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4-7 ガルディアの特訓(後編)




 コツンコツンと廊下に足音が響く。

 アールスロウは基地の廊下を歩いていた。


(グレイさんの特訓が始まった。俺が依然やった時は三日で動けなくなったが、それを一週間……いくらクロコでも持つのか?)


 アールスロウは実技場の入り口から中をのぞく。その瞬間、アールスロウはそこで立ち尽くした。

 壮絶な光景だった。

 木製床は無数に裂け、白い壁の所々が砕けていた。実技場全体がすでにボロボロになっていた。

 二人の姿は実技場の端の一角にあった。

 ガルディアはすでにその場に座り込んでいた。そのすぐ近くには床に伏したクロコの姿があった。軍服は避け、体中が傷だらけの状態で、無気力に床にうつぶせになったまま動かない。

 アールスロウはしばらく固まっていた。


(これは……ひどい。俺の時以上だ…………それだけグレイさんも本気だということか)


 アールスロウはゆっくりと歩きだし、二人に近づきながら、もう一度クロコを見る。クロコはまったく動き出す気配がない。


(持つのか? 一週間も……)


 ガルディアはアールスロウに気づいて立ち上がった。


「ファイフ。ちょうどいいトコに来た。悪いがクロコを医務室まで運んでやってくれないか?」


「はい」


 アールスロウはクロコに近づいて様子を見る。かろうじて意識はあるようだ、ボーッとした表情をしている。


「動けるか?」


 アールスロウの質問にクロコは答えない。小さく首を振る。それを見てアールスロウはクロコに肩を貸し、なんとか立ち上がらせた。

 そのまま医務室まで向かおうと実技場を出ようとした時だった。


「クロコ」


 ガルディアが静かに呼びかけた。


「明日もやるからな」


 クロコの体がわずかに震えるのをアールスロウは感じた。


 その次の日も、ガルディアの特訓は続いた。

 クロコは死に物狂いでガルディアの動きに対抗しようとした。しかし、吹き飛ばされ、蹴り上がられ、殴られ、ときには木剣を叩きつけられた。床にへばるごとに、ガルディアは木剣を振り下ろしてきた。そんな勢いのまま、二日目が終わり、三日目が終わった。

 その間のクロコの寝床は個室ではなく、医務室となった。

 実技場のひどい荒れようが噂になり、フロウとサキが心配して見に来たが、ガルディアにすぐに追い返された。様子を見るのが許されたのはアールスロウだけだった。

 四日目の昼。仕事の合間に二人の様子を見に来たアールスロウは、その光景に思わず顔を歪めた。

 ガルディアと向かい合うクロコは、すでに立っているだけのような状態だった。目はうつろで、木剣は構えているだけで、体がフラフラと揺れている。


(……!! もう限界だ)


 アールスロウがそう思った時だった。クロコの体はふらっと崩れ、大きな音を立てその場に倒れた。


「クロコ!!」


 思わす駆け寄ろうとするアールスロウ。


「来るな!!」


 ガルディアがすぐに止めた。


「まだ特訓の途中だ」


 アールスロウは辛そうに足を止めた。その直後、クロコはヨロヨロと立ち上がった。剣を再び構え、真紅の瞳でガルディアをにらむ。


「そうだ、来いクロコ」



 その後も特訓は続いた。五日、六日と特訓は続いた。

 クロコの体はほとんどボロ布のようになっていた。それでもクロコは必死で食らいつく。はたから見ればただフラフラと動いているだけだったかもしれないが、それでもクロコは必死にガルディアと戦っていた。

 六日間のあいだ、クロコはすでに死に直面し続けた。

 そして一週間、夕日が実技場内を照らす中、静かにガルディアは口を開いた。


「終わりだ、クロコ」


 クロコは木剣を構えて、ガルディアと向かい合っていたが、その言葉を聞いた途端、その場に崩れ落ちた。

 クロコは小さく息をしながら、うつぶせにその場を動かなかった。表情には喜びの感情は一切なく、ただ無表情にこの地獄のような特訓の終わりを悟っていた。


「よくここまで頑張ったな、クロコ」


 ガルディアの言葉にクロコは答えない。答える元気は四日目の段階でなくなっていた。


「今は休めクロコ、少ししたら医務室に連れてってやる」


 ガルディアはそう言いながらその場に腰を下ろした。


「おまえはすげーよクロコ。よくここまで頑張ったな」


 するとクロコの口が小さく動く。


「どうして……あんたは、そこまでやったんだ?」


「ん?」


「あんただって……楽じゃなかったはずだ。どうしてそこまで……あんたはオレに……やってくれたんだ?」


 その言葉を聞いて、ガルディアはしばらく黙る。

 短い静寂が流れたあと、ガルディアの口が動く。


「死んでほしくないからだよ」


「…………それ、答えになってねーよ」


 クロコはそう言ったあと、その場で眠った。

 ガルディアはしばらくしてからクロコを医務室へと運んだ、そしてその足でアールスロウに特訓の終わりを伝えるために、司令室へと入ったその時だった。


「グレイさん!」


 アールスロウは緊迫した表情でガルディアに駆け寄る。


「ん? どうした」


「国軍が動き出しました」


「……! どう動いた?」


「国軍は現在、バブル山脈に沿って南下しています」


 その言葉を聞いたガルディアの表情に緊張が走る。


「南下……!! ってことは……」


「フルスロックが……ここが戦場になります」








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