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ゼロから始める軍神少女  作者:
第一巻:二つの戦場、二人の将軍 (だいいっかん:ふたつのせんじょう、ふたりのしょうぐん)
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ただいま、そして、ここから

シミアは腕を広げ、早朝の微かな光を浴びながら大きく伸びをした。今や肩を越すほどに伸びた黒髪が、彼女の動きに合わせてしなやかな絹のように広がる。彼女は鏡の中のまだ少し眠気の残る自分を見つめ、両手で冷たい水をすくい、そっと頬を叩いた。その冷たい感触が、ようやく最後の一筋の眠気を追い払ってくれた。


窓の外はすでに東の空が白み始めていた。彼女は手早く制服に着替え、長い髪をいつもの活動的なポニーテールに束ねると、急いで領主クラスの寮を後にした。


微風が吹き、芽吹いたばかりの木の葉が「サラサラ」と音を立てる。シミアはこの春特有の優しさを浴びながら、小走りでシャルとシメルの寮へと向かった。


シャルが彼女のために扉を開けてくれた。シミアは片手をドアフレームにつき、大口で息を切らしていた。シャルの肩越しに彼女の目に飛び込んできたのは、とうに準備万端の、山のように積まれた一籠また一籠の新鮮な食材だった。


「ごめんなさい、シャル……遅くなってしまって」


「とんでもないです」シャルの顔にこの上なく晴れやかな笑みが浮かんだ。「シミア様がいらしたのはちょうど良い時間です。この準備のできた食材を庭まで運ぶのを手伝っていただけますか?」


シミアは頷き、あの食べ物の香りに包まれた「陣地」へと足を踏み入れ、白い布で覆われているがそれでもなおその濃厚な麦の香りを隠しきれない、焼き立てのパンが山盛りの大きな籠を抱え、部屋を出た。


彼女は慎重に階段を下り、同じく早起きした軽装の鎧をまとった何人かの学生と出会った。


「いい香りだ! そういえばシミア様、今日があの伝説の『シャル食堂』の開店日でしたよね?」


シミアは歩みを止めて微笑み、彼らに応えた。「はい。ぜひご贔屓に」


「それはもちろん!」


「早く味わってみたいなあ、あの料理の神に愛された腕前を!」


シミアは微笑んで彼らを見送ると、それから慎重に階段を下り、寮の外の庭園へとやって来た。


庭園の中央ではレインとシメルが臨時のかまどとテーブルと椅子を組み立てていた。シミアの到来を見て、シメルは遠くから彼女に手を振った。


「シミア、こっちへ運んで!」


シミアの少し忙しそうな背中を見つめるレインの顔に、不覚にも一筋の赤みが差した。


「ごめんなさい、遅くなってしまって」


「とんでもないわ、シミア。ちょうど良い時に来たじゃない!」


二人は二言三言挨拶を交わし、シミアはまたレインの方へと歩み寄った。


「おはよう、レイン。野営地の時も、そして今日も、本当にありがとう」


「い……いえ、どうせわたくしも特にやることもありませんでしたから」


シミアは彼に鄭重に腰をかがめ一礼した。制服のわずかに開いた襟元から、レインは少女の胸元の白皙の肌をちらりと見てしまい、瞬時に顔をそむけ、二度と見ることができなかった。


「ありがとう」


シミアが小走りで手伝いに戻っていく姿を見つめ、レインはようやく再び注意を自分の手元の仕事に戻した。


……


温かい陽光が惜しみなく庭園の中に降り注ぎ、またここにいる一人一人の心を温めていた。


食べ物の香りがまるで目に見えない手のようにますます多くの学生を引き寄せた。シャルの前に立って大人買いしているのは、まさしくあの野営地で最もシャルの腕前を期待していた女生徒だった。今日のメニューは野営地よりも遥かに豊富だった。香りの良い肉のスープ、サクサクの焼きクッキー、ふわふわの特製パン、そして具沢山のサンドイッチ……一籠また一籠の食材が飛ぶように減っていくのを見て、シミアの心中の闘志もまた燃え盛る山火事のように熊熊と燃え上がった。


「よし! 私も手伝いに行くわ!」


「あまり無理しないでね、シミア」シメルは彼女のあのやる気満々の様子を見て、仕方なさそうに首を横に振った。


……


「シミア、薪を入れすぎよ!」


「シミア様、どうか調理器具にはお触れにならないでください」


トリンドルとシャル二人に共同で厨房という聖域から「追放」された後、シミアは仕方なく、少し手一杯だったレインに代わり、レジの仕事を担当することになった。


「……」


目の前の客――ダミエル・ケントは、シミアの姿を見たその瞬間、無意識のうちに視線をそらした。


「お客様、何かご注文はございますか?」


ダミエルは頭を掻き、ほとんど聞こえないほどの微弱な声で言った。「……ハムサンドを三つと、焼きパンを二つください」


「はい。ハムサンドが三つ、焼きパンが二つで、合計十三枚の銀貨になります」


ダミエルはとうに準備していた硬貨を机の上に置いたが、しかしなかなか立ち去ろうとしなかった。彼女は唇を噛み締め、まるで何かを躊躇っているかのようだった。ついに彼女は両手を机につき、シミアに向かって深く頭を下げた。


「……父から話は全て聞きました。あなたが辺境で……大きな手柄を立てたと」ダミエルは一息置き、その頬は真っ赤になった。「だから以前、剣術の授業であなたに決闘を挑んだこと……本当に申し訳ありませんでした!」


