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ゼロから始める軍神少女  作者:
第一巻:二つの戦場、二人の将軍 (だいいっかん:ふたつのせんじょう、ふたりのしょうぐん)
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盤上の影

穏やかに進む馬車の中、シミアは、自分の膝を枕に眠るトリンドルの、実り始めた麦の穂のように黄金色に輝く髪を、優しく撫でていた。彼女は目を上げ、窓の外を猛スピードで流れ去っていく森を眺める。鬱蒼と茂る緑の葉が風に「沙沙」と音を立て、遠くで騎兵が駆ける蹄の音と交じり合っていた。


その時、穏やかな笑みを浮かべた端正な顔が、車窓の傍らに現れた。馬車と並走するカシウス先生だった。


「シミア君、間もなく昼休憩の時間だ」彼の声は風の音を突き抜け、はっきりと聞こえた。「もしよろしければ、この機会に、君と食事を共にしながら、先日話した、あの興味深い戦術問題について、議論を深めたいのだが、どうだろうか?」


シミアの視線は、向かいに座るシャルとシメルに向けられ、そこには一筋の問いかけの色が浮かんでいた。シャルの目には、いつもの心配の色が宿り、何かを言いたげだったが、最終的に口を開くことはなかった。一方、シメルは、騎士然とした笑みを浮かべ、彼女に励ますような視線を送った。


「はい、先生。では、後ほど」


「うむ」返事を得ると、カシウスは優雅に手綱を引き、馬の速度が徐々に落ちていく。彼の姿は、すぐに車窓の後方へと消えていった。


……


昼休憩の時間となり、長い行軍の隊列が道端に停まった。シミアは微笑むシメルに別れを告げ、何か言いたげなシャルをなだめ、そして、トリンドルの頭をそっと柔らかいクッションの上に預けてから、一人で馬車を降りた。カシウス先生がいるという草地は、すぐに見つかった。


今日の昼食は、昨日通り過ぎた町で仕入れたばかりの、新鮮なサンドイッチだった。ここ数日、軍から支給されていた乾パンと比べれば、それは得難いご馳走だ。


カシウスは自分の一人分のサンドイッチをシミアに手渡し、自分はもう一つを手にした。彼は教室でのように、すぐさま講義を始めることはなく、まるで一人の普通の師のように、辺境の風土や人情に関する面白い話をした。その雰囲気は、本当にごく普通の昼食会のように、リラックスしたものだった。


二人が食事を半分ほど終えた頃、カシウスはようやく、何かをふと思い出したかのように、柔らかな口調で尋ねた。「そうだ、シミア君。敵軍の動向について、君が抱いていた、あの興味深い『違和感』だが、何か新しい発見はあったかね?」


シミアは頷いた。彼女は残りのサンドイッチを傍らに置き、ナプキンで丁寧に口元を拭うと、顔を上げた。その、いつもは水面のように穏やかな瞳に、今、知性の光が宿っていた。


「カシウス先生、この二日間、ずっと一つの問題を考えておりました」彼女は直接答えず、逆に問いかけた。「なぜ、鋼心連邦の軍は、兵力で優位にあり、かつ、我々の援軍がまだ道中にいるという状況で、一向に総攻撃を仕掛けてこないのでしょうか。彼らの行動は、『慎重』というよりは、むしろ……何かを『待っている』かのようです」


カシウスの顔から笑みは消えず、彼は落ち着き払って最後の一口を食べ終えると、称賛するように頷いた。「実に鋭い着眼点だ。それに気づけただけで、すでに九割の指揮官を超えている。では、君の推論は?」


シミアは深く息を吸い込んだ。今回、彼女に一切の躊躇いはなかった。


「彼らが待っているのは、援軍ではなく、我々の、内部からの分裂です」


その言葉は、まるで静かな湖面に投じられた石のように、カシウス先生の温和な笑みに、初めて本当の波紋を広げさせた。


「我々を分断させる、と?」彼は興味深そうに繰り返した。「面白い構想だ。聞かせてくれ。もし君が敵軍の指揮官なら、どうする?」


「簡単なことです」シミアの声は冷静で明晰だった。まるで彼女が見ているのが目の前の草地ではなく、巨大な戦略地図であるかのように。「小部隊を派遣し、兵力が最も弱い二つの堡塁を継続的に騷がせ、しかし、包囲するだけで攻めはしません。同時に、別の精鋭部隊を使い、最も実力のあるエグモンド将軍の支援部隊を、死に物狂いで引き留め、身動きが取れないようにします。そうなれば……」


彼女は一息置き、カシウス先生の目を真っ直ぐに見つめた。


「苦境に陥った領主は、いつまでたっても援軍が来ないことに不満を抱くでしょう。支援に向かえないエグモンド将軍は、『兵を擁して自重し、盟友が削られるのを見殺しにした』と猜疑の目で見られる。アルヴィン将軍の主力が到着した時、彼が直面するのは、もはや団結した辺境の防衛線ではなく、互いに猜疑し、離反しつつある三人の将軍です。その時になれば、鋼心連邦は、さほど大きな代償を払わずとも、我々を各個撃破できるでしょう」


