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5-1 ライトシュタイン邸




 グラウド西部のとある馬車道。草原に挟まれたその道を一台の大型の駅馬車が走っていた。その座席の一つに、一人の少女が座っている。

 年齢は十五、六、黒い髪に、鋭い目に真紅の瞳の少女だ。

 クロコ・ブレイリバーは独り、東部の港町パシフィルドへと向かう。





 グラウド東部の首都ゴウドルークス。純白の巨大建築物が連なる街の純白の道を、一台の小型馬車が走っている。その座席には少年の軍人が座っていた。

 年齢は十五、六、白いサラッとした髪に、厚い眼鏡をかけ、優しげな雰囲気を持っている。

 スコア・フィードウッドは馬車の窓から、壮大な純白な街並みを眺めていた。


「どうだった、スコア」


 向かいに座る軍人がそう言った。

 その軍人は年齢三十代前半、黄色い髪に、細い長い目、知的な雰囲気を持っている。

 ケイス・ラティル大佐だ。

 スコアはラティルの方へ向き直る。


「はい……?」


「どうだったかね、数万の兵士の前に立ち、皇帝陛下と元帥に称えられた気分は……」


 それを聞いてスコアは恥ずかしそうに少しうつむく。


「あ……そ、その、転ばないようにすることで、いっぱいいっぱいで……」


 スコアは困ったように笑う。


「それ以外は……何も……」


 それを聞いてラティルは上機嫌に笑った。


「いかにも君らしい」


 ラティルはスコアの腰に視線を移す。


「それを少し見せてくれないか」


「……これですか?」


 スコアは自分の携えている剣を握った。


「ああ、その皇帝陛下からいただいた剣だ。確か名前は……ブリティンガルド、だったね」


「はい」


 スコアは剣を腰から外し、両手で横向きに持った。

 その剣をラティルはまじまじと見つめる。


「……このような形で皇帝から直接褒美をいただいた者は、五年前のロストブルー将軍と君の二人だけだそうだ。ロストブルー将軍は、世界三大金属のルーティアの青剣をいただいたそうだ。非常に名誉なことだよ。……刃も見せてくれないかい?」


「あ……はい」


 スコアは鞘から刃を少し引き抜く。

 刃からはまばゆい純白の輝きが放たれた。

 ラティルはその刃を凝視する。


「ほう……すばらしい剣だ。この白い輝きは……おそらくは世界三大金属、その中で最も価値の高い金属であるサンティーンネシスだな。サンティーンネシスのみの刀身に、この出来栄え……世界で現存する剣の中で、最高の剣と言ってもいいだろう」


「ボクには、似合わない剣でしょうね」


「そんなことはない、君にこそふさわしい剣だよ」


 ラティルはゆっくりとほほえみを浮かべた。

 その時だった、別の小型馬車が急に後ろから隣に並んできた。


「おや、これは……」


 車両の奥から太い男の声が響く。

 四十代前半の男だ。黒い髪に深い黒ひげ、太い眉に鋭い目。威厳のある風貌をしている。隣には護衛らしき柔らかい赤髪の剣士も乗っている。


「君はスコア・フィードウッドだろう?」


「あなたは?」


「私はジオ・グランロイヤーという者だ」


 その言葉にラティルが反応した。


「グランロイヤー? まさか総務大臣閣下ですか」


 グランロイヤーは人なつっこそうな笑顔を浮かべる。


「ああ、そうだ。なに、別に気にしないでくれ、興味本位で見てみただけだからな。なあリーヴァル」


「はい」


 護衛の剣士リーヴァルが小さく声を出した。


「このたびの功績、流石だよ。君のさらなる活躍に期待するよ。じゃあ、私はこれで失礼する」


 グランロイヤーが乗る馬車は速度を上げ、そのまま追い抜いていってしまった。

 追い抜き際に、スコアは、リーヴァルという剣士が自分を鋭く見つめていたのに気づいた。スコアは一瞬眉を寄せる。


「どうしたスコア?」


「い……いえ」


「しかし首都だけのことはある。著名な人物にたびたび会うな。そうだ、スコア。このまま街を出てもいいのだが、せっかくの首都だ。どこか寄っていきたい場所はないかい」


「いえ……せっかくですが、できれば早く帰りたいですね」


 スコアは申し訳なさそうに笑った。


「どうもこの街にいると不安な気持ちになってくるんです」


「不安……? 何についてだね」


「いえ、理由は特にないんですが……」


「ふむ、そうか……」


 スコアは窓の景色に目を移した。


(なぜだろう……この街からは、死の臭いがする……)







