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4-3 フルスロックバザール





「フルスロックバザール?」


 朝、基地の廊下でクロコは、ソラにそう聞き返した。


「うん、年に一度、この街に世界中の商人が集まって開かれる世界最大の大市場。それが今週末から始まるんだ」


「へぇ、そんなものがあったんだな」


「この街最大のイベントだよ! ねぇクロ、一緒に行こうよ」


「でもこの時期だろ。噂じゃ、ここが戦場になる可能性もあるっていうのに、そんなもの開かれるのか?」


「うん、そういう噂も聞くけど、でもここが戦場になる可能性は低いって見方が強いし、商人達にとっては年に一度の書き入れ時だからね」


「やれやれ、商人ってのはたくましい限りだな」


「まぁ、中には死活問題の人もいるわけだし」


「戦争どころじゃないってか」


「とにかくさ、週末一緒に行こうよ、クロ」


 ソラは積極的に誘うが、クロコの反応は薄い。


「気が乗らないな。どうせ人でギュウギュウ詰めだろ」


「もう! せっかくの大イベントなのに。それにクロ。クロのほしいものも見つかるかもよ」


「オレのほしいもの?」


「もう! しっかりしてよ! 神具のことだよ」


「……!!」


 クロコはハッとした。


「聞くところによると、神具を持った商人はセウスノールから東に向かったんでしょ。……てことは、このフルスロックバザールに顔を出す可能性がすごく高い。これはまたとないチャンスだよ!」


 ソラの言葉を聞いて、クロコは小さくうなずく。


「言われてみればそうだな」


「決まりだね」


 ソラはニコッと笑った。


 週末、フルスロックの大通りの隅にはたくさんの商人達の屋台店や、商品を並べた布がズラッと縦に並んでいた。大通りの端から端まで商人だらけだ。

 さらにその売り物目当ての客が通りを埋め尽くしている。その中にクロコ、ソラ、サキ、フロウの姿があった。


「す、すげぇ人だな」


 クロコは人の群れに半分埋もれながら声を出す。


「世界一の大市場だからね。いまは街中こんな感じだよ」


 フロウがサキにつかまりながら言った。


「神具を探すのもいいけどさ、せっかくだからいろんな店を回ろうよ」


 ソラが楽しそうに言った。


「そうですね、せっかくだから楽しまないと」


 サキもワクワクした様子だ。


「とにかく街はこんな様子だし、みんな、はぐれないように注意しようね」


 ソラはフロウを特によく見ながら言った。


「あ……うん」


 見かねたサキがボソッと口を開く。


「ソラさん、実はフロウさん、こう見えても十九才なんですよ」


「「えっ!?」」


 ソラとクロコが同時に驚く。


「オ、オレはてっきり同じ年か、年下かと……」

「私はむしろこの中で一番年下かと……」


 フロウは軽く咳をする。


「ご、ごめんね、フロウくん」


 ソラはフロウの頭をなでながら言った。素早く頭をそらすフロウ。

 フロウはクロコを見る。


「そういえばクロコ。セウスノールで聞いたっていう商人、なんか特徴とか聞いてないの? 探すにしてもなんか情報がないと」


「ああ、赤いひげを生やしたコウモリだ」


「……? 何の話」




 クロコ達はフルスロックの大通りを回る。様々な店が数え切れないほど延々と続いていた。服屋や花屋、飲食店、金属屋、ベル屋、はちみつ屋にチーズ屋。珍しい石を並べている店や、火薬を取り扱っている店まであった。


