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1-6 フランセールの出会い

 二日目の昼までは馬車は順調に走り続けていた。


 二日目の午前には草原を抜け、岩石帯をひたすら駆けていた。

 窓を見れば茶色い砂の大地が広がり、そこには小さな岩が点在している。遠くには巨大な岩石がいくつか見えた。ときどき厚い葉をつけている低い木の集団が現れ、その木の一本、枝の部分にはしましまのヘビが巻きついているのが見えた。


 太陽が真上を向く頃、突然車体が今までにない激しい揺れに襲われ、それと共に馬車が急停止した。


「うわっ!」


 サキが驚いて声をあげた。


「いって~、なんだ? いったい……」


 クロコは打ちつけた背中に手を当てている。

 クレイドが窓から運転手の老人に声をかける。


「おい、じいさん! どうかしたのか!?」


 運転手は白いひげに顔を覆われた老人だ。老人はおっとりとした声で答える。


「いや、どうも車輪が取れちまったみたいだな。今からちょいと確認するよ」


 運転手は運転席からゆっくりと降りて、のそのそと馬車の横に回った。


「ありゃ~、やっぱ車輪だなぁ」


 クレイドも馬車から降り車輪の様子を見る。

 馬車についている大きな車輪、その後輪の一つがない、馬車の少し後ろに落ちていた。


「直せそうか?」


「いやぁ、見てみな」


 運転手が車輪の付け根を指さす。見ると車輪の付け根が砕けている。


「ここが砕けちまうとな~、さすがにちょっと直すのは無理だな~」



 クロコが窓から辺りの様子を見回す。道の周りには砂と岩以外なにも見えなかった。遠くを見ても大きな岩石しか見えない。


「あんなボロいのいつまでも使ってるからだろ」


 クロコは文句を言った。フロウも馬車から降りて運転手に近づく。


「町に寄って修理するしかないね。ハルフトさん、ここからだと一番近い町はどこです?」


「いや、それなんだが、ちょうど場所が悪くてなぁ、一番近い町で五十キロ以上もあるんだ」


「地図はありますか?」


「んっ? ああ」


 運転手ハルフトは馬車の運転席から地図を取りに行った。

 ハルフトが取ってきた地図を地面に開くと、フロウとクレイドはそれをのぞく。

 ハルフトが地図を指す。


「今は大体ここら辺だな」


「…………おいおい、確かに何にもねーな。馬車を五十キロも運ぶわけにはいかないしな」


 ブレッドとサキも馬車から降りた。

 サキが不安な顔をする。


「どうしましょう……」


 最後にクロコも馬車から降りる。


「今いる場所ってどこだ?」


 クロコの問いにハルフトは丸めた地図をもう一度開く。

 クロコは横から地図をのぞくと、ハルフトが地図を指さす。


「今この辺だな」


「…………この町はどうなんだ? 十キロあるかないかだろ?」


 クロコが地図上の町を指さした。


「いや、ここはいくらなんでも……」


 ハルフトが困った様子で言った。


「どうしたんですか?」


 フロウがその様子を見て尋ねた。


「いや、この子がここの町のことを言うもんだからなぁ」


 ハルフトはクロコがさした場所を指でさす。


「フランセール、なるほど国軍領の町ですね」


「ああ、今ちょうど、互いの領土の間ギリギリの所を走ってるからね」


「クロ、これはさすがに危ないだろ」


「そうか? 軍服脱いで旅人のフリすりゃ問題ないだろ。少人数だし馬車はボロいし」


 フロウが少し戸惑う。


「だけど……」


 ブレッドが少し考えたあと口を開く。


「確かに、今の状況じゃそれしかなさそうだな。大丈夫さ、たいして大きな町じゃないから国軍の基地もないだろ」


「うーん、確かに五十キロも馬車を運ぶのは無理があるし……」


「基地に着くのも遅れてしまいますし」


 クロコが口を開く。


「じゃあ、決まりじゃねーか。今からフランセールって町まで馬車を運んで、そして修理する。それしかねぇだろ」


 クレイドがうなずく


「そうだな、それが一番良さそうだ」


「それでもなかなかきつい仕事になりそうですね」


