4-16 激闘
中央の大通り、そこの一角でアールスロウは剣を振るっていた。傷だらけの体に鞭を打ち、力強く剣を振るう。
国軍兵を次々と斬り伏せるアールスロウ。その前に長槍を携えたロウレイブが姿を現した。
「貴様は、『千牙の狼』ファイフ・アールスロウだな」
「君は何者だ?」
「アグレス・ロウレイブ」
「『一角獣』か……」
二人は同時に武器を構えた。
先に動いたのはロウレイブだった。間合いの長い鋭い斬撃。
素早く見切りかわすアールスロウ。すぐさまアールスロウは反撃に移る。美しく弧を描く鋭い斬撃。
ロウレイブは素早く反応しかわした。素早く槍を振るうロウレイブ。
それに対抗するアールスロウ。
二人のあいだを無数の斬撃がはじける。
その戦いの中、ロウレイブは軽やかのフットワークで戦う。対してアールスロウは無駄のない洗礼された足運びだ。その二人の間をはじけ合う斬撃は、軌道を次々と変化させる。曲がりくねる斬撃が二人のあいだを縦横無尽に駆け巡る。
共に高い技術を持つ戦士同士の戦い。
コンビネーション、軌道変化、フェイント、カウンター、二人のあいだで様々な技術の攻防が繰り広げられる。
その攻防の中、アールスロウはロウレイブの斬撃の一つを見切った。
キィン
ロウレイブの斬撃は受け流された。体勢を一瞬崩すロウレイブ。アールスロウは懐に飛び込んだ。
ヒュゥンッッ!!
アールスロウの強烈な斬撃はロウレイブの肩をわずかに切り裂いた。ロウレイブの表情が怒りに歪む。
「この……!!」
ロウレイブは素早く大振りの斬撃を返した。
ギィィィィンッ!!
アールスロウがその斬撃を受け止めた、その直後だった。
「ぐ……!!」
脇腹の傷から激痛が走り、アールスロウは思わす体勢を崩した。それをロウレイブは見逃さなかった。
ヒュゥンッ!!
ロウレイブの斬撃はアールスロウの体を切り裂いた。後ろに仰け反るアールスロウ。
「これで終わりだ!」
ロウレイブは長槍を振り下ろす。
ヒュゥンッ!!
ガァァァァンッ!!
突如、横から現れたスロディーンが長槍を力任せに弾き飛ばす。長槍はロウレイブの手を離れ、宙を回転しながら戦場へと消えた。
「しまった!」
ロウレイブは素早く後方へと逃げる。
「クソ、武器を失うとは何という不覚。無念……」
ロウレイブは国軍兵の群れへと姿を消した。
「動けますか、アールスロウ」
太い声を出し、スロディーンが手を差し出す。それを取りなんとか立ち上がるアールスロウ。
「ああ、なんとかな……」
「あなたはもう下がってください」
「だが……」
「もうその怪我では戦えないでしょう。あなたは十分戦った。あとはオレ達を信じて下さい」
スロディーンはほほえみを見せる。
「……すまない」
アールスロウは後方へと下がっていった。
それを確認しスロディーンは後方の解放軍兵に呼びかける。
「いくぞ、おまえら! ビルセイルド兵の力を見せてやれ!!」
「おおぉー!!」
中央大通りに掛け声が響き渡った。
南の大通り、そこでは聖騎士隊を中心とした国軍がどんどん進軍してきていた。
大通りを守る解放軍兵達は、次々と聖騎士隊に斬り伏せられていく。
「このまま基地を落とすぞ!」
先頭の聖騎士がそう声を上げた時だった。恐ろしく速い斬撃がその聖騎士に向けて放たれた。
ヒュンッ!!
血しぶきが舞い、聖騎士は大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。
他の聖騎士達は驚き足を止めた。
聖騎士隊の前にはミリア・アルドレットの姿があった。
「『戦乱の鷹』ミリア・アルドレットか」
聖騎士の一人がミリアをにらみつけた。
ミリアも聖騎士達を静かににらむ。するとミリアはその群れの中に一瞬で飛び込んだ。
ヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!!