 花屋や服屋やアクセサリー屋ではソラがそれらを興味深く眺めていた。

 本屋では、ソラとフロウがパラパラと本を流し読みしていた。そのあいだ、サキはその様子をボーと眺め、クロコは飲食店の脇でネコとたわむれていた。

 不気味な生物の肉を売っている店では、店主とサキがドラゴンの話で盛り上がっていた。

 楽器屋ではフロウがフルートを少し演奏して見せた。

 チーズ屋ではクロコが気に入ったチーズを一切れ買って、分けてみんなに配った。

 剣屋ではソラ以外の三人がまじまじと剣一本一本を眺めていたが、フロウが小さく首を振るのを合図に一斉に店から離れていった。

 馬屋では、クロコが4m近くある馬車馬とにらみ合っていた。

 店を見るたび、クロコはその店員に呪い屋のことを聞いたが、情報は得られなかった。


「ダメだな……見つかる気がしねー」


 クロコががっかりしたように声を出した。それを見てフロウが口を開く。


「まぁ、確かに……。これだけ商人がいたんじゃあ、探すのも一苦労だよ」


「いったいどれくらいの商人がいるんだ」


 クロコの言葉にサキが答える。


「たぶん街のほとんどの通りで、商人が店を開いてると思いますよ」


「通り一つでこの人数だから、とんでもない数だろうね」


「普通に探したんじゃ見つからないね。そろそろ本格的に探さない?」


 ソラが三人を見ながら言った。


「でもどうやって探すんだ?」


「呪い屋って、やっぱり広い大通りで大々的には商売しづらいと思うんだ。だから主に路地を重点的に探そうよ」


 ソラがそう言うと、フロウが考えながら口を開く。


「路地が多い通りって言ったら…………ザンプル通りかな」


 その言葉を聞いてソラが口を開く。


「ザンプル通りかー。でもザンプル通りはここからじゃ遠いし、マール通り辺りがいいんじゃないかな。あそこのすぐ隣にはラッセル通りもあるし。時間も限られてるから、その二つを集中的に探した方が可能性は高いと思う」


