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3-15 剣士の力量




 解放軍を包囲する国軍に向けて、ガルディアは疾風の如く、草原を一直線に駆ける。

 ガルディアは駆けながら解放軍の様子をうかがう。


「なんだこりゃあ、ひどいな……ファイフもいるはずだが……まさか、指揮官はライトシュタインのオッサンか……?」


 ガルディアは目の前の敵の軍勢を見つめる。


「……!!」


 そして軍勢の中にいるライトシュタインを見つけた。


「やっぱりか……」


 ガルディアとライトシュタイン、二人の目が合う。

 ガルディアはライトシュタインに向け、一直線に駆ける。


「ちょうど近くにいたか。悪いが、潰させてもらうぜ」


 そのガルディアの様子を無機質な目で見つめるライトシュタイン。


「愚かだな、ガルディア。私の指揮する軍勢に単独で飛び込んでくるとは……」


 ライトシュタインは手を挙げて、周りの兵士達に合図を送る。


 ガルディアとライトシュタインの間には厚い厚い国軍兵の層がある。

 それにも構わずガルディアはその軍勢へと飛び込んだ。すぐさま周りを無数の剣兵達が囲む。しかし……


 ギュォンギュォンギュォンッ!!


 ガルディアは巨大な黒剣を高速で振り回す。周りの剣兵達の体が宙を舞う。

 兵士達の厚い層はガルディアによって無理やり引きちぎられていく。


 ライトシュタインはその様子をなおも冷静に見つめていた。そして手で合図を出す。


 ガルディアの周りの剣兵達が動き出す。

 

「……!!」


 ガルディアは足を止めた。

 気づけばガルディアの周りを剣兵達が円を描くようにきれいに囲んでいた。


「やれ」


 ライトシュタインが信号銃を鳴らす。

 その瞬間、剣兵達がガルディアを360°、あらゆる方向から斬りつける。

 しかしガルディアは静かにほほえんだ。


 ギュォンギュォンギュォンッ!!


 直後、剣兵達の体がほぼ同時に吹き飛ぶ。

 ガルディアの周りの剣兵達はきれいに一掃されていた。そしてゆうぜんとたたずむガルディア。体には一太刀すら浴びていない。

 しかし、それでもライトシュタインの表情は変わらなかった。


「やはり剣兵だけでは難しいか……」


 ライトシュタインはさらに合図を送る。

 ガルディアの前方の兵士の層がひらけた。


「なんだ……?」


 不思議がるガルディアの前方に、無数の銃兵が構えていた。


「おいおい……」


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンッッ!!


 無数の銃声が響いた。


「やったか……?」


 ライトシュタインは静かにガルディアの方向を見つめる。しかし、ガルディアの姿がない。


「……!」


 銃兵隊も混乱する。


「消えた……? どこだ!!」


 その瞬間、銃兵隊の横の国軍兵の群れからガルディアが飛び出す。


「な……ッ!!」


「周りに隠れる場所があるってのはいいな」


 ギュオンッ!


 巨大な黒剣を横に大きく一振り。その一撃で銃兵の陣形が一気に崩れる。

 地面に崩れる銃兵達を置いてガルディアはさらに前に突き進む。


「さあ、次はどうするんだい? ライトシュタイン!」


 ライトシュタインの口元が少しだけきつくなった。再び手で合図を出す。

 再びガルディアをきれいに囲む剣兵。


「この期に及んで……」


 再び剣を振り回すガルディア。周りの剣兵達が一掃される。

 ガルディアは再び前を見る。


「これで終わりか、ライトシュタイン」


「これで終わりだよ、グレイ・ガルディア」


「……!!」


 気付けばガルディアの周りを大砲が囲んでいた。


 ドンドンドンドンドンドンッッ!!!


