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3-12 ルザンヌ軍との戦い




 その日は星の少ない薄暗い夜だった。

 クラット基地よりはるか南東、とある草原。小さな町アルケアの城壁を外から見つめながらスコア・フィードウッドは立っていた。

 周りには数百人の国軍兵の姿がある。

 その前を司令官が立つ。口ひげを生やした三十代前半の司令官だ。


「皆も知っての通り、このアルケアの町には反乱軍ルザンヌのリーダー、レイド・フェムザムが潜伏している可能性が高い。そのレイド・フェムザムの身柄の拘束が第一目的だ。ただし、強い抵抗があった場合はその生死は問わない」


 スコアはそれを聞きながら目を鋭くする。厚い眼鏡は外されている。

 司令官は話を続ける。


「レイド・フェムザムは年齢三十代後半の赤髪の大男だ。かなり剣の腕が立つとのことだ、一人で取り押さえようとはするなよ」


 司令官はそう言ったあと一息ついて再び口を開く。


「それではこれより作戦に移る。第一、二、三、剣兵隊、銃兵隊は南門、西門、東門をそれぞれ封鎖」


「はっ!」


 命令を受けたスコアを含めた部隊の兵士達が一斉に敬礼する。


「第四、五、六、七剣兵隊は南、西、東、北の各地区を捜索、抵抗する者は身柄を拘束せよ。集団による強い抵抗があった場合は北の正門から続く大通りへと追い込め」


「はっ!」


「第一、第二大砲部隊、第八剣兵隊は正門を入った大通りを30m前進後、待機、追い込まれた敵を見つけ次第それを駆逐せよ」


「はっ!」


「残りの部隊は本陣として正門の外に待機だ」


「はっ!」


「それぞれの持ち場へと移動せよ。閃光銃の合図を確認次第、捜索開始だ!」



 スコアは第二剣兵隊の一員として行動していた。行う作戦は西門の封鎖だ。


「おい、おまえ」


 部隊の小隊長がスコアに声をかけた。


「はっ! なんでしょうか?」


 返事をするスコア。


「おまえは確か、シャルルロッドから一人送られてきた援軍だよな」


「はい、そうです。スコ……アルト・フォッカーです」


「ふむ、フォッカーか」


 小隊長は軽くため息をつく。


(予定では、あのスコア・フィードウッドが来るとのことだったが、代わりにこんな細いガキが来るなんてな……まったく)




 持ち場に着いたスコアの隊は、西地区捜索の隊と別れたあと、西門を封鎖した。スコアのいる部隊は銃兵八人と剣兵約三十人の構成だ。

 西門の正面には四角い建物が立ち並んでいる。

 スコアは夜空を見上げる。閃光弾はまだ撃ち上がらない。その時、スコアは何かに気付く。


「あの……何か臭いませんか?」


 それを聞いた隣の剣兵は鼻をスンスン鳴らす。


「……? いや何も」


「そうですか」


(……気のせいか?)


 スコアがそう思った直後だった。

 北の夜空に小さな光が瞬いた。


「始まりましたね」


「ああ、とは言えオレたちの作戦は封鎖だ。大した仕事はしないだろうな。まぁ、レイド・フェムザムでも逃げてくりゃあ話は別だが」




 西地区の道路の一角では捜索隊が動いていた。約三十人の剣兵隊だ。


「とにかく片っ端から民家内を捜索しろ」


「はっ!」


 その時だった。


 パンパンパンッ!!


 血が飛び、数人の剣兵が倒れる。


「なんだっ!」


「銃です! あそこ!」


 道路を挟む建物の上に十人近くの銃を持った男達がいた。


 パンパンパンパンッ!!


「うわあぁっ!」


 銃声と共に兵士の悲鳴が上がる。


「くっ、一時路地へ避難!」


 兵士達は急いで路地へ逃げ込む。しかし路地には剣を持った無数の男達が待ち構えていた。男達は一斉に斬りつけてくる。


「うわぁ!」

「がっ!!」


 血しぶきが上がり、次々と斬り伏せられていく兵士達。

 その事態に小隊長の表情が歪む。


「くっ……なんてことだ。完全に待ち構えられている。情報が漏れていたんだ」


 夜空に響く銃声と悲鳴。



 西門にもその音は届いていた。


「おいおい、ずいぶん騒がしいな」


「ああ、大丈夫なのか?」


 そんな兵士達の声を聞いて、スコアはわずかに嫌な予感がした。



 同様に東地区、南地区も激しい抵抗にあっていた。辺りには銃声と悲鳴が響く。



 西地区の一角、小隊長が大きく声を上げる。


「えーい、ひるむな! 大通りへと追い込め!」


「おーっ!!」


 最初の奇襲からしばらく経つと、隊は乱れた陣形を整え直していた。

 国軍の剣兵達によって、次々と斬り伏せられる反乱兵達。

 国軍が押し返し始めたその時、


 ドォーンドォーンッ!!


