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雨の刺客と孤独な盤面――完全なる軍神の目覚め

手の中にある、まだ温かいお菓子の箱を大事に抱えながら、人目を避けて校舎を抜け出す。背後に尾行者がいないことを何度も確認した後、学校図書館へと続く人気のない脇道へと足を踏み入れた。


コルヴィノが到着するまで、あと二日。この死の宣告カウントダウンを、一刻も早くコーナ先生に届けなければならない。


だが、図書館の重厚な木の扉に手が触れようとしたその瞬間。

背後から、幽鬼のように静かな声が響いた。


「待って」


全身の筋肉が瞬時に強張り、弾かれたように振り返る。


少し離れた木陰に、リアンドラが真っ直ぐに立っていた。


そよ風が吹き抜け、純白の長い髪を揺らす。灰青色の瞳が、静かにこちらを見つめていた。いつもおどおどと視線を逸らしていた以前の彼女とは違う。今のリアンドラの目には、これまで見たこともないような、悲壮なまでの決意が燃え盛っていた。


「……リアンドラ? どうしたの?」胸の奥から込み上げる動悸を無理やり押さえ込み、いつも通りの穏やかな微笑みをどうにか取り繕う。「コーナ先生に急ぎの用事があるの。後で寮に会いに行ってもいいかしら?」


その説得にも、リアンドラは微動だにしない。ただ一歩、前へと踏み出した。


「学校図書館の隠し通路から、王家図書館へ直接向かうつもりなんでしょう? シミア」


その言葉は落雷のように脳天を直撃し、瞳孔が極限まで見開かれた。


この隠し通路は王室の絶対機密であり、四六時中行動を共にしているトリンドルやシャルでさえ知らない。ミリエル、コーナ、そして自分の三人しか知り得ないはずの秘密を、まさかリアンドラの口から突きつけられるとは!


「……何の話? そんな怪談、どこで聞いてきたの? そんな道ないわよ。私はただ、コーナ先生に本を何冊か借りに行くだけ」


必死に笑みを浮かべながらも、脳内はフル回転でごまかしの言い訳を弾き出そうとする。


「隠さなくていいよ、シミア」リアンドラの声はひどく軽かったが、すべてを見透かしたような確信に満ちていた。「あなたは結局、南方戦線の本当の状況をトリンドルに教えたんでしょう? 最近は、あの雨の日にあなたが突然倒れた原因についても、裏でずっと調べていたよね? ……そういうの、リアンドラは全部知ってるの」


突如として突きつけられた、思考を読まれたかのような告白。その瞬間、頭の中に散らばっていた無数の砕けたピースが、一つの線として繋がった。

ぞっとするような悪寒が、背筋を這い上がってくる。


「……入りなさい」


笑みを消し去り、その眼光は極限まで鋭く研ぎ澄まされた。重い木の扉を押し開け、無人の学校図書館へとリアンドラを招き入れる。


* * *


薄暗い閲覧室。記憶を頼りに古い茶器を引っ張り出し、手早く紅茶を淹れた。シャルが作ってくれたお菓子をいくつか上品な磁器の皿に並べ、リアンドラの前に押し出す。


「つまり……」向かいの席に座り、両手を組んで顎を乗せる。目の前の白髪の少女を射貫くように見据えた。「リアンドラ。あなたがヴァンナ会長の放った『刺客』。そういうことね?」


リアンドラは否定しなかった。大人しく皿から小さなクッキーを一つ摘み、口に運ぶ。咀嚼するにつれ、シャルが込めた優しい甘さが口の中に広がっていくのだろう。


「ええ」クッキーを飲み込み、静かに頷く。「そうよ。リアンドラは、ママの目であり、ママの刺客なの」


椅子から立ち上がり、窓辺へと歩み寄る。白く細い指先をすっと持ち上げ、ただ薄暗く曇っていただけの外の空を指差した。


「言葉で説明するより、実際に見た方が早いわね」


体内の魔力を抽出するプロセスもなければ、それが具体的な形態を成す過程すら一切ない。


指を掲げてから数秒後。

ザアアアアァァッ――!