「そうですね、探せる機会は今日ぐらいですからね」


 四人は大通りのすぐ近くのマール通りへと向かった。

 マール通りでは普段開かれている小さな店と共に、道ばたで商人達がチラホラと店を開いていた。


「手分けして探した方が効率がいいね」


 フロウが三人に向けて言った。ソラがうなずく。


「うん、じゃあマール通りの東と西、ラッセル通りの東と西をそれぞれ分担しよう」


「じゃあ僕がラッセル通りの東まで行くよ。あとクロコ、一緒にラッセル通りまで行こうよ」


「オレはどこでも構わねぇ」


「ならボクはここの東ですね」


「じゃ、私はここか」


「昼の鐘が鳴ったらいったんここに戻ろう」


「よーし! 頑張って探すぞ!」


 ソラが力を込めて言った。


「なんでおまえが一番気合入れてんだよ」


 クロコは少しあきれ気味に言った。

 四人はそれぞれ分かれていく。別れ際にソラがクロコに呼びかける。


「クロ! 迷わないようにね」


「余計なお世話だ。おまえこそ変なやつに襲われないように気をつけろよ」


 すると隣でフロウがボソっと口を開く。


「大丈夫だよ、すでに変なのが近くにいるから」


「オレのことじゃねぇだろうな」


 クロコは殺気立った。


 クロコはその後、フロウと別れてラッセル通りを回る。

 ラッセル通りに開かれていた店は大通りで見たものよりも地味でマニアックなものが多かった。

 石屋、ガラス屋、鉄くず屋などが並ぶ。クロコはその商人達に丹念に呪い屋について聞いて回った。しかし情報は全く得られない。


「クソ、全く見つかる気配がない」


 クロコはぼやいた。すると目の前にフロウが現れた。


「あれ? なんでおまえがココにいるんだ」


「君こそどうしているんだよ。ここは東側だよ」


「あれ? そうなのか?」


「君ね、ソラちゃんの心配が的中してるよ」


「それよりフロウ。おまえ見つかったか?」


「ううん、まだ見つからない」


「そうか……」


「でもまだ半分も回ってないし、せっかくだから一緒に回ろうよ」


 二人は一緒に探し出した。


「呪い屋って本当に珍しいんだな……」


「だろうね、僕は一度も見たことないし」


「二度見つけた事そのものが奇跡に近いのか……。店自体は恐ろしく目立つんだけどな」


「へぇ、なんか呪い屋特有の外装とかあるの?」


「ああ、黒いんだ」


「黒い?」


「とにかく黒いんだ」


「黒いか……あんな店みたいな感じ?」


 フロウが前方の真っ黒な店を指さす。


「ああ、あんな店…………」


 クロコの言葉が途切れた。


「あった!」


 クロコは大声を上げて、店に突進する。素早く店員の顔を見た。

 店主は男だった。丸い顔で小さく離れた目に丸い大きな鼻、赤いひげを生やしていた。まるで……


「赤いひげを生やしたコウモリ……!」


 クロコは思わず声に出す。

 突進して来たクロコに店主は驚いていた。


「な……何だい、一体……」


 クロコはゆっくりと息を落ち着かせる。遅れてフロウが隣に並んだ。

 クロコはゆっくりと口を開く。


「ここに……神具は売ってないか……?」


「売ってるよ」


 店主はスパッと答えた。

 その言葉を聞いてクロコはぐっとこらえるように平静を装う。


「指輪型の……?」


「ああ、指輪型だ」


 その言葉を聞いた直後、クロコは真紅の瞳をギラッと光らせた。


「見つけた!!」


 クロコの大声に驚く店主。


「見せてくれないか?」


 クロコの言葉を聞いて、店主は商品棚の一か所を指さす。


「これだよ」


 見ると、そこには白く輝く指輪が置かれていた。


「これが……神具」


「ああ、セイルティア。指輪型の呪具の呪いを浄化する神聖な指輪だよ」


「おっさん……これを……これをくれ」


 クロコのその言葉に店主はニコッと笑う。


「ああ、もちろんいいよ」


 店主は指輪を片手で持つ。


「350万バルだ」


 その店主の言葉にクロコは固まった。


「え……今なんて……」


「350万バル。この指輪の値段だよ」


 隣のフロウも呆然とする。


「高……」


「お、おい! いくらなんでも高過ぎるだろ!」


「神具ってのは高価な物が多いんだよ。金がないなら渡せないねー」


「く……! そんな大金持ってねぇよ」


「ごめんクロコ。今の僕じゃあ力になれない……」


 フロウは小さく言った。


「ないならあきらめるんだねー」


「く…………」


 クロコは険しい顔をする。

 フロウが少し考えたあと口を開く。


「すみません、僕らどうしてもそれが欲しいんです。足りない分のお金を何かで補充することはできないでしょうか?」


「補充?」


「僕らはフルスロック基地の軍人です。隣のクロコは特例で入軍した剣士ですし、僕もいろんな知識に精通しています。何かを手伝ったり、力になることで、なんとかそれを譲ってはいただけないでしょうか」


