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迷いと決意

王宮の長く伽藍とした回廊を一人歩きながら、自然と壁に掲げられた巨大な古の壁画へと視線が吸い寄せられていた。


これまで、この通路を足早に通り過ぎる時は、常に政務や戦局のことで頭がいっぱいで、歴史の沈殿するこれらの絵巻を足を止めて鑑賞する余裕など片時もなかった。だが今、戦争の幕引きと共に、ようやくその歩みを緩めることができた。


一枚目の壁画。怒りに目を血走らせ、剣を抜き放つ者たち。描かれているのは、大戦前夜に決定的な決裂を迎えた『十二英雄』の姿だった。かつての戦友は憎しみ合い、リリアは無情にも追放される。


二枚目。残された十一人の英雄が、初代国王アラリックのもとに結束し、天を覆い尽くすほどの恐怖の『巨獣ベヒーモス』と死闘を繰り広げている。画面から押し寄せてくるのは、悲壮なる史詩エピックの気迫。


三枚目。ついに巨獣を討ち果たした英雄たちが、その返り血を浴びながら巨獣の血肉を分け合って喰らっている。死地を抜け出した直後の、あらゆる枷を外した狂乱の宴が、彫刻師の鮮烈な色彩によって生々しく描き出されていた。


その後、英雄たちはそれぞれ巨獣の遺骸の一部を持ち帰り、自らの領地に国を興す。ここから、長く曲折に満ちたローレンス王国の歴史が始まるのだ。


光り輝く栄華もあれば、滅亡の淵に立たされる暗黒の時代もあった。波乱万丈な歴史が、まるで一本の長い絵巻物のように、脳裏でゆっくりと紐解かれていく。


最後の壁画を見終えた時、ちょうどミリエルの寝室の扉の前に辿り着いていた。重厚な歴史がもたらす余韻が、いまだ胸の内に渦巻いている。


「過ちを犯し、そこから教訓を得て成長する。そしてまた新たな過ちを犯し、さらに成長していく……それが、人間の歴史というものなのかもしれない」


誰に聞かせるでもなく、小さく感慨を漏らした。


「シミア様。女王陛下がお待ちかねです、どうぞ中へ」


扉を警護していた衛兵が恭しく一礼し、分厚い彫刻張りの木扉をゆっくりと押し開ける。


隙間ができた瞬間。極めて濃厚な、そして何よりも馴染み深い『紅茶の香り』が、まるで潮騒のように鼻腔へと流れ込んできた。


部屋の中央、テーブルの前にミリエルが座っている。一切の装飾を削ぎ落とした、雪のように純白のシルクのネグリジェを身に纏い、これまで幾度となく繰り返してきた無数の夜と同じように、静かに紅茶を味わっていた。


扉の音に気付くと、ティーカップを置き、ゆっくりと立ち上がって歩み寄ってくる。


「シミア。来てくれたのね」


自然な仕草で手を取り、部屋の奥へと招き入れる。その絶世の美貌には、どこか見知らぬ、複雑な感情が浮かんでいた。愛しい者に会えた心からの喜びに満ちているようでもあり、同時に、底知れぬ深い悲哀と恐怖を必死に押し殺しているようにも見える。


じっと観察してみても、今の自分には、その感情の正体を完全には読み解けなかった。


「うん、来たよ」


短く応え、寝室の扉を閉める。二人は部屋の中央にある柔らかなソファへと歩み寄り、示し合わせたように隣り合って腰を下ろした。


「トリンドルは……大丈夫かしら?」


沈黙を破ったのはミリエルだった。その声は、消え入りそうに細い。


「うん。あの日は酷く泣き崩れていたけれど、レインさんがすぐにエグモント家の継承儀式を手配してくれたから。ここ数日は家督の引き継ぎに追われていて、忙しさで一時的に悲しみを麻痺させている状態かな」


