雪の小道に咲く光
ロースアンの街の廃墟となった路地裏で、金色の巻き毛の幼い少女が走っていた。 雪に残された足跡を追って、三人の男が少女の後を追いかける。
彼女は曲がり角に駆け込み、身をかがめて息を整えた。美しい海のような青い瞳は、体力の限界により大きく見開かれている。冬だというのに、汗はすでにドレスの裏地まで染み込んでいた。
元々高級な布地で作られたはずのロングドレスは、走り回ったせいで多くの埃を纏っている。靴と足の隙間からは雪が入り込み、体温で溶けていく。常に優雅さを保ってきたお嬢様にとって、これは決して誇れるような新しい経験ではなかった。
今年、王家領主学院への就学を控えるトリンドル・エグモンドは、王国でも有名な十階領主――エグモンド家の令嬢だ。本来であれば、常に二人の侍女と四人の護衛を連れ添うのが家の決まりだった。
だが、屋敷で家庭教師から「ロースアンの冬の景色はとても美しい。一人で街を歩くのは非常に楽しい」と聞かされていた。侍女や護衛たちのしつこい付き纏いを避けるため、彼女は屋敷のケーキを食べたいと口実をつけ侍女たちを追い払い、急いで服を買う必要があると言って護衛たちに準備をさせ、エグモンド家がロースアンに持つ屋敷から抜け出したのだ。
元々、屋敷の近くだけを回るなら非常に安全だった。屋敷のある地区は裕福なエリアで、衛兵の配置もかなりの数に上る。
不運なことに、先生が語っていた平民の生活を体験するため、彼女は貧民窟に近い通りへと足を踏み入れてしまった。
その後はまるで、お決まりの物語に必ずあるような展開で、彼女は目利きの悪い人買いに出くわした。幼い頃から培われた悪意を見抜く洞察力を利用し、相手の企みに気づいた後は、ひたすら逃げ回っていたのだ。
もし魔法を持たない悪人だけなら、彼女にも多少の術はあった。優れた血統のおかげで、雷と火の二大元素を受け継いでいたのだ。応用は非常に不慣れだが、脅しとしてはどうにか合格点だろう。
だが、火の粉を使おうとしたその瞬間、より速い速度で雪を集める魔術師を見て、幼いトリンドルは元の計画を諦めた。
およそ一分間ほど休憩し、相手はもう追ってこないだろうと思い、トリンドルが屋敷へ戻る道を探そうとしたその時。
三人の男が路地裏の入り口を塞いでいた。
中央に立っているのは、紫色の髪を染めた背の高い男だ。眉間には深い皺が刻まれ、その表情はまるで怒っているかのようだ。
両脇には、黒い髪の男が二人。左はやや肥満気味の男、右は痩せこけた男だ。彼らの手には、使い古されたナイフと、錆びついた大剣が握られている。
幼いトリンドルはすぐに路地の反対側へと向き直ったが、その顔には絶望の色が浮かんでいた。
追っ手から逃れるのに必死で、彼女は路地の反対側を確認していなかったのだ。
「袋小路だな」
「行き止まりだ」
「大人しく捕まっちまえ!」
彼女の心情を言い当てるかのように、三人の山賊は声を揃えて言った。
「あなたたち、おじい様に報復されるのが怖くないの? 私のおじい様、とってもすごいんだからね!」
もしこれで脅して追い払えたら、という思いを込めて、トリンドルは腰に手を当て、大声で彼らに言い放った。
「へぇ、どれくらいすごいんだ?」
中央に立つ紫髪の男が、低い声で尋ねた。
「たくさんの人を連れてきて、あなたたちを皆、殺しちゃうんだから!」
トリンドルの言葉を聞き、三人は顔を見合わせた。彼らの顔には、喜びの色が満ち溢れている。
「領主の娘だ、ボス! 大儲けだぜ!」
痩せこけた山賊は、汚れた服で口元を拭った。
肥満気味の山賊は、意味深な目つきでトリンドルを見つめる。「ボス、捕まえた後、俺に……」
「下半身で考えるんじゃねえ。もし彼女の体を傷つけずに済めば、売った金で冬の間ずっと娼館で遊んでいられるぞ?」
三人が今後の素晴らしい生活を夢見ている、その時。
水が満たされたバケツが、彼らの背後から三人の頭上へとぶちまけられ、彼らの幻想を打ち砕いた。
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
空から、いや、正確には彼らの頭上から、密集した雨粒が滝のように降り注ぐ。
「敵襲! 魔術師だ!」
紫髪の男はすぐに異変に気づき、振り返ったその瞬間、剣を構えた黒髪の少女――シミアが、彼らの背後に立っていた。彼女の足元には木の桶が置かれ、そのさらに後方には、茶色のショートヘアの少女――ミシャが立っている。
彼女の両手の間では、水で構成された球体が回転していた。
「くそっ、俺たちをからかいやがって!」
紫髪の男が手を掲げると、その掌の中に雪の結晶が生成されていく。
同時に、残りの二人の山賊も体についた水滴を払い、手に持った武器を構えた。
ミシャの手の中、水球が唸るように回転する。
紫髪の男の頭上、雨はさらに激しくなった。
雨粒が彼の顔を打つ。彼の手の中に凝集していた雪球は、バラバラと崩れ去った。
その時、肥満気味の男が手に持ったナイフを掲げ、シミアへと猛然と走り寄った。