ミリアから放たれる無数の斬撃の壁。聖騎士達はそれに一斉に反応して距離をとるが、二人の聖騎士が避けきれず斬り伏せられた。
「な……バカな!!」
驚く聖騎士達を尻目にミリアは一瞬で間合いを詰めていく。ミリアの恐ろしく速い斬撃は聖騎士を一人、また一人と斬り伏せていく。
その状況に聖騎士達は我が目を疑う。
「な……なんだこいつは!! ぐあッ!」
ミリアは人知を超えた身のこなしと斬撃で、聖騎士を次々と斬り伏せていく。ミリアの無数の斬撃の壁が消えた頃には、辺りにいた聖騎士は全員、石畳に倒れ伏していた。
その中をミリア一人だけが悠然と立っていた。
その光景を国軍兵も解放軍兵もただ呆然と立ち尽くして見ていた。
「おい……」
ミリアは解放軍兵の方を向く。
「ここの主力は片づけた。私は北の大通りの主力を片づけに行く。あとはおまえ達で何とかしろ」
ミリアはそれだけ言うと、サッと後方へ下がっていった。
中央の大通り、そこではビルセイルドのエース、スロディーンが暴れていた。馬のタテガミのような白髪を振り乱し、目の前の国軍兵を片っ端から斬り伏せる。
砲兵部隊がスロディーンを仕留めようとするが、爆炎にも全く動じないスロディーンはあっという間に間合いを詰め、大砲ごと砲兵をめった切りにする。
「こ、こんなやつどうすれば……」
剣兵の一人が怖じ気づきあとずさりをした、その時だった。
「どきなさい」
その剣兵をどかし、一人の剣士がスロディーンの前に現れる。
レイズボーンがスロディーンの前に立ちはだかる。
「あなたが『進撃の白竜』ロザン・スロディーンですか」
スロディーンはレイズボーンをにらみつける。
「白い将軍服……『七本柱』か。名は何と言う?」
「愚民に名乗る名はありませんねぇ……」
「……そうか、おまえは『灰の吸血鬼』ワイフ・レイズボーンだな」
スロディーンは大剣を構える。
「ここから先は通さん」
「ホゥ……」
レイズボーンはニタリを笑う。
「はぁ……!!」
掛け声と共にスロディーンは突進する。大剣を嵐のように振り回す。
ギュンギュンギュンッ!!
その嵐のような斬撃をレイズボーンは紙のようにユラユラと動き、あっさりとかわす。
「なに……!」
ヒュンッ!
スロディーンの腹が一瞬で切り裂かれた。
「ぐ……!」
スロディーンは一歩下がる。
レイズボーンはスタスタと歩くように間合いを詰めてくる。
それを見たスロディーンはギロッとにらみつける。
「この……!」
ギュンッ!
スロディーンの強力な斬撃。しかしユラリとかわされる。
「くっ……!」
ギュンギュンッ!
スロディーンは大剣を振り回す。しかしレイズボーンにはかすりもしない。
ヒュンッッ!!
スロディーンの斬撃に合わせ、レイズボーンから恐ろしく鋭い斬撃が飛ぶ。切り裂かれるスロディーンの右肩。
「う……うう」
よろめくスロディーン。顔にはわずかに恐怖が浮かぶ。
レイズボーンはニタリと笑いながら、ゆっくりと間合いを詰める。
「う……うわああああッ!!」
スロディーンは捨て身でレイズボーンに斬りつけた。
ヒュンッ!
宙に大量の血しぶきが舞い散ると共に、スロディーンの巨体は大きな音を立て、地面にうつぶせに倒れた。
石畳の床に大量の血がジワジワと広がる。
レイズボーンが、倒れたスロディーンから前方へと視線を移した、その時だった。
「……うう……う……こんな、ところで、倒れる、わけには…………」
倒れているスロディーンから、うめくような声が漏れた。
「おや、まだ息があったのですか」
ヒュンッ!