「うーん、とはいえ、350万分の働きとなるとねー…………待てよ」


 店主は屋台の裏から何かを取り出した。

 緑に輝くきれいな箱だ。


「なんだ、コレ?」


 クロコはその箱を見つめる。


「これはオレのひいひいじいさんの代から伝わる箱でね。だがどうしても開くことができない開かずの箱なんだ」


 店主は箱を揺らす。コトコトと何かが揺れる音がした。


「何かが入ってるんだ。しかし中身が分からない。じいさんも、オヤジもオレも中身が何なのか知りたい、お宝なのかガラクタなのか。だが、誰も開くことができない」


「何か鍵が必要なんですか」


「箱の中心を見てみな」


 箱の中心にはなにやら八つの回転盤が並んでいた。店主が回転盤を回すと0から9までの数字が刻まれていることが分かった。


「八つの正しい数字を並べ、その上のボタンを押すことで箱が開くらしいんだ」


「じゃあ全部のパターンを試せばいいんじゃないのか?」


「…………一億パターン。クロコ、百年かかっても無理だよ」


「その通り、だがヒントはある」


 男は箱の裏側を向ける。そこには数字が刻まれていた。


108647379773111553355771346891793


「三十三の数字……これがカギを開けるヒントですか」


「そうだ、だが今まで開けたやつはいない。百年以上我が家で伝えられているがな。オレの代になっていろんなやつに挑戦させたが、誰も開けたやつはいなかった」


「もし、これを僕らが開けたら……」


「ああ、この指輪をタダでやろう」


「ホントか、約束だぞ」


 クロコは確かめるように言った。


「でもクロコ、百年以上誰も開けられなかった箱だ。一筋縄ではいかないよ」


「でもそれ以外方法はねぇだろ」


「確かにね」


 フロウは箱を持って裏を見つめる。


108647379773111553355771346891793


「この数字の謎を解けば、箱が開けられる訳か……三十三……ちょっと多いな」


 するとクロコが口を開く。


「簡単だろ」


「えっ?」


「このヒントの三十三の数字の中に答えの八つの数字が入ってるのは確実なんだ。なら、まず端っこの八つの数字を入れて、そこから一つずつずらしていけばいい」


「それをやったやつはもういるぞ」


 店主がスパッといった。


「……だそうだよ、クロコ」


 クロコは少しうなる。


「……なら、後ろ端から逆の順番にずらして入れてやる」


「それをやったやつもいたなぁ」


 クロコがまたうなった。


「実際にやってみる! じゃなきゃ納得できねぇ!」


「やるのはいいけど、その前に数字を書き写させて。あっ、ペン貸してもらえますか?」


 店の端でクロコが箱にひたすら数字を入れてボタンを押している。カッカッカッというボタンが引っ掛かる音がひたすら響く。その隣でフロウは紙に写した箱裏の数字を見つめる。


108647379773111553355771346891793


 フロウは考える。


(完全にバラバラの数字……て訳ではなさそうだな。特に真ん中あたりに規則性が見える。けど、もしこの規則的な数字が答えなら、今やってるクロコの方法で開けることができるはずだ。でもおじさんの話では開かない。なら別の観点で考えるか、答えの数字は八つ、ヒントの数字は三十三。この二つの数字に関係があるのかも。まてよ)


「くそー! 開かねぇ」


 クロコが声を上げた。


「じゃあ僕にやらせて」


「分かったのか?」


「この紙を見てクロコ」


 紙には三十三の数字が並べ変えられていた。


「この三十三の数字を、答えの数字の八つごとに並べ変えてみたんだ。そうすると……」


10864737

97731115

53355771

346891793


「……これがどうしたんだ?」


「よく見て、一つだけ数字が浮き出てるだろう?」


「あっ、ホントだ」


「つまり答えは……」


33333333


 フロウは数字を入れてボタンを押した。


 カッ


 ボタンは引っ掛かった。


「……なわけねぇよな」


 クロコは冷たく言った。


「単純すぎんだよ。フロウおまえ実はバカだろ」


「だったら自分で考えろ!」


「いてててて、ほっぺをつねるな!」


 二人はまた考え出す。


「んっ!? まてよ……」


 フロウが声を出した。


「分かったのか?」


「いや……というより、ヒントの数字をもう一度見て」


108647379773111553355771346891793


「それがどうしたんだ?」


「1のあとに0がある」


「だから?」


「つまり、これは0~9の数字じゃなくⅰ~10の数字なんだ」


「あ……そうだな言われてみれば」


 クロコは間を置いてもう一度口を開く。


「だからって何なんだよ。これで解けるわけじゃないだろ」


「う……まぁね…………あっ! でも後ろ端から数字を入れるやり方は、修正が必要だよね」


「ああ、まあな。じゃあやってみるか」


 再びボタンがカッと引っ掛かる音が響いた。


 フロウはまた考える。


(1と0の数字が実は10だということが分かったところで、答えが出るわけでもないか。でもそうするとヒントの数字は三十二……答えの八つのちょうど四倍か……関連性は……)


 するとクロコが声を上げた。


「クソ! イライラする。この箱を斬っちまうか」


「ダメだよ。中身まで斬れたら元も子もないだろ」


「この数字の答えを考えるより、中身を傷付けずに箱を斬る方法を考える方がいい気がしてきた」


「やれやれ……」


 フロウはあきれた声を出したあと、再び考え始める。


(ヒントの数字が答えの数字の四倍……ってことは、ヒントの数字は四つ一組で、一つだけが本物……あとの三つがフェイクなのかも……。とりあえずその方向でやって見るか……)


