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ゼロから始める軍神少女  作者:
第二巻 種蒔き季の盤上
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王宮のお茶会

シミアが、王家図書館の、見慣れた扉の前までやってきた時だった。

彼女が、まだ、口を開くよりも早く、衛兵が、まるで、とうに命令を受けていたかのように、自ら、その、重厚な氷原木の扉を、押し開いた。


鮮やかで、温かな光が、まるで、潮のように、どっと、流れ込んでくる。

外の、陰鬱な空模様に慣れていた彼女は、思わず、目を、僅かに、細めた。


やがて、その光に、目が慣れた時。彼女の目に飛び込んできたのは、まったく、予想だにしない、光景だった――。

陽光が、さんさんと降り注ぐ、あの書斎机で。

女王ミリエルと、トリンドル・エグモントが、肩を並べて座り、にこやかに、こちらを、見つめている。


「ようこそ、私の図書館へ、シミア」

ミリエルは、着心地の良さそうな、淡い緑色の、絹の部屋着を身に纏い、リラックスした様子で、足を組んでいた。

トリンドルもまた、常とは打って変わって、鮮やかな、真紅のドレスを、身に着けている。退屈そうに、指で、毛先をくるくると、弄んでいた。

二人の間にあった、あの、一触即発の雰囲気は、跡形もなく消え去り、その代わりに、奇妙な、不自然なほどに、調和した空気が、漂っていた。


「シミア、そこで、突っ立って、何してるのよ。早く、こっちへ来て、座りなさい」

トリンドルの、催促の声に、シミアは、ようやく、夢から覚めたように、はっとした。

足早に、二人の前まで歩いていくと、向かいの椅子に、腰を下ろす。


「シミア、あなたの計画、コーナから、すべて聞いたわ」

ミリエルが、先に、口火を切った。その表情は、真剣だ。

「種蒔き祭の警備を、あなたに、一任した以上、あなたの決定に、口出しはしない。あなたの分析は、完璧よ……でも」

彼女は、隣のトリンドルに、ちらりと、視線を送ると、話の矛先を変えた。

「私とトリンドルは、二人とも、カシウスの、本当の狙いは、あなただと、思っている。たとえ、彼が、僥倖で、トリンドルを、捕虜にできたとしても、あなたという『軍神』がいる限り、彼は、永遠に、国境に、足場を、築くことはできない。あなたには、いくらでも、対抗策がある。そうでしょう?」


シミアは、黙り込んだ。彼女は、ミリエルが、事実を、言っていると、わかっていた。だが、そうであるからこそ……。

「そういうことで、私に、気を使わないでよ、馬鹿騎士」

トリンドルが、不満そうに、彼女の思考を、遮った。


「たとえ、国境が、一時的に、陥落したとしても、それは、確かに、王国にとって、大きな痛手ですが、鋼心連邦にとっても、決して、良いことではありません」

シミアは、ミリエルの、思考の流れに沿って、分析を続けた。

「私たちは、すぐに、他の国々を、動かし、鋼心連邦に対する、包囲網を、形成することができます。王国に、まだ、忠誠を誓う、諸侯を、扇動し、鋼心連邦の、統治を、妨害することもできる。さらには、小規模な部隊を、継続的に派遣し、彼らの、後方支援線を、攪乱することも、選択肢の一つです。鋼心連邦の本国は、私たちの国境から、遠く離れていますから」


「さすがね。まさに、軍神の、直感だわ」

ミリエルの瞳に、一筋の、賛辞の色が、きらめいた。

「直感、というわけでは……以前、この可能性を、考えたことが、あっただけです。ですが、そうなれば、トリンドルの、故郷が……」


「シミア!」

トリンドルが、勢いよく、立ち上がった。両手を、机につき、これまでにないほど、真剣な口調で、言った。

「あなたに、わかってほしいの! あなたの力は、有限だって! 私だって、ミリエルだって、あなたに、私たちのために、自分の命を、賭けてほしくなんかない! 私達にだって、手もあれば、力もある!魔法だって使える!あなたが思っている以上に、私達は、ずっと多くのものを手にしているし、自分にできることを、やり遂げることだってできるんだから!」


シミアは、トリンドルの、その、燃えるような、あまりにも、真摯な瞳を、見つめながら、こくりと、頷いた。


「さて、真面目な話は、ここまでよ」

ミリエルの顔に、再び、悪戯っぽい、笑みが、浮かんだ。

「今日、私たちが、ここに集まったのは、実は、ささやかな、お茶会を、開きたかったからなの」

「お茶会?」

「そうよ」トリンドルも、得意げに、頷いた。

「もうすぐ、シャルとシメールも、来るわ。ごめんなさいね、事前に、あなたに、伝えなくて」

ミリエルが、申し訳なさそうに、シミアを見た。

「いえ、そんな……」シミアは、慌てて、首を横に振った。

「ローレンス先生、その態度、あの時の、私に対するのとは、大違いじゃない?」

トリンドルが、わざと、からかうように言った。

「トリンドル!」

ミリエルが、恨みがましい、視線を、彼女へと、向ける。

トリンドルは、べーっと、舌を出して見せ、その、やり取りに、シミアは、思わず、くすりと、笑ってしまった。


陽光が、透明な、巨大なドームを、通り抜け、シミアの、漆黒の長い髪に、そして、あの、炎の形をした、髪飾りに、降り注ぐ。


温かな光に、包まれて。

炎のように、熱い、乙女たちだけの、お茶会が、その、幕を、開けた。

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