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ゼロから始める軍神少女  作者:
第一巻:入学と弁論編 (だいいっかん:にゅうがくとべんろんへん)
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深夜の書庫、女王の思索

深夜、富麗堂々とした王宮の奥深く。 王国第一の図書館と称される王立図書館で、ミルドレッドはただ一人の図書司書を伴い、様々な資料を探していた。


当初、ミルドレッドは可能な限り人目を避けて一人で閲覧しようと考えていたが、司書のコナー・ハーウェルスの説得により、最終的には同行を許可した。


燭台の光が揺れる中、ミルドレッドの視線は傍らに立つコナーへと向けられた。


彼女は紫色の髪と瞳を持ち、成熟した顔立ちと、やや恥ずかしがり屋な体つきがわずかに不釣り合いに見える。コナーは今、高い位置にある書棚に視線を集中させ、ミルドレッドが言及した本を探しているようだった。


ハーウェルス家は、四階領主(四階領主は村々を管理する領主階級で、四つの村の管理権を持つ)の家系だ。


しかし、数十年前、当時の当主ハーウェルスは、所有する土地を王室に返還し、代々王立図書館を管理する職務と引き換えにした。今や四階領主の称号は名ばかりで、年に八十枚の金貨という王室からの支給金だけで家系を維持している。


王室にとって、これはもちろん推奨すべき行為だった。新たな直轄領を得ることは、領主王国が直面する困難をいくらか救うことに繋がるからだ。


ミルドレッドはハーウェルス家に関する噂を聞いたことがあった。当時のウェイン・ハーウェルスは、本をこよなく愛し、知識に対して偏執的とも言えるほどの渇望を抱いていたという。王立図書館の管理職に就いてからは、一日中書物の海に没頭し、新書の収集にも並々ならぬ執着を見せた。


そうした努力のおかげで、王立図書館の蔵書はわずか数十年で二千冊も増え、これは元々の蔵書量の約半分に相当する。


「ローレンス殿下、お探しの書籍はこちらです」


ミルドレッドがハーウェルス家の物語に思いを馳せていると、コナーが高い書棚の傍らから慎重に降りてきた。


彼女の手にある本は、腰から首の高さまで積み上げられ、本を持つ手も絶えず震えている。


ミルドレッドはすぐにその本の半分を受け取ると、部屋の中央にある大きな書机へと向かった。


「ありがとうございます」


コナーは頭を下げて、小さな声でミルドレッドに感謝を述べ、ミルドレッドは頷いて応じた。


相手が自分と同じ年の少女であることを考えると、ミルドレッドは少し感傷的な気持ちになった。


なにしろ、二人ともこんな若さで、自分にとって非常に困難な仕事を引き受けているのだ。コナーには尋ねていないが、ミルドレッドは多少なりともコナーと共感できる部分があるように感じていた。


今回の目的を考慮し、ミルドレッドは雑事に時間を費やすことなく、すぐに読書に没頭していった。


現在までに、ロースアン地域のおよそ半分の領土が王室の実効支配下にある。常駐人口は約三万五千人前後で、そのうち七割の人口は王室の管理する地域で暮らしている。


ロースアン地域全体は大陸北部に位置し、大部分の居住区は寒冷な環境にある。およそ三割の村や小規模な町は全く食料を生産できず、残りの七割の村や小規模な町のうち、およそ半分は食料自給ができない状態だった。


このため、領内では大量の食料の流通と取引が必要となり、王国歴代国王の管理経験から、食料の備蓄が重要視されてきた。一般的に、寒災に対処するためには六ヶ月分の食料備蓄が必須とされている。しかし、これほど大量の食料には莫大な資金が必要で、この支出は最近の王室にとって既に力及ばぬものとなっていた。


ミルドレッドは王室の収入源を詳細に分析していた。


商人の誘致を奨励するため、数代前の国王がかつての二割だった取引税を半分に減らし、入市税を四分の一にまで引き下げた。この決定が、王室の税収衰退の種を蒔いたことは、事実が証明している。一度与えた恩恵を取り戻すことは極めて困難であり、民衆は彼らの口から恩恵を奪い取る支配者に対して怒りを抱くだろう。現在、巨大な危機に直面しているミルドレッドにとって、それは選択肢とはなりえなかった。


ロースアン地域長年の特産品である氷原木の価格は商人に抑えられ、また氷原動物の密猟も横行している。これにより、王室の財政は非常に逼迫していた。


王室には、王国中の貴族からの収入源がもう一つあった。王国では、貴族は領地内の税収の二割を王室財政として納めることが規定されている。


しかし、最近、エスビル地域から上納される税収が日増しに減少していた。それは国王の安全を担う禁軍にも影響を及ぼすほどだった。禁軍の規模は決して大きくなく、約千人程度だ。もし十分な禁軍の規模を維持できなければ、最悪の場合、十階領主が画策する謀反の動きに対し、ミルドレッドは豊かなエスビル地域の軍隊に抵抗することができないだろう。


上記の脅威には、外国からの侵攻状況は含まれていない。


実際、王国は三つの国と国境を接しており、歴史上、三国すべてと交戦記録がある。内乱さえ鎮圧する力のない王国が、侵略に対する戦争で優れた活躍を見せるとは想像し難かった。


