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3-10 迫りくる絶望




 クラット基地の東に広がる緑色の大草原、そこで40000もの大軍勢同士の戦いが繰り広げられていた。

 その軍勢同士の中央、そこでフィンディとラズアームは距離を開けて向かい合っていた。

 駆け抜けているフィンディ、たいして向かい撃つ形で構えるラズアーム。

 ラズアームから発せられるただならぬ雰囲気、それをフィンディは感じた。

 しかし、


(関係ねぇ)


 フィンディは一瞬でラズアームの間合いへ飛び込んだ。


 ヒュンッ!


 フィンディの斬撃は強烈な速さでラズアームの首筋へと伸びた。しかしラズアームはそれをあっさりとかわす。


「なに……!」


「はあッ!!」


 ギュンッ!!


 ラズアームの叩きつけるような大振りの斬撃。

 フィンディは素早く反応し、それを防ぐが、


「くっ……!」


 フィンディの体はラズアームの強烈なパワーで後ろに飛ばされる。素早く体勢を整えるフィンディ。


「……チッ!」


 予想以上の相手の強さに戸惑うフィンディ、その様子を見てラズアームは不敵に笑う。


「初めまして、フィンディ・レアーズ」


 ラズアームは剣を少し下げ、フィンディに話しかける。

 フィンディは取り合わず、黙ってにらみつけている。


「この出会いはまさしく運命だよ」


「…………運命?」


 ラズアームの不可思議な発言、それに思わず反応するフィンディ。

 その反応を見てラズアームは一層深い笑みを浮かべた。


「まさか親子共々、私の剣で命を失うことになるとはな」


 ラズアームのその発言の意味をフィンディは一瞬理解できなかった。

 しかしすぐにハッとなった。

 フィンディの表情がみるみる変わっていく。驚嘆の表情だ。

 フィンディはゆっくりゆっくりと口を開く。


「…………おまえ……まさか」


 ラズアームはニヤリと笑った。


「馬鹿な男だったよ、君の父親はな……戦いの途中で、剣を持った相手に対して刃を下げるなんてね。おかげでこうして私は生きているわけだが……」


 フィンディは自らの腕が震えるのを感じた。そして全身がゆっくりと熱を帯びていくのも感じた。


「うわあああぁぁぁっ!」


 フィンディは叫びながらラズアームを斬りつけた。しかしあっさりと防がれる。


 フィンディはなおも斬撃を繰り返す。しかしその全てがラズアームに防がれる。


「どうした、フィンディ・レアーズ。剣が乱れているぞ?」


 ラズアームは斬撃の一つを避けると素早く反撃に出た。


 ギュンッ!!


 強力な斬撃、フィンディはそれを防ぐが剣圧によって体勢が崩れる。


 ギュンッ!


 フィンディの脇腹がわずかに切り裂かれた。


「がっ……!」


 苦痛の声を漏らすフィンディ。しかし、すぐに反撃に出る。フィンディの斬撃がラズアームの首筋へと伸びる。しかしあっさりとかわされる。


 ギュンッ!


 すぐさま放たれた反撃でフィンディの右足が裂けた。

 わずかによろめくフィンディ、しかし容赦なくラズアームの斬撃が襲う。


 ギュンギュンギュンッ!!


 ラズアームの斬撃を防ぐごとにフィンディの体勢が崩れていく。そして、


 ギュンッッ!!


 ラズアームの大剣がフィンディの腹を裂いた。血が噴き出る。


「がっ……ああ……」


 フィンディは大きくよろめいた。手で傷口を押さえる。ボタボタと地面に血が流れ落ちた。

 フィンディの顔から汗が噴き出る。そして息が乱れていく。

 そんなフィンディを見て、ラズアームの顔から笑みが消えた。


「興ざめだ……」


 ラズアームは剣を下した。冷たい目でフィンディを見つめる。


「こんな貴様を倒したところで、私が得るものなど何もない……」


 ラズアームはそう言うと、フィンディから距離をとった。そしてゆっくりと後ろに下がっていく。


「次に会う時まで、せいぜい心の準備をしておくことだな……また会おう、フィンディ・レアーズ」


 遠ざかっていくラズアームの姿。フィンディはその姿を、傷口を押さえてよろめきながらにらみつけていた。


「……待て……待てよ……」


 フィンディは歯を食いしばる。


「…………クソ……チクショウ……!」




 後方へと下がったラズアームはポツリとつぶやく。


「まぁ、もっとも、君と再戦するのは別の戦場になるだろうがな。なんせこの戦いはもうすぐ終わる」


 ラズアームは軍服から手持ち時計を出して見る。


「時間だ」


 パンパンパンッ!