突如として降り注いだ土砂降りの雨が、まるで神の神託でも受けたかのように、瞬く間にロースアンの空全体を呑み込んだ。図書館の窓ガラスを狂ったように打ち据える雨粒が、ぞっとするような轟音を立てる。


驚愕に、目を見開いた。


これは、この世界の人間が魔法を行使する際の正常な法則から完全に逸脱している。本来、魔法とは己の身体から魔力を引き出し、形を与えるものだ。だがこれは……まるで意思一つで現象を現出させる『奇跡』そのものではないか。


「まさか……」


『雨は、リアンドラを傷つけないのよ?』


ふと、どこかで聞いたことのある言葉が耳元で蘇り、精密な稲妻となって記憶の底の霧を切り裂いた。あれはリアンドラと出会った、あの春の雨の日。彼女が全く同じセリフを口にしていた!


いわれのない、未知に対する底知れぬ恐怖が、瞬時に心臓を鷲掴みにする。


「あなたの魔法……一体どういうことなの?」


「雨はね、リアンドラの目なの。雨が降るたび、リアンドラには雨幕の下で起きているすべての出来事が見える。そして雨は、リアンドラの手でもある。雨水を通して、ママの意志を痕跡一つ残さず遂行できるわ」降りしきる豪雨を背に振り返ったその幼い顔には、人ならざる神性のようなものが宿っていた。「シミア。リアンドラの能力ちからに気づいて、なお正気を保っていられたのは、あなたが初めてよ」


脳裏に、荒野の夢の中で十二英雄リリアから受けた警告が蘇る。深海商会に関する不可解な調査記録。犯人の見つからない数々の未解決事件……


これらすべての悲劇を引き起こした元凶が、目の前にいる、人畜無害で臆病にすら見えたこの小さな少女だったというのか。

自分の両手が、制御不能なほどに激しく震え出すのを感じた。


「計画の準備段階から、私とママはここに来て、ローレンス王国の綻びを探していたの。そして今、私たちの計画はもうすぐ成功する」リアンドラの口調は決して速くなかったが、その一言一言が刃となって心をえぐる。「女王代理であるあなたにも、前線にいるミリエルお姉ちゃんにも、もうこれを止める力は残っていないわ」


死刑宣告のようなその言葉を聞きながらも、脳内には強烈な違和感が閃いた。


不合理だ。

計画がすでに成功の域に達し、自分が完全に監視下に置かれているのなら、なぜ? なぜリアンドラは今このタイミングで、最も核心的な機密をわざわざ自ら暴露しているのか?


「リアンドラ、どうしてそんなことまで私に教えるの? それも、ヴァンナ会長の指示?」


リアンドラは首を横に振った。純白の髪が、その動きに合わせて小さく揺れる。


「分からない。ママはきっと、私がこんなことをするのを望んでいないはずだから」


うつむき、机に残されたお菓子を見つめる彼女の声には、微かな涙声と悔しさが混じっていた。

「でも、もうあなたに隠し事をしたくなかったの。リアンドラは、シャルが作ったクッキーが好き。それ以上に、あんなに優しくて、私を友達扱いしてくれたあなたが大好きなの。計画がもうすぐ終わるなら、今打ち明けたところで大局には影響ないよね? これで……少しはあなたの優しさに報いることができたかな……?」


リアンドラの告白は混乱し、矛盾に満ちていたが、ひどく純粋で真摯だった。心の奥底にある不安や罪悪感、そして人間の子供らしいささやかな願いを、包み隠さず吐き出していた。


「リアンドラは化け物で、ママは最後には絶対に勝つわ。でも、リアンドラはシミアに選択肢をあげたかったの……このまま残って籠の鳥になるか、それとも今すぐ、あの籠から逃げ出すかっていう選択肢を」


