3-22 動き出す世界
グラウド中部のとある基地、そこの広間の一つ、純白の壁の広間にロストブルーが入ってきた。
するとそこに白い髪の軍人が待っていた。年齢二十代半ば、上に伸びた眉に鋭い目、どこかまじめそうな印象を受ける。
「お帰りなさい、ロストブルー将軍」
「やあ、ミッシュ」
「ご活躍なされたそうで」
「少し手伝っただけだよ」
「しかし大丈夫なのですか、北におられなくて……」
「私は軍人であると同時に議員だ。議員が首都を離れすぎてはいけないだろう? あとのことは若者たちに任すよ」
「そうですか、そうですね。ああ、そういえば、少し前にお客が」
「誰だ……?」
「ライトシュタイン中将です」
「そうか」
(『ダークサークル』……ついに動き出せるな)
「ミッシュ、少し外してもらえるかい?」
「えっ!?」
「そう悲しい顔をするな。悪いが内密な話なんだ」
「い、いえ、いいのです、ロストブルー将軍がそうおっしゃるのなら……」
「すまないね」
フルスロック基地の広場にいくつもの大型馬車が入ってくる。
クラット基地防衛戦に参加した兵士達が乗る馬車だ。
停まった馬車から大勢の兵士達が次から次へと降りてくる。出迎えに来た兵士よりも降りてくる兵士の方がはるかに多い。
そんな馬車から下りる大勢の兵士の中にクロコの姿はあった。ゆっくりと降りていく。
すると一人の人影が勢いよく近づいてくる。ソラだ。
クロコはその姿を見て思わず笑みを浮かべる。ソラが目の前に立ったその時だった。
パンッ!
ソラがいきなりクロコの頭を叩いた。
「いって! 何すんだよソラ!」
「何すんだよ、じゃないよ! なんでこんなに包帯だらけなの!! この前よりひどいじゃん!!」
「うっせーな、帰ってきたんだからいいだろ!!」
「全然よくないよ! このままじゃいつか死んじゃうよ!!」
「死なねーよバーカ!」
「バ……!! こっちは心配で……」
「帰ってくるんだから、する必要ねーって言ってんだろ」
「な……!! 何それ、クロコのバカ!!」
二人がギャーギャー言っている横をフロウとサキが通り過ぎる。
「どう? サキ君、久しぶりのフルスロックは」
「懐かしいです。馴染んだ空気がしますね。やっと帰ってこれた」
「帰ってこれた、か。でもね、この時間はそう長くは続かないよ」
フルスロック基地の廊下をガルディアとアールスロウが歩いていた。
アールスロウは深刻な表情だ。
「ついに三大前線基地の一角が落ちてしまいましたね」
「ああ、これで国軍はセウスノールへ向け一気に進行してくるな」
「二年続いた均衡がついに崩れ、この戦争が大きく動き出そうとしているのですね。しかも我々にとって不利な状況へ……」
「そう暗くなるなよ。ピンチとチャンスってのは裏と表さ。これがオレ達にとってのチャンスに変わるかもしれない」
「チャンス……ですか」
「まあどっちにしろ、この戦争が終わりへと向かっているのは確かだな」
「その終わりがこちらの勝利であることを、今は……信じるだけですか」
グラウドのとある地、そのとある建物のとある大部屋、大きな長机を大勢の者達が囲んで座っている。
「ついに動き出しましたな……この戦争が」
「『ダークサークル』を引き起こし、我々の計画もついに最終段階へと移行しようとしている」
「ああ、全ては我々の計画通り……いや……あなたの手のひらの上……というべきですかね」
その言葉と共に、机に座る者達が一斉に机の奥に座るある男の方向を見る。
奥に座るその男が口を開く。
「そう……全てのことは、先に続く我らの未来のために。破壊の後の再生、崩壊の後の創造……真に力ある者の真の支配」
男は静かに笑う。
「全ては我らの新たな国のために」
フルスロック基地の敷地内にある馬車置場の建物の一角。そこにフロウは独り立って、その建物の出っ張りの部分を見つめていた。
フロウはその場所を見つめながら、過去にクレイドとしたある誓いのことを思い出していた。
「また……一人になっちゃったよ。『真実』を探す仲間は君だけだったのにさ……クレイドのバカ」
フロウは悲しげに建物の出っ張りを見つめる。
「大切なものを全部失って……また大切なものを得たと思ったら、また失って……こんなこと……ばかりだよ」
すると一人の人影が近づいてくる。フロウはそれに気づいた。クロコだった。
クロコはフロウに気づくと足を止める。
フロウは笑いかけた。
「やあ」
クロコはフロウの横に並んだ。
「ここは……?」
クロコが質問するとフロウはほほえむ。
「ここで僕とクレイドは同志になったんだ。共に『真実』を探す同志に……」
「…………」
それを聞いてクロコは静かにその建物の出っ張りを見つめた。
するとフロウが口を開く。
「クロコ、僕は君に謝らないといけないことがある」
「……え?」
「クレイドが死んだとき、僕は君のせいのように言ってしまった。だけど、あの状況なら僕もきっと同じ判断をしていたと思う。君はただ、僕の命を必死で救おうとしただけだったんだ」
それを聞いてクロコは辛そうな顔をした。フロウはそんなクロコを見つめる。
「すまない、クロコ。そして……君のおかげで僕はこうして生きている。ありがとう」
「そんなこと……」
「いや、それだけだよ。それにこれはクレイドが望んだことでもある」
「…………」
フロウは建物の出っ張りを見つめる。
「クレイドはバカだよ。こんなに仲間を悲しませて……本当の大バカさ」
「…………なあ、フロウ。一つ聞いていいか?」
「なに……?」
「おまえとクレイドは何で、『真実』を求めてるんだ?」
それを聞いてフロウはほほえんだ。
「いいよ、教えてあげる」
そしてフロウは話した。
自分の過去と、話として聞いたクレイドの過去を。
それを聞いたあと、クロコは再び建物の方を見つめた。
「……そうだったのか」
「僕にとって、クレイドは唯一の同志といえる存在だった」
「…………」
「また……僕は独りぼっちになっちゃったよ」
「オレも、おまえの求める『真実』……一緒に探すよ」
「ありがとう……だけどクロコ、君には別の目的があるんだろう? 君は『光』を求めてる。なら、君はそれを目指すべきだ。今は、その気持ちだけで十分だよ」
「フロウ……」
「行こうか」
二人は歩きだした。クロコが少し前を歩く中、フロウは一人足を止め、振り返り、もう一度、建物の出っ張りを見つめた。そしてほほえんで、一言だけつぶやいた。
「ありがとうクレイド。君と出会えて良かった」