 国軍側から一時撤退の信号銃が鳴った。

 国軍兵達が次々と後退していく。


「チェッ、時間か」


 国軍右翼で戦っていたフレアが残念そうな顔をして、後退し始める。

 クレイドとフロウはそれに対し追撃せず、息を乱しながらその様子を見ていた。

 クロコと戦っていたコールも後退していく。


「くっ! 待て!!」


 クロコは追い打ちをかけようとするが……


「やめるんだ! クロコ君」


 フロウが止める。


「深追いしちゃダメだ」


 フロウのその言葉にクロコは足を止め、悔しそうにコールを逃す。


 国軍はゆっくりゆっくりと後退していく。

 その様子を眺めながらクレイドが口を開く。


「なんとか……持ちこたえたか……」


 しかしフロウはどこか引っ掛かる様子だ。


「なんだろう……なんでこのタイミングで国軍は撤退するんだ?」



 基地から遠ざかった国軍、その真ん中付近にラズアームは立っていた。

 ラズアームは手持ち時計を再び見る。


「さて……最高のショーを見せてやろう」


 ラズアームはニヤリと笑う。


 一方、解放軍陣の一角で叫び声が上がった。


「うわあぁぁぁっ!!」


 その声にクロコ達が反応する。


「なんだ……?」


 クロコは声の方向を見た。

 すると今度は所々から叫び声が上がる。そして見る見るうちに解放軍全体が大きく騒ぎ始める。


「……おい、見ろよ」


 すぐ近くでクレイドが声を出した。クレイドは静かな口調だったがただならぬ様子だ。北の方をジッと見つめていた。

 クロコとフロウも北を見た。その直後、二人の顔色が変わる。クロコは声を漏らした。


「な……ウソだろ……」


 クラット基地の北、そこには五つの巨大な影が近づいてきていた。

 クロコ達はその影の形を確かに知っていた。

 ……グラン・マルキノだ。

 塔のような砲身を支えた巨大な鋼鉄の塊が五台、煙を上げながら北方向から基地に迫っていた。

 基地の北側には兵士を一人も配置していない。しかしグラン・マルキノはすぐそこまで迫っていた。



「ダメだ…………どうしようもない」


 フロウは固まっていた。


「完全に裏をかかれた……あの軍勢そのものが巨大なオトリだったんだ……」


 その言葉を聞いてクロコは混乱した。


「ウソだろ……!? まさか……負けるのか……?」




 国軍陣、その一角でラズアームは双眼鏡で基地に近づくグラン・マルキノを眺めていた。


(北側にある下り斜面……傾斜は緩やかだが、数km続くこの斜面は、最大高低差100m以上。最長コースを通ればグラン・マルキノさえも容易に隠すことができる。早朝から走らせて、やっとここまで辿り着いた長距離コース。本来ここまでの大回りを通常の隊で行うメリットはない。しかし…………グラン・マルキノならば話は別だ)


 ラズアームは笑みを浮かべた。


「我々の勝ちだ」



 解放軍陣の所々から味方の悲鳴のような声が上がる。


 クロコは迫りくる五つの影を見つめながら、声を漏らす。


「何か……何かできないのか……!? 何か手は……」


 フロウは小さく首を振った。


「ある……はずがない。北側には兵は一人もいない。そしてグラン・マルキノにあそこまで近づかれた。この状況で、あの巨大な鉄の塊を止める手なんかあるはずがない……」


「そんな…………そんな……」


 クロコは呆然とした。クレイドは悔しそうに小さく歯をギリッと鳴らした。


 五台のグラン・マルキノはどんどん基地へと迫ってくる。


 クラット基地敷地内の兵士達もその状況に混乱していた。

 叫び声を上げる者、基地の外へと逃げていく者、呆然と立ち尽くす者、様々な者がいた。


「もうダメだ……」


 一人の兵士がそうつぶやき、石畳の床に膝をついた。

 その時だった。


「あきらめるのはまだ早い」


 一人の男の声が基地の広場に響いた。

 周りの兵士達がその声の方向を向く。

 そしてその全ての兵士が驚いた。

 そこには鋼鉄のヘルムをかぶった男……ファントムがいた。


「ここには私がいる」


 広場の中央、そこにファントムは立っていた。北を静かに見つめている。

 広場の兵士達が騒ぎ出す。


「ファントム……」

「ファントムだ」

「ファントム!?」


 さらに基地の広間の中に巨大な何かが入ってくる。

 五つの巨大な金属の塊。グラン・マルキノよりもはるかに小さいが、それでも大きい。四角い胴体に無数の車輪が付いている。上部には煙突が付いており、そこから煙が上がっている。そして、前部には天にも伸びるような長い長い砲身がついていた。砲身だけならグラン・マルキノよりも長いだろう。

 その巨大な金属の塊五つが、長い砲身を全てグラン・マルキノへと向けた。

 ファントムがヘルム内にこもった声を響かせる。


「やれやれ、こんなにすぐに使うことになるとはな。……照準は?」


「問題ありません」

「こちらもです」


 金属の塊にそれぞれ乗った解放軍兵達が次々と返事をする。


「うむ……では、いくぞ。標的グラン・マルキノ……」


 ファントムは手を挙げた。


「リック・ノール、撃て――――ッッッ!!!」


 五つの長い長い大砲が爆音と共に火が噴いた。

 その直後だった。


 ドォォンッ! ドォォォンッ! ドォォォンッ! ドォォンッ!! ドォォンッ!!


 大地全体に響く巨大な爆音と共に、迫りくる五台のグラン・マルキノの前方が紅蓮の炎に包まれた。

 さらに自らの砲弾の誘爆により、五台のグラン・マルキノ全てが内部から粉々に砕け散っていく。


 破壊されたグラン・マルキノからゆっくりと黒い煙が上がっていく。


 解放軍兵達はしばらくその様子を呆然に見つめていた。しかし……


「うおおおおおおッッ!!」


 クラット基地の広間、そして解放軍陣から次々と歓声が上がっていく。

 煙を上げるグラン・マルキノを眺めながら、兵士達は狂ったように歓喜する。


 クロコはその様子を呆然と見ていた。


「すげぇ……」


「なんなんだろう。あの兵器は……」


 フロウも呆然とした様子だ。



 国軍陣ではラズアームが驚きの表情をしていた。


「馬鹿な!! なんだアレは!?」


 ラズアームの握っていた双眼鏡がバキンッと音を立てて壊れる。


「あんなものの情報などなかったぞ。おのれ……なんてことだ」




 クラット基地の広間ではファントムが静かにグラン・マルキノの黒煙を眺めていた。


「対グラン・マルキノ用兵器リック・ノール。出来は上々だな」


 ファントムは満足そうにうなずいた。

 兵士達の歓喜の叫びは、国軍が姿を消したあともしばらくのあいだ響き続けた。








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