集結の角笛が、まさにその時、辺り一帯に響き渡った。


シミアは立ち上がり、スカートの後ろについた土埃を軽く叩くと、先生に一礼し、別れを告げようとした。


しかし、カシウスは依然としてその場に座ったまま、動かなかった。彼はただ顔を上げ、目の前で、まるで単純な事実を述べているかのような少女を凝視していた。彼の表情は、初めて、この上なく真剣なものとなり、その深邃な瞳には、彼自身さえ気づかぬ、驚嘆と……畏怖が入り混じった光がよぎった。


「シミア君」彼の声は、少し乾いていた。「君の推論には……致命的な欠陥がある。もし君の推測が正しいとすれば、敵軍の指揮官は、領主一人一人の性格と思考様式を、正確に把握していなければならない。彼は我々の兵力配置について、事前に詳細な思慮を巡らせていなければならない。そして、さらに重要なのは、彼が出征する前に、ローレンス王国がどれほどの援軍を派遣するかを知ることは不可能なはずだ。君は、これは彼が掌握し得ない情報だとは思わないかね、シミア君?」


それは最後の試探であり、そして、避けては通れない論理の壁だった。


シミアの流れるように明晰だった説明が、初めて、ここで途切れた。彼女の顔から自信の光が少し消え、眉がわずかに寄せられ、物思いに沈む。彼女は知っていた。先生が指摘したことこそ、彼女の推論の連鎖の中で、最も脆弱で、そして、最も説明がつかない環であることを。


夕陽の残光が、彼女の漆黒の長い髪に、金色の縁取りを与え、そして、その小さな顔立ちに、一筋の迷いの影を落とした。


「はい、先生。仰る通りです」彼女はついに口を開いた。その声は、もはや先ほどのような確信に満ちたものではなく、探究するような、躊躇いの色を帯びていた。「これほどの情報を得ることは……ほとんど不可能です。それこそが、私のこの推論の中で、どうしても考えが及ばない点なのです」


彼女は顔を上げ、カシウスの視線と向き合った。その眼差しは、もはや勝利者の鋭さではなく、一人の知識を求める者の、純粋な困惑だった。


「今は、ただの推論に過ぎません。なぜ、鋼心連邦の指揮官がそのような考えを持つに至ったのか。もしかしたら、私はただ神の視点に立っているだけで、この全てが空想であり、現実とはかけ離れているのかもしれません」彼女は軽く首を振り、まるで自らの大胆すぎる推測を否定するかのように言った。「この問いの答えは、時間が、教えてくれるのを待つしかないのだと思います」


そう言うと、彼女は再び先生に一礼した。その礼には、いくらかの鋭さが消え、学生が師に示す敬意が増していた。そして、彼女は踵を返し、未だ解けぬ疑問を抱えたまま、遠くの馬車へと向かった。


カシウスは、一人草地の上に座り、彼女が遠ざかっていく背中を見送っていた。


彼は、もう微笑んではいなかった。


その、いつも余裕の笑みを浮かべていた端正な顔は、今、氷のように冷たい静けさに包まれていた。彼の心中の恐怖は、減るどころか、むしろ、さらに深まっていた。


なぜなら、彼は知っていたからだ。シミアは、答えを見つけられなかったのではない。彼女はただ……最後の、一歩手前にいるだけなのだ。彼女はすでに崖っぷちに立っており、あと一歩、前に踏み出せば、崖の下にある、あの戦慄すべき真相を見てしまうだろう。


「時間が、君に答えを教える……か」彼は、シミアの言葉を低く繰り返し、その口元に、ゆっくりと、冷たく、そして決意に満ちた弧が描かれた。


「いや、我が愛しき学生よ。恐怕、もう、それほどの時間はない」


誰もが隊列に戻ったのを確認した後、辺境への行軍は再開された。嵐は、もう、目と鼻の先にまで迫っていた。

正直、少し迷っています。


今日、ある読者の方(サイト外の方ですが)から、こんな質問をいただきました。「この先どれだけ面白く書いても、ここまでたどり着いてくれる読者はほとんどいないんじゃないか、と考えたことはありますか?」と。


六年前の執筆ペース、そして惨憺たるデータを思い出し、とても辛い気持ちになって、そのままベッドに倒れ込んでしまいました。


正しい選択は、今から全く新しい物語を始めることだと、頭では分かっています。


ですが、六年前からの夢であるこの物語が、一歩一歩、ようやく第一巻の終点に近づいている今、どうしても諦めたくないのです。


もし、ここまで読んでくださったあなたが、よろしければ……。


こんなに迷っている私を、どうか叱ってください。


皆様からのご意見やご感想を、私が前に進むための力とさせてください。よろしくお願いいたします。

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