね」

「危ない所には行かないから大丈夫だよ」

 日奈子叔母さんは僕が魔法使いであることを知らない。

 僕は自分が魔法使いであることを隠している。

 おおやけにしたところでいい思いをすることなんてないからね。

 それから僕は何事もなかったかのように夕飯をすませて、お風呂に入り自分の部屋へと向かった。

 机の上に古いシワだらけの本が置かれていた。

 僕が近づくと本のシワが開き、トカゲのような眼がギョロリとこちらを向いた。

「よお、彼方。今日も元気か」

「ああ、イグニス。僕は毎日元気だよ。だから、頼むから大人しくしていてくれないか。叔母さんに声が聞こえたらどうするんだ」

「ケケッ。これくらいいいじゃねえか。俺の姿は叔母さんからは見えないんだからよ」

 話しかけてくる本はイグニスっていう魔界の本。

 常人には見えない魔法の本だ。

 手に取って、押し入れに直そうとする。

「……それにしても、元が人間だなんて信じられないよな」

「じゃなきゃ、喋る本なんてあるかよ」

「まあそうだけどさ」

 目と口さえなければ見た目は完全にただの古本だ。

 イグニスは昔、悪さをして本に封印されたネクロマンサーとのこと。

 ネクロマンサーとしては僕の先輩に当たる。

 イグニスからは色々なことを学んだ。

 魔法使いについてのこと。

 ネクロマンサーとしての戦い方も含めて。

 魔界のことも少しばかり教えてもらったしね。

「クンクン、この匂い。彼方お前魔法を使ったな。あれほど普通に暮らしたいって言っていたのにもう魔法を使っちまったのか」

 どうやらイグニスには匂いで魔法を使ったことがわかるらしい。

 僕が死の香りがわかるようなもんだろうか。

「ちょっと緊急事態だったんだよ」

「で、どんな魔法を使ったんだよ。ゾンビを魔界から呼んで、嫌な奴でも殺っちまったか」

「僕はそんなことしないよ」

「じゃあ、誰かを蘇らせたとかか?」

 当てられて、肩をビクリと震わせてしまう。

「図星のようだな。前にも言ったが、死んだ人間なんて放っておけ。自分にとってよっぽど必要な奴以外はな」

「誰かが殺されていたとしても?」

「ああ、そうだ。そんなものはな、死んじまう奴が悪いんだ」

「いくらなんでもそれは……」

「悪いが彼方。この世界はそういう世界なんだ。誰彼かまわず蘇らせると自分に火の手がかかるぜ。あの野郎さえいなければあいつを殺せたのにってな。お前は人を救って気分が良くなったかもしれない。でも、それは誰かを殺せなかったになるんだぜ」

「まるで見てきたかのように語るんだね」

 魔法使い同士の殺し合いから女の人を救ったことをイグニスにはすべて見抜かれているようだった。

「わかるさ、お前の事くらい。数少ない友人だからな」

「でも、すぐに立ち去ったんだ。誰かに見られたわけじゃない」

「本当にそうか? その蘇らせた奴には見られたんじゃないか?」

「どういうこと?」

「なあ、彼方。お前の影。なんか変じゃないか?」

 言われて、後ろを振り返って自分の影を見てみる。

 影は僕とは違う動きをしていた。

 なにかを物色するかのように。

 僕に気付かれると影は笑い、中から人が出てきた。

 さっき、僕が蘇らせた銀髪の女性。

 雪のような白い肌に黒いゴスロリじみたドレスを着飾った女性が。

「どうも気付かれてしまったようだな」

「あなたはさっき僕が蘇らせた……」

「レイメア・アシュメリー。レイメアと呼んでくれ。君の名前は影の中で聞かせてもらった彼方っていうんだろう。よろしく」

 握手をしようと手を差し伸べるレイメア。

 僕は手を出す代わりに目的を尋ねた。

「いったい何の用だ? 僕のあとをつけてきて」

「なにちょっと彼方お前のことが気になってな。まさか、世にも珍しいネクロマンサーだとは思わなかった。お前の事は色々影の中で聞かせてもらった」

「不用心だな、彼方。俺とお前の秘密がこのお姉さんにはバレちまったみてえだ」

「イグニスは黙っててくれ」

 頭が痛い。

 まさか、こんなことになるなんて。

「それで僕のことが気になったから影の中からつけ回してたのか」

「お前に蘇らせてくれたお礼と勧誘をしたくてな」

「お礼と勧誘? 勧誘ってどういうこと?」

「私、レイメアはこう見えて幹部なんだ。新宿のマジックギャングのナイトオーダーのな。彼方、お前には我々のマジックギャングに入ってもらいたい」

 突然の誘い。

 僕はこの時、まだ気付いていなかった。

 もう事態は取り返しのつかない方向に行っていることに。

 そうすでに僕は事件の渦中にいる。

 新宿のマジックギャングのナイトオーダーの幹部レイメアを蘇らせてしまったことで。

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