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4-15 聖騎士




 セウスノール東の石門から、国軍兵が次々と市街地へとなだれ込んでくる。

 それに対し、石門を入ってすぐの大通りで、待ち構えていた解放軍兵の部隊が応戦する。建物のすき間からの銃撃や、正面に並べられた大砲の砲撃が国軍兵を襲う。

 それにより、少しのあいだは国軍兵を足止めしていた。しかし、石門から次々となだれ込んでくる国軍兵によって、解放軍兵の部隊は、ついには切り崩されていった。


 広い石畳の大通りを国軍が進撃する。先頭にはファイナス少将が立ち、立ち塞ぐ解放軍兵を次々に斬り伏せていく。


「ここをまっすぐ進めばセウスノール基地だぞ!」


 ファイナスの掛け声と共に、国軍はどんどん大通りを進んでいく。しかし進むにつれファイナス少将はあることに気づく。


(守りが薄い……? ここを突破されればすぐに基地だというのに……)


「止まれ!」


 ファイナス少将は全軍を止める。


「ここより後退し、左右の大通りから基地を目指す」


 それを聞いて後ろの兵士達が驚く。


「し、しかし……」


「言う通りにしろ!」




 セウスノールの司令室に兵士が飛びこむ。


「総司令! 国軍が左右の北通りと南通りに進路を変更しました」


「なに! おのれ……中央通りの仕掛け爆弾に気づいたか。北通りには二番隊と三番隊。南通りには四番隊と五番隊……それとフルスロックの部隊を一部回せ!」



 国軍は北側の大通りと南側の大通りを、左右に分かれて遠回りに進軍する。対してセウスノール軍もそれに応戦する形で二つの大通りに部隊を構えた。


 戦闘が進むにつれ基地内は慌ただしくなる。その中でグレイ・ガルディアは基地の中で控えていた。  次々と出撃する兵士を落ち着かない様子で見ている。すると、基地内に戻ってきた一人に目がいく。

 アールスロウだ、体の何か所もが切り裂かれていた。


「ファイフ!」


 ガルディアがすぐに駆け寄る。


「大丈夫か」


「ええ、なんとか……」


「おまえがここまでやられるとは」


「少々厄介な敵につかまってしまったので……応急処置をしたらすぐに出ます」


「おい、無理するなよ」


「先ほどの戦闘に出てはっきり分かりました。多少無理をしなければ、この戦い勝てない」


 するとクロコも基地内へと戻ってくる。クロコは小さな傷が二ヶ所だけだ。


「クソ……大砲部隊に仲間が全部やられちまった」


 続いてサキとフロウも戻ってくる。

 アールスロウは戻ってきた三人を見る。


「サキ、フロウ。俺の応急処置が終わったら、一緒に南通りまで行くぞ」


「おい、オレもだ!」


 クロコがすぐに反応する。


「いや、君は残ってくれ、戦況が著しく変化している。君は状況が変化したらそれに応じて動け」


「む……」


 クロコは納得のいかない顔をする。


「期待してるぞクロコ」


 アールスロウはそう言い残して医療班の所へ歩いていった。



 北の大通り、そこを進む国軍部隊の先頭ではコールが鋭い斬撃で軍を率いていた。


「よし、これよりこちらの通りに進路変更する」


 指揮官の命令で国軍は狭い通りに進路を変更した。

 それに対し、コールが眉を寄せる。


(確かにそっちの方がショートカットだけど……広い通りを行った方が絶対いいのに)




 南の大通り、そこ一角では進撃する国軍を前にフロウが立ちはだかり応戦する。ロウレイブに受けた傷の痛みに耐えながら必死で剣を振るい、剣兵を斬り伏せていく。そんな中だった、フロウの目の前に一人の剣士が立ちはだかる。

 フロウは一瞬目を疑った。着ている服が違う。国軍のものでも解放軍のものでもない。

 赤い制服に白いマントを羽織った姿の剣士。しかしフロウに向かってくるところを見ると、どうやら敵のようだった。フロウもすぐに剣を構える。

 マントの剣士は鋭い連続の斬撃を放つ。


 ギィンギィンギィンギィンッ!!


