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4-10 怒りの剣




 夜のフルスロック、燃える建物の炎が石畳の道を照らす。その道の一角には二十人近くの解放軍兵の死体が血を流し転がっていた。

 その中で、クロコは立っていた。目の前にはレイズボーンが立っている。

 クロコはレイズボーンから放たれる不気味な気迫を感じ取り、何とか息を整え、臨戦態勢に入る。

 剣を構えるクロコ。

 それに対してレイズボーンは不気味に笑みを浮かべている。


「何とも心地いい……」


 レイズボーンは剣を片手に、ユラリとクロコに近づく。

 

「……!」


 クロコはそれを見て、素早くレイズボーンに斬りつけた。


 ヒュンッ!!


 クロコの高速の斬撃を、レイズボーンはユラリと紙のようにかわした、その直後、レイズボーンは斬撃を返す。その斬撃は恐ろしいほどの速さでクロコに向かって放たれた。


 ヒュンッ!!


 とっさの反応で後ろに跳んだクロコ。しかし避けきれず左肩がわずかに裂けた。


(クソ……なんて速い斬撃だ)


 レイズボーンはいまだに不気味に笑みを浮かべている。


「何とも懐かしい、ここを包む雰囲気、この高揚感。七年前を思い出す」


「七年前……?」


 クロコの心にレイズボーンの独り言が引っ掛かる。


「おい……」


 クロコはレイズボーンをにらみつけた。


「おまえは七年前、一体何をした……?」


 クロコの問いにレイズボーンはさらに顔を歪ませ笑う。


「ほう……あなたは私の思い出に興味があるのですか?」


 レイズボーンは濁った瞳でクロコを見つめる。


「この雰囲気、似ているのですよ。私の思い出の一つに」


 レイズボーンはニタリと笑う。


「スロンヴィアを燃やしたあの時に」


 クロコは思わず一歩退いた。目を見開き、呆然とする。


「おまえ……おまえが」


 クロコは歯をギリッと鳴らし、殺意に満ちた目でレイズボーンをにらみつけた。


「おまえがあれをやったのか!!」


 石畳の道にクロコの声が響き渡った。


「ふむ、あなたは……」


「オレは……スロンヴィアの生き残りだ!!」


「ほう、なるほど」


 レイズボーンは笑う。


「けれど一つ勘違いがありますよ。あれは私がやったのではなく、やらせたのですよ、部下に命令してね」


 その言葉を聞いたクロコは、自分の心臓が早く大きく鼓動し始めるのを感じた。息は小さく乱れ、胸から首にかけてが異様に熱くなるのを感じた。腕がガタガタと震える。


「殺してやる。おまえを……殺してやる」


 クロコの真紅の瞳は、かつてないほど怒りに燃えていた。

 その言葉を聞いて、レイズボーンは声を上げて笑った。


「あなたのような下衆が、私を殺す? 冗談としては面白いですね」


 クロコはもうレイズボーンの言葉など聞いてはいなかった。


「うあああああああッ!!!」


 クロコは叫ぶような声を上げ、レイズボーンに向けて斬りかかった。


 ヒュンッ!


 あっさりとかわすレイズボーン。

 しかし構わずクロコは剣を振り回した。狂ったように剣をブンブンと振り回す。

 レイズボーンはその斬撃を全てあっさりとかわす。


「まるで牛のようですね。所詮は農民の剣技、何とも品のない」


 ヒュンッ!


 レイズボーンから放たれた斬撃がクロコの腹を切り裂いた。


「う……!」


 クロコの体がわずかに傾く。それでもクロコは地面を踏みしめ立て直した。


「うああああッ!!」


 クロコはレイズボーンの懐に飛び込む。しかし、レイズボーンの斬撃がすぐさま飛んでくる。


 ヒュンッッ!!


 レイズボーンの剣はクロコの脇腹をとらえた。

 脇腹から大量の血が噴き出す。

 クロコは石畳に手をついた。体からは血が流れ落ちる。


「……クソ、クソ……チクショウ」


 地面に血が流れ落ちる中、それでもクロコは立ち上がろうとする。しかし、目の前のレイズボーンはすでに剣を振り下ろそうとしていた。


「さようなら、スロンヴィアの生き残り」


 レイズボーンが剣を振り下ろすその時、フロウが横から斬りつける。

 とっさに跳んでかわすレイズボーン。


「おや? まだ敵がいたのですか」


 フロウはレイズボーンに向け無数の斬撃を放つ。


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッ!


