砕かれた設計図、女王の涙
斜陽がコーナの事務机から図書館の内部へと差し込み、舞い上がる埃が銀色の妖精のように空中で煌めきながら踊っていた。紅茶の香りが空気中に満ち、コーナが探してきてくれた大判の資料を両手で抱えながら、シミアは久々の穏やかな時間を楽しんでいた。
図書館の奥から、コーナの足音が聞こえてくる。その音を聞き、シミアは窓の外に目をやったが、まだ帰らなければならない時間ではないようだ。そこで彼女は再び資料を手に取り、自らの計画を完成させるための欠片を探し続けた。
「シミア君、『あの方』がお呼びだ」
『あの方』という言葉を聞いた瞬間、シミアは本を置いた。シミアが図書館で本を読むことを許してくれた、あの方とは一体誰なのだろう? 好奇心が、シミアを本の世界から引き離した。
「コーナ先生、あの方とは、一体どなたですの?」
「今日、君に貸した資料も一緒に運んで、私についてきなさい」
言い終えると、コーナは身を翻して歩き出した。彼女の姿に遅れまいと、シミアは多くを考える間もなく、傍らの机に積まれた小さな資料の山を抱え、後を追った。
……
シミアとコーナの足音が、だだっ広い廊下にくっきりと反響する。コーナは手提げランプを手に、前を歩いて道を照らしていた。一方シミアは、通路の内部構造を丹念に観察していた。壁は滑らかに磨き上げられ、一定の間隔で簡素な壁画が描かれている。まさか、自分が普段本を読んでいる図書館の真下に、これほど大規模な秘密の通路があったとは、思いもよらなかった。
きょろきょろと辺りを見回すシミアの様子に、コーナは「本当に仕様がないな」といった表情を浮かべ、説明を始めた。
「ここは数十年前、先代の国王が内乱に備えて建造した避難通路だ。いざという時に、彼が愛した家族を守るために遺した、生存手段の一つだよ」
(でも、あの頃の王室の財政は、すでにほとんど底を突いていたはずなのに)
シミアは、口に出しかけたその言葉を飲み込み、コーナの後について歩き続けた。
通路の構造は複雑で、幅は二人が並んで歩けるほどあり、出口も一つではないようだ。一定の間隔で、松明を置くための窪みが設けられている。シミアは、中の油に多くの不純物が混じっていることに気づいた。どうやら、何年も更新されていないらしい。
「着いたぞ」
二人は、一つの鉄の扉の前で立ち止まった。コーナが一つの鍵束を取り出し、ギシリという音と共に扉を押し開けると、入り口からの眩い光に、シミアは少し目がくらんだ。彼女は右腕で、自分の目を覆った。
「シミア、私の庭へようこそ」
紅茶の香りが鼻をくすぐり、耳元で優しい言葉が聞こえた。その言葉と共に、彼女の手から重みが取り除かれる。
左手に、柔らかな手が触れるのを感じた。引き抜こうとしたが、その手はまるで宥めるようにシミアの手の甲を撫で、言葉にできない安心感が、シミアをその手の導きに従わせた。一歩、また一歩と、階段を上っていく。
シミアは、目の前の光景に信じられないという表情を浮かべた。そこは、学校の図書館を遥かに凌ぐ蔵書室だった。部屋を囲む螺旋階段は、全四階の図書館へと通じている。部屋をぐるりと一周する本棚には、ありとあらゆる種類の本がぎっしりと詰まっていた。そして大広間の中央には、多くの精巧なテーブルと椅子が置かれ、まるで一般に開放された図書館のような雰囲気だ。女王ミリエルが、学院が領主クラスの女子生徒に支給した制服スカートを身につけ、自分の目の前に立っていた。白い長い髪は自然に広がり、彼女はスカートの裾をわずかに持ち上げ、シミアが礼儀作法の授業で習った、最も標準的な礼で、シミアに挨拶をした。
「女王陛下?」
シミアは女王への礼儀を思い出し、まさに礼をしようとした時、女王に引き留められた。
