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3-20 破壊の斬撃




 少し傾き始めた日の光が照らす中、大草原では解放軍と国軍の激しい戦いが続いている。そこから少し北、戦場から隠れた下り斜面の荒野の一角、クロコとフレアは向かい合っていた。


 クロコは殺気に満ちた目でフレアをにらみつけている。

 対してフレアは余裕の笑みを浮かべている。

 フレアが口を開く。


「戦う前に、少しだけ話を聞いてくれないか?」


「そんな時間はねぇ」


「そう言うなよ。すぐに終わらすから」


 フレアはそう言ったあと、一呼吸おいて再び口を開く。


「スコアを知ってるだろう?」


「……!」


「オレはあいつの友達さ」


 わずかに反応するクロコ。フレアは再び話し出す。


「オレもあいつもシャルルロッドって言う町の生まれでね。小さい頃からの友達さ」


 フレアはクロコの目を見る。


「きみの話もスコアに聞いた。直接そう言ったわけじゃないけど、スコアはきみのこと、大切な友達の一人だって感じてる」


「…………」


 クロコは少しだけ辛そうな顔をした。

 フレアはほほえんだ。


「だけど、もし戦場できみに会えば、スコアはきみを迷わず斬るだろう。あいつの仲間を守るって決意はそれだけ固い。だけどさ……」


 フレアはほほえんでいたが、黄色の瞳が少しだけ悲しげに光っていた。


「あいつはすごいやつだけど、友達殺して平然としてられるほど、強くはないんだ。だからさ……」


 フレアはなおもほほえんでいる。しかし、目に強い決意がこもる。


「あいつはオレの大事な友達だ。だからさ、スコアにきみは殺させない。きみを殺すのは…………オレだ」


 フレアはそう言ってユラリと斧を斜めに構えた。


「……さあ、やろうか」


 斧を構えるフレアを見て、クロコも剣を構えた。

 二人は真剣な表情で、互いににらみ合う。

 その直後、

 クロコが動いた、フレアに向けて突進する。クロコは素早いスピードでフレアに向け、一直線に駆ける。

 クロコはフレアの間合いに入った。

 

(……!)


 しかし、間合いに入ったにも関わらずフレアは斧を振らない。


(なんでだ……?)


 クロコは一歩一歩、フレアの懐に迫る。クロコがフレアを斬りつけるであろう、その瞬間、


 ギュオンッ!!


 フレアの斧が動いた。


(速い……!!)


 凶悪な速さでクロコに向けて一直線に斜めに振り下ろされる。その瞬間、クロコは気づいた。


(逃げ道が……無い!?)


 前後、左右、上下、どこにも逃げ場がなかった。絶妙な角度と、完璧なタイミングで振り下ろされる恐ろしく速い斬撃。

 クロコに残された手段は……


 ギィィィィィィィンッッッ!!!


 クロコは巨大な斧を剣で受け止めた。その直後、


「……!!」


 クロコの体は斧と共に高速で流れた。そしてそのまま地面に斜め方向に叩きつけられる。その瞬間、体が粉々になるような強烈な衝撃がクロコの全身に走った。

 クロコはそのまま、周りの土をえぐりながら、地面に長く長く引きずられた。


 止まるクロコの体。

 地面に横向きで倒れるクロコ。

 それを見つめるフレア。


「……死んだかな?」


 クロコはしばらく動かなかった。しかし、しばらくしてわずかに震える。


「……!!」


 声も出なかった。体全身に広がる深い鈍い痛み。剣による切り傷とは違う、鈍い暴力的な痛み。クロコはその痛みに声も出せない。

 その様子をフレアは見つめる。


「生きてるみたいだね。だけど……そのまま寝てる気? 友達死んじゃうよ」


「……!!」


 フレアのその言葉を聞き、クロコはすぐにヨロヨロと立ち上がる。

 苦しそうな表情のクロコ。

 フレアは余裕の表情だ。


「さすがにやるね。オレは四十人以上の敵と一騎討ちしたけど、一撃目を受けて生きてたのは、きみを入れて七人だけだよ」


 クロコは答えない。痛みに耐えるように歯を食いしばり、再び剣を構える。

 再びクロコは突進した。

 先ほどより動きが鈍い。それでもクロコは全身に広がる痛みに耐え、必死で動く。

 今度はすぐに間合いに入らない。左右に素早く動き、フレアをかく乱する。


(……こんなデカイ武器持ってたら、すぐには反応できないはず……!!)


 クロコは一瞬でフレアの横をついた。


(とった……!!)


 クロコが一歩踏み込んだ瞬間だった。

 フレアは一瞬で体を切り返し、クロコの方を向いた。


(ウソだ、速すぎる!!)


