DUCE?それがイタリアの未来?
俺はドゥーチェの右腕の息子だ――そして今こそ、目を覚ます時だ!
1938年9月30日――他の日とは違う日。
僕はいつもの席に座り、背筋を伸ばし、両腕を机に置き、虚空を見つめていた。
教室の静けさは、先生の息づかいだけで破られる。
レザーの靴音を響かせながら行ったり来たりしている先生は、ピランデッロの『故マッティア・パスカル』を手にしていた。
「先生、今日は感動してるようですね」
クラスメイトのオリエッタが声をあげた。
「感動ですって?」
先生は足を止め、靴音も止まる。
「今日はね、この国の誇りを世界に示しているお方が来校されるのよ。オリエッタ、肖像画を見なさい!見なさいよ!この方こそ、ファシズムを創りあげた偉大なる人物なのよ」
そう言って微笑みながら、扉の方を見つめた。
「先生、ドゥーチェはいつ来るのですか?」
オリエッタの隣に座っていた生徒が訊ねる。
「みんな、待ちきれないのね!」
先生はいつものように、職を守るための偽りの笑顔を浮かべて答えた。
「見ている限り、待ちきれないのは先生の方みたいですね」
僕は表情一つ変えず、そう口にした。
先生は僕――イタロの方を見つめ、またしても心のうちを隠すための嘘くさい笑顔を浮かべながら言った。
「イタロ、あなたは感動しているの?なにしろ、あなたのお父様を誇りに思わなくちゃ!」
父さん…
まただ。僕の話になると、必ず父の話になる。
他の人たちと違って、僕はあの男を羨ましく思ったことなんてない。
でも、彼を許すことも、憎むことも、まだできていない。
ファシズムの理想が何なのか、まだ僕には分からないし、知ろうとも思わない。僕は自分の自由な思考を持ちたい。
もう16歳になったんだ。
本来なら、僕の中にはすでにファシズムの理念がしっかりと根付いているべきなのに――
それでも、自由意志を求める僕自身の内なる声は、激しくそれに抗っている。
だけどもし、いつかファシズムの思想が本当に自分にふさわしいと感じられたなら――
そのときこそ、父のことをようやく受け入れられるのかもしれない。
「イタロ、大丈夫?」
先生が心配そうに訊いてきた。
僕は彼女の青い瞳をじっと見つめ、いつもの冷たい口調で答える。
「ええ、先生。大丈夫です。」
彼女はうなずき、頭を少し下げると、レザーの靴を鳴らして教室を後にした。
こういった、いわゆる国家公務員との会話って、いつもこんな感じだ。
僕の考えに怯えている。僕が何を思っているのか、どう見ているのかを。
父のせいで、僕は「日常を裁く若きファシスト判事」なんてレッテルを貼られてしまっている。
申し訳ないとは思っているんだ。無駄に不安を与えるつもりはない。
…彼らがもし、僕の政治的な関心が、ダンテが妻に向けた関心と同じくらい薄いってことを知っていれば――
もしかしたら、今ごろ僕は金を掘り出す鉱夫のように扱われずに済んだかもしれない「起立!」
先生が教室に入ってきて叫ぶ。彼女の後ろには、一人の兵士が続いていた。
その兵士は僕に目を向け、微笑みながら声をかける。
「やあ、イタロ少年。」
僕は軽く頭を下げて応える。誰なのかは知らないけれど、こういった対応には慣れている。
兵士はすぐに真面目な表情に戻り、教室全体に向かって告げた。
「今日は君たちにとって特別な日だ!
