翠色の帰還
炎熱で澄み切った陽光が、開け放たれた透かし彫りの窓枠から、戦略課の教室へと惜しみなく降り注いでいる。
だが、教室内の空気は、その明るい天候とは正反対に淀みきっていた。
後列の席は人影がまばらで、ひどく閑散としている。一方、前列では――銀潮連邦の留学生たちが、まるで意図的に陣形を組んだかのように、シミアをその中心へと包囲していた。
それは無言の圧力であり、昨日の物別れに終わった交渉の後遺症でもあった。空気には、肌にまとわりつくような不快な粘着感が漂っている。
この息が詰まるような包囲網の中で、右隣の席だけがポツンと空いていた。そこにはシミアの鞄が整然と置かれており、誰の侵入も許さない、絶対的な防衛線を築いている。
隣にある空っぽの机と椅子を見て、誰にも気づかれないほどの小さな溜め息をこぼした。
辺境の領地であの凄惨な劇変が起きて以来、トリンドルは一度も教室に姿を見せていない。理屈の上では彼女が受けたショックの大きさは理解できたが、四面楚歌となったこの王都において、あの眩しい仲間の存在がこれまで以上に恋しかった。
「カツ、カツ、カツ……」
廊下から、急ぐでもなく遅くもない、一定のペースを刻む足音が近づいてくる。それは歴史教師アウグスト・バイロン特有の、どこか飄々とした足取りだった。
アウグストは扉を開けて教壇に立つ。レンズの奥にある鋭い視線が教室を素早く一巡し――シミアの周りの極めて不自然な陣形と、その隣に依然として空いている席を目に留めると、男は気付かれないよう、静かに一つ息を吐いた。
手にした分厚い歴史のシラバスを「パンッ」と教壇に叩きつけ、淀んだ空気を強制的に散らす。「さて、諸君。今日の授業を始め……」
「タタタタタタッ――!」
極めて性急で、どこか無鉄砲な足音が廊下の奥から突如として響き渡り、アウグストの開口一番を遮った。
アウグストは動きを止め、眼鏡の位置を直しつつ廊下へと視線を向ける。どこか上の空だった留学生たちも、一様に眉をひそめてそちらへ首を巡らせた。
ほどなくして、足音の主が疾風のように教室の入り口へと飛び込んできた。
収穫期の麦穂のように眩い髪色をした少女。彼女は両手でドア枠を掴み、肩を上下させて激しく息を切らしていた。透き通るような白い頬は、全力で走ってきたために健康的な赤みへと染まっている。そして、大海のように澄んだ水色の瞳には、決して折れることのない不屈の光が宿っていた。
「せ、先生……はぁっ……遅れて、すみません!」
トリンドル・エグモントが顔を上げ、よく通る声が教室内に響き渡る。
その生命力に溢れた顔を見て、いつも気怠げなアウグストの顔に、心からの安堵と喜びに満ちた微笑みがゆっくりと広がった。
「構わんさ。まだ遅刻というほどの時間じゃない」彼は穏やかに頷く。「早く自分の席につきなさい」
「はい!」
トリンドルは教室へ足を踏み入れる。周囲の留学生たちが向ける異様な視線など完全に無視し、包囲網の中心にある、自分のためだけに用意され続けていたあの空席へと、一切の躊躇なく真っ直ぐに歩み寄った。
驚きと、ほんの少しの信じられないという思いが入り混じった視線を受け止め、トリンドルは振り返る。
そこには、悲しみや軟弱さといった感情は欠片もなかった。まるで悪戯が成功した小悪魔のように、シミアに向けて茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばす。
その眼差しは、無言でこう告げていた。
(驚いた? 私、そう簡単には負けないわよ。戻ってきたわ――あなたと共に戦うために)
必死に堪えていたシミアの口角が、ついに自然と吊り上がる。ここ数日、ずっと心を重く覆っていた暗雲が、この翠色の希望によって一瞬にして吹き飛ばされたかのようだった。力強く頷き、席取りに使っていた鞄を胸の内に抱え込む。
「シミア、ここ、座ってもいいかしら?」トリンドルはわざとらしく、笑いながら尋ねた。
「もちろん」
