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5-4 ある休日




 午前の鐘がフルスロックに響く。フルスロック基地の司令室では、アールスロウが机に腰掛け、多くの書類を手際よく片づけていた。

 そんな中、扉が小さくノックされる。


「入れ」


 扉が開き、フロウが入ってきた。


「フロウか……何の用だ」


「少し話があります」


 フロウは真剣な顔でアールスロウを見つめた。





 大型店がズラッと立ち並ぶ商店街は多くの人でにぎわっている。ここはフルスロックのミリセルト大商店街。その石畳の道をクロコとソラが歩いていた。


「ここは相変わらずにぎわってるねー」


 ソラが上機嫌に声を上げる。


「またここにクロと来れて良かった」


 ソラはクロコを見てニコッと笑った。


 そんな商店街を歩く二人を、物陰から二つの人影がのぞいていた。


「さーあ、今回はどんな展開になるのかな」


 フロウは物陰からクロコとソラの様子をのぞき見る。


「や……やっぱり、こんなこと良くないんじゃ……」


 フロウの隣でサキが不安そうな顔をしている。


 ソラは商店街をピョンピョンと歩く。


「さーて、まずはどこの店に行こうか? ねぇクロ」


「おまえはどこに行きたいんだ?」


「家具屋と靴屋と洋服屋とアクセサリー屋と……」


「おまえの好きな場所にしろよ……」






 迷路のような入り組んだ道が続くシャルルロッドの町。その商店街で、スコアと一人の少女が歩いている。

 その少女は、クロコとうりふたつの姿をしている、ただし雰囲気は違いひっそりと静かだ。アピス・ブレイリバーはスコアと一緒に商店街を歩いていた。

 アピスは周りをゆっくりと見渡す。


「ここに来るのも久しぶり……」


「そうだね、アピスの引っ越しの時以来かな」


「大きな戦争のあとなのに、ここはほとんど変わらないね」


「うん、シャルルロッドは大型基地はあるけど、戦場になったことは一度もないんだ。平和な町さ」


「平和か……。そういえば早朝は町の見回りだったらしいけど。その時も町には事件も何もなかったの?」


「いつも通りだよ、この町は治安がいいから」


「あやしい人とかもいないの?」


「うーん、そうだね。そんな目につく人はいないけど。逆に見るからにあやしい人ってほとんどいないような気がする」


「そうかなぁ、いるにはいる気がするけど」


「じゃあ、アピスはどういう人だったらあやしいって思うの?」


「え……?」


 アピスは少し考える。


「手が……四本ある人とか……」


「そ……それは確かにあやしいかもね、ハ、ハハ……」


 スコアは必死で笑った。





 ミリセント大商店街の石畳をソラは上機嫌に駆ける。


「ほら、クロ、こっちこっち」


「おい、あんま、先に行くなよ。変な奴に捕まるぞ」


 クロコが急いで追いつく。


「大丈夫だって、あやしい人なんて周りにいないし」


「バカ、あやしいやつってのは、どの町にも必ずいるモンなんだよ」


「前にここに来た時にからんできたベルトだらけ人とか?」


「うーん、そいつはそこまであやしくないんじゃないか。酔っぱらってたし、アークガルドにはそんなの山ほどいたし」


「じゃあ、どんな人が明らかにあやしいの?」


「どんな人っていわれてもな……手が四本あるとか……」


「人を見た目だけで判断しちゃダメだよ」


「じゃあ、どこで判断するんだよ」


「行動とか、様子とか、とにかく身体的特徴は人格の範囲外だから、そこで判断するのは適切じゃないと思うよ」


「ん……ま、まあ、そうか……」






 二人の様子を陰からフロウとサキがのぞいている。


「なんかずっと歩きながらしゃべってるね」


 フロウの言葉を聞いて、サキもじっと二人の様子を眺める。


「いいですよね、あんなに仲良く。ボクもあんな風に……」


(ミリアさんと……)