 サキがそう言うと、クレイドが笑みを浮かべる。


「心配すんな。俺もいるからな」


 クレイドは自信満々だ、そしてクロコの方を見る。


「おまえは休んでていいぞ。体は女なんだからな」


「女扱いすんな!」


 クロコは怒鳴った。



 その後、一同は馬車の後輪の部分を支えながら、フランセールの町へと向かった。



 およそ二時間後、岩石帯を抜け草原が広がり始めた頃、フランセールの町が見えてきた。


 クロコ達はフランセールの町に到着した。


 四角い灰色の住宅が並ぶ。

 所々の空いた空間には草や木が顔を出し、道は舗装されておらず地面がむき出しになっている。その地面には馬車が通った車輪の跡がいくつも見える。

 どこからかフエドリのピュゥーピュゥーという透き通った美しい鳴き声が聞こえ、ワインの匂いがどこからか漂ってくる。人影は少なく、どこか落ち着いた雰囲気の町だ。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 クロコが荒く息を吐く。

 クレイドは一人ケロッとした様子でクロコの方を見る。


「おいおい大丈夫か? ムキになって張りきりすぎなんだよ。そんな小さい体で」


「うるせぇ、女扱いするな! 体ならフロウの方が小さいだろ! サキだってオレとほとんど変わらねーし」


 クロコは怒鳴った。


「とはいえ頑張りすぎだクロ。本番はこれからなんだぜ? その前にバテてどうすんだよ」


「そうそう、少し休んでなよ」


「うるせー、オレだけ休んでなんかいられるか」


 ブレッドはそんなクロコの様子を見て口を開く。


「じゃあ、先に行って馬車屋を探しといてくれ。馬車を支えながら探すのはきつくてな」


「……分かった」


 クロコはしぶしぶ聞き入れると馬車屋を探しに走る。そんなクロコの背中からブレッドが叫ぶ。


「クロー、迷うなよー」


「バカにしてんのか!!」



 二十分後、


「アレ? どこだここは……」


 クロコは辺りを見回す。四角い建物が並ぶまったく見慣れない道が広がっている。


(まいったな、もと来た道が分からない。しかも行き過ぎた。馬車屋も見つからないし……)


 クロコは再び辺りを見回す。とりあえずは商店街のようだ。それ以外に分かることといったら、ブレッド達と別れた場所からずいぶんと離れてしまったということだけだった。


(とりあえずカンに頼って来た道をもどるか。最悪どこか高いトコでも探して辺りを見渡せば見つかるだろ)


 クロコは来た道を逆方向に走り出した。

 しばらく走るとまた見慣れない景色が広がる。


(あれ、この道さっき通ったか?)


 クロコはそう思いながらも、走る力を全く緩めない。

 なかば勘で角を曲がった時だった。


 ドンッ!


「うわっ!」


 クロコの足に何か大きなものがぶつかった。クロコはバランスを崩すが、とっさに手をついて転ぶのは避けた。


「いってー、なんだ?」


 クロコはぶつかった辺りを見た。するとそこには少年がうずくまりながら、顔を押さえて痛がっていた。

 クロコはその少年をにらみつけて怒鳴る。


「おい! なに道の角に体丸めてんだよ。つまづいちまったじゃねぇか!」


「わっ、ど、どうもすみません」


 少年は急いで謝った。

 その少年は年齢十五、六、身に合わないダボダボな服を着ており、サラッとした白い髪と、分厚い眼鏡が特徴だ。クロコににらまれたせいかオドオドしている。


「ふん、分かりゃいいんだよ」


 クロコは少年が予想以上にオドオドしたため、あっさりと許した。

 眼鏡の少年がもう一度謝る。


「ごめんなさい、迷惑かけて」


「…………なんでこんなトコでうずくまってたんだ?」


「大事な物を落としちゃって……ここら辺に落としたはずなんだけど」


 眼鏡の少年は困った様子だ。


「それで身をかがめて探してたのか」


「ごめんなさい、ジャマになっちゃったみたいで……」


「まっ、分かりゃいいんだよ。今からは人のジャマにならないよう探すんだな」


 クロコはそのまま立ち去ろうとする。しかし、しばらく歩くとピタッと足を止めた。


(クソッ……どうも気になるな)


