泥沼の軍議、燃え上がる欲望
眩い光を放つクリスタルのシャンデリアが、大広間を真昼のように照らし出している。
鼻を突く安酒のツンとした臭いと、肉を焼く脂の濃厚な匂いが混ざり合い、室内の空気を重く淀ませていた。かつて優雅な晩餐会が開かれていたはずの長机には、今は食べ残しの骨、握り潰された果物、そしてこぼれた酒の海が乱雑に広がっている。
ここはかつて、エグモント家が誇りとした本邸であり、トリンドルが育った家だった。だが今は、カシウスの前線指揮所へと成り下がっていた。
「今日君たちを集めたのは他でもない。次段階の作戦任務を説明するためだ」
壁面――本来ならエグモント家歴代当主の肖像画が飾られていたはずの場所には、巨大な軍事地図が乱暴に釘打ちされていた。カシウスは地図の前に立ち、皿の上の肉に貪りつく傭兵団長たちを冷ややかに見下ろした。
「次なる我々の目標は、ここだ」
カシウスが長い指示棒を伸ばし、地図上の喉元にあたる要衝を正確に突く。
そこは、国境地帯と南方農業領を繋ぐ結節点――シミアが砂盤で指摘した場所と、寸分違わぬ位置だった。
「この補給線を切断し、隘路を死守すれば、ローレンス王国は国境を奪還する力を完全に失う。そうなれば、我々はこの地に真の橋頭堡を築くことができる……カドス団長。今夜から、戦闘前の偵察任務に入ってもらえるかな?」
風船のように肥え太ったカドスは、食べかけの油ぎった骨付き肉を気怠げに掲げ、露骨に生返事をした。
「へいへい、問題ねェよ。任せときな」
続いて、カシウスは理路整然と他の行軍および防衛任務を割り当てていく。だが、返ってくる言葉はどれも彼の神経を逆撫でるものだった。
「総司令サマよぉ、ウチの兄弟が何人も街ではぐれちまってな。行方不明なんだわ」
「そうそう、こっちも負傷者が多くてよ。明日の夜明けまでに集結なんて、とても無理だぜ」
「ウチの団の任務は『兵站物資の安全確保』だ。そう軽々しく動くわけにゃあいかねェな」
最後の見え透いた言い訳が放たれた瞬間、それは重いハンマーとなってカシウスのみぞおちに直撃した。
彼はピクピクと痙攣する右のまぶたを指で強く押さえ、深く息を吸い込んだ。
直後。彼は指示棒を放り投げ、大股で長机に歩み寄ると、その拳を力任せに卓上へ叩きつけた!
ガシャァァァンッ!!
高価な磁器の皿が激しく跳ね上がり、耳障りな破砕音を立てた。
大広間が、水を打ったように静まり返る。
「てめぇら、私の目が節穴だとでも思っているのか!? 兵站物資だと!?」
平素の優雅さと冷静さは、完全に吹き飛んでいた。カシウスは『兵站』を言い訳にした傭兵団長を指差し、吠えるように怒鳴りつけた。
「貴様らの言う『兵站物資の保護』とは、部下を総動員して街の金銀財宝を略奪して回ることか! この街の地面を隅から隅まで削り取って、金に換えないと気が済まないようだな!」
カシウスは激しく胸を上下させ、鋭い眼光でその場にいるすべての傭兵団長を睨みつけた。
「貴様らがどんなクソみたいな理由を並べようと知ったことか! 猶予はあと一日だけだ。明後日の早朝には、必ず野営を解いて出立する! 兵は神速を尊ぶ。ローレンス王国の敗残兵が隘路で集結を完了させれば、我々は最大の好機を逃すことになるんだぞ!」
短い死寂の後、それまで黙っていた一人の傭兵隊長が、前触れもなく立ち上がった。無精髭を蓄えた凶悪な面構えの男が、カシウスの視線を真っ向から跳ね返す。