シミアは立ち上がり、同じくダミエルに向かって鄭重に腰をかがめた。


「あの時はわたくしが勝ちたいあまり、少し卑怯な手段を使ってしまいました。どうかお許しください」


ダミエルは突然大声で笑い出した。「あれは卑怯な手段なんかじゃない! あれは戦術だ。勝利のために必要な覚悟だろう? そんな真面目くさって謝るなよ!」


シミアは彼女のあの朗らかな笑顔を見て、一時少し茫然とした。


「シミア様、サンドイッチとパンができました」耳元からシャルの促す声が聞こえてきた。シミアは包装された食べ物を受け取り、ダミエルに手渡した。


「お買い上げありがとうございます」


「シミア」ダミエルは转身去り際に突然振り返った。「もしよければ、剣術の授業に戻ってきてくれ。私はまだ……もう一度あなたと正々堂々と勝負がしたい。今度はもう負けないからな」


彼女のあの戦意に満ちた背中を見つめ、シミアは思索に沈んだ。


……


昼休みが近づく頃、歴史の先生アウグストとカメル先生も連れ立って「シャル食堂」にやって来た。


あの人込みの中で息を切らしながら忙しく立ち働く黒髪の少女を見て、カメルの顔に彼自身さえも気づかなかった満足げな笑みが浮かんだ。


「ハムサンドを二つもらおうか。アウグスト、君は?」


歴史の先生アウグストはメニューを見て少し考え、最終的にあの頗る歴史的意義のある名前を指差した。


「ではわたくしは、『観摩団特製、干し肉スープ』を一杯いただこう」


「はい、合計で十枚の銀貨になります」


食事を待っている間、歴史の先生はシミアを見て少し言いにくそうにしていた。


「シミア……」


「どうかなさいましたか、先生?」


「もし差し支えなければ、今度の観摩団の話を聞かせてはもらえないだろうか? それから……カシウスのことも……ほら、なにせ半月前に起こったことでさえ、すでに『歴史』だからな」


「え? もちろんです。もし先生のご都合がよろしければ、来週の月曜日の歴史の授業の後にいかがでしょうか?」


アウグストは頷いた。傍らでサンドイッチを頬張っていたカメルが、意味深な笑みを浮かべた。


……


午後、食材がますます少なくなっていくのを見て、シミアの顔にこの上なく満足した表情が浮かんだ。彼女は自分が王都に来たばかりの頃、シャルと二人で古びた旅籠に身を寄せ合い、未来を夢見ていた光景を思い出した。まさかあの時、あの「一緒にパン屋さんを開こう」という遥かで手の届かない夢が、これほど多くの波乱を経て、竟然このような奇妙な形で実現するとは。


「あの……」


一つのおずおずとした声が、彼女の思い出を遮った。


「……卵とベーコンのサンドイッチを三つください」


ロースアン家の三男が少しばつが悪そうに頭を掻いていた。彼の緑色の短い髪は少し伸びたようで、額に薄い前髪ができ、シミアは最初少し彼だと気づかなかった。


「はい、合計で十二枚の銀貨になります」


包装を待っている間、彼は少し気まずそうにシミアを見ていた。


「ここであなたたちが食事を売っていると聞いて、それで……ちょっと味わってみようかと」


「ご安心ください。シャルの腕前は絶対にあなた様を失望させませんから」


「あの……シミア……ありがとう。あの時、僕を助けてくれて」


シミアは入学初日、あの自分が「お節介」をした後、しかし自分に悪態をついた少年を思い出した。彼女は彼の今のこの躊躇いがちな様子を見て、心の中のある小さな、ずっと存在していたしこりが解けたように感じた。


「お気になさらないでください、ダヴィデ・ロースアンさん」


シミアが自分の名前を呼んだのを聞き、ダヴィデの顔に瞬時に信じられないといった驚きが閃いた。彼は自分の眼窩が制御不能に熱くなるのを感じた。目の前のシミアは今、微笑みながら彼を見ており、その笑顔はまるで天使のようだった。


彼は頬を赤らめながらサンドイッチを受け取り、急いで走り去った。


……


夕暮れに近づく頃、全ての食材が売り切れた。レインとシメルがちょうど屋台を片付けるのを手伝おうとしていた。


まさにその時、一冊の分厚い大きな本を抱えたコーナ先生がシミアの前に歩み寄ってきた。


「焼きクッキーを二袋……いや、四袋買いたいのですが」


「申し訳ありません、コーナ先生。焼きクッキーはもう売り切れました」


「では、焼きパンを四つください」


「はい、合計で八枚の銀貨になります」


コーナは硬貨を机の上に置き、それから一種事務的な、一片の感情も帯びていない口調で言った。


「シミア。銀潮連邦の特使がすでに王都に到着しております。おそらくこの二、三日のうちに女王陛下に謁見することになるでしょう。女王陛下はあなたがその時、必ずや同席することを望んでおられます」


「女王」という二文字を聞き、ちょうどシャルと傍らで談笑していたトリンドルの目に、瞬時に一筋の鋭い光が閃いた。彼女は一足飛びに駆け寄り、固くシミアの腕に抱きついた。


「シミア、私も一緒に行ってもいい?」


シミアはコーナに問いかけるような視線を送った。後者はしかし困ったような表情を浮かべた。


「それは……おそらく女王陛下にお伺いを立てる必要がございます」


「なら女王にお伺いを立てに行きなさい!」トリンドルは自分の口調が少し過激だったことに気づき、少し和らげ、一種有無を言わせぬ甘えるような口調で言った。「私はシミアが私のそばから離れるのは嫌なの。だめかしら? シミア」


シミアは「本当にあなたには敵わないわ」というような表情を浮かべた。


「コーナ先生、ではお手数ですが、女王陛下にお伺いを立ててはいただけませんか?」


コーナは焼きパンを受け取り、頷いた。


「分かりました。聞いてみましょう」


些かの夜の色と共に、「シャル食堂」は最後の客を見送った。

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