「そう……」


ミリエルは黯然と俯き、両手の指を痛いほどに固く絡め合わせた。


「私は彼女に、そしてエグモント家に……取り返しのつかないことをしてしまったわ……」


長く、重苦しい溜め息。直後、ミリエルは突然テーブルの上の少し熱い紅茶を手に取り、一気に喉の奥へと流し込んだ。


そして、何か極めて困難な決断を下したかのように強く頭を振り、無理やり顔を上げて、血の気の引いた蒼白な笑みを浮かべてみせた。


「この話はもうやめにしましょう。シミア、今日あなたをここに呼んだ、本題について話すわ」


深呼吸を一つし、真っ直ぐにシミアの瞳を見つめ返す。


「私、決めたの。あなたを『王位継承者』として公式に発表するわ。順調に行けば、今頃コーナが布告の準備を進めているはずよ」


王都全土を根底から吹き飛ばしかねない、あまりにも突然の爆弾発言。シミアは思わず両目を限界まで見開いた。


「継承者? 私が!? 何の冗談……」


だが、ミリエルは一切の揺らぎなく頷いた。


「冗談じゃないわ。私が南方へ向かった後、あなたはこの国のために、私のために、あまりにも多くのことを成し遂げてくれた。私が一方的に押し付けるこの『期待』を、どうか受け取ってほしいの。なぜなら、これから巻き起こる嵐の中で、あなたにはその『庇護』が絶対に必要になるから」


「私……」


頭の中が瞬時に真っ白になった。


脳裏に、あの夜の光景がフラッシュバックする。ミリエルが辺境へと旅立つ直前、耳元で囁かれたあの狂気じみた約束。


あの時の自分は、ただの出陣前の少女の不安から来る戯言だろうと高を括り、深くは考えなかった。まさか今日になって、その約束が本当に現実のものとして突きつけられるとは、夢にも思っていなかったのだ。


我に返り、本能のままに拒絶の言葉を紡ぎ出そうとする。


「私には無理だよ。国王になる能力なんてないし、複雑な政治の均衡なんて何一つ分からない。ミリエル、私は……」


だが、その言葉を最後まで言い切るより早く。


立ち上がったミリエルが身を乗り出し、細く白い人差し指を、そっとシミアの唇に押し当てた。


その瞬間、むせ返るような紅茶の香りがシミアの全身を包み込む。


「シミア、能力なんて関係ないの」ミリエルの目尻は微かに赤く染まり、その声は異常なほどの執拗さを帯びていた。「私はただ、あなたであってほしいだけ。私の意志を継いでくれるのは、あなただけでいい。この玉座は、あなたにしか明け渡したくないの」


そのまま、真っ白なネグリジェが視界を埋め尽くす。ソファが微かに沈み込んだ。


ミリエルはぴったりと身を寄せ、ソファの同じ側に腰を下ろすと、まるで拠り所を求める仔猫のように、こてんとシミアの肩に頭を乗せた。


「こんなに近くに寄ったら……嫌、かしら?」


寄りかかってくる重みは、まるで綿毛が乗っただけのように軽い。しかし、その震えるような声色はあまりにも恐る恐るで、まるでいつ見捨てられ、傷つけられるかと怯える迷子の子供のようだった。


胸の奥が、ほんのりと柔らかく締め付けられる。


「ううん、嫌じゃないよ」


その時だった。耳元で、衣擦れの音が微かに響く。


パシッ。


手元にずっしりとした重みが落ち、ひやりとした感触が手の甲に触れた。


不思議に思って視線を落とす。


ミリエルが差し出してきたのは、なんと革のベルト留めがついた一振りの『短剣ダガー』だった。


「シミア、これを持っていてほしいの」


極めて精緻な装飾が施された凶器。宝石と黄金が象嵌された鞘、滑らかな象牙の柄。握りしめると、人命を奪うための確かな重みが掌に伝わってくる。革のベルト留めには、つい先ほどまでミリエルが肌身離さず身につけていたであろう微かな体温すら残っていた。