「部外者のいない場では、そんなに他人行儀にしないで。あなたは私の転生者の仲間で、私の騎士。私的な場では、私たちは対等な関係よ」
ミリエルは唇をシミアの耳たぶに近づけた。話すたびに吐息が触れ、シミアはくすぐったさに目を細めた。
「では、私は資料を書架に戻しておきます、ミリエル様」
コーナは無表情のまま資料を抱えて図書館の奥へと歩いていき、その足音は次第に消えていった。
……
シミアは目の前の紅茶を見つめていた。透明な茶湯を通して、カップの底にある花の模様が見える。呼吸に合わせて、茶湯がゆっくりと揺れる。芳醇な茶の香りがシミアの鼻腔をくすぐり、彼女は思わず、あの日ミリエルが淹れてくれた紅茶を思い出した。
「今回は心配しないで。何も仕掛けはしていないから」
ミリエルは、どこか困ったような、それでいて優しい表情を浮かべ、シミアの手からカップを受け取ると、その一部を自分のカップへと注いだ。
「紅茶はね、淹れる人や手順、その一つ一つの時間と温度の管理で、味が全く違ってくるの」
ミリエルはカップを掲げ、中の紅茶を一気に飲み干した。
「でも、個人的には、こういう味わい方はあまり好きじゃないかな」
彼女は飲み干したカップをシミアに見せ、安心して飲んでいいと合図した。
ミリエルの瞳には、シミアを温かい気持ちにさせる感情が宿っていた。シミアがカップを掲げると、柔らかく、繊細な香りが鼻腔に流れ込む。それまで女王に面会していた緊張感が次第に消え、代わりに安心感とリラックスした気持ちが広がっていく。芳醇な茶湯が喉を滑り落ち、シミアは内から外から、ミリエルの茶の香りに満たされた。――なるほど、ミリエルの淹れる紅茶は、こんなにも美味しかったのか。
彼女は、紅茶がもたらす感情から、すぐには抜け出せなかった。シミアが顔を上げると、ミリエルが、まるで悪戯が成功した子供のような表情を浮かべていた。
「あの日以来、私に直々に罰せられた領主として、学院ではきっと、たくさんの不愉快な思いをしたでしょう?」
シミアは、入学時の騒動、剣術の授業でダミールに挑戦されたこと、魔法実践の授業でミリエル・ルルトに嵌められ虐められたこと、シャルがルームメイトに虐められたことを思い出した。しかし、それらの光景は、ミリエルの寝室で、彼女が見せた孤独感から抱きしめたくなった、あの感情によって、洗い流されていった。
代わりに、いくつかの新しい光景が浮かび上がる。純粋で可愛らしいトリンドル、率直で正義感に満ちたシメル、そして、次第に成長していくシャル……。考えてみれば、これらの温かい記憶は、自分に苦痛をもたらした記憶を、遥かに上回っていた。
「いいえ……あなたに、感謝したいのです。この機会を与えてくれたのは、あなたですから。学院生活は、私にたくさんの、かけがえのない思い出を残してくれました」
「かけがえのない思い出?」ミリエルの声は軽やかだったが、一筋の冷たさを帯びていた。「ダミールに挑戦された時の傷は、今でも痛む? ルルト家の娘に水球で濡らされた時は、本当に寒かったでしょう? シャルが部屋に閉じ込められて泣いていた時、あなたは、自分の心臓の方が、彼女の部屋のドアより先に、打ち砕かれたように感じたんじゃない?」
ミリエルの詳細な描写が、那些不安な記憶を、心の底から呼び起こした。もし自分がダミールの剣に敗れていたら、もしトリンドルが守りに来てくれなかったら、もしカシウス先生との弁論に負けていたら。様々な可能性が、シミアに絶望的な無力感を抱かせた。
ミリエルが席から立ち上がった。その白い指が、シミアの黒い髪を優しく撫でる。シミアが顔を上げた時、ミリエルは身をかがめていた。
