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3-13 炎の出会い




 道路を駆け抜けるスコア、連れてきた二人の兵士が付いていけるように力を抜いて走っている。

 道を進むごとに腐臭が強くなる。

 スコアは道の途中で足を止めた。


「あの、どうしました?」


 兵士の一人が声をかけてくる。スコアは建物のあいだの路地を見つめていた。


「戦闘はこの道路の先では?」


「付いてきて」


 スコアはそう言って路地へと入っていく。


「あ、あの」


「早く!」


 路地へと入っていくスコア、連れの兵士二人も渋々付いてゆく。

 暗い路地を進むと腐臭は一層強くなっていく。連れの兵士達もその臭いに気づき始めた。


「な、なんだこの臭い……」


 臭いはどんどん強くなる。しばらく歩くと、路地を抜け大きなスペースに出た。

 星が少ないためほどんど何も見えない。しかし……


「おえっ! なんだこの臭い」

「鼻が曲がりそうだ……」


 二人の兵士は気持ち悪そうに声を出した。

 スコアは軍服からマッチを取りだすと火を付けて、近くに投げ捨てた。

 落ち葉だまりに投げ捨てたらしく、火はどんどん燃え広がり、辺りを照らす。

 連れの兵士の顔色が見る見る青くなっていく。


 ここはおそらくは町のごみ捨て場なのだろう。がれきや板切れが所々に散らばっている。そこの一角に、大量の黒い大きな人形が高く積み上がっていた。百体以上はいるだろうか。

 スコアには予想が付いていた。しかしそれでも、顔を歪ませずにはいられない。人形には虫がたかっている。そしてずっと感じていた腐臭はこの人形から漂っていた。


「あ、あの、この人形。まさか……」


 連れの兵士の一人がわずかに震えた声で言うと、スコアがそれに答える。


「そう、これは人形じゃない。これは間違いなく、燃やされた死体の山だ」


「で、では、これはいったい何の死体なんですか……」


 スコアの表情が険しくなる。


(もしボクの予想通りなら……かなりまずい事態になる)




 町の大通り、三人の国軍兵が数十人の町民を先導している。


「ほら、こっちこっち」


 本陣に預けるため、大砲部隊を横切ろうとした時だった。町民たちが突然足を止めた。


「おい……? どうした? こっちだぞ」


 兵士の一人が呼びかけた。その時だった。

 先頭の中年の女性が歪んだ笑みを見せる。


「我らの命を持って、裏切り者どもに血の制裁を」


 その直後、町民と思われていた者全てが、服から爆弾を取りだした。


「なっ……まさか……!?」


 辺りに無数の爆音が響き渡った。



 その爆音にスコア達も気づいた。


「な、なんだ!?」

「大砲か……?」


 連れの兵士二人が声を上げた。


「いや、違う……あの鈍い爆発音は爆弾だ」


 スコアはそう言って顔を険しくする。


(できれば当たってほしくはなかったけど、予想が当たった。住民はすでに全員殺されて、反乱軍のメンバーとすり替わってたんだ……そして今の爆音はルザンヌ軍得意の自爆攻撃の音……おそらく大通りの主力部隊は全滅だ……)


 スコアは連れてきた二人の兵士の方を向く。


「ボクは先に戻る。二人もできるだけ早く戻って」


「え……先に戻るって」


 兵士二人がキョトンとした声を出した直後、スコアは建物の壁を垂直に駆けあがり、あっという間に建物の屋根へと昇った。そして屋根から屋根へとピョンピョンと飛び移り、あっという間にその場を離れていった。


 取り残された二人はポカンとその様子を見ていた。


「すげぇ……なんだあの動き……」

「人間じゃねぇ……」




 西門ではスコアがいた部隊が待機を続けていた。


「小隊長ッ!!」


 突然上から呼び声が聞こえた。小隊長が上を見ると屋根の上にスコアが立っていた。


「フォッカー! なんでそんな所にいる? 他の二人は?」


「そんなことより大変です!」


「なんだと?」


「こんな所で待機している場合ではありません! 今すぐ味方の援護に出て下さい!」


「……!! 何を馬鹿なことを言っている!?」


「いいですか。良く聞いてください。音を聞く限り、東地区と南地区ではかなり激しい戦闘が行われています。そして大通りの主力部隊はほぼ壊滅……。よく考えてみて下さい。敵の対応を見る限り、敵にこちら側の情報が漏れていた。ならば敵はレイド・フェムザムを逃がすことなど簡単にできたはずだ。けれど敵はこちらを待ち構えて攻撃を行っている。その目的はレイド・フェムザムを逃がすことじゃない」