 クロコは草原に挟まれた昇り道を歩いていた。人一人いない静かな道だ。

 ふと、眼下に広がる景色に目を移した。

 建物の集団の純白な景色が広がり、その隣に青い海の景色が広がっていた。白と青の美しい景色が目に入る。

 クロコは丘の上からパシフィルドの町を見下ろしていた。

 再び前を向き、歩き始める。

 少し歩くと、クロコの目に、ある景色が入ってくる。緑の草の中に浮き出た、純白の景色だ。

 クロコが歩くと共に、視界を覆いつくすように巨大な屋敷が目の前に広がった。

 足を止め、屋敷を見上げるクロコ。


「ここが……ライトシュタインの屋敷……」


 クロコは高い石壁の塀に取り付けられた鉄柵の門の前に立った。巨大な門は固く閉ざされている。

 クロコはその門を力任せにガンガンと叩く。


「おーい!! 誰かいないかー!! 門を開けろー!!」


 クロコの高い大声と、叩かれた門の金属音が辺りに騒がしく鳴り響く。

 しばらくその音を響かせていると、剣を携えた警備らしき男が二人、中から姿を現した。

 柵越しでクロコをにらみつける。


「なんだ? きさまは」


 クロコも思わず軽くにらみ返す。


「ソラに会いに来たんだ。ここに入れろ」


 警備の一人が眉を寄せながら口を開く。


「……? 何を言ってるんだ。ここはきさまのようなみすぼらしい奴の来るようなところではない」


「なんだと……!?」


 クロコはイラついた口調で言った。


「とっとと帰れ小娘」


「な……!! 誰が小娘だ!!」


 クロコは鉄柵を蹴り飛ばした。大きな音が鳴り響き鉄柵の一部がひしゃげた。


「な……なんだこの女」


「ほっとくのも危ないな。追い返すぞ」


 二人の警備は門を開けると共に、クロコの前に立ち、剣に手を掛けた。


「おい小娘。今帰ればケガをしなくて済むぞ」


「うるせー!! いいからここに住む人間と話しさせろ!」


「どうやら帰る気はなさそうだな」


 警備の一人が剣を抜いた瞬間だった。クロコの蹴りが直撃し、警備を吹っ飛ばした。


「あぶねーモン抜くんじゃねーよ」


 蹴り飛ばされた警備は気絶している。もう一人の警備が驚いた。


「おーい!! 侵入者だ!! 集まれー!!」


「え……?」


 呆然とするクロコをよそに、中からワラワラと警備たちが集まってくる。次々と剣を抜く警備たち。

 クロコはすぐに鞘を付けたままの剣を構えた。


「こ……こんなことしに来たわけじゃねーのに……!」


 クロコは襲い来る警備たちを次々と剣で殴りとばした。


(クソ……これじゃあホントに侵入者じゃねーか!!)


「いいから話をさせてくれよ!」


 クロコの言葉も聞かず、警備たちは次々と襲いかかってくる。

 十人近くの警備を殴りとばしたところで、残りの五、六人の警備はクロコの強さを恐れ、じりじりと距離を取り始めた、その時だった。


「何事だ」


 静かな声が突然響いた。

 クロコは見た、中から一人の男が歩いてくるのを。

 その男は年齢三十代後半、黄色い髪に、高く整った鼻、何物にも興味のないような無機質な目をしている。

 警備たちは一斉にその男を見る。


「ザ……ザベル様」


 クロコもその男を見る。


(こいつが……ソラの父親……?)


「あ……あんたがライトシュタインか?」


 男は静かにため息をついた。


「この家系の者は皆ライトシュタインだが……」


「国軍の将軍の……」


「何の用かね」


「ソ……ソラに会いに来たんだ」


 ライトシュタインの表情は変わらない。


「そのような人物はこの屋敷にはいない」


 その言葉を聞いて、クロコはドキッとした。


「ほ、本当にいないのか……?」


「いたとしても、君のような者に教えはしないがな」


「オ、オレはあやしい人物じゃない!」


「自分からあやしいという人間は少ないだろう」


「オ……オレはソラに会いに来ただけなんだ」


「娘の名を言えば、取り合ってもらえるとでも思っているのか?」


「じゃあ……どうすればいいんだよ」


「とりあえず、その剣を置きたまえ。武器を持っている相手を疑わない方がどうかしている」


「剣をだと……!」


 クロコは一瞬ライトシュタインをにらみつけるが、少し考えたあと、あきらめて剣を足元に置いた。


「剣を取り上げろ」


 ライトシュタインの命令で、警備の一人がクロコの剣を取り上げた。


「く……!!」


 クロコは思わず声を漏らしたあと、ライトシュタインを見つめる。


「これで、話をしてくれるのか?」


「聞くだけなら聞こう」


「オレはソラの……その……友達だ。フルスロックの街で、ソラによく世話になってた。けど、急にソラのやつがいなくなって、ここにいるかもと思って……」


「先ほども言ったが、娘の名を言ったところで取り合う理由はない。素性も知れん人間を信用することなどできない」


「オレの名前は……」


「名前など意味がない。言葉などいくらでも偽れる」


 ライトシュタインは警備たちに目配せする。


「この者の身柄を確保しろ」


 警備たちは剣を一斉にクロコに向けた。剣に囲まれるクロコ。


「く……!」


 クロコはライトシュタインの目を見る。


「頼む! 信じてくれ!!」


「何の理由があって信じろと?」


「じゃあ……どうすれば信じてくれるんだよ!!」


「君が何をしたところで、私を信じさせる要素になどなり得ない。ただ確かな事は、剣を持った女が、庭の入口で警備を殴り倒したという事実だけだ。信じることができるはずもない」


「クソ……」


(なんてオッサンだ。ソラの父ちゃんとは思えねー……!!)


 警備たちは一斉に刃をクロコに近づけてくる。


(クソ……素手だが……やるしかないのか)


「やめて!!」


 突然、高い声が響いた。

 皆がその声の方向を一斉に向いた。

 クロコの背後、門の外側に一人の少女が立っていた。

 年齢十五、六、白い髪に、ぱっちりとしたきれいな目をした少女だ。

 ソラ・フェアリーフが、屋敷の外の道に立っていた。

 ソラは無表情で、ライトシュタイン将軍を見つめていた。


「三年ぶりですね……お父様」


 ライトシュタイン将軍は表情を変えず、ソラを見る。


「ソラか……」


 クロコを挟んで、二人は静かに見つめ合っていた。







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