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4-17 暗雲




 北の大通りを守護するミリアの前にレイデルが姿を現した。


 レイデルはミリアを見ながらニヤッと笑う。


「おまえ、『戦乱の鷹』ミリア・アルドレットだろ?」


 ミリアは表情を変えずレイデルを見つめる。


「誰だ、おまえ」


「オレはレイデル・グロウスだ」


「『消剣の騎士』か……」


「おまえは、オレをどれだけ楽しませてくれるんだろうなぁ……」


 ミリアは静かに剣を構えた。

 それを見てレイデルは笑みを浮かべる。


「やるか、よし……」


 レイデルは右に持っていた剣を左に持ち替えた。


「女だしな、ハンデとして……」


 レイデルが言い終わらないうちに、ミリアが一瞬で斬りつける。

 その速さに驚くレイデル。


「はや……!」


 ヒュンッ!!


 レイデルは斬撃をギリギリでかわす。ミリアは間髪入れず連続で斬り込む。


「うわっ! ちょ……待て……」


 ヒュヒュヒュンッ!!


 ミリアの斬撃の一つがレイデルの軍服をわずかに切り裂いた。レイデルは素早く後ろに飛んで距離を取る。それを追わずにミリアは足を止めた。


「すまない、話の途中だったな。……ハンデがどうだって?」


 ミリアは表情を変えずに言い放った。それを聞いてレイデルが苦笑いする。


「…………言い終わってないからセーフだろ」


 レイデルは左手の剣を再び右手に持ち替えた。


「見せてやるよ、オレの本当の剣を」


 レイデルは真剣な表情になり、剣を構えた。それに応じミリアも剣を構え直す。

 戦場で二人は静かににらみあっていた。

 先に動いたのはミリアだった。一瞬でレイデルの間合いに飛び込む。数発の斬撃が一瞬でレイデルに向かって飛ぶ。レイデルは素早い動きでそれらをかわすが、一発が肩をわずかに切り裂いた。


「チ……ッ!」


 レイデルは素早く距離をとる。

 離れる二人。


「どうした? 本当の剣を見せるんじゃなかったのか」


 ミリアのその言葉を聞き、レイデルはニヤッと笑う。


「もう見せたよ」


 ミリアの右肩から血が噴き出る。知らないうちに肩が切り裂かれていた。


「……!!」


 ミリアの表情が初めて変わった。驚きの表情だ。


「……いつ斬られたか分からなかったか?」


 レイデルはなおも笑っている。

 ミリアは少し険しい表情をして剣を構え直す。

 今度はレイデルが動いた。ミリアに向け一気に突進する。そのレイデルの動きにミリアは目を凝らす。レイデルが間合いに入った瞬間、ミリアはとらえた、レイデルの斬撃を。

 空間をまたぐような圧倒的速さの斬撃。その斬撃は今までミリアが見たどの斬撃よりも速かった。


 ヒュンッッッ!!


 レイデルの斬撃は空を切った。ミリアはレイデルの斬撃を紙一重でかわしていた。


「避けやがった!」


 レイデルは嬉しそうに笑う。素早く放たれるミリアの斬撃。


 ヒュンッ!


 反応し、避けるレイデル。さらに斬撃を放つミリア。それに応戦するレイデル。

 二人の間を雨のような斬撃のつぶてが飛び交い、はじける。

 斬撃の速さは明らかにレイデルの方が速かった。しかし、それ以外の全ての速さ……反応、体の動き、俊敏さ……それら全てはミリアの方が速かった。それにも関わらずレイデルは、斬撃の速さだけでそれを押し返した。

 常軌を逸した速度と速度のぶつかり合いが続く。


 その二人の高速の攻防は、戦場の中でしばしのあいだ繰り広げられた。しかし、その均衡は一瞬で崩れた。

 レイデルの斬撃の一つを、ミリアはとらえきれず浴びる。血が飛び、ミリアの脇腹が裂ける。その直後、レイデルもミリアの斬撃を浴びた。胸から血が噴き出る。

 二人は同時に距離を取った。


 ミリアは剣を構え直し、小さく息を吐いた、その直後、


「……ハハハ」


 レイデルは笑い出す。


「ハハハハハ、アッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」


 レイデルが大声を出し、狂ったように笑った。レイデルの赤い瞳が獣のように光る。


「そうだ! これだ! これを待っていたんだ!! 最高だぜ、ミリア・アルドレット!!」


 レイデルは目を見開き、ミリアを見る。わずかに戸惑った表情を見せるミリア。

 剣を構え直すレイデル。


「さぁ……せっかくだ。じっくり楽しもうぜぇ……」


 ミリアは冷静な表情に戻り、レイデルをにらむ。


「じっくり楽しむ気はない。すぐに終わらせてやる」


「いいぜ、その意気だ……」


 レイデルがそう言った直後、ミリアは動く。左右に動き、一瞬のフェイントを入れたあと、一気に斬り込む。反応が一瞬遅れたレイデルだが、斬撃速度で無理やり押し返す。


 ギィィンッ!!