「まさか……」


「はい、敵の目的は、ボクら国軍のせん滅です。もともとリーダーが潜伏しているということは、それを守るだけの武装を整えていたということ。彼らは……この町にボクらを誘いこんで初めから倒す気だったんです。門の封鎖に戦力を割いている場合ではありません。今すぐに動いてください」


「し、しかし……」


「今動かなければ全滅します! 小隊長達は道路を真っ直ぐ進んで西の部隊と合流して下さい。そしてそのまま東地区の敵を挟み撃ってください。南地区にはボクが行きます」


 スコアはそう言うと一足飛びに道路を飛び越えて、向かいの屋根に飛び移った。そしてピョンピョンと南の方へと姿を消した。

 その様子を兵士達はポカンとして見ている。


「しょ……小隊長……」


 一人の兵士が小隊長を見る。


「……くっ」


 小隊長は険しい表情で考え込む。


「……動くぞ」


「は……はっ!」




 南地区では激しい戦闘が行われていた。


 数十人の剣兵部隊が、建物の屋上からの反乱軍の銃撃に襲われている。


「くっ……ひるむ! 建物に昇って仕留めろ!」


「だ……ダメです。攻撃が激しすぎて……うわぁ!」


 激しい銃撃を前に剣兵達は次々と倒れていく。


「クソォ……ここまでか……」


 小隊長がそう言ってうつむいた直後だった。

 銃撃がピタリと止んだ。


「……? な、なんだ」


 すると上からスコアが降ってきた。


「う、うわっ」


「銃兵は全て仕留めました。他の主力は?」


 スコアはそう言って小隊長を真っ直ぐ見つめる。


「え……あ……正面に大砲が二門……それと十数人の剣を持った者が……」


 スコアは正面を見た。二門の大砲と、複数の人影が見える。


「あれか……」


 スコアはすぐさま一人で突進する。


「な、なんだ!?」


 反乱兵が気付き驚く。反乱兵達の正面、スコアが恐ろしいほどの速度で迫ってくる。


「バカ、早く撃て」


「せ、急かすなよ」


 ドンッ! ドンッ!


 すぐさま二発の砲撃がスコアに向けて飛ぶ。


 ドーンドーンッ!!


 スコアのいた辺りが爆炎に包まれる。


「はっ……ざまーみろ」


 しかし黒煙からスコアが飛び出してくる。


「えっ!?」


 スコアは一瞬で間合いを詰めた。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


 大砲回りにいた反乱兵達は一瞬で斬り伏せられた。


「な、なんだ!」


 すぐさま十数人の剣を持った反乱兵が身構えるが、


 ヒュッ


 スコアは一瞬でその集団を横切った、と同時に、無数の血しぶきが舞い散り、十数人の反乱兵は地面へと倒れ伏した。


 スコアは静かに息を吐く。


「……ここはもう大丈夫だろう。次は東地区だ」


 スコアはまた建物の屋上へと駆け上がった。



 東地区、そこでも激しい戦闘が繰り広げられていた。無数の爆音と銃声が響き渡る道路。


「ひるむなーッ! 撃て撃て」


 命令を出す東地区の小隊長。


「すみません」


 突然頭上から声がした。


「……!」


 小隊長は驚いて顔を上げると、建物の屋上からスコアが見下している。


「ここの戦況は?」


「ん……? ああ、西地区の部隊と挟み撃ってからはこちらが有利に運んでいる」


「そうですか。良かった……そうだ、レイド・フェムザムの姿は?」


「いや、こちらでは確認できない」


「……そうですか」


(ここにもレイド・フェムザムの姿はないか……ならどこにいる? 恐らく彼のいる部隊が主力……ならどこに……まてよ!)


 スコアはハッとした。そして北の方角を見る。


(北の本陣か!!)


 スコアは再び道路を飛び越えると、屋根から屋根へ飛び移りながら北へと姿を消した。


 それを小隊長は呆然と見ていた。


「なんだったんだ……? アレは……」



 北地区の大通り。

 国軍主力部隊は全滅し、本陣は反乱軍の激しい砲撃を受けていた。


「くそぉっ! なんとか持ち堪えるんだ!!」


 司令官は険しい表情で周りに命令する。辺りには次々と爆炎が上がる。


「し、しかし、この砲撃では……引いた方が……」


「馬鹿者ッ!! 我らがいなくなったら他の部隊はどうなる!」


 司令官が怒鳴った、その直後、


 ドーンドーンドーンッ!!