 クロコは再び眼鏡の少年の方を見る。少年は再び身をかがめて土の道をキョロキョロと見回していた。


「おいっ!!」


「は、はい!?」


 少年は驚いた。


「手伝ってやる、何を落としたんだ」


 クロコは再び少年に近づきながら言った。


「えっ!? そ、そんな、悪いよ」


「いいんだよ、手伝ってやるから何を落としたのかさっさっと言え」


「その……ペンダントで、銀色の卵型の形をしていて……、」


「分かった、それを探せばいいんだな」


「だ、だけど……」


「いいんだよ、それよりおまえもさっさっと探せよ」


「そ、その……ありがとう」


「見つかったあとに言えよ。そういうのは」


 クロコはグルっと辺りを見渡す。四角い灰色の建物が並ぶ比較的広い道だ。人影はなく、舗装されていない土の道にはいくつかの馬車の車輪跡ある。建物の間には木が何本か顔を出し、草がボウボウと茂っている場所もある。道のわきには無数のタルが並んでいた。

 クロコは頭をかいた。


「ちょっと骨が折れそうだな」

 


 二人はペンダントを探しだした。

 眼鏡の少年はキョロキョロと建物の間を探す。

 クロコは道のわきにやたらとあるタルをドスンドスンと移動させ、タルの影になっていた箇所を探る。


 その様子を眼鏡の少年は目を丸くして見る。


(えっ!? あのタル、中身は空だよね……? 空だよね!?)



 クロコは今度、木の上に登りあたりを見渡す。

 少年の方を見ると、サイズの合わないズボンを自分で踏んでコケていた。

 その様子を見てクロコはあきれる。


「トロいやつだな……」




 クロコが探し始めて一時間が経過した。


「見つけた!!」


 クロコが叫んだ!


「えっ!? ホント」


「見ろ、グラウドオオカマキリ」


 クロコは片手に巨大なカマキリを持っている。


「……あの、探してくれてるんだよね?」



 二人は再びペンダントを探し始める。

 雲が急に深くなり始め、少し日の光が弱くなってきた。


 クロコは道ばたのトカゲとにらめっこしていた。

 眼鏡の少年が話しかける。


「きみ……この町の人?」


 クロコはギクッとする。


(こいつの格好を見るかぎりここの住民だろうな、下手なウソはつけないな)


「た、旅してるんだ。いろんな村や町をまわってる」


「へぇー、そうなんだ」


 少年はそれで納得したようだ。


「それより早く探すぞ!」


「そうだね、天気も少しあやしいし」




 クロコは今度、タルのフタを開けて、中をのぞきこみ始めた。


「タ、タルの中にはないと思うよ……、フタあるし」


「いや……ペンダントがなんかすごい動きして中に入ったかもって思ってな」


「フタを開ける動きってどんな動き!?」


「けどこの中身……、なんかすごい匂いがするな。クラッとする」


 眼鏡の少年もタルの中をのぞく。


「ああ、これは黄ワインだよ。ここは黄ワインで有名なんだ」


「ああ、どうりで町じゅうワインの匂いだらけなのか」


「この町の東にはイエローベリーの大農園があるんだ。ただこの時期は竜巻がよく起こるから大変らしいよ」


「へー」


 クロコはそう言ってタルにフタをした。


「そういえばきみ、旅してるんだよね。出身地はどこなの」


「ん? ……スロンヴィアだ」


 それを聞いた眼鏡の少年の表情が変わる。


「スロンヴィア……、確か昔あったっていうスロンヴィア事件の……」


 スロンヴィア事件、その呼び方を聞いてクロコが反応する。


(事件……? そうか、国軍領じゃあそういう呼び方になってるのか)