 二人の剣が勢いよくぶつかった直後、再び高速の斬撃同士が、辺りを縦横無尽にはじけ飛ぶ。一発の斬撃がレイデルをとらえた。肩を切り裂かれるレイデル。しかし全くひるまない、笑みを浮かべ、構わずミリアに斬撃を放った。


 ヒュンッ!


 ミリアの腹が切り裂かれる。わずかに表情を険しくするミリア。

 レイデルは向かいくる斬撃に構わず、懐に向かって飛び込む。斬撃が体を斬り裂こうが、構わず突っ込み、斬撃を放つ。


 ヒュンッ!!


 レイデルの斬撃がミリアの首筋をわずかに切り裂いた。


「く……!」


 険しくなるミリアの表情。

 二人のあいだを無数の斬撃が飛び散った。

 レイデルが捨て身の攻撃を行ってくることで、二人の斬撃が次々と互いをとらえる。

 互角の攻防を繰り広げているにも関わらず、二人の表情は両極端だった。

 険しい表情をするミリア。楽しそうに笑うレイデル。

 互いを斬り合うギリギリの攻防が二人の間で繰り広げられる。

 二人の回りを血の粉末が舞い飛び続ける。


 そんな中だった。


 ドーンッ!!


 国軍の砲撃がレイデルの真後ろで爆発する。その爆風によって、レイデルの体がわずかに揺れた、その一瞬だった。


 ヒュンッ!!


 ミリアの斬撃がレイデルの脇腹を深く切り裂く。


「が……ッ!」


 レイデルの表情が一気に険しくなった。脇腹から大量の血が噴き出る。

 国軍からさらに数発の砲撃が放たれ、ミリアの回りを爆炎が包む。ミリアは素早く後ろに距離を取った。

 レイデルは背後をにらんだ。


「いらねぇ援護しやがって……クソ!! あとで殺してやる……!」


 レイデルは脇腹を押さえながら国軍兵の群れの中へと消えた。


 その様子をミリアは遠くで見ながら、小さなため息をついた。



 空に暗雲が垂れこめてきた、セウスノールの街が徐々に暗くなっていく。



 ミリア達のいる北の大通りより、さらに北、街の狭い石畳の道路の一つをディスクが率いる部隊が走っていた。ディスクの隣にはクロコの姿もある。


「おい、その兵を伏せてる林ってのはまだなのか?」


 クロコの問いにディスクが答える。


「もうすぐだ」


 すると、すぐに石畳の道路が途切れ、前方に林が広がった。林の前でディスクは双眼鏡を取り出し、遠くを見渡す。


「その予想したのガルディアだろ? 信じられるのかよ」


 ディスクの横でクロコがぼやいた、その時、


「ア、アレ!」


 兵士の一人が叫んだ。その兵士は南東の方角を指さしていた。クロコは南東を見る。空に不自然な白い丸い煙が浮いていた。


「発煙銃……国軍の合図か。どうやら本当っぽいな」


「いた!」


 ディスクが叫んだ。


「国軍の部隊だ! すぐ前方だ。街に入れるな!」


 ディスクは剣を抜き、走り出す。クロコ達もそれについていく。

 ディスクを先頭に林の中を走っていると、すぐに目の前に国軍の部隊が姿を現す。数百人の部隊だ。

 クロコは走りながら、それを見つめる。


「数は思ったより少ない……こっちと同じくらいか」


「散開!」


 ディスクの号令と共に、部隊は一気に広がり、林の中で国軍との戦いが始まった。


 無数の剣がぶつかり合う。


 その中でクロコとディスクは圧倒的な力を見せる。クロコは高速の斬撃を放ち、見る見るうちに国軍兵を斬り伏せる。ディスクも力と速さを兼ね備えた攻撃で国軍兵を圧倒する。

 しかし二人の活躍もむなしく、クロコとディスク以外の味方は倒れ伏し、気付けば二人が囲まれる状態になっていた。しかし敵の数もだいぶ減っていた。

 二人は一瞬背中をつけたあと、別れて国軍兵を次々と斬り伏せる。

 見る見るうちに国軍兵の数は減り、あと数人にまで減っていた。


「あと少しだ……」


 ディスクが目の前の兵士を斬り伏せ、その言葉を放った直後だった。疾風のごとき速さの剣士がディスクの前に現れた。


「な、何だ、この速さ……」


 ヒュンヒュンヒュンッ!!


 宙に大量の血が飛び散り、ディスクの体は力無く地面に倒れ伏した。


 クロコが目の前の剣兵を斬り伏せ、その方向を向いた、その時だった。

 クロコは見た、林に立つスコアの姿を。

 スコアは氷のような冷たく鋭い視線でクロコを見つめる。


「久しぶりだね、クロコ」


 無数の兵士の死体が並ぶ暗い林の中で、クロコとスコアは二人、向かい合っていた。







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