「ごめんなさい、シミア。これらは全て、私のせいで……ごめんなさい」
ミリエルは深く頭を下げた。まるで、シミアの前にいるのがローレンス王国の女王様ではなく、ごく普通の一人の少女であるかのように。二人は見つめ合い、微笑み合った。シミアの心臓が、速く、速く鼓動する。
その後、ミリエルは席に戻った。シミアは、ミリエルの周りの雰囲気が変化したのを感じた。まるで、それまでのリラックスした雰囲気から、威圧感のある女王の姿へと、変貌したかのようだった。
「シミア、あなたの計画について、話しましょうか」
シミアは頷き、口を開いた。「先日、カシウス先生が陛下にお話しした通り……」
ミリエルは不快な表情を浮かべ、手でシミアを制した。
「初めから、あなたの口から聞かせて」
シミアは、その考えが生まれた源、歴史の先生との弁論の授業から話し始めた。ミリエルはテーブルの上の羽根ペンとノートを手に取り、時には耳を傾け、時には考え込んだ。シミアが戦例を分析する時、ミリエルは興味深そうに聞き入り、最後のカシウスとの放課後の分析について語る時、ミリエルは眉をひそめた。彼女は一度もシミアの話を遮ることなく、その全てを、完完整々と聞き終えた。
シミアの話を聞き終えると、ミリエルは拍手をした。
「素晴らしい構想ね、シミア。あなたは全ての者の利益を考え、誰もが抗いがたい案を設計したわ」
だが、話は一転する。ミリエルは三本の指を立て、冷たい口調でシミアに宣告した。
「でも、あなたは三つの、重大な過ちを犯している」
「第一に、あなたはカシウスを信じすぎている。彼が学院の教師であり、学術上、ある程度の権威を代表することは確かよ。でも、考えたことはある? カシウスは本当に、あなたに将来性があるから助けてくれたのだと? あなたは、人の性の暗黒面を、あまりにも軽視しているわ」
シミアの脳裏に浮かぶ、あの光り輝く設計図。ミリエルの言葉と共に、その設計図は、全ての光を失った。
(考えたこともなかった。カシウス先生は、この計画で、一体どんな役割を担っているの?)
シミアの戸惑いを前に、ミリエルは首を振り、続けた。
「第二に、あなたの計画は確かに素晴らしい。全ての者が利益を得る。でも、全ての者が利益を得る前に、まず損失を被らなければならない。あなたは、どうやって、まずその損失を被る者たちに、あなたの計画を同意させるか、考えたことはある? 例えば、王国最強のフラッド家、あるいは、学院であなたと仲の良い、トリンドル・エグモントの、彼女の家族を」
シミアが茫然とした表情を浮かべるのを見て、ミリエルは、ひどくゆっくりとした口調で、そして鋭く、問いかけた。
「一体何を根拠に、彼らが、あなたが彼らの手から権力を奪い取るのを、黙って見ていると思うの!?」
今や、あの色褪せた設計図の上には、無数の亀裂が走っていた。かつて絵と絵とを繋いでいた線が、ぷつり、ぷつりと断ち切れていく。
シミアは、はっと息を呑んだ。彼女は、計画の結果が全ての人にとって有利であるということに、固執しすぎていた。自らの理想に酔いしれ、人間が、まさに「失う」ことに対して、より敏感であるということを、忘れていたのだ。
「第三に……」
ミリエルは席から立ち上がり、シミアの隣に歩み寄ると、その肩を固く掴んだ。そして、その場にしゃがみ込み、二人の視線を合わせた。シミアは、見下ろす形でミリエルと向き合う。彼女の瞳には涙が溢れていたが、その眼差しは、燃え盛る炎のようだった。
「考えたことはある? 王室の未来……ではなく、私の未来を。私、ミリエル・ローレンスの、未来を!」
ミリエルの言葉は、重い槌のように、シミアの脳裏にあるカンバスに、叩きつけられた。