 ギュオンッ!!


 再び襲いかかる斜めの斬撃。クロコはまた剣で防御するしかなかった。

 クロコは再び地面に叩きつけられ、地面をえぐりながら引きずられた。


 止まったあと、クロコの意識はまだあった。すぐに立ち上がろうとした、しかし……


「……!!! うわああああああ!!」


 クロコは思わず叫んだ。全身を貫く鈍い痛みは先ほどよりも激しさを増していた。

 乱れた呼吸を三回繰り返したあと、クロコは唇を噛んで立ち上がった。軍服の上着はすでにボロボロになっていた。

 その様子を冷静な表情で見るフレア。


「へぇ、すごいな。まだ立ち上がるんだ。二撃目で立ち上がったのは君で三人目だよ……だけどさ」


 フレアは再び斧を斜めに構える。


「三撃目で立ち上がったやつはいないよ……」


 クロコは自らの意識が揺らぐのを感じた。


(…………まだだ……まだ……倒れるわけにはいかない)


 クロコは剣を構えた。しかしその直後、


「……!!」


 クロコは気づいた、自らの剣に亀裂が走っていた。

 それにフレアも気づいた。


「あーあ、その剣もう持たないね……次のを防げるかなぁ」


「うるせぇ……関係……ない」


 クロコはフレアを見つめる。


(次のを食らったら……さすがにヤバい…………どうすれば、あいつの斧をかわせる)


 クロコはゆっくりと息を整える。


(前後、左右、上下……どこにも逃げ場はない……)


 しかしその時、クロコはハっとした。


(……ある!! あと……一か所だけ……)


 クロコの真紅の瞳が鋭く光った。

 それにフレアが気付く。


(何か狙ってるな……)



 クロコは揺らぐ意識を必死で整えた。辺りが鮮明になってくる。

 クロコは小さく息を吐く。フレアを静かに見つめた。

 そして突進した。

 クロコは左右に動き、再びフレアをかく乱する。

 それを目で追うフレア。


(……まったく、この傷で良く動くよ)



 クロコはフレアの横をついた。

 フレアへと一歩一歩近づくクロコ。しかし、

 フレアは一瞬で体を切り返した。


 ギュオンッッ!!


 フレアは見た、黒い軍服が真っ二つに裂けるのを……


(やった……!!)


 フレアはそう思った瞬間、すぐにハッとなった。

 裂けているのは軍服の上着だけだった。クロコがいない。

 フレアは気付いた、空中に高く跳び上がったクロコの姿に。

 クロコの剣はすでに振り下ろされようとしていた。

 フレアの体は斧を大きく振り抜いたことにより斧と共に流れていた。


「うおおおおおおおッッ!!」


 クロコは大きく叫んで、斬撃を放とうとした、その瞬間……フレアはニヤッと笑った。

 流れる斧の動きを利用して、斧の柄の先端を槍のごとくクロコに突き立てた。

 空中にいるクロコは身動きが取れない。


 メキッ……


 鈍い音と共に、柄の先端がクロコの体にめり込んだ。

 強烈な力によって放たれる突きは空中のクロコを軽々と吹き飛ばした。

 宙をゆっくりと舞うクロコ。

 それを見つめるフレア。


「人ってのはさぁ、思いつく発想が似たり寄ったりでね……それをやったのは君で四人目だ」


 大きな音を立てて地面に落ちるクロコ。

 痛みに耐え、なんとか立ち上がろうとしたその時だった。クロコの目の前にフレアは立っていた。


 ギュオンッ!!!


 膝をついていたクロコができたことは、守ることだけだった。クロコの剣は斧を受け止めた、しかし、もう受け身も取れない。クロコの体は無抵抗に流される。

 勢いよく地面に叩きつけられたクロコの体は、今度は地面に跳ね返され、大きく空中に跳ねた。

 再び宙を舞うクロコ。しかし先ほどとは違い、もう無抵抗に浮き上がっていただけだった。地面を向いたクロコの瞳がとらえたのは、地面にむき出しになっている大きな岩だった。