その光景を見たシミアの顔には、笑みが浮かんでいた。
まるでその笑顔に応えるかのように、男は力を入れすぎたせいか、水をかぶった雪の上で滑り転んだ。
彼は凍りかけた地面に重く叩きつけられ、鼻を打って鼻血を流している。
「ミシャ、斬将!」
紫髪の男の動揺を見たシミアは、今が最善の好機だと判断した。彼女はミシャに指示を伝える。
途端に、ミシャの手中の水球が凝結する。不規則な球形から細長い形へと変化し、まっすぐに紫髪の男へと飛んでいった。
水柱は紫髪の男の顔面を直撃した。
彼の体はバランスを失い、後ろへと倒れて地面に転がる。
作戦がほぼ完全に成功した、その時。雪の上を慎重に踏みしめていた痩せた山賊が、すでにシミアの目の前に迫っていた。
同時に、魔力を使い果たしたミシャが、ふらつきながら雪の上に倒れ込む。
トリンドルの顔には笑みが浮かんでいた。彼女からすれば、痩せた男を倒せば勝利は目前だ。まさに勝利目前の状況だった。
次の瞬間、現実はトリンドルを厳しく打ちのめした。
痩せた男は、手に持った錆びついた大剣を振り上げ、シミアへと振り下ろしたのだ。
シミアは慌てて腕を伸ばして防ごうとする。
強烈な慣性が剣身を打ち、シミアの手にあった剣は衝撃で弾き飛ばされ、地面に落ちた。
そして、痩せた山賊は荒い息をしながら大剣を振り上げた。
大剣が振り下ろされようとしたその時、彼は力尽きて地面に倒れ込んだ。
これこそが、シミアの最初からの戦略だった。大量の水を冬に浴びれば、彼らの衣服はびしょ濡れになる。重くなった服を着て動くことに加え、冬の気温。それらは彼らの体力を大量に消耗させる。
シミアは急いでトリンドルのいる方向へと向かう。彼女のそばまで歩み寄る。
トリンドルは目を大きく見開いていた。目の前で起こった出来事が、全く信じられないといった様子だ。
「早くここから離れましょう。でないと、彼らが起き上がったら厄介だわ」
シミアはトリンドルの手を引き、彼女を路地裏から連れ出そうとしたその時。
「あなた、お名前は? 騎士様なの?」
それはトリンドルが幼い頃、退屈しのぎに読んでいた少女向け物語に登場する、危機を救うヒロインとシミアを重ね合わせた結果だった。
「シミアよ。早く行きましょう、時間が……」
シミアの目に映ったのは、彼女が最も予想していなかった光景だった。
鼻を打って鼻血を出していた太った山賊が、いつの間にか立ち上がり、今度は路地裏の入り口を塞いでいたのだ。
「まさか、獲物が一人から三人になるとはな。こうなったら、一人くらい傷つけても、ボスも文句は言わねえだろう」
彼が見つめているのは、自分に恥をかかせたシミアだ。
シミアの顔には、恐怖の表情が浮かんだ。彼女はトリンドルの前に立ちはだかる。
「よく聞いて。もし彼が来たら、あなたはここから逃げて。助けを呼んで」
シミアは、わずかに震える声でトリンドルに言った。
「うん」
答えるトリンドルは、シミアの服を強く掴み、少し沈んだ声で返事をした。
太った山賊は、雪の上をゆっくりと踏みしめ、シミアの方へと歩み寄る。
路地裏には、雪を踏む音だけが響いていた。
一歩近づくごとに、シミアの心はひどく重くなった。
シャルと一緒に努力して学ぶと誓った約束が、今日破られてしまうかもしれないと考えると、悲しくて、まるで気を失いそうになる。
だが、それさえも許されない。せめて……彼女は背後にいるトリンドルを見た。
せめて、あの子だけでも逃げられるなら。
そう考え、彼女は距離を見計らった。太った山賊が近づいたその瞬間、素早く身をかがめ、一掴みの雪を握った。
太った山賊は、その動きを予測していたかのように、腕で顔を覆った。
「逃げて!」
雪を投げつけた瞬間、シミアはトリンドルに大声で叫んだ。
トリンドルは目を塞いだ太った山賊を素早く回り込み、路地裏の入り口へと走る。
彼女の足は、凍りついた氷の地面と化した路地裏の入り口で止まった。
ここからは、ゆっくりと進まなければならない。
その時、太った山賊が振り返り、逃げようとするトリンドルを目にする。
「何を見てやがる、お前の敵はここだ!」
シミアはすぐに地面から雪を掴み、強く握りしめた。それを太った山賊に投げつける。
多少は外れたものの、一発が太った山賊の右耳をかすめた。
痛みに、山賊は視線をシミアへと戻した。
彼は怒りに駆られ、シミアへと走り寄る。右肩に拳を打ち込む。バランスを失ったシミアは雪の上に倒れ込んだ。
だが、太った山賊はシミアを放っておかず、両手でシミアの首を掴んだ。その顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいる。
「シミアさん!」
この光景を見たトリンドルは、思わず振り返り叫んだ。
シミアは手で追い払うような仕草をし、声の代わりにトリンドルにここを離れるよう促す。
彼女の首は、太った男の両手で強く絞めつけられている。意識が遠のきそうになる。
「凍結せよ」
それが、シミアの意識が途切れる寸前、最後に聞いた声だった。