 フロウも少し羨ましそうだ。


「僕も、年上の彼女と……」


「あの……フロウさん、あまり理想を追いかけ過ぎない方がいいですよ」


「と、年上のどこが理想なんだよ!!」


「フ、フロウさん、声大きいです。シー、シ―!」






 シャルルロッドの町、スコアとアピスは花屋の店内にいた。

 店内には、三角の形の花や、真っ黒な花など変わった花が並んでいる。


(変な店に入っちゃったな……)


 そう思っているスコアとは正反対に、アピスは興味深そうに見ている。


「な、なんかいい花あった?」


「コレ……」


 アピスは妙に巨大な花を指さした。

 スコアは一瞬顔がこわばった。


「えっと……これが好きなの?」


「そうじゃなくて、茎のトコ……」


 茎の部分を見ると、小さなヘビがにゅるにゅると動いていた。その様子をアピスはジーッと見ている。


「怖くないの……?」


 スコアが尋ねると、アピスは小さくうなずく。


「全然……。むしろなんだか懐かしい」


「……? なんで?」


「昔のお兄ちゃんを思い出す」


「……? なんで」


「昔よく振りまわしてらから」


「なんで!?」


「意味は特にないと思う」




 同じ頃、クロコとソラは薬屋にいた。

 並べられている小瓶には、乾燥した草や、小さな実、ドロドロの液体などが入っている。

 ソラはいくつかの薬を手際よく選んでいる。


「なあ、ソラ」


 クロコが少し離れたところで声をかけた。


「なに?」


「これって何の薬だ?」


 ソラは歩み寄って、クロコが見ている薬を見る。

 巨大な瓶には、透明な液体の中に巨大なとぐろを巻いたヘビが浮いていた。


「ゲ……ッ!」


 ソラは思わず声を漏らした。


「コレ、何の薬なんだろうな。おまえなら知ってるんじゃないか?」


「ううん、こういうジャンルは私にとって未知の世界だから」


「ふーん、そっか」


「ねえ、怖くないの?」


「ヘビなんてどこも怖くないぞ」


「へえ、さすがクロ」


「昔ブンブン振り回してた」


「なんで?」


「特に意味はない」


「へえ、さすがクロ」




 薬屋の店の窓から、フロウは二人の様子をそっと見ている。


「うーん、仲は良さそうなんだけど、全く進展する様子がないな、あの二人は」


 するとサキが背中から話しかける。


「でもクロコさんはあんな姿ですし、そう急ぐ必要もないんじゃないですか?」


「ダメだよ、チャンスのときに攻めないと! あと100回はデートするだけになるよ! やっぱり男は押さなきゃ! 押して押して押してときどき引いて、そして押すんだよ!」