「おいおいカシウス、そうマズい言い方すんなよ。攻城戦の時、俺たちを後回しにして城に入れなかったのはアンタだろうが。今度はこっちから聞かせてもらうぜ。後から入ったウチの兄弟たちは、温かいスープの一口も飲めてねェんだ! この損失、どう補償してくれるんだ?」
「補償だとォ!?」
カドスの肥満体が、弾かれたように跳ね起きた。油まみれの太い指を男の鼻先に突きつけて怒鳴り散らす。
「ありゃあ、先陣を切ったウチの兄弟たちが命懸けで手に入れた戦利品だ! 羨ましいか? なら次からは、てめェが真っ先に突っ込んで斥候でもやりやがれ!」
「カドス、てめェ……偵察部隊を率いてるくらいで偉そうに抜かすな!」
カドスの隣から、別の野太い声が上がり、机が激しく叩かれた。
「本当に前線で硬い骨を齧って死んだのは、ウチの団の兄弟たちだ! この街の上物は、俺たちが先に選ぶのが筋だろうが!」
かくして、本来なら戦略の行く末を決定するはずの最高軍議は、単なる条件闘争と利権争いの場――スラムの市場へと完全に成り下がった。
大広間には、下劣な罵詈雑言と机を叩く音だけが虚しく響き渡る。
カシウスは上座に立ったまま、たかだか数枚の金貨のために大局を投げ捨てる烏合の衆を、冷ややかに見下ろしていた。
これ以上の遅滞がどれほどのリスクをもたらすか、彼が誰よりも理解している。
だが、傭兵の論理において、軍紀など存在しない。あるのは利益だけだ。
彼の完璧な戦略図は、こうして貪欲という名の泥沼に足をとられ、力ずくでもう一日、遅延させられることになった。
* * *
夜の帳が下りた。
陥落したばかりのこの都市にとって、夜闇は傷を隠し、休息を与えるためのカーテンであるはずだった。だが今、都市の夜空は真昼のように明るく照らし出されている。
赤黒い火の舌が、貪欲な大蛇のように、『兵站倉庫』の看板が掛けられた大型建築物を容赦なく呑み込もうとしていた。
そこには糧食など積まれていない。中身はすべて、傭兵たちが日中に街中から掻き集めてきた金銀財宝の山だった。
続々と集まってくる傭兵たちは、血の匂いを嗅ぎつけた鮫か、あるいは火に飛び込む蛾のように狂気を孕み、血走った目で火事場へと殺到していく。
「俺の金が! 早く火を消せ!」
「火事場泥棒しやがる奴は、俺がぶっ殺してやる!」
炎の中に散らばる財宝を救い出そうと、傭兵たちは完全に理性を喪失していた。
呪いの言葉を吐きながら炎の中へ飛び込み、あろうことか火の粉の中で剣を抜き、同士討ちまで始める始末だ。
強欲な咆哮、絶望の罵声、そして焼け落ちる建物の轟音が絡み合い、絶え間なく響き続ける。
かつて辺境の真珠と謳われた繁華な都市は、このハイエナどもの貪欲さゆえに、滑稽で残酷な現世の煉獄へと堕ちていた。
都市の中央、最も高くそびえる時計塔の上。
二人の黒衣の男が、見下ろすようにこの狂宴を目撃していた。
「カシウス、これでいいのか?」
ウォルフは腕を組んだまま、眼下で財宝のために炎の中でもがき狂う傭兵たちを見つめ、どこか楽しむような、そして理解しがたいものを見るような口調で問うた。
カシウスの顔の半分は深い影に沈み、眼底にだけ、下からの炎がチラチラと跳ねていた。
「……これでいいんだ、ウォルフ」
カシウスは背を向けた。その声には、微かな疲労と、どうしようもない妥協が滲んでいた。
「存分に奪い合わせればいい……早く帰って寝よう。明日は、出立しなければならないからな」
二人の人影は、ゆっくりと時計塔の闇の中へと溶けていく。
だが、眼下に蠢く傭兵たちにとって。
この強欲の火蛇は、まだほんの「前菜」を平らげたに過ぎなかった。