硬直したまま、椅子に座り続ける。耳には窓外の耳を劈くような雨音が響いているのに、脳内ではリアンドラが突きつけた残酷な真実だけが反響していた。


いかにしてリアンドラが、すべての雨を利用して自分の行動を監視していたのか。自分が計画を壊す危険分子であるとして、ヴァンナがいかにして抹殺命令を下したか。そして、自分が良かれと思って打ち出した解決策の数々が、いかにヴァンナに巧妙に利用され、結果として深海商会の計画を後押ししてしまったのか……


ずっと、自分はこの盤面で主導権を握っていると思い込んでいた。だが実のところ、自分は他人の手で都合よく操られる、ただの使い勝手のいい駒に過ぎなかったのだ。この巨大な王都そのものが、彼女たちの遊戯の盤面ボードだった。


リアンドラから『経済戦争』という名の巨大な網の全貌を突きつけられた瞬間。ここ数日、図書館にこもりきりで経済を学んでいたシミアは、落雷に打たれたかのような衝撃と共に、かつてない窒息するほどの絶望を味わった。


そうか。すべてはあの春、コルヴィノが王都に足を踏み入れたその瞬間から、すでに決定づけられていたのだ。


奴は王室の資金不足という最大の弱点を正確に突いた。貿易黒字と、紙幣である『銀潮標準券』を武器として巧みに操り、ローレンス王国の真の富である金属貨幣――『銀貨』と絶えず交換し続けたのだ。

紙切れに過ぎない標準券を大量に流通させて実体ある銀貨を根こそぎ吸い上げ、市中の金属貨幣の流通量を極限まで減少させることで、王国から経済的に反抗する力を完全に奪い取った。無数の貴族たちを、自覚のないまま連邦の贅沢品の毒牙にかけ、莫大な借金漬けにした。それに加えて、南方戦争という底なし沼が、王室の最後の経済基盤を完全に食い潰した。


コルヴィノが一言、資金を引き揚げて『金属貨幣』での債務返済を要求すれば、ローレンス王国という国の経済システムは一瞬にして瓦解する。


これは逃げ場のない正攻法。完全に詰み切った死局チェックメイトだ。


「シミア。ママはね、王国が破産した後はあなたを『飼う』って言ってたけど……」リアンドラが歩み寄り、子守唄のように優しく囁く。「でも、夢の中のあのおじさんが教えてくれたの。あなたは誰かに飼われるような人じゃない、あなたには自由であるべきだって。計画はもうすぐ網を絞るわ。今なら、少なくともあなた一人は逃げられる……」


事情を知らない者が聞けば、何と傲慢な戯言かと思うだろう。だが、今のシミアには誰よりもはっきりと分かっていた。一度銀潮連邦の包囲網が完成し、囚われの身として『飼育』されることになれば、それこそが自分とミリエルにとっての『最良』の結末になってしまうのだと。


「逃げる……? 一体どこへ逃げろというの?」


脳裏に、優越感に浸ったアレクシスの顔と、彼が差し出した『妻』という名のカードが浮かぶ。


深海商会の籠から逃げ出して、今度はミノル家の籠に入るというのか? それは単に、華やかな鳥籠から、より冷たく無機質な鳥籠へと移るだけのこと。


何度も周囲から天才だと称賛され、重い期待を背負ってきたというのに。圧倒的で絶対的な力の前では、こうして無残な敗北を喫するしかないのか。


深い自己嫌悪と絶望の底に沈みかけたその時、微かな温もりが、冷え切った頬をそっと包み込んだ。


顔を上げると、至近距離にリアンドラの顔があった。小さな女の子が、不器用な手つきでこちらを抱きしめている。


「シミア、これが正しいことなのかは分からない。でも……もし怖くて不安なら、リアンドラの胸の中で泣いてもいいんだよ?」


心身ともに自分よりずっと小さな少女にそう慰められ、胸の内に、ひどく滑稽で、それでいて荒唐無稽な感情が込み上げてきた。


『――本当にここで泣き喚くつもりなら、勝手にすればいいわ』


突如として。冷徹で傲慢な、それでいてひどく聞き慣れた声が、脳の最深部で鳴り響いた。


『泣くのにも時間を消費するってこと、忘れないで。私なら……そんな無駄な涙を流す暇があるくらいなら、この盤面ボードをどうやってひっくり返すか、その思考に全リソースを注ぎ込むわね』