「……ああ、そうだ」


「それからずっと旅を?」


「いや、ちょっと前までアークガルドにいた」


「アークガルド!? あのセウスノール領のとんでもない町っていう……」


 少年はさらに表情を変える、今度はだいぶ驚いている。


「なんだか壮絶な人生だね……」


「ん? ああ、そう言われてみればそうだな」



 眼鏡の少年はそれから黙った。

 二人はまたペンダントを探し始める。

 すると急に猛烈な雨が降ってきた。


「うわっ、とおり雨だ」


 眼鏡の少年は驚く。


「おい、こっちだ、こっち」


 クロコはすでに避難していた。建物の陰に隠れている。

 少年も急いで隠れる。

 強い雨が勢いよく振っている。

 遅れて冷気が辺りを覆った。

 弱い風が吹き始める。



 建物の陰に並ぶ二人、黙って壁に寄りかかっていた。



 雨の音と風の音だけが響く中、眼鏡の少年が口を開いた。


「……ねぇ、さっきの話なんだけど」


「さっきの?」


「うん、きみの過去の話」


「それがどうした?」


 少年は少し重い口調で口を聞く。


「きみは……、きみはそんな生き方をして…………つらいと思ったことはないの?」


「ん?」


 眼鏡の少年は慎重に顔色をうかがうようにして話す。


「例えばさ、『どうして自分だけこんなつらい目にあうんだ』とかさ、『どうしてこんな苦しいことばかり起こるんだ』とかさ、そうは思わないの?」


 クロコはその言葉を聞いて少し考えたあと、口を開く。


「別に……」


「別にって! ホントになんにも思わないの?」


 クロコは特に表情を変えない。


「思う思わないの問題じゃないんだよ。オレがこれから生きる世界は、オレがこれから進む道だ、過去じゃない。オレがこれから生きる世界は、オレの足で、オレの意思で決めていく。だから関係ねぇんだ」


 少年はそれを聞いて真っ直ぐな目でクロコを見つめる。


「…………すごいね。本当に、素直にすごいと思うよ」


「おまえはどうなんだ」


「え!? ボク?」


「人にばっかしゃべらすなよ。こんなこと聞くってことは、おまえも何か思うことがあるんじゃないのか?」


「ボ、ボクは……」


 眼鏡の少年は一瞬言葉に詰まる。しかしゆっくりと口を開く。


「ボクは……きみみたいに立派じゃないよ。きみのようにつらい過去を振り切って、先を見つめるなんてことはできない。……けど、それでも、その、ボクは、自分にとっての大切な人を守ることができたら、それだけで幸せだと思う」


 少年はゆっくりとした口調で言葉を続ける。


「ボクにとって大切な人たち、ボクを大切に思ってくれる人たち、そんな人たちを守ることができるのなら……今のボクには、そんな力はないのかもしれない。でも、それでも、何もしないで、あきらめたくはないんだ」


 少年は真っ直ぐな目でクロコを見る。


「ボクは大切な人を守れる存在になりたい」


 少年の眼鏡の奥の、深い青い瞳が光った。

 クロコは何も言わず、少年の方をジーッと見る。


「そ……その……変かな」


「別に……」


 クロコは短く声を出すと、今度はしっかりと口を開く。


「別にいいんじゃねぇか。そういうの、オレは嫌いじゃないぜ」


 眼鏡の少年はしばらくボーっとした表情でクロコを見るとハッとして、すぐに口を開く。


「あ、ありがとう。ハハハ、な、なんだか恥ずかしいな」


 眼鏡の少年は顔を真っ赤にしていた。


「おい」


「えっ、な、なに!?」


「やんでるぞ、雨」


 雲の間から柔らかな光が差し込んでいた。


「え、あ、ホントだ」


「早く探すぞ。日が暮れちまう」


「そうだね! 早くしないと……」


 二人は再びペンダントを探し始めた。





 二人でペンダントを探し始めてから二、三時間が経過した。あたりは少し日が暮れ、空が夕焼け色に染まり始めた。少し冷たい風が吹き、辺りにコウモリが飛び始める。

 クロコは別の木に登って、また辺りを見渡していた。


「ガーッ!!」


 突然クロコが見つからないストレスで奇声を上げた。まるで新種のけもののようだ。

 クロコは木から飛び降りると少年に詰め寄る。


「おいっ! 見つからないぞ!」


 その声に驚いて、少年は怒るクロコを見る。

 クロコの右手にはコウモリがつかまれていた。コウモリはキーキー鳴いている。


「あの……かわいそうだから離してあげて……」


 クロコはコウモリの方を見る。


「おい、おまえ、ペンダントどこにあるか知ってるか、おい、おい」


 クロコはコウモリのまんまるい顔をツンツンとなでたあと放した。


「それよりおまえ、ホントにここら辺に落としたのか!? もうここら辺はあらかた探したぞ!」


「ここで間違いないはず……」


「間違いないって、ホントに根拠はあるのか?」


「服の内側のポケットに入れてたんだけど、たぶんはみ出しちゃったと思うんだ。ちょうどここら辺を走ってた時に服の内側から不自然な感触がしたから。あの時は急いでたからついその感覚を無視しちゃったんだけど」