「さすがフロウさん、でも不思議と説得力がないですね」




「ねえクロ、そろそろ一回休憩してお昼にしない?」


 店を出た直後、ソラはそう言った。


「そうだな、何か食べるか」


「どこのお店に行こうか?」


 ソラはニコニコしながら言った。


「別にわざわざ店で食べる必要はないんじゃないか?」


「え?」


「その辺にいるトリでも焼いて食べたり……」


 ソラはニコッと笑った。


「うん、それでもいいよ、じゃあ私はそのあいだ近くの飲食店にいるから」


 結局二人は近くの飲食店に入った。




 スコアとアピスは、ある飲食店で昼食を食べている。

 スコアはパイ包みを、アピスは魚料理を食べている。


「ここはいい町だね……」


 アピスのその言葉にスコアは反応した。


「どんな風に?」


「なんとなく町全体が暖かいし、事件もないっていうし」


「うん、治安に関してはラティル大佐がかなり細かくしてるからね」


「じゃあここで大きな事件って起きたことないの?」


 それを聞いてスコアはわずかに表情を暗くした。


「そうだね……一年前に一回、ひどい事件が起きた時があったけど、それっきりかな」


 スコアの表情を見て、アピスはわずかに戸惑った。


「どうしたの?」


「その…………」


 答えあぐねているスコアを見て、アピスが口を開いた。


「いいよ、話したくないなら」


「ゴメン、また今度……いつか話すから」


「うん」


 アピスは料理を一口ぱくっと食べた。


「ここのお店、おいしいね」


 スコアはニコッと笑った。


「そうだね、ラティル大佐がお勧めしてた店なんだ」


「そうなんだ、通りで魚が時計の形をしてると思った」


「え……?」


 スコアはアピスの料理を見た、魚が不自然に丸く切られていた。自分のパイ包みにも目を移す。器用に手持ち時計の形に作られていた。


「頭痛くなってきた……」





 シャルルロッド基地の司令室、そこでラティルは腰掛けながら、机に無数の手持ち時計を並べて、楽しそうに磨いている。


「この角度から見るとなかなか……」


 するとドアが小さくノックされた。


「入りたまえ」


 ドアが開き、将軍服の男が入ってきた。

 それを見てラティルは驚き、すぐに立ち上がり敬礼した。

 その将軍は年齢五十代後半、温厚な表情をしているが、全てを見通すような鋭い目をしている。


「ホ、ホーククリフ大将。なぜ……」


 ホーククリフはニコッと笑った。


「なに、スコア・フィードウッドが皇帝陛下から表彰されたという話を聞いてね。そのスコアを育てたかわいい元部下に、祝辞をと思ってな」


「光栄です」


 ラティルは少し不自然な笑顔を見せた。その表情をホーククリフは敏感に察知した。


「どうした、ラティル?」


「いえ……お気になさらずに」


(ロストブルー中将の情報だと、ホーククリフ大将が『レギオス』に関わっている可能性があると言うが……私の元上司が……確かにこの方は昔からどこか読めないところはある……しかし……)


「ホーククリフ大将。せっかくなので場所を移してゆっくり話をしませんか?」


 ホーククリフは嬉しそうにほほえんだ。


「ああ、そうしようか」



 客室に移動し、互いに向かい合って腰をかけた。

 ホーククリフは上機嫌にラティルを見つめる。


「君の働きはよく耳にするよ、間接的にではあるがね。ここはスコア・フィードウッドのいる基地として有名だからな。聞く話によるとこの基地は、実績だけでなく、町の住民との関係も非常にいいらしいな」


「ええ、軍は国民を守るためにあります。しかし同時に軍も国民に守られていることを常々忘れないようにしています」


「ふむ、いい心がけだ。この基地が良い働きをするのもうなずけるよ。君は若い頃から司令官としての素質を持っていたからな。物事をよく考え、様々な人に興味を持って接していた」


 ラティルはほほえんだ。


「それを見出してくれたのはあなたです。戦闘訓練で挫折を覚えていた私に対して『君は肉体ではなく、知性を磨くべきだ』とアドバイスをして下さらなければ今の私はありませんでした」


「ああ、君は見込み通り大きく成長した」


 ホーククリフはほほえんだ。そしてゆっくりと口を開く。


「……このトシになると、若い頃の欲はすっかり消えてな、その代わりによく思うんだ。自分の人生は果たして意義あるものだったのかとな。けれど、元部下が立派に成長し、それが結果的に国民の力になっているのを見ると、私の人生もそれなりに意義があったと思うよ」


「……………………」


(この方が、『ダークサークル』に……関わっているのか?)


「ホーククリフ大将、少しお話したいことがあるのですが……」


「……? 何だね、ラティル」


「『ダークサークル』……そう呼ばれている今の国の状態、それに関して不自然に思ったことはありませんか?」


「不自然……?」


「私は……こう思うのです。この今の国の状態は、大きな力を持つ何者かが、意図的に引き起こしたものであると。事実、この国がここまで荒れる直前には、国民の不満をあおるような不自然な事件がたびたび起きていました」


「………………」


 ラティルの言葉を聞いたホーククリフは腕を組んで、何かを考える様子を見せた。やがて腕を解き、ラティルを見つめる。


「もし……君の推測が当たっていたとして、その者は何のためにそんなことをしたのかね?」


「その場合、その者達の狙いはおそらく一つでしょう。権力の掌握です」


「………………」


 ホーククリフはまた何かを考える様子を見せたあと、ラティルを見つめた。


「どうやら君はそれに対してかなりの確信を持っているようだな。ならば、ラティル、君はそれに対して、どのような行動を起こそうと思っているのかね」


「何も……」


(確かめなければ……この方が白か黒か……)