それは、もう一人の自分の声。あの薄汚れたネットカフェで、たった一人で無数の猛者たちを蹂躙してきた、『真の軍神』の声!


(……まだ、チャンスはあるの? これほどまでに絶対的な戦力差を前にして、私たちに本当に勝ち目はあるの?)


心の底から、その声に向かって問いかける。だが、返ってきたのは底なしの沈黙だけだった。


しかし、その沈黙は決してシミアを後退させはしなかった。あの凍てつくような冬の風を思い出す。何度絶境に立たされても、決して投了しなかった自分の姿を。


(そうよ、私はもう確信しているじゃない! 魔法である以上、必ず何らかの制約がある! もしこの世のすべての危機、すべての戦力差がデータとして数値化できるのなら……目の前のこの盤面が、絶対に勝てないなんて、誰が決めつけたの!?)


『孤独よ』


その声が再び響く。高みから見下ろすような、氷のように冷たい響きを伴って。


『不要な感情はすべて捨て去りなさい。絶対的な孤独こそが、あなたの真の力の源泉なのだから』


眼光が鋭く研ぎ澄まされる。そして、リアンドラの温かい抱擁を、ゆっくりと、しかし確固たる意志を持って押し返した。


リアンドラの困惑する声も、窓を叩き割るような豪雨の音も、この瞬間、ミュートボタンを押されたかのように意識の彼方へと遠ざかっていく。


精神世界で再び目を開けた時、足元には、果てしなく広がる巨大な盤面が広がっていた。


『さあ、あなたのやり方で、私を打ち破ってみなさい』


相手はいない。戦うべきは自分自身。


盤面上、王都を象徴する黒い駒が、誰の手も触れていないのに自ら一つ前へと進んだ。それは、銀潮連邦による切迫した経済絞殺の始まりの合図。


顔を上げ、盤面全体を俯瞰する。

その瞬間、稲妻に打たれたような悟りが開けた。

これまで、自分はずっと単一の局所戦にばかり目を向けていた。だが、目の前に広がるこの巨大な盤面は、戦術レベルの小競り合いなどではない。ローレンス王国全土を巻き込んだ、戦略級のグランドボードなのだ!


王都の経済危機、南方前線の膠着状態、辺境領地が直面する侵略の脅威……これら一見孤立しているように見える事件は、すべてこの巨大な盤面における、一手いってが全局に波及する局所戦に過ぎない!


瞳の奥に、再び狂熱の炎が燃え上がった。


局所きょくしょで打開できないのなら、盤面全体を一つに繋ぎ合わせればいい! この中に必ず、死地から生還するための、唯一の希望の道筋が隠されているはずだ!


いつしか、眼前の盤面は凄まじい速度で自己推演を開始していた。


手番の順序がカウントダウンのタイムリミットへと変換され、双方の物資、資金の流れ、情報の優劣が、縦横無尽に交差する白と黒の駒として正確に具象化されていく。銀潮連邦を象徴する黒石は、風も通さぬ強固な包囲網となってじりじりと距離を詰め、残酷な『ダメ詰め』と『攻め殺し』を仕掛けてくる。大盤面での一手一手が、局所防衛線の連鎖的な崩壊や、泥沼のコウ争いへと直結していく。


何度も何度も完全に大石おおいしほふられ、防衛線が瓦解する。


何度も何度も盤面を払い、初手から打ち直す。


精神の深淵で行われるこのシミュレーションは、まるで終わりのない輪廻に陥ったかのようだった。言葉を交わす余裕など一切ない。脳内のすべての神経細胞を総動員し、絶対的な理性を追求する『自分自身』と、限界を突破する死闘を繰り広げる。