レイズボーンの剣が再びスロディーンの体を切り裂いた。石畳に血が飛び散る。
スロディーンはもうピクリとも動かなかった。
レイズボーンは再び、ゆっくりと前を向く。
「さあ、みなさん、前進しなさい。愚かな解放軍に制裁を加えるのです」
中央大通りを国軍が一気に進行する。
北の大通り、そこを進軍する国軍。その先頭にはコールが立ち、立ちはだかる解放軍兵を次々と斬り伏せる。
国軍は、コールを中心に解放軍を蹴散らしていく。
「そこまでだ!」
コールの前にフロウが立ちはだかる。
「またきみか……」
コールは足を止め、フロウの姿をじっと見る。フロウはすでに体の数か所が切り裂かれ、息もわずかに乱していた。
コールが冷静な表情で口を開く。
「もうボロボロじゃないか。それでボクに勝つ気?」
「じゃなきゃ、わざわざ出てこないよ」
「ふーん、まっ、いいけど」
コールは剣を構え、一気にフロウに斬りかかる。
ギィィィンッ!!
コールの斬撃を受け止めるフロウ。しかし剣圧でわずかに押される。
「く……!」
フロウは素早く後ろに跳んで距離をとると、体勢を立て直して斬りかかる。
フロウは高速の斬撃を連続で放つ。
ヒュヒュヒュヒュヒュンッッ!!
コールはそれを見切り、全て紙一重でよける。
ヒュンッ!!
コールのカウンターの斬撃がフロウをとらえた。血しぶきが飛び、膝をつくフロウ。
「く……!」
「もうキレがないね」
膝をついたフロウに向かってコールは容赦なく剣を振り下ろそうとした、その時、ミリアがコールの横から現れる。コールを襲う超高速の斬撃。
ヒュンッ!!
コールはとっさに後方に飛んだが、避けきれず右足がわずかに裂けた。
「なんだ……!?」
ミリアはコールに追い打ちをかける。ミリアは三発の斬撃を放った。その三発の斬撃は同時に放たれたと錯覚するほどの速さでコールを襲った。
ヒュヒュヒュンッッ!!!
コールはその斬撃を見切った、しかし体がついていかず、一撃を脇腹に受けた。
「く……!」
コールの脇腹から血が流れ、表情が険しくなる。
(スコア並みのスピード……冗談じゃない、こんなの一人じゃとても相手できない)
コールはサッと国軍の後方へと引いた。
ミリアはそれを見届けると、フロウの方へ目を向けた。
「動けるか、フロウ・ストルーク」
その言葉を聞いてフロウはヨロヨロと立ち上がった。
「な……なんとかね」
「なら下がれ、このケガでこれ以上の戦闘はもう無理だ」
「く……」
フロウは悔しそうな表情を一瞬したあと、素直にフラフラと後方へ下がる。
司令室にガルディアが飛び込んできた。
「オレを出させて下さい、ランクストン総司令!」
「またか、グレイ」
「もう我慢できません、ランクストン総司令! オレは出ますよ」
「前にも言ったように君は我々の切り札……」
「後手ばかり踏むのはもういいでしょう。こちらから動かないと」
ガルディアは前に進み出る。
「いまどこが、攻められてる?」
ガルディアは兵士の一人を軽くにらみながら聞く。
「え……と、南の大通りです。聖騎士達を倒してから、しばらくはしのいでいたのですが、再び崩れ始めて……」
「南の大通りか。では行ってきます、総司令」
「えーい、分かった、早く行け!」
ガルディアは走り去っていった。
セウスノールの東の石門付近、そこにファイナス少将の姿があった。それに気づいた国軍人の一人が話しかける。
「おや、ファイナス少将、戻られたのですか」
「ああ、この年齢で長期戦闘はさすがにこたえるな。レイズボーン少将と代わってきたよ。それより戦況はどうなっている?」
「こちらが有利に運んでいますが、もうひと押し足りませんね」
「もうひと押しか……伏兵の使い時かな」
北の大通り、そこではミリアが圧倒的な力を見せていた。ミリアは嵐のような斬撃で、向かってくる国軍兵を次から次へと斬り伏せていく。通りの道幅が少し狭いのも手伝い、ミリア一人で完全に抑え込んでいた。
そのあまりの強さに、国軍兵達が後ずさりし始めた時だった。ミリアに向かって、一人の国軍の剣士がゆっくりと歩み寄る。その剣士はニヤリと笑った。
「強そうなのがいるじゃねぇか」
レイデル・グロウスがミリアの前に現れた。