「考えても見てください。私は基地一つをまとめるのに、大変な苦労をしました。けれど、その人物は国一つを思いのままに操っているのです。その人物の高い能力に対して、一体何を疑うことがあるでしょう。高い能力の者が上に立つことは、グラウドをより強い国へと変えることにつながります。それは国民にとっては幸福なことです」


 ホーククリフの表情がわずかに曇る。


「……それによって多くの国民が苦しんでいるが」


「改革に犠牲はつきものです。今の犠牲は、やがて必ず報われることになるでしょう」


 ホーククリフは黙った。腕を組み、少しのあいだ考え込んでいた。やがてゆっくりと立ち上がると、そのまま、部屋のドアの方へと歩いて行った。


「どこへ行かれるのですか?」


 ラティルの問いに対し、ホーククリフは振り向かなかった。


「君は……もう少し見込みのある男だと思っていたよ」


 ホーククリフはドアに手を掛けた。


「失望したよ、ラティル」


 ドアを開け、そのまま出て行こうとするホーククリフ。


「お待ちください!」


 ラティルは声を上げた。ホーククリフの動きが止まる。


「申し訳ありません……あなたを試したのです」


 ホーククリフはゆっくりとラティルの方を振り向いた。


「試した……だと?」


「もう一度話をさせていただけませんか。私が話せる限りの真実をお話しします」


 ホーククリフは再びイスに座った。ラティルはホーククリフに自分が『ダークサークル』について調べていること、自分には仲間がいることを話した。



「その仲間というのは……信用できるのかね?」


「口約として、仲間の名前は明かせませんが、信用できる人物です。できればあなたにも協力していただきたい。あなたなら、元帥の情報でさえ手に入れることができるでしょう」


