メイドの戦場 (シャル視点)
燃え盛る大きな篝火を見つめながら、シミア様はまた、お一人で何かを悩んでいらっしゃる。
私の記憶の中のシミア様は、いつもこうだった。幼い頃から聡明で、一人で物事を抱え込み、周りの誰かを頼ろうとはなさらない。
昨日も、シミア様はきっとまたあの悪夢をご覧になったに違いない。朝早くに目覚めたかと思うと、カシウス先生とお二人で出かけてしまわれた。
今日一日、昼間はずっとトリンドルお嬢様とご一緒だったのに、馬車の中でもろくにお休みになっていない。そのお体で、本当に大丈夫なのだろうか。
「シャルは一人の時、いつもシミアのことを見ているわね」
「あ、トリンドルお嬢様」
トリンドルお嬢様の笑顔はいつも本当に可愛らしくて、魔法はお強くて、いつもシミア様に懐いていらっしゃる。私とは違う。嬉しい時は素直に喜び、不満な時はすぐに怒って、いとも簡単に「好き」と口にできる。私にとって、あまりにも眩しい存在だ。
「はぁ、さすが主従というべきかしら。こういうところまでそっくりなんだから」
「どういうところ、でしょうか? 私と、シミア様のことですか?」
トリンドルお嬢様は困ったような顔をして、最後に首を横に振った。
「シャル。もしシミアに何か言いたいことがあるなら、今言っておいた方がいいわよ?」
私は慌てて手を振って否定した。「いえいえ、大したことではございません。シミア様のお考えを邪魔してしまったら、申し訳ないですから」
「どうして、もっと自信を持たないの! シミアにとって、あなたより大切なことなんてないはずでしょ? もう、見てられないわ」トリンドルお嬢様は天幕のそばから篝火の傍まで走っていくと、シミア様の服をくいと引いて、私のことを指差した。私のことを話してくださっているのだろうか。
シミア様は頷くと、トリンドルお嬢様に連れられてこちらへいらっしゃった。そして、トリンドルお嬢様はすぐにどこかへ行ってしまわれた。
シミア様は私の前にしゃがみ込むと、私の額に手を当て、ご自身の体温と比べながら、心配そうな顔をなさった。
「ごめんなさい、気づかなかったわ。シャル、どこか具合でも悪いの?」
シミア様に、ちゃんとお休みいただきたい。その願いが、どうしても口に出せない。私は慌てて首を横に振った。
「い、いえ、何でもありません」
シミア様にご心配をおかけするわけにはいかない。私は辺りを見回し、ふとカシウス先生が目に入った。そうだ!
「そういえばシミア様、最近いつもカシウス先生とご一緒ですね!」
「カシウス先生?」シミア様は何かを思い当たられたのか、慌てて否定なさる。
「心配しないで。私とカシウス先生は、ただの普通の先生と生徒の関係だから」気のせいか、それとも篝火のせいか、シミア様のお顔が少し赤く見える。
もしかして、最近のシミア様が少しおかしいのは、カシウス先生のことをお好きになったから……?
「シミア様、それはよろしくないかと存じます。お二人は……」私がシミア様にご注意申し上げようとした、その時。昼間、ずっと馬車を御してくださっていた……レインさん?がこちらへ歩いてきた。
彼女はシミア様の耳元で何か二言三言囁くと、シミア様は慌てたような表情を浮かべられた。
「シャル、ごめんなさい。すぐに戻るわ」私が言い終わるのを待たず、シミア様はレインさんの手を引いて天幕の外へと走って行かれた。
え? もしかしてシミア様は、レインさんのことがお好きなの? 確かに、レインさんは格好良いし、実力もありそうだし……。
「シャル? どうかしたのか」シメル様が汗をタオルで拭いながら、訝しげに私を見ていらっしゃる。
……シメル様に、どうお話しすればいいのだろう。
「シメル様は、恋をされたことはありますか?」
シメル様は少し考えて、首を横に振った。
「そうだな。恋がどんな感じなのか、私にはよくわからない」
「たぶん、胸がどきどきするような感じ、でしょうか?」実を言うと、私もよくは知らない。ただ、魔法の基礎課程で、同級生たちがそんな話をしていたのを、かすかに聞いたことがあるだけだ。
「それなら、私は剣を握っている時にそんな感じがするな。たぶん、私は剣に恋をしているんだろう」
「シャルは?」
私は首を横に振った。
