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4-8 戦いの始まり




 フルスロック基地の司令室、そこでガルディアとアールスロウは向かい合って立っていた。二人はともに緊迫した表情をしている。

 ガルディアが口を開く。


「フルスロックが……ここが戦場になるのか」


「ええ、距離を考えると、今日からおよそ一週間後、国軍がこの街に現れるでしょう」


「ついに、ここが戦場になるのか」


「北部地区、および中部地区のほとんどの解放軍基地はすでに放棄したようです。ビルセイルド基地も間もなく放棄するでしょう」


「そうか……」


「俺達はこの基地で、国軍の大勢力を受け止めなければならない……」


「……すまない、ファイフ」


「……?」


「戦闘中、オレはフルスロックにいない」


 アールスロウは驚いた。


「どういうことですか?」


「今日の早朝、本部から連絡がきたんだ。国軍の動きがつかめ次第、セウスノールに向かえってな。どうやら本部はオレをセウスノールに置いておきたいようだ」


「……そうですか」


 アールスロウは険しい顔をする。


「すまないなファイフ。こんな時……こんな時だって言うのに、おまえにここを任せることになる……」


 ガルディアは辛そうに言った。


「いえ、解放軍におけるグレイさんの存在を考えれば当然の処置です。あとは俺に任せて下さい」


「すまない」


「いえ、いつものことなので、もう慣れましたよ」


 アールスロウはほほえんだ。


「生き残れよ。ファイフ」


「はい」






 夜のフルスロック基地、その治療室のベッドの上で、クロコは一人、灰色の天井を見つめていた。


「クロコ」


 突然自分を呼ぶ声がした。見るとガルディアが近くに立っていた。


「クロコ。ここはもうすぐ戦場になる」


「……!!」


 クロコは驚いた。


「ここが……」


「ああ、だが、オレはここにはいれない。明日、セウスノールに向かわなきゃならない」


 ガルディアは辛そうな表情をしていた。その様子を見てクロコは思わず黙る。ガルディアの口元がゆっくりと動く


「クロコ…………オレは……」


 ガルディアは何かを言いかけたがやめた。少しのあいだ黙り、再び口を開く。


「クロコ、生き残れよ」


 ガルディアはそれだけ言うと背中を向けた。


「セウスノールで会おう」


 ガルディアは立ち去っていった。





 北部の元解放軍領のとある町、そこの大通りで、多くの国軍兵が座り込んで食事をしていた。

 その中に、一人の少年軍人が座っている。

 その少年は年齢十四、五、少しねた茶色の髪に、青い瞳。幼い顔立ちをしているが、落ち着いた雰囲気を持っている。

 スコアの基地の仲間コール・レイクスローだ。

 そのコールに数人の若い兵士が近づいてくる。


「ようコール、久しぶり」


「あっ、みんなも来たんだ」


「ああ、だけどおまえも大変だな、もう一カ月近く基地に戻れないで」


「うん、早く戻りたいよ。そう言えばスコアも来てるの?」


「いや、まだだ、オレ達がシャルルロッドの第一便だからな」


「そっか、シャルルロッドからはどれくらいの兵士が来るの?」


「詳しくは分からないが、6000は硬いんじゃないか」


「そうか……きっとほかの基地もかなりの兵力を出してるんだろうね」


「ああ、それに精鋭ぞろいだろうな。聞いた話によればスコアのほかにも、レイデル・グロウスが来るって話だぜ」


「『消剣の騎士』か……。ボクの方は『七本柱』がいるって話を聞いたよ。すでにフルスロックに向かった軍勢に一人混ざってるって」


「へぇ、誰だ、もしかしてロストブルー将軍?」


「いや、あの人は議員だから、首都をそんなに離れられないよ。けど……」


 コールはほんの少し眉を寄せる。


「違う意味では、ロストブルー将軍ぐらい有名なやつさ」






 太陽が真上からフルスロック基地を照らす。