「ふむ……」


 ホーククリフはまた腕を組み、考える。今度はずいぶんと長く考えていた。やがて、腕を足に置き、ラティルを見つめる。


「どうやら君は、私の人生に大きな意義を与えてくれたようだ」


 ホーククリフは静かにほほえんだ。





 商店街を歩いているスコアとアピスの横を小さな猫が通り過ぎた。


「猫だ……」


 アピスが猫を目で追う。


「好きなの?」


「うん、わたし、猫は好き」




 クロコとソラは洋服店にいた。女性物の服をソラは興味津々で見て回っている。

 クロコは店の端に一人しゃがみ込んで、じっくり何かを見ていた。


「クロ!」


 ソラがクロコに声をかける。


「ん?」


 ソラは洋服を持っていた。黒のドレスだ。


「これ似合うと思う?」


「黒は……おまえには似合わないんじゃないか?」


「ううん、クロに」


「似合わねーよ!!」


「それよりクロ。さっきから何見てるの?」


「ん? ああ、こいつだ」


 店内の脇で猫が丸くなってスヤスヤと寝ていた。


「あっ、猫だ。ぐっすり寝てるね」


「ああ」


 ソラも猫をのぞく。


「スースーって息してる。かわいい」


「ああ、オレも猫は好きだ」


「へー、そうなんだ」


「油で揚げるとうまいんだ」


「そういう好きなの!?」


「ああ……もちろん、ウソだ」


「クロコが言うとウソに聞こえない……」




 ケーキ屋の店内でテーブルを挟んでスコアとアピスが座っている。カラフルな店内は、いつもどおり多くの客でにぎわっている。

 そんな様子をアピスは見回す。


「今日もにぎやかだね」


「うん、ここはいつでも人気だよ」


 アピスはメニュー板を手に取って見る。それを見ながら少しほほえみを浮かべる。そんな様子を見てスコアが話しかける。


「もしかして、今日一番の楽しみだった?」


「うん」


 アピスはパッと答えた。メニューを楽しそうに見ている。


「……? ワインケーキだけがない」


 それにスコアが答える。


「ああ、今がフランセールで一番竜巻が起こる時期だから、ワインケーキが不足するんだ」


「へぇ……」


「ワインケーキ食べたかったの?」


「ううん、気になっただけ、スコアは何にするの?」


「ボクはフルーツケーキかな」


「じゃあ、わたしもフルーツケーキ」


 運ばれてきたフルーツケーキを、アピスは満足そうに食べる。


「おいしい」


 そんなアピスの様子を見ながらスコアは笑みを浮かべる。


「アピスはホントにケーキが好きだね」


「うん……大好き。多分、これがなかったらここに戻ってこなかったと思う」


「え!?」


「もちろん……うそ」


「ア、アピスが言うとウソに聞こえないよ……」





 クロコとソラは商店街の道を歩いていた。

 ソラが道を見渡しながら口を開く。


「少し奥まで行きすぎたかな。ここら辺は、道がよく分からないや」


「オレはなんとなく分かるぞ」


「え、なんで? ここにはほとんど来てないはずなのに……」


「勘だ」


「勘って……」


「丘の上から一回街を眺めれば、どういう道を通ればどこへ行くか、なんとなくわかるだろ」


「つまり建物の配置を全部記憶するってこと?」


「だから勘だって言ってんだろ。近道も大体分かる」


「へぇ、じゃあさ、どこが近道なのか教えて。分かりやすく丁寧に、ジェスチャーで」


「からかってんのか!」


「うん」


 ソラは楽しそうだ。


 その後、クロコとソラは路地を抜けて、商店街の大通りへと出た。


「ほら、近道だっただろ、って……あっ」


 クロコは何か気付いた様子で、ソラを見た。


「どうしたの?」


「ソラ……おまえの右肩」


「ん?」


 ソラは自分の右肩を見た、そこにはゆっくりと足を広げて休んでいる大きなクモがいた。


「キャアアアアアアアアッ!!」


 ソラは大通りに響く大声を上げた。声こそ大きいが体は石のように固まっている。


「怖い怖い! 取ってー、取って取って!」


 涙声のソラ。クロコは冷静に眺めている。


「大丈夫だよ、毒グモじゃない」


「そ、そういう問題じゃないよ!!」


「しょうがねーな」


 クロコはクモを取ろうと手を伸ばす。ソラは石のように固まっている。


「あ、足が八本もある……」


 ソラのその言葉で、クロコは伸ばした手をピタッと止めた。


「そういえばソラ、身体的特徴で判断するのはダメなんじゃなかったか?」


「どうでもいいから早く取ってよー」


 クロコは楽しそうだ。



 その後、クロコとソラは大通りを歩く。ソラは今日初めてゲッソリしている。


「……そういえば、クロはどこか行きたいお店はないの?」


「いや、別にねーけど」


「新しいブーツは欲しくない? ほら今クロの履いてるブーツ、修理の跡だらけで、ずいぶんいたんでるし、少し質が落ちてるんじゃない?」


「確かに修理で少しいたんじゃいるけど、革自体は柔らかくなって足に馴染んでるからいいんだよ。今が一番いい時だ」


「へぇ、じゃあ武器屋は?」


「剣はもう上等なものを持ってるから」


「へえ、いい剣、手に入れたんだ。じゃあそれを大事に使うんだね」


