嵐の後の、新たな陽だまり
弁論が終わるとすぐ、多くの平民生徒がシミアと親しくなろうと詰め寄ってきた。しかし、シミアは彼らの申し出を断り、真っ先に隅にいたシャルの元へ向かった。
「シャル、もう。ほら、私はこの通り、何ともないじゃない」
「シミア様、でも……でも……」
シミアはシャルの頭を優しく抱き、そっと撫でてやった。
隅の方では、カメルが魂の抜けたような歴史の先生に何かを話している。そういえば、カメル先生が来てくれなければ、自分も賭けなど思いつかなかったかもしれない。
結局、歴史が正しいと証明することに必死だった歴史の先生と、伝統を重んじるカメル先生に助けられたのだ。そう思うと、シミアは複雑な心境だった。
「お退きなさい」
ミリエルの無表情な抗議の声が聞こえるまで、シミアは自分とシャルが教室の裏口を塞いでしまっていることに気づかなかった。
「ごめんなさい、どうぞ通って」シミアは慌てて道を開けた。
その時、トリンドルも支度を終え、シャルとシミアの方へ歩いてきた。
「シミア、この後は何か予定があるの?」
そこで彼女は、シミアの腕の中にいるシャルに気づいた。
「あなたは、あの時の……シャル、でしょう? あなたも私の命の恩人よ。覚えているわ」
トリンドルは微笑みながら、シャルに挨拶をした。
「シャルは、シミア様の……」
「家族よ。シャルは、私の家族なの」
シミアはシャルの言葉を遮り、彼女を家族として紹介した。
「シミアの家族は、私の家族も同然ですわ。これから、どうぞよろしくね」
メイドという身分のシャルに対して、これほど対等な態度で接してくれるトリンドル。シミアは、いつかシャルとトリンドルと一緒に暮らしたいと夢見たあの日の光景を思い出し、それがそう遠い未来ではないかもしれないと感じた。
ふと、シャルの視線が鋭くなる。シミアがその視線の先を見ると、シャルのルームメイトだった三人が、こちらに歩いてくるところだった。彼女たちはシミアの隣にいるトリンドルの姿を認めると、顔色をさらに悪くした。
「あ、あの、私たちは……」
「ご……ごめんなさい」
「ごめんなさい、もう二度とシャルさんをいじめたりしません」
謝罪する三人を見て、シミアはやるせない気持ちになった。彼女たちがしたことは確かに酷いが、事の発端は、自分が女王の依頼を受け入れて「罰せられし者」になったことにある。この件に関しては、もしかしたら自分の方が、もっと許されないのかもしれない。
「あなたたちは、私の最も大切な家族を傷つけた。許しはしない。でも、報復もしないわ。今日のことを、決して忘れないで。次に何かをしようとする時は、その行動がどんな結果を招くか、よく考えることね」
シミアは、あの日のドアの向こうで助けを求めていたシャルの声を忘れられない。しかし、彼女たちを罰したところで何の意味もない。自分が「罰せられし者」である限り、シャルが危険から完全に逃れることはできないのだ。
シミアの言葉を聞き終えると、三人組は恐怖に顔を引きつらせ、逃げるように去っていった。
「少し、お邪魔してもいいかな」
シメル・ディエスが、三人の前に姿を現した。
「もし私の聞き間違いでなければ、シャルさんがルームメイトに虐められていた、ということでいいのかな?」
「は……はい」
シミアはあの時のことを思い出し、今でも少し背筋が寒くなる。
「実は、私の部屋にちょうど空きがあるんだ。もし迷惑でなければ、シャルさんは私の部屋に移ってくるといい。私が、誰も彼女をいじめさせないと保証する」
言い終えると、シメルはシャルの方を見て、目で彼女の意思を確かめた。
シメルの言葉に、シミアは一筋の光を見た気がした。やはり、シャルをあの三人と一緒に住まわせ続けるのは、心配だったのだ。
シミアの視線がシャルに向けられると、シャルはこくりと頷いた。
「シャルを、私の大切な家族を、よろしくお願いします」
シミアはシメル・ディエスに向かって、深く、深く頭を下げた。
こうして、シャルの新しい居場所が決まったのだった。