現在、ミルドレッドにとって最も喫緊の課題は、自身の力を強化することだ。そして、力を強化する基盤は、より効果的な税収システムを確立し、地域の住民をより豊かにすることにある。


これは、新国王としてのさらなる承認を得るためだけでなく、王室の存亡に関わる重大事だった。


ミルドレッド自身も、これまで多くの解決策を検討してきた。


例えば、前世で暮らしていた国の経済発展の事例を参考にすること。


しかし残念ながら、この提案はミルドレッド自身によって否定された。


理由は簡単だ。現在のこの世界は、独自の文化と技術水準を持っている。


文化は人々の観念を過去に暮らしていた国とは異なるものにし、技術水準の制約は、実際に有効性が検証された多くの解決策が成熟した条件を欠いていることを意味する。


この世界特有の魔法を例にとっても、魔法を使う能力は長年の蓄積が必要だ。さらに、各個人が発動できる魔法の量と質はそれぞれ異なる。したがって、ミルドレッドが容易に達成できる同じ基準であっても、ある魔法の使い手は生涯をかけても突破できないかもしれない。何しろ、血筋の面では、王室は十一英雄の直系血筋を受け継いでいるのだ。このような血筋を持つ家系は、国王であるミルドレッドにとっても、是が非でも味方に引き入れたい相手だった。


しかし、すべての解決策が万能というわけではない。経済に関する解決策に至っては、様々な制限がある。


市場規模の制限、資源賦存の制限、労働力需要の制限、国際環境の制限……


王国の歴史には経済的繁栄の記録があり、実際、王国の経済はかつて大陸全体でトップクラスだった。王国は広大な領土と、肥沃で多様な土地を有している。


王国は地形が非常に複雑であるため、異なる考え方で土地を管理する必要があり、領主モデルは、領主が十分に忠誠を誓う時代であれば、その優位性をより発揮できた。


領主が忠誠を誓う時代には、より多くの税金を納める傾向があった。これは王国が過去の歴史から学んだ現実だった。


ならば、最も単純な解決策は、領主が上納する税金の割合を引き上げることだろう。


残念ながら、この解決策を実行しようとした国王は皆、クーデターによって強制的に自分の子供に王位を譲ることになった。


では、ロースアンはどうだろう。北方に築かれたこの寒冷な都市には、一体どんな独自の利点があるのだろうか。


「ローレンス殿下……」


ミルドレッドを思考から引き戻したのは、顔に心配の色を浮かべたコナーだった。


ミルドレッドは手中の本を閉じ、机の片隅に置いた。


「では、コナーさん。あなたは、ロースアンがどうすればもっと繁栄するとお考えですか?」


もし本をこよなく愛するハーウェルス家の子孫ならば、自分の問いに答えられるかもしれない。そう考えたミルドレッドは、自分の疑問をコナーに投げかけた。


「氷原木と、寒冷な氷原特有の動物の毛皮は、ずっと私たちロースアンの独特な産品ですわ」


コナーは即座にミルドレッドに答えた。


氷原木という言葉を聞いた瞬間、ミルドレッドは抑えようとしたものの、不快な表情をわずかに見せた。彼女が求めているのは、このような答えではなかった。


「では、氷原木や珍しい毛皮以外には?」


ミルドレッドの問いを聞き、コナーは俯いて考え込んだ。


「歴史の財産です。ロースアン地域には、多くの宮殿や古建築が残っています。ほとんどは、王室の経済が強盛だった時代に建てられたものです」


コナーの視線は、建物の梁へと向けられた。


コナーの視線に倣い、ミルドレッドも頭上を見上げた。


柱に刻まれた十一英雄の壁画は、実に生き生きとしている。一本一本の柱を辿っていけば、王国時代の歴史が見て取れる。


この図書館は、まさに大混乱期に王位に就いたイーチャ国王によって建てられたものだ。当時、王国の国力は強盛で、多くの貴族もロースアンに大規模な建築群を築いていた。


それらの貴族は、その後ほとんどが没落し、彼らの財産は当然のことながら王室によって管理されることになった。それらの建築物も、当然のように放置されたままだったのだ。


ここまで考えて、ミルドレッドは興奮して立ち上がった。


女王として即位してまだ日が浅く、完全に自分の羽翼(影響力や支持基盤)を築き上げたわけではない。しかし、変革の糸口を見つけた時、ミルドレッドの心に湧き上がる高揚感はもはや隠しようがなかった。


「お帰りになられますか、ローレンス陛下?」


ミルドレッドの行動を見て、コナーは不思議そうな顔をした。


「ええ、どうしてもやらなければならないことを思いついたの。それと、これからは私たち二人きりの時は、ミルドレッドって呼んでくれていいわよ」


コナーに見送られ、ミルドレッドは図書館を後にした。


いつの間にか、闇深い空には、真っ白な雪が降り始めていた。白い雪は、まるで聖なる鎧のように王宮の建物に降り積もる。この歴史ある都市は、今、自分なりのやり方で活力を取り戻そうとしている。

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