そしてついに、幾千幾万もの敗北の果てに――


震える指先で、一本の鋭利な刃のように、最も決定的な起死回生の『勝負手しょうぶて』を打ち下ろした。


パァンッ、と清冽な音が響き渡る。


息が詰まるほどの絶望的な盤面の中に、ただ一つだけ無理やり引き裂かれたような曙光が、重厚な霧を突き抜け、目の前で鮮やかに拡大していく! 手順、資金のサイクル、各勢力の均衡点……そのすべてが、自分の掌の皺のように、極めて明瞭に浮かび上がった!


轟音と共に、巨大な盤面が目の前で粉々に消え去る。


精神世界は再び暗闇に包まれた。その闇の中、黒いドレスを身に纏った小さな影だけが、静かに宙に浮いている。


それは、前世における孤独で、世界から見捨てられた天才少女の姿だった。その黒いドレスはひどく凄艶で、人を寄せ付けない氷のような力が宿っているかのように見える。


「これで分かったでしょう?」黒いドレスの少女は無表情に見下ろしていたが、その瞳の奥には、彼女自身も気づいていないような微かな寂寥が潜んでいた。「軟弱さを捨て、仲間を切り捨てなさい。孤独だけが、あなたを不敗に保つ唯一の鎧なのだから」


「違うわ」


小さく首を横に振る。前世のように冷ややかに傍観するのではなく、一切の躊躇なく駆け寄り、その氷のように冷たく孤独な背中を、力強く抱きしめた。


氷塊のように震えるその体温を感じた瞬間、涙がとめどなく溢れ出し、それでいて、信じられないほど優しい笑顔がこぼれた。


「ありがとう……あの冷え切った世界で、ずっと『孤独』を纏って私たちを守ってくれて。でもね、私たちはもう、すべてを一人で背負う必要はないの」


腕に力を込め、前世の自分を魂の奥底へと完全に溶け込ませるように抱きしめる。


「シャルのお菓子が、トリンドルの信頼が、ミリエルの託してくれた思いが……みんなが私に、ここに立つ勇気をくれた。あなたのその孤独も、知恵も、全部私に預けて。私たちは一緒に……みんなとのつながりで、この盤面ボードのすべてに勝利してみせる!」


パリンッ――!


受容と愛に満ちたその宣言と共に、目の前に広がっていた氷のような精神世界が、鉄槌を下された硝子のように無数の暖かく眩い光の破片となって弾け飛び、体内へと完全に吸収されていった。


意識が、潮が満ちるように現実へと帰還する。


「シミア? シミア! 大丈夫!?」


耳元で、泣きそうなリアンドラの焦燥に駆られた声が響く。


勢いよく目を開けた。大きく喘ぐように呼吸を繰り返し、額にはびっしりと冷や汗が浮かんでいる。


窓外の暴雨は、いつの間にか完全に上がっていた。燃えるような夕陽が図書館のガラス窓を斜めに貫き、心配そうに覗き込むリアンドラの顔を、美しく温かい光で縁取っている。


目の前の白髪の少女を見つめ、その口角に、『完全なる軍神』としての、自信に満ちた圧倒的に眩い笑みが浮かんだ。


一切の予備動作なく手を伸ばし、少し冷たくなったリアンドラの小さな両手を、力強く握りしめる。


「リアンドラ」真っ直ぐに彼女の目を見据え、その声にはいかなる拒絶も許さない魔力が宿っていた。「私のお願いを、一つ聞いてくれないかしら?」


ロースアンの空は、血のように赤く燃え盛っていた。


絶対に逃げ場のないはずだった運命の盤面ボードは、今この瞬間――黒髪の少女が誰の予想だにしなかった領域へ放った一石によって、強引にその軌道を捻じ曲げられたのだ。

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