 フロウとマントの剣士、二人のあいだを無数の斬撃がはじける。

 わずかに表情を険しくするフロウ。


(く…………強い)


 キィン


 マントの剣士はフロウの斬撃を受け流した。


「なに……!」


 ヒュンッ!


 マントの剣士の斬撃がフロウの体をわずかに切り裂く。


「く……」


 フロウは素早く反撃する、しかしヒラリとかわされた。すると横から全く同じ格好の剣士がもう一人、突然現れ、フロウを斬りつける。鋭い斬撃が飛ぶ。


 ヒュンッ!


 フロウの足がわずかに裂ける。


「な……なんだ!?」


 驚くフロウを尻目に、正面の剣士もフロウに襲いかかる。

 二人の斬撃がフロウを襲う。


「く……!」


 横の剣士の斬撃がフロウの動きに合わせて放たれる。フロウは素早く反応するが、直前で斬撃の軌道が変わった。


「しま……」


 マントの剣士の斬撃がフロウをとらえるであろうその瞬間、アールスロウが現れ、斬撃を止める。

 アールスロウは正面の剣士をフロウに任せ、横の剣士に斬りかかる。

 アールスロウの素早い斬撃。マントの剣士は素早く反応するが、途中、斬撃は軌道を変え、突きへと変化した。それにもマントの剣士は反応しかわしたが、直後アールスロウの素早い蹴りがマントの剣士をとらえた。

 マントの剣士の動きが止まる。


 ヒュゥンッ!!


 アールスロウの剣はマントの剣士を切り裂いた。

 地面に倒れるマントの剣士。


「アールスロウさん……こいつらは……」


 もう一人の剣士と戦いながらフロウが聞く。


「おそらく聖騎士隊だ。一人ひとりが強いぞ、注意しろ」


 アールスロウがそう言った直後、さらに三人の聖騎士が現れる。


「く……ッ」


 四人の聖騎士の斬撃が二人を襲う。


「フロウさん、アールスロウさん!」


 サキも助けに入る。しかしさらに三人の聖騎士が現れる。


「くっ……下がれ! 囲まれるぞ!」


 アールスロウがそう言った直後だった。聖騎士の斬撃がサキをとらえた。宙に大量の血しぶきが飛ぶ。


「ぐ……あ……」


 小さな声を漏らすと共に、サキは体勢を崩した。


「サキ……!」


 アールスロウとフロウがすぐに助けに向かおうとする、しかし別の聖騎士達に阻まれる。

 サキの前に立つ聖騎士からとどめの斬撃が放たれた。


 ヒュンッ!





 ギィンッ!


 聖騎士の斬撃は阻まれた。サキの目の前には特別戦闘部隊の隊長リーク・ディスクが立っていた。

 突然の新手に聖騎士が驚いた一瞬の隙に、ディスクは懐に飛び込む。


 ヒュンッ!


 ディスクの高速の斬撃は、一瞬で聖騎士を斬り伏せた。素早く別の聖騎士達が囲もうとするが、


 ヒュンヒュンッ!!


 ディスクから速さと力を兼ね備えた強烈な斬撃が放たれる。聖騎士達は後方へと押し返される。

 ディスクはアールスロウ達の方を見た。


「君達は下がれ。聖騎士は我々、特別戦闘部隊が引き受ける」


 ディスクの後ろには数十人の剣士が構えていた。


「ですが……」


 フロウがすぐに言い返そうとするが、


「よせフロウ」


 アールスロウがフロウを止めた。


「ここは彼らに任せよう。俺達は別ルートのフォローだ」


 アールスロウは動けないサキに肩を貸し、フロウと共にその場から離れる。途中、フロウはチラッと後ろを見る。敵の後方には四十人以上の聖騎士が控えていた。フロウはグッと歯嚙みした。


(クソ……このレベルの戦場じゃあ僕はほとんど役に立てない)