 フロウの斬撃を全てかわすレイズボーン。


 ヒュンッ!


 レイズボーンの斬撃がフロウの肩を切り裂いた。


「くっ……!」


 フロウは素早く距離をとった。


「強い……」


 フロウは険しい表情をする。

 レイズボーンは剣を構え直す。


「あなたはそこそこ剣を扱えるようだ。その剣技、貴族のものですね?」


「ああ、僕は元貴族だ」


「ふっふっふっ、なるほど元貴族ですか。よくも堕ちたものです」


「さあね、僕は堕ちたとは思ってないけど」


 その言葉を聞いてレイズボーンは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「まあ、どちらにしろあなた達の命運もここまでですよ」


 レイズボーンがそう言った時だった。


 ドォンドォンドォォンッ!!


 数発の砲撃がレイズボーンを襲う。フロウとクロコの後方には解放軍の砲兵部隊が駆けつけていた。

 それをレイズボーンは不機嫌ににらむ。


「やれやれ、次から次へと……」


 レイズボーンは自分の後方をチラッと見た。


「援軍が来ませんね。少し先行しすぎましたか……」


 レイズボーンは剣を下ろす。


「一度戻るとしますかね」


 レイズボーンはそのまま、走り去ろうとする。


「待て!!」


 クロコは叫んで、立ち上がろうとする。体からは血がボタボタと流れ落ちる。


「よせ! クロコ」


 フロウの制止も聞かず、クロコは立ち上がり、追いかけようとする。すぐにフロウが腕をつかむ。


「何をしてるんだ! クロコ」


「黙れ!」


 クロコは叫んだ。


「あいつは……あいつだけは……!!」


 クロコのただならぬ様子に、フロウはハッとした。


「……まさか、レイズボーン!?」


 フロウはそれに気づくと、今度はクロコを力づくで、羽交い締めにして止めた。


「クロコ、落ち着くんだ。今は、今の状態じゃ、戦えない。追っちゃいけない」


「黙れ! 離せよ!!」


 クロコは泣き叫ぶような声を上げた。

 体から、さらに血がボタボタと流れ落ちる。


「う……!!」


 クロコは激痛でその場にしゃがみ込んだ。


「クソ……」


 動けなくなったクロコにフロウは肩を貸し、その場をあとにした。


 大砲部隊にその場を任せ、二人は基地へ戻った。


 基地の広場に着くと、フロウはケガ人用のベッドの上にクロコを寝かせた。

 深い傷を負ったクロコはうつろな表情をしている。

 待機していたサキがそれに気づき近づいてくる。


「クロコさん!」


 サキは心配そうにクロコのケガの様子を見る。

 フロウが口を開く。


「大丈夫さ、傷は深いけど、命に別状はない。もともと生命力も強いから」


 フロウは広間の様子を眺めた。広間には多くのケガ人が寝ている。するとアールスロウが入ってきた。


(アールスロウさん……どうして広間に?)


 アールスロウは全体に聞こえるように大きな声を張り上げた。


「もうここは限界だ! この広間にいる者はすぐに馬車に乗り込み、セウスノールに後退しろ!!」


 そのアールスロウの言葉に広間がさわめく。


「急げ! 時間はそうそうないぞ!」


 広間の兵士や支援員は急いで動き始める。そんな中、サキがアールスロウに駆け寄る。


「後退って、なぜです!」


「もうここは持たない。いまならば安全に脱出できる」


「けど、まだ防衛線を守っている味方が……」


「ああ、だから俺や隊長達は最後まで残って戦う」


「そんな……そんなことしたら、アールスロウさんは……」


「大丈夫だ、むざむざ敵に命を渡す気はない。夜が更ければ、敵の攻撃はやむ可能性が高い。そこまでしのげば、あとは隙を見て脱出する。多少リスクはあるがな」


「…………」


 サキは一瞬黙った。しかしすぐにアールスロウの目を見つめ、敬礼した。


「どうかご無事で」


 アールスロウは敬礼を返した。


「セウスノールで会おう」






 クロコ、フロウ、サキを含めた広間の兵士達は馬車に乗り込み、西の通りからフルスロックを脱出した。


 途中クロコは馬車から、もう遠くなったフルスロックの街の姿を見た。

 見慣れた街並みは戦火によって、赤く燃えていた。

 クロコは幼い頃、ブレッドと共に旅立ったあの日のことを思い出した。







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