二人が視線を交わして笑い合うその絶対的な信頼を見届け、アウグストは再びチョークを手に取った。
「では、本日の内容に入ろうか」
歴史教師の宣言と共に、王都の情勢においては一見なんの変哲もない、しかし極めて特別な意味を持つ歴史の授業が、静かに幕を開けた。
* * *
午後の陽光が、王家図書館の高くそびえるガラスのドームを通り抜け、黄金色の光の柱となって、年代物の木の床を優しく照らし出していた。空気中には、羊皮紙と古いインクの、どこか人を惹きつける匂いが漂っている。
シミアは歩みを緩め、天井まで届きそうな巨大な本棚の間を歩く。
よくよく考えてみれば、こうして一人きりで、心静かに王家図書館を散策するのは初めてのことかもしれない。
光の筋の中で、微細な埃が静かに舞っている。俗世のあらゆる喧騒を完全に遮断してくれるような、この本の海を漂いながら、シミアは初めて心の底から理解した。
ミリエルが本に埋もれるのを好んだのは……きっと、ここにはつかの間の安らぎを与えてくれる、特別な魔力が宿っているからなのだろう。
「シミア、今日は随分と早いのね」
聞き慣れた声が、心地よい没入感から意識を現実に引き戻す。
振り返ると、早歩きで近づいてくるコーナ先生の姿があった。しかし、手にある数枚の薄っぺらい書類束を目にした瞬間、シミアの瞳は微かに暗く沈んだ。
それは、各地から提出された陳情書だ。かつては山のように積まれていたはずの文書が、今は呆れるほど少ない。これが『国が平穏無事になったから』などという理由ではないことくらい、痛いほど理解していた。いや、むしろ逆だ――これは、ある破滅的な事態が間もなく訪れるという前兆なのだ。
もし一刻も早く変化を起こさなければ、この恐ろしいほどの静寂こそが、ローレンス王国が完全に息絶える前の、最期の灯火となってしまう。
「ええ」思考を切り替え、真剣な面持ちで頷く。「コーナ先生。今日は、糸口を見つけにここへ来ました」
コーナの目を真っ直ぐに見据える。その漆黒の瞳からは、数日前までの迷いは完全に消え失せ、代わりに戦場へと赴く決死の覚悟が宿っていた。
「銀潮連邦の『施し』は、すでに拒絶しました。ですから……王国をこの経済危機から救い出す方法を、私自身の手で見つけ出さねばならないのです。知識が要ります。過去の事例が要ります。この姿なき戦争に打ち勝つための、武器が必要なのです」シミアは深く一礼した。「あなたはこの図書館の主です。どうか、力を貸していただけないでしょうか?」
背筋をピンと伸ばす黒髪の少女を前にして、コーナは一瞬言葉を失った。
手にしている、王国の衰退を象徴する数枚の陳情書に目を落とし、再び、気迫に満ちた少女の顔を見つめる。
数日前のあの雨の日、コーナは圧倒的な現実を前に一度は心が折れ、理知的な絶望の淵に沈んでいた。だが今、この廃墟のような状況にあってなお、執念深く希望の火種を探し求める教え子の姿を見て――常に冷静沈着であったはずのこの導師の胸の奥底で、とうに消え失せたはずの炎が、信じられないほどの熱を持って再び燃え上がり始めたのだ。
若い教え子がまだ諦めていないというのに、導くべき教師である自分が、どうして先に白旗を上げられようか。
「……ええ、いいわ」コーナの瞳に、久しく失われていた鮮やかな光が宿る。その口元には、かつての活力を取り戻したかのような、力強い笑みが浮かんでいた。「この迷宮のような図書館で手掛かりを探すのは、素人には至難の業よ。私が、全力で力を貸しましょう!」
そう言うや否や、コーナはまるで少女のように小走りで駆け出し、手にしていた重苦しい陳情書を遠くの執務机へと乱暴に放り投げた。そして、すぐさまシミアの側へと舞い戻ってくる。
「さあ、私の小さな戦略家さん」両手を腰に当て、まるで船員たちを未知の海域へと導く勇敢な航海士のように、コーナは高らかに宣言した。「まずは、どの時代の資料から調べ始める?」
古い紙の匂いが立ち込めるこの王家図書館で、国家の命運を懸けた、硝煙なき文字の冒険が今、静かに幕を開けた。