 本陣前方に再び爆炎が上がる。


「くっ……!」


(クソ……大砲部隊は全滅して、銃兵ももう少ない……どうすれば……)


 すると砲撃が突然ピタリと止んだ。


「……? な、なんだ、どうした?」


「分かりません、急に敵が砲撃をやめて……」


 その時だった。突然路地から剣を持った反乱兵達がワラワラと出てきた。


「……くっ、直接潰しにきたか。返り討ちにしろッ!!」


 国軍と反乱軍の剣がぶつかり合う。国軍の剣兵は次々と反乱兵を斬り伏せていく。


「ふん……同じ武器で遅れをとると思うなよ」


 司令官が余裕の表情を浮かべた、その時だった。


「ぐあっ!」

「がっ!」


 血しぶきと共に二人の剣兵が地面に倒れ伏す。


「なんだ……!?」


 司令官がその方向を見ると、剣を持った大柄の男が立っていた。

 三十代後半で赤い髪、鋭い目、野獣のように荒々しい気迫を放っていた。


「れ、レイド・フェムザム」


 レイドは司令官をギロリとにらむ。


「さあ、終わりにしようじゃないか。国軍のクズ共」


「くっ……ノコノコ現れおって、やれっ! 仕留めろ!」


 数人の剣兵達がレイドに斬りかかる。しかし、


 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


 レイドの斬撃の嵐と共に、無数の血しぶきが上がり、剣兵達の体が吹き飛ばされる。


「な……馬鹿な……」


 驚く司令官をレイドがにらむ。


「キサマが頭か……」


 レイドは司令官に向かって突進してくる。


「う……!」


 司令官の表情に恐怖が走る。

 途中、剣兵がレイドの前に立ち塞がるが、あっさりと斬り伏せられていく。

 レイドはついに司令官の目の前に立つ。


「さぁ……血の制裁を受けろ!」


「う……うわぁ!」


 レイドが剣を振り上げたその瞬間、


 ヒュッ


 風の如くスコアが現れ、二人の間に立った。

 その姿を見た途端、レイドの目の色が変わる。


「白い髪の少年剣士……まさか、スコア・フィ……」


 ヒュンッ!


 スコアの剣は一瞬でレイドの体を切り裂いた。

 レイドの体はグラッと傾き、大きな音を立て地面に倒れ込んだ。


「大丈夫ですか。司令」


「えっ!? あ……ああ」


 司令官はポカンとしている。


「お……のれ……国軍め……」


 足元から声がした。見るとレイドがスコアをにらみつけている。体からは大量の血が流れ出ている。


「これ……ほどの力がありながら、なぜ分からん…………」


 レイドは息を乱しながら声を漏らす。


「……何かを変えるには、犠牲を払わねばならん……犠牲を払わねば、何も変わらん…………守るだけでは……何も為せない」


 その言葉を聞いてスコアはレイドを見つめる。


「何も守ろうとしない者に、何かを変える資格はない」


「………………ガキが」


 レイドは静かに息絶えた。

 その直後、


 ドォーンドォーンドォーン


 再び砲撃が襲ってきた。

 司令官が険しい顔をする。


「くぅう、頭が潰れたのが分からんか……これだから烏合の衆は……」


「ボクが止めを刺してきます」


 スコアはそう言って大砲部隊に向かって駆けだす。無数の砲撃が飛ぶが、スコアはそれをあっさりとかわす。

 スコアはあっという間に間合いを詰めた。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


 大砲周りの反乱兵達はあっさりと斬り伏せられた。


 すると辺りが急に静かになった。

 敵の気配はもうない。

 スコアはそれを感じて、小さく息を吐いた。

 スコアは耳を澄ました。

 戦闘の音はもうどこにも聞こえない。


(終わった……)


 スコアは静かにそれを悟った。

 ゆっくりと本陣に向かって大通りを歩くスコア。なんとなく大通りの横道に目を向けた。その時、スコアの目にあるものが映った。

 道路に立っている一本の木、それが燃えていた。おそらく爆炎の火が燃え移ったのだろう。


「……!」


 スコアはとっさに足を止めた。

 その燃える木を誰かが見つめている。後ろ姿だが、おそらくは少女だ。布切れのような服を着ている。


(…………まさか、町民の生き残り?)


 しかし、それ以外でもスコアの心には何かが引っ掛かる。その少女の後ろ姿……。

 スコアはその少女に近づく。

 少女は黒い髪をしていた。

 スコアの足音を聞いて、少女はゆっくりと振り向く。

 その少女の顔を見た瞬間、スコアはその場で凍りついた。

 少女の眼には真紅の瞳が浮かんでいた。


(クロコ……!?)








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