 その後、フロウが色々と数字を並び替えて試したが、ボタンが引っ掛かる音が響くだけだった。


「クソ、ダメだあかねぇ」


 クロコの声と共に、フロウはガックリ肩を落とした。


「クロ、フロウくん?」


 突然二人を呼ぶ声がした。気付くと後ろにソラがいた。


「ソラ、なんでいるんだ」


「なんでいるんだ、じゃないでしょ。昼の鐘はもうとっくに鳴ってるよ」


「しまった、つい没頭しちゃった」


「いつまで経っても二人が来ないから、私が呼びに来たんだよ」


「ごめん、ソラちゃん」

「だけど指輪自体は見つかったんだ」


「……?? どういうこと?」


 二人はソラに今までの経過を説明した。


「ふぅーん、この箱をねー。ちょっと見せて」


 ソラがその箱を手にとって見る。


「さすがにお手上げだよ。まったく解ける気がしない」


「ついでに言うと33333333じゃないぞ」


「うるさいな!」


「分かった……かも」


 ソラがつぶやいた。


「えっ?」


「適当じゃダメだぞ。大体のことはフロウが試したから」


 クロコの言葉にソラはうなずく。


「うん、自信はある」


「じゃあソラちゃんはこのヒントの数字のどこに、答えが隠されてるって思ったの?」


「ううん、この数字内には答えはないよ」


「え……?」


「これは複雑な数字パズルだね。この数字内に答えがあるっていう先入観を持つと、まず解けないと思うよ。数字を見て」


108647379773111553355771346891793


「この数字を見て規則的な部分はどこだと思う?」


 その言葉にフロウが答える。


「真ん中あたりに規則的な数字が見えるけど」


「うん、その前に、端から見てくと……」


 ソラの言葉にクロコが答える。


「最初の四つの数字、10、8、6、4か……きれいに2ずつ減ってる」


「当たり、ここまで来ると四分の一は解けてる。つまりこれを離すと」


 ソラが紙に数字をサラサラと書く。


10864  7379773111553355771346891793


「……ってなるよね。この二つの数列から、ある形を生み出せるんだ」


「ある形?」


 フロウが数字をのぞきこみながら言った。するとソラが口を開く。


「左の四つの数字の合計」


「合計? 28……」


「右の数字の数は?」


「……28か」


「うん、左の数字に沿って、右の数字を振り分けると……」


7379773111  55335577  134689  1793


 クロコが数字を見ながら口を開く。


「……右から二つ目の列が特徴あるな」


「それだけじゃないよ。この全ての数列には規則性がある。そしてこの規則性がこの箱の答えになってる。まずは一番右の数列」


7379773111


 クロコは首をかしげる。


「……規則性があるのか? 7が多いのと1が並んでるぐらいしか……」


 するとフロウがハッとした。


「分かった。全部奇数だ」


「当たり、これがヒントの一つめ。次に右から二つ目の数列」


55335577


「これは見たまんまだよね」


「二つずつに並んだ数字か」


「うん、そして三つめ」


134689


 数字を見ながらクロコは頭をかく。


「…………これはバラバラに見えるけど……待てよ、この数字、右に行くほどどんどん増えてきてる」


「当たり、つまり右上がり」


「じゃあ最後は左端か……」


1793


「左端はね、このままじゃ分からないよ。これを考える前にこれまでのヒントをまとめてみないと。まずは全て奇数、二つずつ並んだ数字、右上がりの数字。この全ての条件を持った八つの数字を考えてみて」


