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3-16 それは一つの選択




 草原に広がる解放軍と国軍の大軍勢。

 解放軍は国軍に完全に包囲されている。


 その中、ガルディアとファイフは自陣に何とか逃げ込んでいた。


「グレイさん、今から後衛に移動します。そこの敵陣を分断して、退路を確保します。俺とあなたの二人がかりなら、なんとかなるかもしれません」


 それを聞いてガルディアは腹の傷口を押さえながら苦笑いする。


「やれやれ、上司使いの荒いやつだな…………よし、行くか」


 二人は自陣の後方へと下がって行く。



 同じ頃、前衛で戦うクロコとフロウは敵陣を分断していた。二人の分断した場所に解放軍兵がなだれ込む。

 フロウとクロコ、二人とも息を切らしていた。


「よし……これで少しは楽になるね」


「ハアハア……とはいえ、いつになったら終わるんだよ。この戦い」




 国軍陣の一角、ライトシュタインは全体に指示を送っていた。しかし……


「くっ……動きが悪い。情報線が完全に乱れているな」




 ライトシュタインの指揮がうまく機能しないまま、戦いは続いた。

 解放軍は前衛の一部以外を囲まれながらも、国軍の攻撃に必死に耐えていた。

 その攻防がしばらく続いた時だった。


 パンパンパンッ!!


 解放軍の信号銃が鳴った。


「撤退だーッ!! 一時撤退!!」


 指揮官の声が響く。

 ガルディアとアールスロウによって、解放軍後衛に貼り付いていた敵陣は分断され、退路が開かれていた。

 解放軍全体が後方へと下がって行く。


 それに気づいたライトシュタインはかすかに口元を険しくする。


「仕留めきれなかったか……」


 ライトシュタインは信号銃を鳴らし、声を上がる。


「逃がすなッ! 追撃!」


 逃げる解放軍を追撃する国軍。しかし大きく広がり過ぎた国軍陣は全体の動きが鈍い。逃げる解放軍を追い切れない。


 その状況の中、クレイドとサキは中央の前衛で剣を振るっていた。


「なんとか撤退できそうだ……だが、敵もしつこく追撃してきやがる」


「ここをなんとか抑えないと」


「よし……前衛の国軍兵は俺が押さえる。サキ、おまえは隅の味方をフォローしてくれ」


「分かりました」


 サキは返事をしてクレイドから離れていった。



 一方、そこから少し離れた前衛では、クロコとフロウが次から次へと襲ってくる剣兵に対して必死に剣を振るっていた。


「僕らは……味方が逃げきるまでなんとか、国軍を押さえるんだ」


「分かってる!」


 二人は追撃してくる剣兵を次々と斬り伏せる。


 そんな中、解放軍全体が国軍全体から徐々に離れようとしていた。


 襲ってくる剣兵も徐々に少なくなる中、フロウは周りを眺め、その状況を把握する。


「もうすぐだ、クロコ君……」


「ああ」


 クロコが返事をした、その時だった。

 二人の前に一人の剣士が現れた。

 黄色の髪に青い瞳をした白い将軍服を身にまとった男。

 ロストブルーがクロコとフロウの前に現れた。


「やあ、クロコ。久しぶりだね」


 その姿を見て、クロコは驚いた。


「ディアル……なんでアンタがここにいるんだ」


 ロストブルーはほほえんだ。


「すまないね、クロコ。隠したくはなかったが、あの時はどうしても君と話がしたくてね。しかし、今は戦場だ。私は君と戦わなくてはならない」


 そう言うロストブルーをクロコは険しい表情で見つめる。しかし、そのクロコ以上にフロウは険しい表情をしていた。それにクロコが気付く。


「……? どうしたフロウ」


 フロウは小さく声を漏らす。


「将軍服の……ディアル……!? ディアル・ロストブルー……!?」


 フロウの顔に汗がにじむ。


「ダメだ、クロコ君……彼とは絶対に……戦っちゃいけない……!!」


「……!!」


 フロウのただならぬ様子を見て、クロコにも緊張が走る。

 しかしロストブルーは青い大剣をゆっくりと構える。


「悪いね……逃がすつもりはないんだ。私は国軍の将軍だからね。いま目の前にある若い芽……摘ませてもらおう」


 それを聞き、二人はロストブルーを静かににらむ。


「やるしかないか」


 クロコはそう言って剣を構える。フロウも剣を構えた。

 その直後、

 目の前からロストブルーの姿が消えた。


「……!!」


 クロコは完全にロストブルーを見失った。

 しかしフロウには、その姿が見えていた、クロコのすぐ横に立つロストブルーの姿が。


「クロコ! 横だ!!」


 フロウがそう声を上げた瞬間だった。ロストブルーはフロウの目の前に立っていた。


「仲間に気を使う余裕があるのか?」


 ロストブルーの剣はフロウの体を切り裂いた。


 宙に大量の血しぶきが上がった。

 それと共に、フロウの体がグラリと傾き、そして力無く地面にうつぶせに崩れた。

 

「フロウ!!」


 クロコは叫んだ。クロコには訳が分からなかった、気付けばフロウが切り裂かれ、地面に伏していた。

 地面に伏しているフロウは動かない。地面にじわじわと血が広がっていく。

 それを見た途端、クロコの心臓が嫌な音で高鳴る。剣を握る手がわずかに震える。


「うわあああああッ!!」


 クロコは叫びながらロストブルーに斬りかかった。しかし、あっさりかわさえる。

 すぐさま放たれる青い斬撃。その斬撃が真っ直ぐクロコへと伸びていく、その瞬間、


 ギュンッ!!