 司令室に兵士が駆け込んでくる。


「ランクストン総司令。敵は中央大通りの仕掛け爆弾を処理し、中央にも進軍を開始しました!」


 それを聞いたランクストンは険しい顔をする。


「く……第一部隊とビルセイルドの軍をすべて動かして止めろ!」


 ランクストンがそう言った直後、今度はガルディアが飛び込んでくる。


「総司令。そろそろオレが動いてもいいでしょう!?」


 ガルディアは落ち着かない様子だ。ランクストンはイライラした表情でガルディアを見る。


「君はまだだ! 君は我々の切り札だぞ。ぎりぎりまで動くな!! 早く広間に戻れ」


 ガルディアはしょんぼりして外へ出ていった。



 広間ではアールスロウ達が戻ってきていた。動けなくなったサキを医療班に預けて、再び出撃しようと外へ向かう。


「フロウ、君は北の大通りを頼む。俺は中央へ行く」


「了解しました」




 激戦が続くセウスノールの街。その一角を一人の国軍の若い剣士が歩いていた。


「ふんふんふ~ん」


 その剣士は鼻歌を歌いながら、まるで散歩でもするかのような軽い足どりで歩いている。


「うおおおおおお!」


 前方から解放軍の剣兵が二人、かけ声を上げ、その剣士に斬りかかろうとする。しかし、直前で解放軍兵二人の体が突然裂ける。

 大量の血しぶきが上がり、二人の解放軍兵はグラリと傾いて倒れた。

 レイデル・グロウスは片手で剣をぶらぶら揺らしながら、通りの一角を歩いていた。


 レイデルの背後には切り裂かれた解放軍兵の死体が無数に横たわっている。


「さぁーて、オレが楽しめる相手はいるかな?」


 レイデルは鼻歌交じりに戦場を散歩する。



 基地の司令室にディスクが入ってくる。


「……今戦況はどうなっています?」


 ランクストンが声を上げる。


「ディスク! 聖騎士隊は片づけたのか?」


「すみません、半分以下まで減らしたのですが、無理でした。オレ以外の隊員は全てやられました。今は砲兵部隊がなんとか抑えているのですが、長くは持たないでしょう……」


「く……」


 ランクストンは険しい表情をする。


「それより戦況は?」


 ディスクは机の上の地図を見る。地図の上には様々な印が付けられている。


「中央と北の大通りも押され始めていますね…………ん?」


 ディスクは何かに気づく。


「北通りを進む敵、なぜこの進路で移動しているんでしょう。あちらの道の方が広いのに……」


 ランクストンが答える。


「こちらの方がショートカットだからだろう。スピードを優先しているんだ」


「いや……押してる以上、大回りしてでも物量で攻めた方が圧倒的に有利だ。この敵の選択はおかしい……」


 ディスクは司令室にいた兵士の一人に顔を向ける。


「ガルディアさんを呼んで来てくれないか?」



 間もなくガルディアが司令室に入ってくる。


「なんです、出撃ですか?」


「ガルディアさん、ちょっとあなたに意見を聞きたくて」


 机の前のディスクがガルディアに手招きする。

 机の地図を見るガルディア。


「北側の敵の進路なんですが、どう思いますか?」


 ディスクに聞かれて、ガルディアは頭をかく。


「これは……んー、要するに、解放軍に北側に来てほしくないんだな」


「北側に来てほしくない?」


「ああ、こりゃあ…………まずいな、たぶん国軍は北東の林に兵を伏せてるぞ。すぐに動いた方がいいな」


「……!」


 ディスクは驚いた。すぐにランクストンの方を見る。


「総司令、いま動かしていい隊は?」


「あ、ああ、七番隊の第三~第六小隊を動かせる」


「……少し頼りないが、動くしかないか。万一に備えて、北側の守りも固めておいて下さい!」


 ディスクは駆け出し、司令室の外へ出た。



 広間に出たディスクは小隊を率い、そのまま基地の外へ出ようとした、その時だった、


「ん……?」


 広間の脇に座るクロコに気づく。


「クロコ!」


 ディスクの呼びかけに気づき、クロコは立ち上がって近づく。


「君は強いんだよな?」


「当たり前だ」


「そうか、なら君も来てくれ」


 ディスクと共にクロコは基地の外へ出た。







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