そういえば、胸のときめきよりも、最近は胸が痛むことの方が多い。シミア様が剣術の授業でお怪我をされたと聞いた時、シミア様が私のためにルームメイトと賭けをなさった時、そしてあの日、私がこっそり見た、シミア様がシメル様と剣の稽古をされていた時……。シミア様がいつもご自分を無理強いなさるのが、私の胸を締め付ける。
「シャルは、シミアが恋をするのが心配なのか?」
「い、いえ……そういうわけでは。ただ、シミア様が……」言葉にできない恐怖が胸に込み上げてくる。近頃、シミア様はますます級友たちの話題の中心になっていく。今の私が、シミア様からどんどん遠ざかっていくような気がして。
「心配するな。あの人なら」シメル様は、からっとした笑顔を見せた。「あの人なら、たとえ恋人ができても、きっとシャルのことを一番に考えるだろうさ」
シミア様の恋人。カシウス先生とレインさんの姿を想像してみる。心臓が、まるで鷲掴みにされたかのように痛んだ。
「すまない。私は口下手でな」シメル様は申し訳なさそうな顔で、その手で私の髪を撫でてくださった。
「とにかく、シャルが心配なら、シミアに直接聞いてみたらどうだ?」
そういえば、シミア様はお戻りになったのだろうか。
シミア様が誰かと恋人になる姿を想像すると、心臓がまるで氷のような手に掴まれたかのように、息もできなくなるほど痛んだ。
「とにかく、シャルが心配なら、シミアに直接聞いてみたらどうだ?」シメル様は、その温かい手で、優しく私の髪を撫で、慰めてくださった。
私は頷き、シメル様の助言に従うことにした……シミア様は、もうお戻りになっただろうか。
私は天幕を出た。夜風が、少し焦げ臭い、嫌な匂いを運んでくる。野営地では、篝火の光が揺らめいているが、その重苦しい空気を追い払うことはできない。私は、普段あれほど着飾っている貴族のお嬢様たちが、今、苦虫を噛み潰したような顔で、皿の上の固い黒パンと生臭い干し肉を突いているのを見た。
その時、シミア様のお姿が見えた。
彼女は軍用の糧食を受け取り、疲れきった顔でこちらへ歩いてくる。その、私にとって一番よく知る顔には、ご本人さえ気づいていないほどの憔悴が浮かんでいた。
「シャル、ごめんなさい。さっき、話の途中で……少し、用事があったの」その瞳には申し訳なさが満ちていて、先ほどのことで、まだ私の気持ちを気遣ってくださっている。
でも、私に、彼女のために何ができるというのだろう。私はトリンドルお嬢様のように、強大な魔法で彼女の背中を守ることはできない。シメル様のように、その剣で彼女のために道を切り拓くこともできない。カシウス先生はシミア様に軍事の知識で助けになれるし、レインさんは……ルームメイトのいじめから私を助けてくださった時から、たくさんの助けになってくださっているようだ。
「あの……シャル。食事はもう受け取った?」
私は、無意識のうちに首を横に振った。
次の瞬間、まだ温もりの残る、固い夕食が私の手に押し付けられた。シミア様の分だ。
「食事をしないとダメよ。私はもう一つもらってくるから」彼女は私に微笑みかけた。その笑顔は優しさに満ちていたが、隠しきれない疲労の色も浮かんでいた。
篝火の方へと向かう、シミア様の、少し頼りない背中を見つめていると、鋭い、私を貫くかのような無力感が込み上げてきた。
私は手の中の黒パンと干し肉を見つめた。これはただの食事ではない。シミア様が、ご自分のことよりも、私のことを優先してくださった、その証だ。
私は? シャル・ブレンは、何ができる?
私は顔を上げ、視線は野営地全体を掃い、最後に、シミア様が申し訳なさそうにカシウス先生に何かを話している姿に定まった。どうやら、もう一度軍糧を受け取ることについて、謝罪しているらしい。
そんな些細なことで頭を下げ、そしてまた、あの喉を通りそうもない食べ物を口にしようとなさっている、その姿を見て……。
――いや。
一つの、あまりにも鮮明な想いが、瞬く間に、全ての躊躇いを覆い尽くした。
恋のことは、わからない。軍事のことも、助けにはなれない。彼女の悩みも、私には全くわからない。でも、私はシミア様の家族で、彼女のメイドだ。
私なら、シミア様に美味しいご飯を食べさせてあげられる! シミア様が疲れ果てた時に、温かいスープを飲ませてあげられる。故郷の味のご飯を食べさせてあげられる。このことだけは――私にしかできない! このことだけは、誰にも負けない!