絶対的に安全であるはずの女王の寝室。一秒前には自分を王位継承者に据えると宣言しておきながら、次の瞬間には致命的な刃物を押し付けてくる。


このあまりにも異様で矛盾した状況に、シミアは思わず息を呑み、頭皮に粟立つような悪寒を感じた。


「ミリエル……これ、どういう意味?」


顔を向け、隣の少女を強く睨みつける。


ミリエルの顔には今、悪戯を成功させた小悪魔のように、ひどく凄美で、そして痛々しい惨笑が浮かんでいた。だがその笑顔の裏には、平素の彼女とは決定的に異なる、息が詰まるような絶望と重圧が隠されている。


「抵抗、するかしら?」声は消え入りそうに細く、しかし一言一言が刃のようにシミアの胸を抉る。「もし……今すぐこれを使って、私の心臓を刺し貫いてくれとお願いしたら」


脳裏に、恐るべき光景が一瞬にしてフラッシュバックした。


真っ白なネグリジェの胸元を鮮血で染め上げ、生気を失って血の海に倒れ伏すミリエルの姿が。


思考が追いつくより早く。ミリエルは自ら短剣の柄を握りしめ、力任せに引き抜いた。


シャリンッ!


金属の擦れ合う鋭い音と共に、冷酷で鋭利な刃が瞬時に剥き出しになる。柄を握ミリエルの手はコントロールを失ったように激しく震え、その切っ先は、無防備な彼女自身の胸元へと危うい角度で向けられていた。


「正気の沙汰じゃない! 何を考えているの!?」


シミアは叫んだ。一切の躊躇なく鞘を投げ捨て、短剣を握るミリエルの手首を死に物狂いで掴み取る。極度の緊張から凄まじい火事場の馬力を発揮し、力ずくで手首を捻り上げ、最短距離でその危険な凶器を再び鞘へと押し込むと、そのまま絨毯の遥か彼方へと力任せに放り投げた。


心臓を早鐘のように打たせながら、怒りを滲ませて振り返る。


しかしそこには、大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、ただ静かに自分を見つめるミリエルの姿があった。


「シミア。一つだけ……私が犯した大罪について、今日は何があっても、あなたに懺悔したかったの」


……


部屋の中は、死に絶えたような静寂に包まれていた。濃厚な紅茶の香りだけが、震えるシミアの神経を絶え間なく苛立てている。


薄いシルクの布地越しに、恐怖で冷え切ったミリエルの体温が、掌から生々しく伝わってくる。


「あなたが辺境から帰ってきた後の、あの日のこと、覚えている? あなたはもともと、トリンドルと一緒に魔法の勉強をする約束をしていたわよね」


ミリエルの声は激しく震え、まるで自分自身の血みどろの傷口を無理やり剥がしているかのようだった。


目を閉じる。


霧がかかったような、所々が不自然に欠落している記憶が、潮水のように脳内へと流れ込んでくる。


あの日、ミリエルに寝室へと呼び出された……そこで何か会話をして……それから?


「シミア、私、絶対に許されない過ちを犯したの」


目を開けると、そこには極度の苦痛に顔を歪ませ、涙に濡れたミリエルの顔があった。


「以前、ミグ家の屋敷を捜索した時にね、永遠烈陽帝国のあの『秘薬』を密かに隠し持っていたの。私はその効能を知っていた……。人の意志を完全に破壊し、己の命令に絶対服従させる薬だということを。あの時の私はただ……ただ、あなたを失うのが怖くて、傍にいてほしかっただけで……私……」


苦痛に満ちた嗚咽が部屋に反響する。途切れ途切れに語られるその告白を聞いているだけで、胸の上に巨大な岩を乗せられたように、呼吸すらままならなくなっていく。


「私……あれを、あなたの紅茶に、入れたの」


その一言は、まさに青天の霹靂だった。


記憶の欠片が、ついに一つの完璧な絵を形作る。


あの日、ミリエルはすがるように一日傍にいてほしいと懇願した。だが自分はトリンドルとの約束を理由にそれを拒絶した。すると彼女は……せめて別れ際に、自分が淹れた紅茶を一杯だけ飲んでいってほしいと……


