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4-9 炎の街




 フルスロック基地の司令室、そこに兵士が飛び込んでくる。


「来ました国軍です!」


 部屋にいたアールスロウが立ち上がる。


「規模は?」


「およそ50000」




 太陽が真上を照らす中、東の草原から横に広がった国軍の大軍勢が、フルスロックの石門に向けて行進する。

 それに対して、解放軍はフルスロックの東の砦と石門を守る形で布陣を展開する。その軍勢の規模は国軍の五分の一にも満たない。


 パンッ!


 国軍からの一発の信号銃と共に、巨大な軍勢は雄叫びをあげて走り出す。

 それに応じて、砦の大砲が国軍に向け無数に放たれる。

 砦を守護するベイトム隊長が声を張り上げる。


「撃て撃て撃てー!! とにかく撃て、撃ちまくるんだー!!」


 砦から絶え間なく放たれる砲撃。しかし国軍の巨大な軍勢の前ではあまりにも小規模だった。

 すぐに国軍の軍勢から何倍もの砲撃が返ってくる。あらゆる方向から降り注ぐ砲弾の嵐。

 砦はあっという間に爆炎に包まれた。

 砦と門を守る布陣も、国軍のはるかに上回る剣兵と銃撃と砲撃の前に為す術なく崩されていく。


「く……!! 後退だー!」


 ベイトム隊長の号令と共に、解放軍は後退していく。




「東の砦、突破されました」


 アールスロウは報告を聞き、険しい顔をする。


「早いな……。予定通り各防衛線に兵士を配備。各ルートを守護させろ」


 無人となった街では、バリケードを張った解放軍兵と、攻め入る国軍兵の市街地戦が展開される。街の所々で、剣と剣がぶつかり合い、銃撃が飛び、爆炎が上がる。


 フルスロックの街の所々から炎が上がり、黒い煙が昇った。その通りの所々で兵士の死体が転がる。



 基地の司令室には戦況報告の兵士が次々と入ってくる。


「ローズ通り突破されました!」


「ザンプル通りも突破されました!」


「北門の守りも突破されました。北側からも国軍兵が侵入して来ています!」


 アールスロウの表情が険しくなっていく。


「く……! ラッセル通りの防衛線は放棄、マール通りまで後退しろ!」




 基地内に待機しているクロコは、広間が徐々に騒がしくなっていくのを感じた。


(クソ……! 押されてるのか!?)



 司令室に焦った表情の兵士が入ってくる。


「ニス住宅街にある各防衛線が突破されました。国軍兵はもうすぐそこまで迫っています!!」


「落ち着け、その周辺の防衛線をすべて放棄、水道橋付近に兵士を集めろ」




 街の各地区で戦闘が繰り広げられる中、街を通る巨大な水道橋の真下の一角では特に激しい戦いが展開されていた。


「撃てー!」


 解放軍の無数の大砲が火を噴く。


 ドンドンドンドンッッ!!


 解放軍は水道橋の後方に大砲を並べ、道を塞ぐように砲撃を放つことにより、国軍を足止めしていた。

 無数の爆炎が道を覆う中、国軍の足は完全に止まっていた。


「クソ……!」



「よーし、この調子だ、このままずっとやつらをここに拘束するんだ」


 解放軍の砲兵部隊は砲撃を撃ち続け、国軍を止める。しかし次々と新しい国軍兵が駆けつけてくる。

 徐々に増してくる国軍の兵力。

 ついに国軍からの大量の砲弾の反撃により、解放軍の砲兵部隊は押されていく。


「く……耐えるんだ! なんとか耐えしのげ!」


 国軍兵の数は見る見るうちに増えていく。国軍の砲撃は激しさを増す。


「く……もういいだろう。下がれー!!」


 解放軍の砲兵隊が後退するとともに、国軍兵が水道橋の下へと押しかける。


「今だー!!」


 解放軍の小隊長の号令と共に、水道橋を支える柱が爆発した。

 その事態に国軍は驚く。


「な、なに!!」


 水道橋は巨大な音を立て崩れ落ち、国軍兵の大群を押し潰した。




「作戦成功しました」


 報告を聞いたアールスロウは静かにうなずく。


「よし、これでニック通りルートは封鎖した。ニック通りの兵士達を他の防衛線に回せ!」



 その後、解放軍は盛り返し、国軍の進行をストップさせた。



 長い攻防が続き、日がわずかに暮れてきた。


 アールスロウは静かに司令室のイスに座っていた。


(本部は一日足止めすればいいと言っていた。今日さえしのげば、ここの基地を放棄して、兵士達をセウスノールへ下がらせることができる。もうすぐだ、もうすぐ……)


「マール通り、突破されました!」


 兵士が入ってきて報告した。


(……!! 日が暮れてきたのに、まだ敵は攻撃を止めないのか)


「三番隊の第八小隊を向かわせろ!」


 別の兵士が入ってくる。


「アウトレン通り、突破されました」


 その報告にアールスロウはわずかに驚く。


「なんだと……!? あそこは三重の防衛線を張っていたはずだ」


「し、しかしあっさりと……」


「一番隊の第六、九、十小隊を向かわせろ! ポーセン通りの防衛線を守らせるんだ!」


「はっ!」


 アールスロウが命令を出してから少し経った時だった。


「ポーセン通り突破されました!」


「……!! どういうことだ!? 早すぎる。大砲部隊を二つ送ったんだぞ」


「し、しかし、あっさりと……」


「くっ……」


(ローツ地区の状況がおかしい……クロコとフロウを向かわせるか)


