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4-19 守る者




 弱い雨が降っていた。

 セウスノールの東の荒野、そこにある国軍の本陣。


「動ける兵士はどんどん行けー!! いまより総力を上げて解放軍を潰しにかかるぞ!!」


 国軍の上官の声が響き渡る中、本陣にいる兵士達は次々とセウスノールの街に向けて駆け出していく。

 遠くから無数の爆音が響く中、その本陣へスコアがレイアを抱きかかえた状態で姿を現した。レイアは意識を失っていた。

 スコアはゆっくりと本陣の中心付近へと進んでいく。そんな中だった、


「スコア…………」


 レイアが薄く目を開けて、スコアの名を呼んだ。


「レ、レイア!? 良かった……気がついたんだ。具合は大丈夫? どこか悪くない?」


「うん……大丈夫」


 スコアはレイアの様子を見てホッとする。


「立てる?」


 スコアがそう質問すると、レイアは小さくうなずいて、スコアの手から下りて、地面に立った。


「大丈夫?」


「うん……」


「レイア、すまない。ボクはすぐに戦場に戻らないと……」


「うん……」


「ここから動かないでね。絶対に動かないでね」


 その言葉を聞いて、レイアは小さくうつむいた。


「……ごめん……ごめんね、スコア」


「そう思うなら、絶対に動かないで。もう、危ない行動はしないで……約束してくれる?」


 スコアはレイアをじっと見つめた。するとレイアもスコアを見つめる。


「約束する」


 それを聞いてスコアはほほえんだ。


「ねぇ、スコア。スコアも約束してほしい」


「何を?」


 レイアはスコアをジッと見つめた。


「必ず戻ってきて」


「ああ、約束する。必ず戻ってくる」


「うん……」


「必ず戻ってくる、だから、安心してここで待っていて……」


「分かった。わたし、ここで待ってるから」


「うん」


 スコアはもう一度ほほえんだ。そしてセウスノールの街に目を移す。その表情は真剣なものへと変わった。

 スコアは戦場へ向けて駆け出した。



 赤い平屋根の建物が立ち並ぶセウスノールの街並みに、弱い雨が降りしきる。


 そこでは、全ての兵力を投入した国軍が、一気に解放軍を攻め落としにかかっていた。

 南、中央、北の三つの大通りから攻める国軍の攻撃は、激しさを増していく。


 北の大通りでは、次々と襲い来る国軍兵をミリアが次々と斬り伏せていた。レイデルに受けた傷口の痛みに耐えながら、息を乱し、必死で剣を振るう。

 ミリアの活躍で、解放軍は国軍の激しい攻撃に何とか対抗していた。


 南の大通りでは、国軍の剣兵の集団が次々と解放軍兵を斬り伏せ、基地へと迫っていた。


「よーし、基地は目の前だー! どんどん進めー」


 先頭の兵士がそう声を出した、その時だった。兵士達の目に、前方に立つ一人の解放軍人の姿が飛び込んできた。

 その軍人の存在に気付いた途端、国軍全体が足を止めた。

 その軍人の左手には巨大な黒剣が握りしめられている。


「ま、まさか……」


 グレイ・ガルディアが国軍の前に立ちはだかる。


「く……『黒の魔将』……」


 ガルディアは国軍の群れに飛び込んだ。その直後、数人の国軍兵が宙を舞う。


 ギュォンギュォンギュォン!!


 ガルディアが黒剣をひと振りするごとに、数人の剣兵が血しぶきと共に弾き飛ばされる。

 すぐに銃兵が構えるが、一瞬で間合いを詰められ、あっさり斬り伏せられる。砲兵部隊が仕留めようとするが、大砲ごと斬り伏せられる。


 大通りの中央でガルディアは鬼神の如く暴れまわった。国軍からは次々と兵が送られてくるが、瞬く間に斬り伏せられていく。

 そのあまりに激しい攻撃に、国軍兵達はガルディアを目の前にしたまま動けなくなっていった。


「ば、化けものだ……」


 一人の兵士がそうつぶやいた。



 ミリアとガルディアによって、左右のルートは何とか守られていた。

 しかし、中央のルートからはどんどん国軍が進行する。もっとも広い中央通りには、もっとも多くの国軍兵が投入され、解放軍は為す術なく攻め込まれていた。

 それによって徐々に混乱していく解放軍。

 その混乱はついに基地内にまで伝わってきた。

 兵士達が騒がしく走り回る基地内に、傷だらけのクロコ・ブレイリバーは何とか戻ってきていた。ヨロヨロと歩きながら医療班のいる場所まで向かう。

 クロコの回りを兵士達の混乱の声が飛び交う。


「中央が押されてるぞー!」

「いいから動けるやつはどんどん行け!! このままじゃ攻め落とされるぞ!」

「大砲はもうないのか!!」


 兵士達の大声が響く中、クロコはケガ人の集まる、広間の端へと歩いていった。その時クロコは見た。多くのケガ人達が並べさせられている中に、深い傷を負い寝ているサキの姿を。サキだけではなかった、フロウやアールスロウの姿もあった。皆がすでに動けないほどの傷を負っていた。それを見てクロコは辛そうに眉を寄せる。