 巨大な剣がロストブルーの首へと伸びていく。すぐさま飛んで避けるロストブルー。

 クロコのすぐ近くにはクレイドが立っていた。


「ふむ……新手か」


 少し距離を置いたロストブルーはクレイドを見つめた。

 クレイドもロストブルーを見つめた。目が合った瞬間、クレイドは直感的にその強さを感じ取った。


(やべぇな……こいつはやべぇ……今まで会ったどんなやつより……)


 フロウの方をチラッと見る。


(傷は深いが……まだ可能性はある)


 クレイドはすぐにクロコにだけ聞こえるように小声でささやく。


「俺が一瞬だけ隙を作る。二手に分かれて逃げるぞ。フロウはおまえが持て、おまえの方が足が速いからな」


 クロコは目でうなずいた。


 ロストブルーはその様子に気づく。


「何かの作戦かい?」


 ロストブルーは再び剣を構えた。その瞬間、


「おらああああああッ!!」


 雄叫びと共にクレイドは巨大な剣で地面を切り裂き、えぐった。

 三人とロストブルーのあいだに、土と草の欠片が飛び散る。


「……!」


 驚くロストブルー。


「いまだー!!」


 クレイドの叫びと共に、クロコはフロウを素早く担いで走った。クレイドも別の方向に走り出す。


 欠片が地面へ落ちたあと、ロストブルーは逃げるクロコの後ろ姿を見つめる。


「この程度で私から逃げられると思っているのか」


 ロストブルーが駆けだそうと足に力を入れたその時、


「思ってねぇよ」


 ロストブルーの前にクレイドが現れた。

 それを見たロストブルーは静かに口を開いた。


「……引き返したのか。なるほど、自ら命を懸けて仲間を守るか。勇敢だな」


 それを聞いてクレイドは笑う。


「なに訳の分からねーこと言ってんだよ。俺はあんたに勝つつもりだぜ」


「そうか、それは失礼したね」


 ロストブルーは剣を構えた。クレイドも剣を構えた。


「うおおおおおお!」


 クレイドは叫びながらロストブルーに突進した。対してロストブルーは動かない。

 クレイドは剣を振るう。空気を切り裂く巨大な斬撃。


 ギュンッ!!


 ヒラリとかわされる。


 ヒュンッ!


 風切り音と共に、宙に大量の血しぶきが上がった。クレイドの体は傾き、大きな音を立てて地面に崩れた。


「残念だが、君程度では私の足留めにすらならないよ」


 ロストブルーは再び前を向こうとする。その直後、


「うおおおおおっ!!」


 再びクレイドの巨大な剣がロストブルーに向かってくる。


 ギィィィィィィィンッッ!!


 わずかに押されるロストブルーの体。


「…………ッ!!」


 ロストブルーは再びクレイドを見る。

 クレイドは立っていた。体を深く切り裂かれながらも、力強く、ズシンと立っていた。

 クレイドは息を乱しながらも笑みを浮かべる。


「もう勝った気でいるのか? 本番はこれからだぜ」


 それを見てロストブルーは少しだけ眉を寄せる。


「やれやれ、まだ動けたのなら、自らを助けるために動けば良いものを……」


 それを聞いてクレイドは何も言わすほほえんだ。

 その様子を見てロストブルーは口を開く。


「そうか……それでも仲間を助けるか。君は本当に勇敢だな。君に放った無礼な言葉を詫びよう」


 ロストブルーは後ろに跳んで、距離を取り、しっかりと剣を構え直した。


「同じ剣士として、全力で君を倒そう」


 クレイドもゆっくりと剣を構える。そしてほほえむ。


「悪いな。俺はまだ、あんたに勝つつもりだぜ」


 クレイドの体からボタボタと血が流れ落ちる。それでもクレイドは力を込め、ロストブルーに向け突進した。

 クレイドが最後の力を込め、ロストブルーに向かって剣を振るおうとした、その瞬間、

 ロストブルーはクレイドの体を横切っていた。


 その直後、クレイドの全身が切り裂かれ、血が噴き出る。

 ゆっくりゆっくりとクレイドの体が傾いてゆく。そして大きな音を立て、地面にぶつかり、少しだけ跳ねたあと、静かに地面に倒れ込んだ。

 クレイドの口から血が流れ落ちる、目はわずかにだけ見開かれていた。


(あー…………これはダメだ……助からねぇや……)


 クレイドはゆっくりと意識が遠ざかっていくのを感じた。


(俺は……ここまでか…………探してた『真実』、結局見つかんなかったなぁ…………けど、おまえに会えて良かったよ、フロウ…………俺の……見つけられなかった……『真実』、おまえに……託し……たぜ……)


 クレイドは最後にほほえんだ。


(アリガトな、みんな)





 解放軍は追撃してくる国軍から何とか逃げ切ることができた。

 それにより、この日の戦闘は終了した。

 この戦闘における国軍の兵力の損害はおよそ10000、対して解放軍はおよそ45000。

 その犠牲は解放軍にとってあまりにも大きなものだった。







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