「二番隊の第一小隊と、三番隊の第五小隊を向かわせろ」


「ど、どこに防衛線を張りますか?」


「防衛線はいい! 積極的に攻撃して撃退しろ、と伝えろ!」


「はっ!」


 間もなく基地内に待機していたクロコとフロウの小隊に命令が下った。

 クロコはフロウを見る。


「おまえの隊と同伴か……偶然か?」


「さあね、今はかなり状態が混乱してるから何とも言えないね」



 クロコとフロウを含めた六十人の小隊は基地を出て、通りを駆ける。通りはすでに暗くなっていた。遠くを見ればオレンジ色の光が瞬き、大量の黒煙が昇っているのが見えた。


「クソ……ひどいな」



 しばらく駆けると小隊長の指示で足を止める。


「この周辺に国軍の部隊が進行しているはずだ。こちらは積極的な攻撃により、その部隊を迎撃する」


「この通りは道が途中三つに分かれますが、どうしますか?」


 フロウが聞いた。


「そうか、なら、ブレイリバーのいる隊、ストルークのいる隊、私が率いる隊の三つに分けて進行するぞ」


 再び駆ける小隊。

 途中の分かれ道でフロウのいる隊が分かれた。

 さらに進んだ分かれ道で、クロコのいる隊は小隊長の隊と別れる。


 クロコは二十人の兵士と共に通りを駆ける。

 しばらく駆けた時だった、前方から五十人近くの国軍の剣兵が突撃してくる。


「クソ、思ったよりいやがる」


 クロコは大剣を引き抜いて、先頭を駆ける。クロコはちゅうちょなく敵の群れに飛び込み、剣を振り回す。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


 国軍の剣兵は次々と斬り伏せられていく。

 クロコの回りでも剣兵同士の戦いが繰り広げられていた。クロコが剣を振り回す中、仲間の一人が斬撃を受け倒れた。クロコは思わず眉を寄せる。


「……くっ!」


 二人、三人、仲間が次々と倒れていく。

 クロコが最後の敵兵を斬り伏せた時には仲間はクロコを含めて八人になっていた。

 クロコが倒れた仲間に駆け寄ろうとした直後、大きな爆音と共に辺りが爆炎に包まれた。


「……!!」


 クロコは素早く前方を見た。国軍の砲兵部隊が遠くで構えていた。


「ヤロウ……!」


 クロコはすぐさま砲兵部隊に向け突進する。

 三発の近距離砲撃がクロコに向けて放たれる。クロコは素早い動きでギリギリでそれらを避ける。途中爆発による石の破片がほほに当たる。それにより、一瞬気を取られた時だった。


 ドォンッ!!


 火炎がクロコの視界に広がった。素早い反応で紙一重で避けるクロコ。


「あぶねぇ……!」


 クロコはそのまま砲兵達に突撃した。


 ヒュンヒュンヒュンッ!


 素早く砲兵達を斬り伏せるクロコ。

 砲兵部隊を倒したクロコは仲間の元に戻った。しかし……


「……!!」


 すでに立っている者は一人もいなかった。先ほどの砲撃で仲間はすべて倒れていた。


「おい……!」


 仲間の一人を抱き起して声をかける。しかし反応はない。


「……クソ」


 クロコは仲間をそっと置き、立ち上がった。

 クロコは回りを見た。見知った仲間がクロコを囲むように倒れていた。建物から炎が上がり、夜の闇を照らしていた。

 その時だった。

 クロコの心臓が嫌に高まり始める。どうしようもなく嫌な感じがした。

 地面に伏した見知った者。燃える建物、夜の闇。

 それに近い光景を、クロコは過去のどこかで見ていた。

 クロコの心の奥に眠る、嫌な何かが呼び起こされるような気がした。


 クロコは元来た道を駆け戻った。それほど速く駆けていないのに妙に息が上がる。心臓の音が耳の隣で聞こえた。

 クロコは小隊長と別れた地点まで戻ると、小隊長の隊が進んだ道を駆ける。心臓がどんどん高まっていく。

 クロコは感じていた、忘れていたはずの記憶が徐々によみがえってくるのを。

 燃える家、倒れる村人……炎を上げて燃える自分の家。

 クロコは息を乱しながら駆け抜けた。

 道の先のあるものを見た時、クロコは足を止めた。

 石畳の道には血が広がっていた。

 小隊長を含めた隊の兵士全てが道の上に転がっていた。体が切り裂かれ、息絶えている。

 それを見た途端、クロコの記憶の奥に眠る、最も嫌な記憶が呼び起こされた。



 クロコは、燃える部屋の中に、独りで立っていた。

 目の前には、血を流した父親と母親、そして妹が倒れていた。



 石畳の道をクロコは一歩退いた。


「いやだ……いやだ、いやだ」


 フルスロックの街の中、クロコはガタガタと体を震わせながら、ぼやくようにつぶやいた。

 その時だった。

 一人の剣士がクロコに近づいてきた。

 その剣士は白い将軍服を身にまとっていた。

 その男は年齢四十前後、ほおが少しこけており、整えられた灰色の髪に灰色の瞳、その瞳は冷たく、深く濁っていた。

 男は、顔を歪ませるほどにニタリと笑みを浮かべた。


「いい匂い、いい匂いだ。ここは私の好きな戦争の匂いに満ちている。なんとも心地いい。なんとも『快感』だ」


 七年前、スロンヴィア虐殺を起こした張本人、レイズボーンがクロコの目の前に立っていた。







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