戦場への遠足、仮面の下の駒
領主学院の入り口には、六、七台の馬車が停まっていた。トリンドルがシミアの腕を引いて楽しそうに話している。彼女はきっと、カシウス先生の観戦団の中で、最も気楽な気持ちでいるのだろう。シャルとシメルは、その光景を微笑みながら見守っていた。本来なら、四人は別々の馬車に分乗させられるところだったが、エグモント家が、お嬢様であるトリンドルのために、家紋入りの専用馬車を特別に用意してくれたおかげで、四人は共に行動できることになった。
「シミア、向こうに着いたら、絶対に私の家に遊びに来てね。お父様も、きっと喜ぶわ!」
「喜んでくれるかしら? 私は、ただの一階領主よ」
「喜ぶに決まってるわ。だって、シミアは私の騎士様ですもの」
トリンドルの無邪気な笑顔に、シミアの重く沈んでいた心も、少しだけ軽くなった。
しかし、肌身離さず懐に忍ばせている、女王ミリエル直筆の二通の手紙が、まるで千斤の重さを持っているかのようだった。その冷たい感触が、布越しに、女王ミリエルとの約束を、無言で彼女に思い起こさせる。目の前で自分を信頼しきっているこの少女に、本当の戦場には、英雄の詩などなく、ただ冷たい鉄と血があるだけなのだと、彼女はとても告げる気にはなれなかった。
トリンドルを支えて馬車に乗せた後、シミアは後ろを振り返った。シメルは自分の荷物袋を背負いながら、シミアとシャルの二人分のスーツケースを運ぶのを手伝ってくれている。二人の視線が合うと、シメルは神妙な面持ちで頷いた。
その時、シミアの視界の端に、遠くにいるルルト家のミリエルの姿が映った。彼女も、あの日、魔法実践の授業で虐めに加担していた取り巻きたちと一緒に、カシウス先生が募った戦場への任意参加の観戦団に加わったようだ。彼女はシミアの視線に気づいたが、ただ目の端でこちらを一瞥しただけだった。その眼差しは、まるで道端に転がる、どうでもいい小石でも見るかのよう。すぐに、彼女は何事もなかったかのように顔を背け、大勢の取り巻きに囲まれながら、別の馬車へと乗り込んでいった。
「シミア様、どうかされましたか?」
シャルの心配そうな声が、シミアを思考の海から呼び覚ました。彼女は、シャルに微笑み返す。
「ううん、何でもないわ。私たちも乗りましょう」
シミアはシャルを車に乗せ、それからトリンドルの手を取って、馬車に乗り込んだ。シメルは三人の荷物を馬車の後ろにある物入れにしまうと、自身も車に乗り込んだ。
外から見れば、ごく普通の馬車と何ら変わりない。しかし、シミアはすぐに、その内部の精巧な設計に目を奪われた。
「お嬢様方、馬車が間もなく出発いたします」
御者席から声が聞こえ、トリンドルははっとした。彼女は立ち上がって御者との連絡窓を開けると、そこにいるレインの微笑む視線と、そして交代要員であろうもう一人の御者の姿を見て、目を丸くした。
「あなた! なんでここにいるのよ!」
「はい、トリンドルお嬢様。道中、お嬢様をお守りするよう、セバス爺様よりご命令を受けております」
セバスの名を聞き、トリンドルの顔から怒りの色が消え、代わりに戸惑いの色が浮かんだ。
「そう、セバス爺様が……」
「はい、お嬢様。セバス爺様は、道中のご無事を大変心配されておりました。幸運にも、私は屋敷の護衛の中から、この役目に選ばれた次第です」レインはわずかに身をかがめ、トリンドルに礼をした。
「ふん! なら、せいぜいしっかり馬車を御しなさい!」
レインが返事をする間もなく、トリンドルは乱暴に連絡窓を閉めると、シミアの隣にどかりと座り、その腕にぎゅっとしがみついた。
コンコン、と馬車の窓を叩く音が聞こえ、シミアはカーテンを開け、窓を少しだけ下に開けた。カシウス先生が、馬の上から、車内で楽しそうに笑いさざめく四人を見ている。
「間もなく出発する」開いた窓を通して、カシウスは車内の四人に伝えた。
こうして、四人の楽しげな笑い声の中、辺境へと向かう馬車は、出発した。
カシウスは馬上にあり、エグモント家の家紋が印された馬車が隊列に合流していくのを、笑みを浮かべて見送っていた。だが、その穏やかな師の仮面の下で、彼の瞳は、氷のように冷たい無関心に満ちていた。
(行け。君のために用意された、舞台へと)彼は心の中で冷笑した。(だが、幕が下りる時、君は私の戦利品となる)
彼の視線が、何気なく、シャルがシミアの襟を直してやる、気遣いに満ちた姿を捉えた。
(そう、要塞の門というものは、いつも最も親しい者によって、内側から開けられるものだ)