 ガルディアの周りの地面が一気に吹き飛ぶ。その大きな体は爆炎の中へと消えた。

 辺りが土煙に包まれた。

 黒煙が空へとゆっくりと昇る。

 ライトシュタインはそれを無機質な目で見つめていた。


「君の剣士としての実力は認めよう。しかし人間である以上限界はある」


 その時だった。爆炎の中から、大きな体が飛び出した。

 グレイ・ガルディアはほぼ無傷で大砲の嵐をくぐり抜けていた。


「なんだと……!」


 ライトシュタインの表情が初めてわずかに歪んだ。


 その様子を近くにいた解放軍兵達も見ていた。辺りから歓声が上がる。

 アールスロウもそれを見て静かにほほえむ。


 味方の歓声がクロコのいる場所まで届く。


「なんの声だ……?」


 クロコは不思議そうに声を漏らした。


 ガルディアは前方にいる砲兵達を斬り伏せ、真っ直ぐにライトシュタインの方へと突き進む。二人の距離はあとわずかだった。

 ライトシュタインをジッと見つめるガルディア。

 ライトシュタインは表情を険しくする。


「策は尽きましたか?」


 突然だった。ライトシュタインの隣で声が聞こえた。見るとそこにはロストブルーが立っていた。


「ロストブルー……」


 ライトシュタインに名を呼ばれ、ロストブルーはいつものようにほほえんだ。


「あなたの指揮は確かに優れている……しかし、指揮官である以上、あなたは彼の力量を正確に計ることはできない」


 ロストブルーはガルディアのいる方向を見た。


「剣士の力量を正確に計ることができるのは、同じ剣士だけです」


 ロストブルーは青い大剣を引き抜いた。


「彼の相手は、私がしましょう」



 ガルディアはライトシュタインの方向へと直進していた。


「あと少しだ」


 ガルディアがつぶやいた、その時だった。目の前を塞ぐ兵士の層が急に割れた。


「なんだ?」


 ライトシュタインへと続く道が真っ直ぐに開かれた。目の前にはライトシュタイン、しかし、そのあいだにはロストブルーが一人立っていた。

 それを見た途端、ガルディアは足を止めた。

 ロストブルーはほほえんでいる。


「久しぶりだね。グレイ」


「ディアル……おまえも戦場に戻ってきたのか」


「君が戻るのなら、当然、私も戻らねばならないだろう?」


「やれやれ……」


 ガルディアはそう言って剣を肩に置く。

 ロストブルーはガルディアを見つめながら、背中でライトシュタインに話しかける。


「ここは私に任せて、あなたは場所を移動して下さい」


 ライトシュタインは静かにうなずいて、兵士の群れの中へと姿を消した。


「あっ! このヤロウ……」


「さて、グレイ。やろうか」


 その言葉と共に、二人は同時に剣を構えた。

 互いに少しの間、にらみ合う。

 次の瞬間、ガルディアが一直線に突撃する。


 ヒュッ!


 一瞬だった。ガルディアはロストブルーの横をついた。


 ギュオンッ!!


 ギィィィンッ!!


 ロストブルーはガルディアの剣を受け止めた。

 すぐさまガルディアの蹴りが飛ぶ。

 ロストブルーは素早く反応しかわす。

 しかし、さらにガルディアの拳が飛ぶ。

 ロストブルーは体をそらし、それも避けた。しかし、


 ギュオンッッ!!


 間髪入れず、ガルディアの叩きつけるような斬撃がロストブルーを襲った。


 キィィィィン


 ガルディアの斬撃は、ロストブルーの剣により受け流された。わずかに体勢を崩すガルディア。

 容赦なくロストブルーの斬撃が襲う。

 瞬間の反応で後ろへと飛ぶガルディア。


 ヒュンッッ!!


 二人の距離が離れた。


 ガルディアの肩は切り裂かれていた。苦笑いを浮かべる。


「腕は……全く衰えてないようだな」


「ああ、お互いにね」


「冗談じゃねえって感じだよ。オレの斬撃をさばくようなやつは、後にも先にもおまえだけだろうな」


「だろうね……二年明けの決着といこうか。今日こそは仕留めさせてもらう」


 二人は再び剣を構えた。


 一方、クロコとフロウは……


「クロコ君! 動くよ。理由は分からないけど、国軍陣形の動きが止まってる。また動き出す前に状況を打破するよ」


「って言っても、どうすんだよ!」


「とにかくどこでもいいから陣形を分断する! 二人でとにかく倒して倒して倒しまくるんだ!!」


「よっし、分かりやすい!」


 二人は一気に国軍兵の群れに突撃する。


 一方、クレイド達。

 サキは戸惑った声を出す。


「どうしましょうか? クレイドさん」


「よし……俺達は中央に寄ろう」


「え……なんでです?」


「前進するにせよ、後退するにせよ、今の状況じゃあ隅にいたんじゃ何もできねぇ。今この場で生き残る道を探るには中央しかねぇ、行くぞ!」


「は、はいっ!!」



 国軍兵の群れ、その中で不自然に開かれた空間。そこでガルディアとロストブルーは向かい合っていた。

 ガルディアは黒剣を構え、ロストブルーをにらみつけている。周りを敵兵に囲まれている状況の中、ロストブルーから一切目を離さない。

 それに対し、ロストブルーはいつものようにほほえんだ。その直後、ロストブルーの姿が消えた。

 ガルディアの目は素早く自身の横に動く。あいだの空間を飛び越えるような速さで動くロストブルーの体をしっかりととらえていた。

 ガルディアは素早く防御の姿勢をとる。しかし、直後、ロストブルーは逆をついていた。


 ヒュンッ!!


 ガルディアは一瞬の反応でその場を離れていた。しかし……


「……くっ」


 ガルディアの足は切り裂かれていた。


「さて、足が切り裂かれたね。グレイ」


「心配すんな、もともとおまえより速く動ける自信はねぇよ。それに……」


 ガルディアは目を鋭くする。


「この程度じゃ、オレの動きは止まらない」


 ガルディアはロストブルーに突進した。足から血が噴き出すが、まるで影響がないかのような動きだ。

 ガルディアは剣を大きく振り上がる。直後、素早くガルディアは蹴りを飛ばした。

 ロストブルーはヒラリと避ける。

 しかしすぐに黒剣が振り下ろされる。


 ギィィィィィィンッッ!!