そして、その紅茶を飲み干した瞬間から。シミアの記憶は完全に、真っ白な空白へと陥っていたのだ。


「私は人間としてのあなたの尊厳を侵し、利己的な欲望であなたの温もりを渇望し、あんな卑劣な手段で、あなたと永遠に一つになろうとした。シミア、私、あの時おかしくなっていたの……無理やりにでもあなたを繋ぎ止めて、ただ服従さえ手に入ればそれで満たされると思い込んでいた。本当に、醜悪だったわ……」


自己嫌悪にまみれたミリエルの懺悔に、シミアの頭はぐらぐらと揺れた。


「正気を取り戻した時、私はかつてないほどの恐怖に襲われた。必死に隠蔽しようとしたわ。でも……トリンドルは、鋭くその秘密に気が付いたの」


深く息を吸い込み、再び両目を閉じる。


耳元で、あの夢の中で聞いた声が不意に蘇る。死寂の荒野で、英雄リリアと名乗ったあの少女の声が。


――『約束通り、お前の勝ちだ』


あの荒野の夢の記憶、リリアとの対話。すべてが堰を切ったように溢れ出す。


再び目を開けた時、シミアはすでにすべての事象を完全に理解していた。ミリエルが何を伝えたかったのか、そしてこの数ヶ月間、トリンドルとミリエルの間に漂っていた、あの言葉にできない違和感の正体をも。


「私と彼女は契約を結んだわ。彼女はこの秘密を隠し通す代わりに、『種蒔きたねまきまつり』の時に、自ら犠牲となって辺境へ赴くことを提案した。大義名分を持って、あなたの傍にいられる権利を……私に譲ってくれたの」


あの日、降りしきる雨の中で交わした、ミリエルとの激しい刃の交錯……


「もう、嘘はつきたくないの、シミア。あなたのその一切の保留のない信頼に対して、こんな欺瞞を抱えたまま向き合いたくない」ミリエルは声を上げて泣き崩れ、その涙がシミアの肩の布地を濃く染め上げていく。「もし……もし私のことを気持ち悪いと思うなら、もし私を憎むなら、命で責任を取るわ。こんな時にこんな願いを口にするのは本当に図々しいけれど……どうせなら、あなたの腕の中で死にたいの。それが、私に思いつく唯一の贖罪だから」


ミリエルの体重が、今や完全にシミアの体へと預けられている。


数歩先の絨毯の上には、あの豪奢な短剣が静かに転がっていた。


肩にのしかかる確かな重み。泣きじゃくる度に上下する、その温かな体温。紛れもなく、ミリエルという人間の生きている証の重さだ。


分からない。


どう答えるべきか、今のシミアには本当に分からなかった。


目の前にいるこの少女は、ただあまりにも孤独で、失うことを恐れるあまり、ほんの僅かな繋がりを残すためだけに絶望の中で最も極端な手段を選んでしまった。


しかし、彼女が自分の心を無残に踏みにじったこともまた事実だ。全身全霊で彼女を救い出そうと、火の中水の中へ飛び込む覚悟すら決めていた、自分のその想いを。


利己的な独占欲を満たすため、彼女はシミアを裏切り、同時に自分自身の感情すらも裏切ったのだ。


深く、静かに息を吸う。


ふと、王都へ来たばかりの頃を思い出した。寝室へと向かうこの回廊で、彼女の手から領主の証を受け取ったあの日のことを。


あの日、ミリエルの白く脆い首筋を見た時、脳裏には抑えきれない氷のような殺意が湧き上がった。だが同時に、絶望し、誰の助けも得られずに立ち尽くす彼女の表情を見た時、心の奥底で微かに響いた『彼女を救いたい』という声が、最終的に殺意を打ち負かしたのだ。


果たして今の自分の意志は、この裏切りによって変わってしまったのだろうか?