 それを聞いてクロコは黙って何かを考える。


「クロ?」


「……とにかく、武器屋に用はない」


 二人がそんな会話をして歩いていると、向かいからひげで顔が覆われた老人が歩いてきた。


「おや、お二人さん、ひさしぶり」


「あっ、職人のじいさん」


 武器職人の老人だった。クロコは老人をじっと見る。


「なんだ? なんでこんなトコ歩いてんだよ」


「家の近くの道を歩いてるのがそんな変かい?」


「仕事かなんかか?」


「いや、散歩だよ」


 老人はゆっくりと上機嫌そうに笑みを見せる。


「最近大きな仕事をやり切ったせいでな。少し休暇を入れてるんだよ」


「ふーん」


 するとソラが話しかける。


「じゃあ、今日はアクセサリー屋は開かないんですか?」


「ああ」


「少し残念です。今日あなたの店を見るの楽しみのひとつだったので」


「いや、悪いね、お嬢さん」


 老人は申し訳なさそうにほほえむ。


「でもソラ、このじいさんアクセサリーが本業じゃないんだぞ」


「え? そうなの」


「ああ、アクセサリー屋は副業で、路地のぼろい鍛冶屋で、世界有数の腕だってアールスロウが言ってたけど、実際はよく分からない」


「もうちょっと整理して説明してくれないかな……」


「じゃあ、わしはこの辺で失礼させてもらうよ」


 老人はゆっくりと二人を横切ろうとする。


「じいさん」


 クロコが老人を呼び止める。


「なんだい?」


「もし、オレが今依頼したら、何か作ってくれるか?」


「そうだな……。君はわしにとっては常連さんの域だからな。なんせ四回……いや三回だっけな。三回もモノを買ってくれたからな。君の頼みなら、作らんこともないが……」


(四回でも三回でもなく、二回だろ。もうボケてんのか、このじいさん)


「何か、また作ってほしいものでもあるんかい?」


「いや……聞いて見ただけだ」


「そうかい、それじゃあまたな」


 老人はそのまま横切って行った。





 夕焼けの光がゆっくりとミリセルド大商店街を照らし始める。夕焼けの路地をフロウは走り回っていた。


「くそ……二人はどこだ?」


 キョロキョロと辺りを見渡すフロウ。すると曲がり角からサキが現れた。


「ダメです。見つかりません」


「くそー、完全に見失ったな」


「もうあきらめて帰りませんか?」


「ダメだよ、ここからがクライマックスかもしれないのに!!」





 ミリセルド大商店街の脇にある川、そこにかかる石橋を眺めながら、クロコとソラは立っていた。


「また……ここに来れた」


 ソラは嬉しそうにほほえむ。じっと夕陽の橋を見つめながら、ソラは口を開いた。


「ねえ、クロ」


「なんだ?」


「戦争が終わった時、また一緒にここに立とうね」


「ああ」


 クロコも石橋を見つめている。


「約束する」


 夕陽の橋は静かに輝いていた。



 クロコとソラは再び路地を通り、大通りに出ようとした時だった。フロウとサキにバッタリと出会った。


「…………なんでおまえらここにいるんだ?」


 クロコは二人をじっと見た。


「そ、それは…………」


 焦ってオドオドするサキ。フロウが素早く口を開く。


「ちょっと二人でお買い物を、ね」


「男二人で?」


 ソラが素早くつっこむ。

 フロウが不自然に笑う。


「そっちだって女二人だろ?」


「誰が女だ!!」





 夕焼けのシャルルロッドの通りをスコアとアピスが歩いていた。


「ねぇアピス。今日はその……」


「なに?」


「今日は、楽しめた?」


「うん」


 アピスはわずかに口元を緩めて言った。

 すると突然、二人の隣に一人の少年がヒョコッと現れる。


「やあ」


 その少年は年齢十四、五、少しねている茶色の髪に、青い瞳、幼い顔立ちをしているが落ち着いた雰囲気を持っている。


「あ、コール」


「偶然だね」


 コールは二人の様子を少し眺める。


「ジャマだった?」


 するとアピスが口を開く。


「ううん、帰り道だったから……一緒に歩こう、コール」


 三人は夕焼けの道を歩く。

 アピスが二人を見ながら口を開く。


「二人はこれからどうなるの?」


「え……?」


 スコアは小さく反応した。


「国軍は、少し前に大きな戦いに負けたんだよね。これから大変なんじゃない?」


「そうだね……」


「いつかはまた基地を出るんだよね。これから、どういう風に動くかって決まってるの?」


「いや……それはまだ」


 するとコールが口を開く。


「多分、解放軍の動き次第になるだろうね」


 アピスはコールの方を見る。


「でもコール。今の状況だと、解放軍がそのまま中部を直進して、ゴウドルークスまで攻めてくるんじゃないの?」


 それを聞いてコールがほほえむ。


「アピスもだいぶ戦局が読めるようになってきたね。けど……状況はもう少し複雑でね」


「そうだね」


 スコアがうなずく。


「普通に考えれば、解放軍は中央の前衛基地ビルセイルドに軍を集めて、ゴウドルークスに向けて進行するって考える。けどね、ビルセイルドとゴウドルークスのあいだには『ウォールズ・ヘルズベイ』がある」