 ロストブルーは斬撃を受け止めた。辺りに空気をはじく金属音が響き渡る。

 素早く次の斬撃を放つガルディア、それに応戦するロストブルー。

 二つの剣が連続でぶつかり合う。

 周りの空気をはじきながら響き続ける巨大な金属音は、辺りの爆音にすら引けを取らない。巨大な力同士がぶつかり合う衝突音が連続して辺りを支配する。


 周りの国軍兵達はその様子を呆然と見ている。手の出しようがなかった。

 空間に絶え間なく響く巨大な音、人知を超えた動きをする二つの体。

 自分たちが立ち入ることのできない空間。

 ガルディアとロストブルー、その二人の周りには確かにその空間が形成されていた。



「はああああっ!!」


 ガルディアは雄叫びと共にひときわ力の入った斬撃を放つ。


 ギィィィィィィンッ!!!


 それを受け止めたロストブルーの体が後ろへと押された。その瞬間、素早くガルディアが追い打ちをかける。巨大な斬撃がロストブルーを襲う。


 キィン


 しかしその斬撃は素早く受け流される。


「……くっ!!」


 体勢が崩れるガルディア、しかしその状態から強烈にしなった蹴りを飛ばす。

 しかしかわされる。素早く飛ぶ青い斬撃。

 ガルディアは一瞬で体勢を直して後ろへと飛ぼうとする。しかし……


 ヒュンッ!!


 二人の距離が開いた。

 ガルディアの腹は切り裂かれていた。


「うっ……」


 ガルディアは腹を押さえてわずかにふらつく。腹からはボタボタと血が流れ落ちる。

 それを見て、ロストブルーはゆっくりと剣を構え直す。


「さあグレイ……七年続く我らの戦いに決着をつけようじゃないか」


「チッ……やっぱ基地でゆっくりしてりゃ良かった」


 ガルディアは苦笑いを浮かべる。

 ロストブルーはガルディアを見つめ、そして足に力を入れた、その直後、


 ドォーンドォーンドォーンッ!!


 二人の立つ横を無数の爆炎が包む。二人は驚きそこを見る。

 すぐ横が爆発の煙に包まれた。

 その時だった。

 ロストブルーに向かって、煙の中から鋭い斬撃が飛ぶ。


 ヒュゥンヒュゥンヒュゥンッ!!


「……!!」


 素早く跳んでかわすロストブルー。

 煙の中からは……ファイフ・アールスロウが姿を現した。

 ロストブルーはわずかに眉を寄せた。


「……!! ファイフ・アールスロウ……『千牙の狼』か」


 アールスロウは素早くガルディアを守るようにして前に立つ。


「やれやれ、横やりか……しかし」


 ロストブルーはまたいつものようにほほえんだ。


「私とグレイの戦いに、誰も立ちいることなどできはしないんだよ」


 その言葉を放った直後、一瞬でロストブルーはアールスロウの目の前に立った。

 それと同時にロストブルーは斬撃を放つ。恐ろしい速さと威力を持った斬撃がアールスロウを襲う。


 キィィィン


 ロストブルーの体がわずかに崩れた。ロストブルーの斬撃はアールスロウによって鮮やかに受け流された。


(私の斬撃をさばいただと……!)


 ロストブルーは驚きの表情を浮かべた。


(……しかし、今の斬撃だけに一点集中した防御の構え……これならば、私の方が早く……)


 ロストブルーが素早く次の斬撃を放とうとした、その一瞬だった。横からガルディアが現れた。


「うおおおおおおッッッ!!!」


 ガルディアは力の限りの強烈な斬撃をロストブルーに叩きつけた。


「……くっ!!」


 ギィィィィィィィィンッッッ!!


 今までで最大の金属音が辺りに響き、空間が揺れた。斬撃を受け止めたロストブルーの体は吹き飛ばされ、国軍兵の群れの中へと消えていった。


 それを確認したアールスロウは素早く手を振り上げた。


「撃て――――ッ!!」


 ドンドンドンドンドンドンッッッ!!


 解放軍側から無数の砲撃が飛び、ロストブルーがいるであろう一帯が爆炎に包まれた。

 辺りが煙に包まれる中、アールスロウはガルディアの手を引く。


「こっちです。グレイさん」


「だがファイフ。まだロストブルーは……」


「ここであなたを失うわけにはいかない」


「……分かった」


 アールスロウとガルディアは煙の中へと姿を消した。



 煙が収まった国軍陣の一角。無数の国軍兵が地面に倒れる中、ロストブルーは立っていた。


「さすがグレイ……いい部下を持っている」


 ロストブルーは小さくため息をついた。


「結局また逃げられたか……」


 ロストブルーは周りを見渡す。解放軍を囲む国軍の陣形は所々が薄くなっていた。


「やれやれ……グレイ一人にずいぶんかき乱されたものだ」


 その時だった。ロストブルーは解放軍の中にいる、ある一人に目がいく。

 ロストブルーはその一人を見つめた。


「そうか……君も来ていたのか。クロコ」








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