 クロコは基地の廊下を歩いていた。少し包帯を巻いている。

 向かいからアールスロウが歩いてきた。


「クロコ、怪我の具合はどうだ?」


「まあまあだ。それよりいつ始まるんだ」


「国軍が着くまで、あと数日と言ったところだ」


「そっか」


「クロコ」


 アールスロウはクロコの目をじっと見た。


「この戦い、あまり無茶はせず、生き残ることを優先しろよ」


「ふん、当然生き残るさ。けど、勝つためにはある程度無茶はするかもな」


「いや……この戦いは、勝てない」


「……!!」


 クロコは驚く。


「……どういうことだよ」


「フルスロック基地に集まる予定の兵力はおよそ30000。対して、向かってくる国軍の軍勢は50000。勝ち目は薄い。仮にある程度対抗できたとしても、すぐに、後方に控えている100000以上の軍勢が加わってくるだろう。どう戦おうとここは落ちる」


 それを聞いてクロコはアールスロウをにらんだ。


「アンタはもう、あきらめてるっていうのか」


「この戦いにおける我々の目的は、勝利ではない。セウスノールへと迫りくる国軍の戦力を少しでもすり減らすこと、及びセウスノールに戦力が集結するまでの時間稼ぎだ」


「……!!」


 クロコは一瞬呆然とした。そしてギリッと歯を鳴らす。


「負けるために戦えって言うのか!!」


 クロコの声が廊下に響いた。


「……違う、最終的に我々が勝つための戦略だ」


 アールスロウは冷静な口調だったが、わすかに表情が険しかった。


「だけど、オレ達がどう戦おうと、街を失うんだろ……!」


「…………」


「ガルディアもアンタも、この街を知れって言った。自分が守る街だからって。だけど、守れないじゃないか。失うしかないじゃないか」


 クロコは辛そうに声を出した。アールスロウは黙る。

 少しのあいだ静寂が流れたあと、クロコは再び口を開く。


「やっとここが好きになりかけてたのに……こんなことなら、こんな街の事なんて知らなきゃ良かった」


 クロコはそう言ってアールスロウを横切った。


「クロコ!」


 アールスロウが呼び止めた。クロコは背中を向けたまま、足を止める。


「街は人だ。人が戻れば街はよみがえる。だからこそ、生き残れよクロコ」


 クロコは何も答えず、また歩き出した。



 クロコが暗い表情で広間に出ると、ソラが近づいてきた。


「クロ!」


「ソラ……」


「まだその姿なんだね」


 ソラはクロコの姿を見ながら言った。


「おまえ最近そればっかだな」


「クロ、少し元気がないみたい」


「……別に大したことじゃねーよ。それより、なんでこんな時間におまえがいるんだ?」


 クロコがそう聞くとソラは少し辛そうな顔をする。


「ねえ、クロ。私もうすぐこの街から出ないといけないんだ」


「え……?」


「もうすぐここは戦場になるから、ここの住民はみんな避難場所に避難するんだけど、避難場所には住民全員おさまらないから、この基地の周辺の人はセウスノールに避難するんだって。私もすぐ、セウスノールに行かなきゃいけない……」


 ソラは少しさびしげな声で言った。


「そうか……」


「クロは……ここに残って、戦うんだよね?」


「ああ」


「気をつけてね」


 ソラはもう泣きそうな声になっていた。


「変な心配すんな。オレは当然生き残る。おまえこそ気をつけろよ」


「クロ……」


 ソラは自分の髪飾りに触れた。


「また……商店街をいっしょに歩こうね」


「ああ」


 クロコの返事の直後、広間に大声が響く。


「セウスノールへ行く者は、馬車に乗ってください!!」


「私、行かなきゃ」


「ああ、またな」


「うん、また……」


 ソラは馬車と共に街を去っていった。





 その数日後、フルスロックの東から、草原を踏みしめ、国軍の巨大な軍勢が姿を現した。







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