「確かなのか? その感覚」


「うん、自信ある。そういう感覚は敏感な方だから」


「ふーん、変なトコだけ敏感ってことか」



 クロコは少し考える。


(って、あいつがそうは言っても、ここら辺は細かい所まで一通り探したからな。じゃあ、もしこいつの言ってることが確かなら、そのペンダントはどこにいったんだ? 考えられるのは、誰かが拾ったか、何かの拍子に別の場所に運ばれたか、それとも…………)


 クロコは探すのを止めて考え込む。


(……! まてよ)


 クロコは道の真ん中に移動し、地面の表面を眺める。地面はとおり雨のせいで湿っていた。その地面に無数の馬車の車輪跡が確認できた。車輪跡にはわずかに水が溜まっている。

 クロコはその車輪跡を注意深く見つめながらたどった。

 眼鏡の少年はそんなクロコの様子を不思議そうな顔で見つめる。


「……?」


 そんな少年を尻目に、クロコは地面を注意深く観察しながら淡々と車輪跡をたどっていく。


 クロコは車輪跡の一部分に、ほんの少しの盛り上がりを見つけた。


「……!」


 クロコはその部分の泥を勢いよく払い始める。すると地面から、銀色の卵型ペンダントが顔をのぞかせた。


「……あった!」


 クロコは少し笑顔を見せる。


「えっ!」


 眼鏡の少年はその言葉を聞いてクロコに駆け寄る。


「見せて!」


 クロコは少年にペンダントを渡した。


「そうだ、これだ、間違いない! 良かった~」


 眼鏡の少年はうれしそうにペンダントを両手で握りしめる。


「……? でもなんで地面の下なんかに」


 眼鏡の少年はペンダントの泥を拭きながら、不思議そうな顔で言った。

 それにクロコが答える。


「考えたんだよ。これだけ探してもペンダントが見つからないってことは、誰かに拾われたか、なにかの拍子に別の場所に運ばれたか、それとも……」


「それとも?」


「普通じゃ見つけられない場所に隠れちまったかだ。地面の下とかな」


「でもどうして……」


「たぶん、ペンダントはおまえが落としたときに、道の真ん中あたりに転がっちまったんだ。それが馬車に踏まれて地面にめり込んで、そのあと風に吹かれた土が上にかぶさって、って具合だな」


「なるほど、確かにそれじゃあふつうに探したんじゃあ見つからないわけだね。とにかくありがとう。こんなに長い時間いっしょに探してくれて、きみのおかげで大事なペンダントが見つかったよ」


「…………結局なんなんだ? そのペンダント」


 クロコは少し気になり質問した。


「形見なんだ、母さんの……」


 少年は少し悲しそうに笑った。


「……そうか、良かったな、見つかって」


 クロコは少し笑顔を見せた。


「きみのおかげでね」


 少年も笑顔を見せた。


「って、あーっ!!」


 クロコが突然大きく叫ぶ。少年は驚いた。


「ど、どうしたの?」


「やべぇ、気付いたらこんな時間になってた。店を探しに行ったまんま…………ブレッドのやつ相当怒るな」


 クロコは少し焦った様子だ。


「じゃあそういうことで、じゃあな!」


 クロコはサッと立ち去ろうとする。


「えっ!? ちょっと待って! お礼も何も……」


 少年は突然立ち去ろうとするクロコに驚いた。驚く少年を尻目にクロコはとっとと走り出す。

 少年がクロコの後ろから叫ぶ。


「きみは……名前は!?」


「クロコ・ブレイリバー」


「クロコ!!」


 少年の大声と共に、クロコの方に何か小さいものが飛んできた。クロコはそれをとっさに手で取る。それはさっきのペンダントだった。ペンダントは卵の殻が割れるように左半分だけになっていた。