 クロコは考えながら紙に数字を書く。


「…………11335577、11335599,11557799……えっといくつあるんだ?」


「まだいくつか候補があるよね。なら、最後の数列を見てみて」


1793


「あっ、使う数字か」


「当たり! その全てのヒントを満たす数字は……」


 ソラは回転盤を動かす。


11337799


 ソラはボタンを押した。


 カチリ


 中から鋭い音が響いた。


「開いた……」


 箱の中には光り輝く金属の結晶が納まっている。箱の裏には文字が彫られていた。


 真の答えとは物事の中になし

 物事を理解した先にあり

 箱を開けし知者の未来に幸あれ


 クロコは金属の結晶を見つめる。


「この金属は……なんだ?」


 店主は金属を手に取って眺める。


「見たことのない光沢だ」


 ソラはその店主の手に持たれた金属をまじまじと見る。


「この白い光沢……この金属はもしかして、サンティーンネシスじゃないですか」


「サンティーンネシスって、あの世界三大金属の……?」


「うん、間違いない」


「こ、これが世界三大金属の結晶」


 店主は小さい目を見開く。


「サンティーンネシスは、世界三大金属の中でも最も価値の高い金属です。この量だけでもたぶん数千万はすると思いますよ」


「数千……」


「箱は開けました。約束通り、指輪はもらっていいですか?」


「あ、ああ、もちろんだ」


「ありがとうございます」


 ソラはニコッと笑って言った。


「いやいや、こちらの方がお礼を言いたいくらいさ」


 店主は上機嫌だ。


「よっし! ついに手に入れたぞ」


 クロコは白い指輪を手に取った。


「……でどこにはめればいいんだ?」


 クロコがそう言うと店主が口を開く。


「その黒い指輪が呪具だろ? なら黒い指輪が右手人差し指だから、その逆、白い指輪は左手人差し指だよ」


「なるほどな」


 クロコはスポッと指輪をはめた。その様子を見てソラが驚く。


「えっ!? もうはめちゃった! 服に絞め殺されちゃうよ!」


 ソラの心配をよそに、クロコの身には何も起きない。


「……?? アレ、変わらない」


 クロコは呆然とする。


「お、おい!! どういうことだ!」


 クロコはすぐに店主をにらみつけた。


「こりゃあ、しばらくダメだな」


「ああ!?」


「いやな、神具には効くまでに時間がかかるやつがあるんだよ。体の中に溜まった呪いの力を、白い指輪の聖なる力が打ち消すのに少し時間がかかるんだなぁ」


「時間ってどれくらいかかるんだよ」


「オレの経験じゃあ、長いやつなら一ヶ月ってのがいたな。まぁ、神具が壊れてる様子はないし、呪いの力には対抗できてるな。まぁ気長に待てばそのうち解けるさ」


「く……なんだその適当な感じ」


 ソラがガックリと肩を落としながら口を開く。


「…………うん……まぁ、その場で解けてたら、服に締め付けられて大変だったし、逆に良かったと思うよ」


 その言葉にフロウがうなずく。


「うん、解けるって言うなら、あとは待つだけだしね」


「ま、まあ、そうだけどな……」


 クロコは気が抜けた様子だ。


「とにかく戻ろう。サキくんが待ってる」




 夕暮れの帰り道、ソラがクロコの白い指輪をのぞく。


「この緑色の光沢……素材はガーディアンだね」


「神聖な金属って言われてるよね」


 フロウも白い指輪を見る。


「そういえば、ソラさんが解いた謎って、そんなに難しかったんですか?」


 サキが興味深げに聞く。それに答えるクロコ。


「ん? 答えを聞けば単純だったような気がする」


 フロウが首を振る。


「いや、かなり複雑だと思うよ」


(少なくとも十秒眺めただけで解けるようなものじゃない。一体どんな頭してるんだか……チェスで勝てないはずだよ)


 クロコは白い指輪を見る。


「とはいえ、これで元の姿に戻れるな。自慢のパワーも取り戻せる」


 その様子を見てフロウが口を開く。


「でもなんだか僕はさびしいな。今の姿に慣れてるから」


「あっ、実はボクもです」


「私はなんか、久しぶりに再会した気分になるのかも」


「あとは全部こいつ次第……か」


 クロコは手を上げ、白い指輪を見つめる。

 白い指輪は夕日を浴びて淡くキラリと光った。







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