君たちはローマ進軍の年に生まれた者たちだ。
君たちは、ヴィットーリオ・エマヌエーレ三世陛下が、ある偉大な人物の価値を認めたその年に生まれた。
君たちは、我らがドゥーチェの偉大なる台頭の年に生を受けたのだ!」
「誇りを持て! 君たちはファシズムの子供たちだ!」
「さあ、ついて来なさい。ドゥーチェは君たちに慈悲をお与えになった。
この国で最も偉大な指導者との謁見の機会をお許しになったのだ!」
「これから下の広場へと向かい、指示された通りに一列に並べ。
互いに1メートルの間隔を保ち、口をきいてはならない、動いてはならない。
用を足したくても、トイレには行けない!」
「許されている唯一の行動は、ドゥーチェへの賛辞を叫ぶことだ。
ローマ式敬礼を行い、大きな声で“ヴィヴァ・イル・ドゥーチェ!”と叫ぶのだ!」
そう言い残し、兵士はローマ式敬礼を見せると、ブーツを鳴らし教室を後にした。
その間、先生は神経質にインク壺をいじっていたが、ようやく気を取り直し、教室の入口に立って言った。
「生徒諸君、行きましょう!」
彼女はあまりの緊張から、整列の指示すら忘れていた。
だが、生徒たちの不安と緊張がその隙を埋める形で、自然と完璧な二列の整列が出来上がっていた。
広場に到着した僕たちは、兵士の言葉通り一人ひとり間隔を空けて整列し、遠くに見える大きな部隊をじっと見つめていた。
兵士たちは、無駄な動きを一切せずに歩き、僕たち生徒の周囲を取り囲み、鋭い目を僕たちに向ける。
オリエッタの隣の席の女子が、恐怖のあまりその場に崩れ落ちた。
すぐさま先生が駆け寄る。
「どうしたの?」と先生が尋ねると、少女は震えながら答えた。
「先生…気分が悪くなって…」
その言葉を聞いた先生は、腰の革ベルトから木製の杖を抜き取り、まるで剣のように構えて、少女の脚の関節を何度も打ち据えた。
「このような無礼は厳しく罰せられるべきです」
先生は震える声を抑えながらも、しっかりとした口調で言う。
「二度とそのような恥ずべき行動をとってはいけません」
少女は黙って立ち上がり、何事もなかったかのように姿勢を正した。
遠くから十数人の男たちが一人の人物に従って歩いてくるのが見える。——ドゥーチェだ。
彼が広場に入ると、僕を含む全員がローマ式敬礼を示す。
ドゥーチェは右手を上げ、僕たちはすぐに腕を体の横に戻す。
彼は近づいてきて、大声で区切るように話し始める。
まるで自分自身の言葉を理解しながら発しているかのように——
「今日は。ここに。来た。お前たちに。挨拶をするために!」
クラスメートたちは拍手を送る。彼は続ける。
「私はミラノにドゥーチェとして来たわけではない。
私は、君たちの……教師として来たのだ!」
驚きの歓声と共に、教室の仲間たちがもう一度拍手を送る。
「君たちは、未来の知識人だ。
そして私の役目は、その心に。ファシズムの理想を植え付けることだ!」
今度は抑えきれない歓声が起こる。
先生は顔を歪めてその様子に驚き、秩序を取り戻そうとするが、ドゥーチェの視線が彼女に向いた瞬間、彼女の顔色が一気に青ざめる。
幸運なことに、彼の自尊心がその場を救った。
「心配なさらずともよい、先生。
彼らの大きな喜びは、私にもよくわかる」
そう言いながら、彼は自信に満ちた目で笑った。
ドゥーチェは生徒一人ひとりに声をかけながら歩いていく。
やがて僕の前に立ち、声を潜めて言った。
「君がイタロか? 違うか?」
「いいえ、閣下」と僕は答える。
「君の父君は素晴らしい名前をつけたものだな。我らの祖国の名にちなんでいる」
「ありがとうございます、閣下」
彼は僕の周りをゆっくりと回りながら言った。
「君の父親、ジョヴァンニ・マッテウッチは、大戦の帰還兵であり、
戦闘ファッショの黒シャツ隊員であり、そして今や……」
僕の耳元でささやく。
「私の親しい協力者、違うか?」
「いいえ、閣下。おっしゃる通りです」と冷静に答える。
彼は僕を頭の先からつま先まで見つめると、満足そうに姿勢を正し、こう言った。
「君の父は立派な息子を育てた。私は君を我が軍で待っている……イタロ・マッテウッチ君」
そう言って、ドゥーチェは全校生徒に挨拶をし、再び兵士たちとともにその場を後にした。
軍隊もいなくなった後、先生は深く長いため息をつき、僕たち生徒を教室へと戻す。
授業はいつも通りの“体制下”で再開されたが、
僕はあの男の声が今でも頭の中に響いていて、どうしても耐えられない。
あの男にとって、僕は初対面だっただろう。だが、僕にとって彼は幽霊のような存在だ。
目に見えずとも常に身の回りにいて、逃れられない。
もしかしたら、僕の中のこの憎しみの感情だけで、僕や家族の命すら奪われるかもしれない。
——けれど、これが僕の“心の中”にとどまる限り、誰も僕を罰することはできない。
こんにちは、イタノコです!
友達のみんな、この章を読んでくれて本当にありがとう!
もし変な日本語があったらごめんね、翻訳はまだまだ下手で、日本語って本当に難しいんだ……!
まぁ、そんなわけで……
改めてありがとう!また次の章で会おうね、僕の大切な友達たち!