私はもう迷わず、踵を返して天幕へと走った。
「シメル様!」長剣の手入れをしていたシメル様は、私に驚かれたようだ。
「どうか、お力をお貸しください! あなた様のお力が必要なのです!」シメル様は、一筋の迷いもなく、私の頼みを聞き入れてくださった。
私たちは馬車が停めてある場所まで走り、私とシミア様の荷物箱の一番奥から、私がどうしてもと持ってきた小さな鍋と、布で何重にも包んだ大切な香辛料の包みを取り出した。そして、夜番の兵士の方から綺麗な水を分けていただき、シメル様のご指導の下、天幕のそばの風が当たらない一角で、小さな篝火をおこした。
私がシミア様の元へ戻った時、彼女はまさに、諦めたようにあの黒パンを口に運ぼうとしていた。
私は、そのパンをひったくった。
シミア様の驚いた視線の中、私はありったけの力を込めて、一番の自信作の笑顔を見せた。
小さな篝火の上で、鉄鍋の水が湯気を立て始める。私の世界には、もう、手の中の小刀と食材しか存在しない。
もう、複雑なことは考えない。
干し肉が固いなら、刀の背で丁寧に叩いて柔らかくし、細かく薄切りにすれば、塩気と香りがよく染み出す。野菜には土の生臭さがあるから、一枚一枚丁寧に洗う。黒パンはざらざらして手を傷つけるから、爪ほどの大きさに千切れば、スープの旨味を十分に吸い込んでくれる。
それはまるで、私だけの、声なき戦いのようだった。私の武器は小刀と鉄鍋。私の魔法は、お母様が教えてくれた、火加減と味付けの秘密。
濃厚な、肉の香ばしさと野菜の清らかな香りが混じり合った白いスープが鍋の中で煮立つ時、かつてないほどの満足感が、心の中の全ての不安と焦りを追い払ってくれた。
「どうぞ、温かいうちにお召し上がりください、シミア様」
私は湯気の立つ木の椀を差し出し、緊張のあまり呼吸も忘れてしまった。
シミア様は、まず驚いたように目を大きく見開き、それから、一日中こわばっていたその口元が、ようやく柔らかく、上へと弧を描いた。彼女は木の椀を受け取ると、慎重に熱気を吹き冷まし、そっと一口、スープを飲んだ。
その瞬間だった。
私は見た。彼女の、いつも物思いに沈み、疲れきっていたその瞳の中で、まるで何か固い氷が溶けていくのを。それは……心の底から湧き出たような、この上なく温かい、安心しきったお顔だった。
「……美味しい」彼女は顔を上げ、私に、まるで故郷の午後の陽だまりの中にいるかのような、本当に気楽な笑顔を見せてくれた。「ありがとう、シャル」
私には、シミア様を守る力も、彼女のために道を切り拓くことも、その悩みを分かち合うこともできない。
でも……。
シミア様が満身創痍になった時、安心して休める港になることはできる。彼女が王国全体の運命に心を痛めている時、その心身を温める一杯のスープを差し出すことはできる。
シミア様の一番近くの場所、シミア様が一番安心した笑顔を見せてくださる風景は、私だけが守れる宝物だ。
そんな、ささやかで確かな幸福感に包まれていた、その時。おずおずとした声が、少し離れたところから聞こえてきた。
「あの……すみません……」
私が振り返ると、今まで一度もお話ししたことのなかった貴族のお嬢様が、顔を赤らめ、少し恥ずかしそうに、私の目の前の鍋を指差していた。
「……そのスープ、も、もしまだ残っていたら……」
もちろん、この後、野営地中の学生さん、果てはカシウス先生までが、私に夕食の調理をお願いしに来たのは、また別のお話である。
皆さんに一つ、秘密を打ち明けます。私、以前は一人称視点がとても得意でした。
この物語で本格的な一人称視点を使うのは、実はこれが初めてです。執筆が二日間にわたってしまい、驚いたことに、二日目にはどうしても一日目のあの感覚を再現できなくなっていました。これが、同じ投稿日に二つもあとがきを書くことになってしまった理由です。
とても不安です。皆さんは、今回のような一人称視点の物語と、物語全体を見渡せる三人称視点と、どちらがお好きなのでしょうか。
もし、今回の夏尔視点のような形式がもっと読みたいと思っていただけましたら、ぜひ教えてください。皆様からのフィードバックが、私が前に進むための何よりの力となります!