 グシャッ……



 クロコの体は岩の上に横になったまま動かなかった。

 それを見て、フレアは静かに息を吐いた。

 フレアの顔には笑みはなかった。ゆっくりと斧を下ろす。

 戦場の方を再び見つめ、歩き出そうとした時だった。フレアは何かが動く気配を感じた。

 フレアはそれに目を向けた。

 クロコは立っていた。

 ボロボロの体で、それでも立ち上がり、真紅の瞳でフレアをにらんでいた。

 フレアは無表情でクロコを見つめる。


「……驚いたな。まだ立つのか」


 クロコの真紅の瞳の光はまだ衰えていない。

 クロコは小さく息をしながらフレアを必死ににらみつける。

 腕をゆっくりと上げ、剣を構えた、その時だった。


 バキ……


 クロコの剣が砕けた、刀身の真ん中あたりから、砕け散り、ボロッと上半分が地面に落ちた。


「……!!」


 それを見て驚くクロコ。

 その様子を見て、フレアは小さなため息をつく。


「……もうやめときなよ。なんだかかわいそうになってきた。見逃してあげるから今から戦場に引き返しな。どちらにしろこの状態じゃ、手当てを受けなきゃ、きみは死ぬし……」


「うるせぇ……」


 クロコはそれでも強い目でフレアをにらむ。

 クロコは再びゆっくりと息を整える。息をするだけで全身が鈍く痛む。


(……骨はいったい何本折れたんだ……そこら中が震えてる…………足は……良かった……まだ生きてる。これなら……まだ戦える)


 クロコは再び剣を構える。

 その様子を見ていたフレアの背筋にわずかに寒気が走る。


(信じられないな……まだ諦めてないよ)


 フレアはクロコをにらみながら口を開く。


「きみの根性を認めるけどさ。もう無理だよ。分かっただろう? どんなに頑張ったって、オレの斧を突破する道はない。それにその剣じゃもう防御もできない。きみはもうどうやっても勝てないよ」


 その言葉にクロコは答えない。ただ静かにフレアをにらんでいる。真紅の瞳は鋭く光っていた。

 フレアはそれを見て、少しだけ口元がきつくなる。


「そうか……じゃあ終わりにしよう」


 フレアはユラリと斧を斜めに構えた。

 クロコは折れた剣を構える。

 二人は静かににらみ合っていた。

 しばらくの静寂。

 フレアはそのクロコの様子をジッと見る。


(かかってこない……もう動けないんじゃないか……? ならオレから……)


 その瞬間、クロコは動いた。

 勢いよく駆けだし、フレアに突進する。


(まだこれだけ動けるのか……!)


 クロコは歯を食いしばりながら痛みに耐えていた。それでもクロコは足の力を緩めない。

 そんなクロコをフレアは見つめる。


(……さあ、どう攻めてくる気だ)


 フレアは突進してくるクロコの眼を見た。真紅の瞳は燃えるように輝いていた。それを見た瞬間、フレアは直感した。


(……こいつ、正面から真っ直ぐ突進する気だ!!)


 フレアの予想通り、クロコは真っ直ぐフレアの懐に向かって飛びこんだ。

 フレアは腕に力を入れる。


「終わりだクロコ!!」


 ギュオンッ!!!


 巨大な斧は斜め方向に真っ直ぐとクロコに向かって突き進む。

 それでもクロコは真っ直ぐにフレアだけを見つめていた。足ももう止めない。


(……防御をあきらめて、斧を抜ける気だ……だけど、そのスピードじゃあ、絶対に届かない)


 その時、フレアは気付いた、クロコの左手に握られている岩石の欠片に。


「……!!」


 クロコはその岩石を斧の刃に当てた。

 岩石はあっさりと切断されていく。しかし、斧の速度がほんのわすかに鈍った。そのほんのわずかな時間の遅れ……


 クロコは斧の刃を抜けた。そしてフレアの懐に入った。


「……道がなければ、作ればいい」


 クロコは折れた剣に残るわずかの刃を突き立てた。


 ビュンッ!!!


 フレアの体が深く切り裂かれた。


 表情を歪ますフレア、その体からは大量の血が噴き出した。

 フレアの体はゆっくりと後ろへ傾いた。


 巨大な斧と共にフレアの体は音を立てて、地面に仰向けに倒れた。

 フレアは鈍い咳をした。

 倒れたフレアはうつろな表情で自分の体に目を向ける。


「…………あーあ、ひどいな……あんなボロボロの剣で斬るもんだから、傷口がえぐれてるじゃないか……これじゃあ、もう、助からない……」


 フレアは上に目を向ける。近くに立つクロコが見下していた。

 クロコは悲しい顔でフレアを見つめていた。

 フレアはそんなクロコの表情を見て、ゆっくりとほほえむ。


「……おかしい……よな……スコアはオレの友達で……きみもスコアの友達で……こんな形で出会わなければ……オレときみは友達になっていたかもしれないのに……」


 フレアは悲しそうに笑っている。


「どうして、オレときみは……殺し合ってるんだろう……」


 フレアは静かに目を閉じた。そして動かなくなった。







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