 アピスは首をかしげる。


「『ウォールズ・ヘルズベイ』……?」





 フルスロックの通りを一台の駅馬車が走っていた。

 その車内に、クロコとソラ、それとフロウとサキが乗っていた。


「何なんだよ、こいつら……」


 クロコは、フロウとサキをにらんでいる。


「ハハハ、仲良く帰ろうよ」


 フロウが笑いかける。

 クロコはプイッと窓の方を向く。


「あ……」


 窓をのぞきながら、クロコは口を開いた。


「そういえばここ……」


「どうしたの?」


 ソラが反応した。クロコは窓の景色を見たまま口を開く。


「初めてここに来たときに通った道だ」


「初めてかぁ……そういえば、クロは初めてここに来たときに、私を助けてくれたんだよね」


「まぁ、オレはそのあとに会った呪い屋のババアのインパクトが強すぎてあんまり覚えてないけどな」


「あの時のクロはカッコ良かったなー」


「……今はこんな姿になっちまったけどな」


「今のクロだって、かっこいいよ」


 クロコとソラが窓の景色をのぞいていると、フロウがソッと口を開く。


「さてと………………今日で、しばらくはみんなと会えないな」


「えっ?」


 クロコは思わず声を漏らす。ソラとサキも驚いてフロウを見る。


「僕はしばらく、フルスロックから離れるよ」


 フロウのその言葉に、サキは目を丸くする。


「えっ、どういうことです?」


「自分を一から鍛え直そうと思ってね、話はもうアールスロウさんに通してある」


 クロコは一瞬何かを考えたあと、口を開いた。


「……だけど、フロウ。おまえの剣技はもうほとんど完成されてるんじゃないのか?」


「ああ、その通りだよ」


 フロウはクロコを見つめる。


「今の僕じゃ、これ以上大きな飛躍は望めない。だからこそ、今の剣技を崩して、一から新たな剣技を作ろうと思ってる」


「けど、ヘタしたら、今より弱くなるぞ」


「確かにね、でも、セウスノールの戦いではっきり分かったんだ。今のままじゃ、みんなの力にはほとんどなれない。だったら、弱くなったってほとんど変わらない、どちらにしろ半端者さ。それなら、新たな可能性に賭けたいんだ」


 フロウは、クロコとサキを見つめた。


「僕は、みんなの力になりたい。それが戦場に身を置く、僕なりの『誇り』さ」


「そっか……」


 クロコは静かに言った。


「当てはあるんですか?」


 サキの問いにフロウはほほえんだ。


「ああ、大丈夫」


 クロコはフロウの方を見つめた。


「なら……フロウ」


 クロコはキッとフロウを見た。


「必ず強くなって、戻ってこいよ」


 フロウはニコリと笑った。


「ああ……最後の戦いには必ず間に合わせるさ」


 サキは少しさびしそうな様子だ。


「フロウさんにとって、今日はみんなと遊べる最後の日だったんですね」


「ハハハ、だからハシャがせてもらったよ」


「ホント、楽しそうに尾行してましたもんね……あっ!」


 クロコが素早く反応した。


「尾行……?? おまえら、やっぱり……」


 クロコはギロリと二人を見る。フロウが素早く口を開く。


「び、尾行じゃないよ、ただ全く同じ道を通ってただけさ」


「それを尾行って言うんだよ!!」


 そんな様子を見ながらソラが一言。


「案外近くにいたね、明らかにあやしい人」








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