「あなたの計画のために、私は、自分の父親よりも年老いた肥満の豚に嫁がなければならないの!? 権力を固めるために、言うことを聞かない、幼馴染たちを、この手で殺さなければならないの!? シミア・ブレン、答えなさい! あなたの計画書には、それを実現するために、私、ミリエル・ローレンスが、どれほどの眠れぬ夜と、どれほどの悪夢に泣いて目覚める代償を、支払わなければならないか、そう書いてあるの!?」
その一言一言が、まるで巨大な槌が振り下ろされるかのように、シミアの設計図を粉々に打ち砕いていく。そして、その槌を振るうミリエルは、今、ただの普通の少女だった。彼女はただ、自分の権利を、少しは考えてほしいと、そう懇願しているだけだった。
「あなた、シミアは、この計画のために、一体どんな代償を支払えるの!」
最後の槌が、絵の額縁を叩き割った。シミアの頭の中の絵は、完全に解体された。彼女は、頭の中が真っ白になるのを感じた。自分を責めるミリエルの顔は、苦痛に歪んでいた。彼女を抱きしめたい。だが、彼女をこれほど苦しめているのは、まさに自分の、独りよがりな計画なのだ。
(私は、ミリエルに希望をもたらしたと思っていた。でもそれは、ただの甘美な毒杯だった。その独りよがりな誇りに酔いしれ、彼女が耐えている苦痛に、全く気づいていなかった)
脳裏で、ミリエルが、あの言葉を繰り返している。
(ミリエル:「あなた、シミアは、この計画のために、一体どんな代償を支払えるの!」)
(私が提示した案には、私の姿がなかった。修正しなければ……修正……)
(ミリエル:「あなた、シミアは、この計画のために、一体どんな代償を支払えるの!」)
シミアは、心臓が引き裂かれるような痛みを感じた。目の前を、あの日、ミリエルの寝室で彼女に立てた誓いが、よぎった。「私はミリエル女王を守る。たとえ、あなたのために死ぬことになっても」と。
為すべきことは、とうに決まっていた。シミアは、ミリエルの手からあの大きな槌を受け取ると、あの大地に向かって、力任せに振り下ろした。一振り、また一振りと。ついに、鏡が砕けるような音と共に、脳内の世界が、粉々に砕け散った。
シミアは、彼女に見下ろす視点を与えていた椅子から離れ、硬い床に両膝をつき、ミリエルと同じ視線の高さになった。彼女は、泣きじゃくる少女――ミリエルを、固く、固く抱きしめた。
「ミリエル。私……シミアは、あなたのために、死ねるわ」
シミアの宣言を聞き、ミリエルの肩がびくりと跳ねた。彼女は信じられないというようにシミアの真剣な眼差しを見つめる。その瞳に映るシミアは、まるで太陽のように輝いていた。
「……私を、捨てないで……シミア」
ミリエルは両腕をシミアに回し、その胸に顔を埋めた。二人は互いの体温を感じながら、シミアは、最後の決断を下した。
「ミリエル、私はあなたのために死ねる。それが九死に一生の戦場であろうと、冷酷無情な宮廷であろうと。私の知恵を、私の力を、私の命を、私の全てを、あなたに捧げる。だから……お願い、一人で泣かないで」
「シミア……死なないで……私のために、死なないで」ミリエルは、まるで死神からシミアの所有権を奪い取るかのように、きつく、きつく抱きしめた。「私のために、生きて!」
本日もまた、一日二話更新という当初の目標を守れず、申し訳ありません。
理由としましては、この非常にまとまった物語を二つに分割して、読者の皆様にやきもきしながら次の展開を待たせてしまうことを、どうしても避けたかったからです。
日々物語が進むにつれ、本巻のクライマックスもいよいよ近づいてまいりました。その時まで、皆様にはどうか引き続き応援していただけますと幸いです。
本当にありがとうございます。