「お、おい……これ!」


 クロコは足を止めて少年の方を向いた。


「このペンダント、二つに割れるようになってるんだ!」


 少年は遠くのクロコに呼びかけるように言った。その少年に向けクロコも叫んで言う。


「これ大事なモンなんだろ!」


「いいんだ。もともと二つに割って母さんと持ってたんだけど、今はきみにあげる、またどこかで会えるように。その時、さっきのお礼をするから!」


 クロコは少し考える。


「分かった」


 クロコはそう言って、ペンダントを持った手を一瞬突き上げ、走り去った。



 道の真ん中で、眼鏡の少年は一人立っていた。

 クロコの姿が見えなくなったあと、少年はハッとした。


「……あっ! ボクの名前教えるの忘れた」


 少年はそのあと、笑顔を浮かべる。


(クロコ・ブレイリバーか……、変な名前。女の子にしてはちょっと変わってたけど、優しい子だったな)


 少年は右手に持ったペンダントを見る。


(また、あの子に会えるといいな)






 すでに日は暮れ、辺りは暗くなっていた。

 ブレッド達は馬車の修理を終え、クロコと分かれた場所で待機していた。


「ったく! クロのやつは一体何をしてるんだ! 店を探しに行ったまま、いったいもう何時間すがたをくらませてんだ……」


 ブレッドは少し声を荒げながら頭を抱えた。

 サキが心配そうに口を開く。


「まさか、国軍の兵士に捕まってたりしてませんよね……?」


「いや……多分それはないはずだ。町には国軍兵の姿はなかったし、あいつなら仮に襲われても返り討ちだろうからな」


 ブレッドはサキの言葉を否定した。


「でもいくらなんでも時間が経ち過ぎてるね……」


 フロウが心配そうに言ったその時だった。


「おっ! やっと見つけた」


 高い声がブレッド達の頭上から聞こえた。

 ブレッド達がその声の方向を向くと、そこには建物の上に立っているクロコの姿があった。


「この……! バカヤロー、クロ! いったい何してたんだー!!」


 ブレッドが大声で怒鳴る。


「うわっ!」


 クロコはその声に驚いた。


「わ、悪かったよ。少し道に迷っちまってな……で高いトコに昇って辺りを見回しておまえらを探してたんだ」


「ったく! 心配かけさせやがって」


 ブレッドはそう言ったあと、安堵のため息を吐いた。

 フロウはクロコの方を見る。


「……だけど、それにしては遅かったよね。ホントに道に迷ってただけなの?」


「べ、別にそれだけだよ」


「まぁ、本人がそう言うんなら、それでいいんだけど」


 クレイドが口を開く。


「クロコも来たことだし、とにかく早く出発しようぜ。だいぶ遅れちまった」


「そうだね、とにかく早く出発しよう」


 それを聞いてクロコは少し困惑した表情をする。


「出発って、もうこんな暗くなっちまってるぞ。宿でも探して泊っといた方がいいんじゃないか?」


 それを聞いてブレッドがクロコの方を見る。


「ここが国軍領っていうのを忘れんなよ。できるだけ早く出て、リスクは避けた方がいいんだよ」


「だからって、もう暗すぎるだろ。群れオオカミに襲われるぞ」


「少なくとも国軍領は出ておかないとね」


 フロウはそう言いながら馬車に乗り込む。


「チェッ、良さそうな宿屋あったのに」




 その後、馬車は一同を乗せて国軍領を出た。馬車は再びウォーズレイ基地を目指し走り出す。





 馬車がフルスロック基地を出発して四日目の昼、大きな橋を渡り、草原を駆けている時だった。


「おい、見ろよ」


 馬車の窓から顔を出していたクレイドが声を出す。それを聞いてブレッドも窓から顔を出す。


「おっ、やっとか」


 続いて他の三人も顔を出した。

 馬車の進行方向の先に灰色の建物の集団が見えてきた。

 それを見たクロコの顔に少し笑みが浮かぶ。


「やっと着いたか、ウォーズレイ」







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