「うわあああっ!!」


 味方の中から爆炎が上がる。

 部隊の正面には、二門の大砲を構えた反乱兵達がいた。


「ハッハッハッ、どうだ国軍のクズ共め」

「国民の裏切り者め!」

「裏切り者には血の制裁をォッ!!」


 砲撃が国軍部隊を襲う。

 小隊長は険しい表情になる。


「クソ……こんなものまで」




 西門のスコア達にもその爆音は聞こえていた。


「おいおい、今の音、大砲だよな……」

「助けに行った方がいいんじゃないか?」


 兵士達は騒ぎだす。


「落ち着けッ!!」


 小隊長が声を上げる。


「たとえ大砲を持とうと、まともな訓練も受けていないルザンヌ軍ごときが我らに敵うはずがない。やつらは我らをかき乱してあと、門のどれかを一点突破して脱走を図る気だ。絶対に門から離れるなよ」


 その言葉がスコアの中でわずかに引っ掛かった。


(確かに普通に考えればそうだ……だけど何かが引っ掛かる……何かが)



 西地区の一角、国軍の隊は反乱兵達を追い込み、大通りへと誘い込んだ。


 ドォーンドォーンドォーンッ!!


 追い込まれた反乱兵達を無数の砲撃が襲う。大通りで待ち構えていた国軍の大砲部隊の砲撃だ。


「うわあああっ!!」


 次々と砲撃を受ける反乱兵達。


「よしっ! このまま一気に叩き潰せ!」


 小隊長がそう命令をした直後、


「あの……すいません」


 背後から弱々しい声がした。

 小隊長が振り向くと中年の女性が立っていた。その後方には数十人の人が続く。子供から老人まで年齢は様々だ。


「町の方ですか……?」


「はい……ルザンヌ軍に拘束されていて……町の外に出れなかったんです。隙を見て何とかここまで……どうか助けてください」


「分かりました」


 小隊長は兵士達の方を向く。


「おい、おまえとおまえとおまえの三人、この町民の方々を本陣の方へと避難させろ」


「はっ」


 三人の兵士が町民たちを引き連れ大通りへと出る。


「おーい! 撃つなよー! 民間人だー。本部に連れてくー」


 大砲部隊に合図を出しながら住民を引き連れ大通りを歩く。


 同じ頃、西門。


「だいぶ静かになったな……」

「ああ、戦闘は一段落ついたってところか」


 するとスコアが口を開く。


「いえ、一段落ついたのは西地区だけです。東と南ではまだ激しい戦闘が続いてます」


「えっ!? ここから見えるのか?」


「いえ、聞こえるんです」


「……?」


 スコアは表情を険しくする。


(想像以上に激しい抵抗だ……嫌な予感がどんどん強くなる……それにさっきから漂う腐臭……)


 スコアはもう我慢できなかった。


「小隊長ッ! 自分に様子を見に行かせてください!」


「むっ……ダメだ! 勝手な行動は許さんっ!」


「さっきから変な臭いが漂っています」


「変な臭い……?」


「今動かなければ、取り返しのつかないことになるかもしれません」


「……そんなことは」


「隊長ッ!!」


 スコアは隊長をにらみつけた。その鋭い眼光に隊長はひるむ。


「今の事態が異常なことはもうお分かりでしょう。ほんの少し確かめに行くだけです。すぐに戻ります。お願いします」


「…………」


 隊長は少し考えた。


「分かった……すぐに戻れよ」


「ありがとうございます。それと二人ほど借りてもよろしいでしょうか?」


「えーい、勝手にしろ。とにかく早く戻れよ」


「はっ! そこの二人、ちょっと付いてきて」


 スコアは二人の兵士を連れて道路を走る。


(何か……何かが起きようとしている。予想外の何かが…………)








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