陽だまりのピクニックと、不穏の光
近頃、シミアの動きは全くなかった。シャル――あのメイドがシメルの寮に移ってからというもの、彼女から助けを求める連絡は一切ない。気になって……いや、心配になったレインは、シミアの生活をこっそり観察してみることにした。そして、彼女が図書館に自由に出入りしているのを見た時、レインは心底驚いた。そのことをセバス爺様に伝えようとすると、「己の私欲のために、好いた女子を尾行するでない」と叱責される始末。まったく、とんだとばっちりだ……。
冬が、間もなく終わる。暖かい陽光が、レインには少し眩しく感じられた。
寮の裏手には森があり、春の気配に誘われて、木々が少しずつ芽吹き始めている。少し早いが、ピクニックには絶好の日和と言えるだろう。
森を抜けると、シミアが言っていた場所には、広々とした草原が広がっていた。彼女たちは草原にシートを広げ、どうやらピクニックはすでに始まってしばらく経つようだ。シミアの膝の上では、トリンドルが気持ちよさそうに昼寝をしている。シメルはクッキーを食べながらお茶を飲み、シャルはシミアと楽しそうに談笑していた。
レインは、ため息をついた。
「なんで俺が、女子四人と一緒にピクニックなんだよ……」彼は小声で愚痴をこぼした。
彼はまずシメルとシャルに挨拶をし、それからシミアのそばへと歩み寄った。
「ごめんなさいね。みんなお腹が空いちゃって、先に始めてしまったの。でも、レインの分も、まだ少し残っているわよ?」
シミアが目の前の小さなバスケットを指差す。中には、二切れのサンドイッチと、いくつかの小さなクッキーが、無造作に入っていた。シャルも、レインのために淹れたての紅茶を差し出してくれた。
レインは一番上にあったサンドイッチを手に取り、口に入れて小さく咀嚼する。野菜の層とベーコンの層の間から、甘いソースがじゅわっと溢れ出し、口いっぱいに広がった。思わず、レインの顔に笑みがこぼれる。
「美味しいでしょう? うちのシャルの傑作なのよ!」シミアは声を潜め、レインに自慢げに言った。
「うまい」
「お口に合ったようで、何よりです」レインの率直な評価を聞き、それまで少し不安げだったシャルの顔にも、ぱあっと笑みが咲いた。
「シミア……?」
先ほどの声で、昼寝をしていたトリンドルが目を覚ましたようだ。彼女は目を開け、レインの視線とぶつかった。
眠たげだったトリンドルの目が、かっと見開かれる。
「お、男……。シミア? まさか……」
「ええ。レインさんは私の友人よ。以前、シャルを助けてくれた恩人なの。前に、話したでしょう?」
「あなた……もしシミアに良からぬことを考えているのなら、世界の果てまで逃げようと、私、エグモント家が許さないわよ!」
レインは気まずそうに笑った。様々な場面でトリンドルお嬢様とは顔を合わせているが、彼女は全く自分のことを覚えていないらしい。
「トリンドル、レインさんは、ただの……友人、よ」
その奇妙な間。レインには、シミアが本当は「助っ人」と言いたかったのが分かった。だが、シミアの頬が赤らんでいるのを見て、レインはまた余計なことを考えてしまいそうになる。
その言葉を聞いた途端、トリンドルの、あの澄んだ水色の瞳が、瞬く間に吊り上がった。
彼女は弾かれたように立ち上がると、レインとシミアの間に割って入り、シミアを自分の背後にかばった。まるで獲物を守る猫のように両腕を広げてレインの視線を遮り、眉をきつくひそめている。
「どこの馬の骨とも知れない男! 私のそばから、シミアを奪おうなんて、許さないわ!」
「トリンドルお嬢様、どうやら、お二人は本当にご友人のようですわよ?」
絶妙なタイミングでシメルが会話に加わると、自分が少しやりすぎてしまったことに気づいたトリンドルの顔が、かあっと赤くなった。
「そうですわ。シミア様は、まだそのようなお年頃ではございません」
シャルのダメ押しの一言で、トリンドルは次第に冷静さを取り戻した。
「ふん! 今回は運が良かったと思いなさい!」
その時、トリンドルは、レインのバスケットの中に、まだ食べられていない動物クッキーが一枚あることに気づいた。
トリンドルの目に、狩人のような鋭い光が閃く。レインが気づいた時には、その動物クッキーは、すでにトリンドルの口の中にあった。
彼女はレインに向かって、「私の勝ちね」と言わんばかりの笑みを浮かべた。
レインは苦笑し、何かを言おうとしたが、その視界の端が、不意に遠くの別の茂みを捉えた。
――あそこ、何かが、光を反射しているような。
それは、自分の見間違いかと思うほど、一瞬の、素早い閃光だった。
彼は無意識のうちに目を細め、もっとはっきりと見ようとしたが、その茂みはまた静けさを取り戻し、ただまだらな木漏れ日が微風にそっと揺れているだけで、まるで何も起こらなかったかのようだった。
(気のせいか? それとも……)
レインの心に、初めて、彼自身にも言い表せないような一抹の不安が芽生えた。彼は無意識のうちに、友人たちと笑いさざめくシミアに目をやった。――この少女と、彼女が大切にしているこの日常を守ることは、自分が想像しているよりも、遥かに困難なことなのかもしれない。そんな、かつてない思いが、彼の脳裏をよぎった。
ここまでで、第四章の全てが終わりとなります。
これから、物語は最も重要な章へと突入します。仮に、これを『二つの戦場、二人の将軍』とでも呼びましょうか。
正直なところ、私の心の中には多くの不安があります。もし読者の皆様がここまで来る前に読むのをやめてしまったら、もし苦労して書き上げたこの物語が、全く価値がないと評価されたらどうしよう、と。
ですが、執筆への情熱、物語への自信、そして何よりも、読者の皆様の応援があったからこそ、私は今日まで歩んでくることができました。
これから、私自身も、そして我らが主人公シミアも、より大きな挑戦に立ち向かうことになります。第一巻の結末は、すでに決まっています。どうか、ご期待ください。
追伸:
好評であれ、厳しいご意見であれ、皆様の感想をお聞かせいただけると幸いです。皆様の期待に応えられるよう、全力を尽くします。