シミアは己の魂に問いかける。


「シミア……?」


いつまで経っても下されない審判に耐えかね、ミリエルが震えながら顔を上げた。


シミアはゆっくりと身体の向きを変え、両手を持ち上げる。床の短剣を拾うことはせず、そのまま優しく、ミリエルの首の後ろへと腕を回した。


震え続ける少女を、そっと自身の胸の中へと抱き寄せる。ミリエルの熱を帯びた吐息が、胸元で少しずつ溶けていくのを感じた。


短い抱擁の後、腕を解き、ほんの少しだけ距離を取る。


泣き腫らした赤い目で、極度の恐れと期待の入り混じった視線を向けてくるミリエルを見て。シミア自身にも完全には名前のつけられない複雑な感情が、胸の奥底で音もなく弾けた。


それは驚愕であり、溜め息であり、呆れであり、それでいてどうしても切り捨てることのできない、激しい愛おしさだった。


(やっぱり……私は、ミリエルが悲しむ姿を見たくない。彼女がどんな過ちを犯したとしても、本能的に……私はこの脆い女の子を、彼女のあの唯一無二の笑顔を、守りたいと思ってしまう)


「ミリエル……」


断頭台へ引き上げられ、裁判官の最終判決を待つ死刑囚のように、ミリエルは身じろぎ一つせずにシミアを見つめている。


(だけど、私に彼女の善悪を裁く裁判官の権利なんて、本当にあるのだろうか?)


その問いが脳内を反響する。回廊の壁画が物語っていたように、人間は過ちの中で踠き、教訓を得て成長していく生き物だ。


ミリエルは恐ろしい過ちを犯し、今まさにその苦痛による拷問を受けている。では、自分はどうだ? 自分とて全知全能の神ではない。この運命の渦に巻き込まれ、重すぎる感情を前にしてどうしていいか分からずに立ち尽くす、ただの普通の人間でしかない。


(私もまだ、成長の途中なんだ……今の私には、彼女に対するこの感情を、完全に整理することなんてできない)


最終的に、シミアは有罪の宣告を下さなかった。


「分からない。今の私は、一体どんな態度であなたに向き合えばいいのか、まだ分からないよ……」


シミアは小さく息を吐いた。ポケットから清潔なハンカチを取り出し、極めて優しい手つきで、ミリエルの顔を覆う涙の痕と自責の念を、少しずつ拭い去っていく。


「もしかしたら、私には時間が必要なのかもしれない。いつか未来のどこかで、私が今の自分自身を本当に乗り越えられた時。その時になれば、私たちだけの『答え』が出せると思う」


その言葉を口にした瞬間、シミアの脳裏には、トリンドルの姿が浮かんでいた。


記憶の空白に落ちたあの夜の翌朝。耳元で確固たる意志を持って響いた誓い。己のすべてを失ってまで自分を守ろうとしてくれた少女の、泣きじゃくるような声。


――『シミア、私があなたを守るわ。私、絶対にもうあなたにこんな目に遭わせたりはしない』


ミリエルの重く、ひどく濁った愛意を前にして、シミアは迷いと無力感を感じていた。だがその一方で、トリンドルの純粋な犠牲と約束は、まるで霧の海を照らす灯台のように、シミアの脳内で最も鮮明で、決して揺らぐことのない羅針盤となっていた。


彼女のその犠牲に、自分は必ず応えなければならない。それはトリンドルのためであると同時に、自分自身が前を向き、成長し続けるためでもあるのだ。


「でも、その答えを出すよりも前に、私には何があってもすぐにやらなきゃいけないことが一つあるんだ。だから、ミリエル。あなたは玉座で、もう少しだけ私のことを待っていてくれる?」


迷いを抱えながらも、そこにある種の決意を宿したシミアの澄んだ瞳を見て。ミリエルはまるで圧倒的な救済を与えられたかのように下唇を強く噛み締め、従順に、力強く頷いた。


「ミリエル。私、領主学院を卒業したい」


秋の涼やかな風と、次第に薄れゆく紅茶の香りの中で。


シミアは今この瞬間、己の胸の奥底にある、最も切迫した、そして絶対に変更不可能な決意を言葉にした。

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