 広間へランクストン総司令が下りてきた。


「中央が押されているぞ!! 今基地にいる者はすべて中央へ向かえ!! このままでは落とされるぞ!!」


 ランクストンは並々ならぬ形相で大声を上げながら広間を歩く。


「中央さえ……中央さえ守り切れば勝てるんだ!! 誰か……誰か止められる者はいないのか!! ディスクはどこへ行った!? スロディーンは!? アールスロウは!?」


 ランクストンの緊張はそのまま、今の深刻な状況を反映していた。


 動けないケガ人達の表情が見る見るうちに不安に染まっていく。



 そんな中、ソラは混乱する広間を、不安げな表情で廊下からのぞき見ていた。

 ふと広間を歩くクロコの姿を見つける。包帯をぐるぐるに巻き、ひどいケガをしていることが一目で分かった。


「クロ!!」


 ソラはクロコに駆け寄った。


「クロ……こんな……ひどいケガ……」


 ソラはもう涙声になっていた。


「大丈夫だ、もう応急処置は済んだ」


 クロコはそう言って、基地の外へと歩き出そうとする。それを見てソラがクロコの服の袖をつかむ。


「待ってクロ! どこに行こうとしてるの!?」


「……中央通りに行く。いま大変らしい」


「ダメだよ! ひどいケガしてるじゃん! 死んじゃうよ!!」


 ソラは泣きわめくような声で言った。


「それでも、行かなきゃ、ここが落ちちまう」


「行かないで……お願いだから」


 その言葉を聞いて、クロコは一瞬黙った。


「……サキも、フロウも、アールスロウも、もう動けない。だけど、オレはまだ動ける。だから行かないと……」


「でも……だって……」


 ソラの目には涙がたまっていた。それを見てクロコはソラに向けて、ゆっくりと笑みを見せた。


「なあ、ソラ。オレ、元の姿に戻れたんだ。少しのあいだだけだったけど……」


 クロコは左手の甲を向けた。左手の白い指輪にはヒビが入っていた。


「たぶん、呪いに負けちまったんだな」


 クロコが指輪をチョンとつつくと、白い指輪は砕け散り、床へ落ちた。


「悪いなソラ。楽しみにしてたのに、おまえに元の姿、見せてやれなかった……」


「クロ……」


「でも大丈夫だよな。また、探せばいいんだ、呪いを解く方法を。それでその時、おまえに元の姿、見せればいいんだ。だから待っててくれ……ちょっと行って、すぐ戻るから」


「でも……」


「いつも言ってんだろ。オレが戻るのは当然だから、何も心配すんなって」


 クロコは再び歩き出した。袖をつかむソラの手が自然と離れる。


「守りたいんだ、ここにいる仲間も、おまえも、だから……行く」


 クロコは基地の外へと歩き出した。



 中央の大通りでは国軍が基地の目と鼻の先にまで迫っていた。


「進めー!!」


 駆けつける解放軍兵の集団をなぎ払い、国軍はどんどん基地へと迫る。


「あと少しだぞ! やつらの基地を攻め落とせー!!」


 その声が響いた直後だった。先頭を走る国軍兵の目に、中央に立ちはだかるクロコの姿が飛び込んだ。


 ヒュンッ!!


 一瞬だった。先頭の兵士をクロコが斬り伏せる。その直後、クロコから嵐のような斬撃が放たれる。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


 クロコの高速の斬撃は、辺りの剣兵を次々と斬り伏せていく。


「大砲だー! 大砲で仕留めろ!!」


 すぐに国軍の砲兵部隊が駆けつける。クロコに向かって無数の砲撃が放たれる。クロコはそれを紙一重でよけ、一瞬で間合いを詰めた。

 クロコは剣を振り回し、砲兵部隊をあっという間に全滅させた。

 体から血が飛ぼうが、息が乱れようが関係ない、クロコは必死で剣を振るい、目の前の敵を次々と斬り伏せていった。その猛烈な攻撃に、勢いづいていた国軍の前進が、ついに停まった。


「つ……強い」


 国軍兵の一人がそうぼやいた。

 国軍の集団を立ち塞ぐクロコの体からは炎のような強烈な気迫が放たれていた。クロコを囲む国軍兵達が一歩退く。

 クロコは剣を構え、国軍の集団をにらんだ、その時だった。

 目の前の国軍の集団が割れ、クロコの前にワイフ・レイズボーンが姿を現した。

 レイズボーンは濁った瞳でクロコをじっと見つめる。


「ずいぶん元気のいいのがいると思ったら、あなたでしたか」


 レイズボーンはニタリと笑った。


 セウスノールに降る雨が少しずつ強くなっていく。







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