3-6 再開と出会い
フルスロック基地の食堂。その広い空間は昼時のため兵士達によって埋め尽くされている。
その中でクロコは一人昼食を食べていた。
すると向かいからフロウが近づいてきた。
「クロコ君、君の部隊、招集受けてるよ」
「えっ……ホントか」
クロコはすぐに広場へと向かう。五百人近い兵士が整列していた。その列と向かい合う形でガルディアが立っている。
クロコも列に加わり、間もなく兵士がそろうとガルディアが話を始める。
「さてと……えーと、とりあえず、おまえらにはこれから北のクラット基地へと向かってもらいたい。本部が国軍が北に戦力を集めてる可能性があるっていう情報をつかんだことが理由だ。ただ今回、国軍の情報管理がかなりしっかりしてるらしくてな、確証がないらしいんだ。だからまずは先遣隊としておまえらに行ってもらいたい」
「クラット基地……か」
クロコはボソッとつぶやいた。
話が終わるとクロコは準備のために個室に向かう。向かう途中、素早くフロウが現れた。
クロコと並んで歩くフロウ。
「今回はクラット基地だってね」
「おまえ聞いてたのか」
「まあ僕も次はそこだろうと思ってたけど」
「どんなトコなんだ」
「南のケイルズヘル、中央のビルセイルド、北のクラット。解放軍の三大前線基地の一つさ」
「ってことはもし戦いが起これば、かなりの規模になるってことか」
「うん、間違いなくね。あとクロコ君、覚えてる?」
「何をだ?」
「覚えてないならいーや」
「いや、何をだよ」
「まあ着いてからのお楽しみってことかな」
フロウは笑みを浮かべる。
「気になるな……」
「あとクラット基地って言ったら、フィンディ・レアーズが有名だね」
「フィンディ・レアーズ?」
「ミリア・アルドレットと並ぶ解放軍の二大エースの一人さ。クラットは激戦地区としても有名だけど、クラット基地は国軍の侵攻から領土線の十一度の防衛に成功してる。その成功には彼の存在が欠かせなかっただろうって言われてる」
「へぇー」
「まぁ、彼には色々と噂があるけど、彼の異名も含めてね」
「異名? 『瞬神の騎士の再来』とか『戦乱の鷹』ってやつか、どんな異名なんだ」
「うーん、ちょっとここでパッと言うのはね……まあ行ってみれば分かるよ」
「そんなのばっかりだな」
「とりあえずクロコ君」
そう言ってフロウは足を止め、手を差し出す。
「どうか無事に戻ってきてね」
それを聞いてクロコはフロウの手を握った。
「当然だ」
フロウはそのあと立ち去ろうと背を向けた。その時、クロコはハッとして声をかける。
「フロウ!」
「んっ?」
「ソラに……伝えといてくれ。オレが帰ってくるのは当然だから、変な心配すんなって」
それを聞いてフロウがニコッと笑う。
「分かった、任せといて」
間もなく大型馬車十台が北を目指し出発した。
馬車集団はクロコが過去に行ったウォーズレイ基地の道順と同じ進路をたどった。
初日は草原を走り、二日目は岩石帯を走った。
窓を見ると小さな岩や巨大な岩石が辺りに点在する景色が広がっている。
(そういえば、前この辺りで馬車が壊れたっけな……)
クロコは少し昔のことを思い出した。
三日目になると再び草原を走った。途中、大きな角を生やした巨大な牛の集団が馬車を眺めていた。
四日目には再び岩石帯を走る。遠くには見覚えのある赤色の巨大な岩石集団が見えた。
五日目はひたすら岩石帯を走った。
六日目にはまた草原を走る。馬車のなかを満たす空気が少しひんやりとし始めた。
長い馬車生活でクロコはわずかにイラついてはいたが、蒸し暑さがない分、ケイルズヘルの道のりよりはだいぶマシだと思っていた。
そして七日目、窓を見ると、背の低い緑色の草原が大地全体を満たしていた。遠くには青い巨大山脈が見える。その山脈の頂上付近には白い雪が積もっていた。
それから少し経った時だった。兵士の一人が声をあげた。
「見えたぞ! クラットだ」
その声を聞いてクロコは窓から顔を出し、前方を見た。
とがった屋根をした灰色の建物の集団が見えた。
クロコ達はクラットに到着した。
馬車集団はクラットの街中を走る。にぎわった町だった。大通りには多くの人が歩き、いくつもの商店が立ち並ぶ。通りかかった市場では商人の元気の良い呼び声が響いていた。
馬車集団はひたすらクラットの大通りを走る。そしてしばらく走ると、馬車はなぜかクラットの石門から外へ出てしまった。
「ん……?」
クロコは不思議がる。
馬車集団は再び外の草原を走ると間もなく、その先に、丘の上にそびえ立つ巨大な建築物が見えた。
「あれが……クラット基地か」
東の国軍領から町を守るように、クラット基地はそびえ立っていた。横長に伸びた灰色の建物、そこから二つの細長い塔が伸びている。塔の頂上の高さは丘の高さと合わせて300m以上はあるだろう、辺りの景色を一望できそうだ。
馬車集団は丘を上がり、間もなくクラット基地の広場へと入った。
馬車を降りると間もなく、基地の司令官が出迎えに来た。小隊長とあいさつをする。
司令官は年齢三十代後半、四角い顔をした大柄な男だ。
大きな声で兵士達にあいさつする。
「いやいやいや、よく来てくれたフルスロックの兵士達よ。ここの基地の司令官ミケル・ロイムだ。この程度の人数だったら少しは歓迎できるよ。部屋は空いている個室を使ってくれ。国軍の動きがつかめるまでは、ゆるりとくつろいでくれ。なんせまだ確証がないからな。なんなら町にも出ていいぞ。ハッハッハッ」
クロコ達はその後、個室に案内された。一つの個室には数人の兵士が入れられるが、クロコはいつも通り一人だ。
クロコは個室でしばらくくつろいでいたが、暇になったので基地を回ることにした。
クロコはしばらく基地の廊下を歩く。すれ違う兵士達が軍服を着た少女の姿のクロコをもの珍しげな目で見る。けれどクロコは気にしない。
そのまま広間へと出たその時だった。
「クロコさんっ!!」
突然、誰かがクロコを呼んだ。クロコは驚いてその声の方向を見る。聞き覚えのある声だった。
見ると少年の兵士が嬉しそうにクロコに駆け寄ってくる。
その少年は年齢十二、三歳、黄色い髪で一か所はねた髪形、ぱっちりとした目と透き通るような緑色の瞳をしていた。
クロコはすぐに気付いた。
サキ・フランティスだ。前見たときよりも少しだけ大人っぽくなっている。
「サキッ!」
クロコは思わず叫ぶ。
サキはうれしそうにどんどん近付いてくる。しかしクロコはサキが近づくごとに何か違和感がした。サキがクロコの前に立ったとき、その違和感の意味がはっきり分かった。
……高い。
サキの背が、クロコよりも頭半分高い。
「お久しぶりです! クロコさん!!」
サキは満面の笑顔だ。
「おい……サキ」
「はい……?」
「高くないか?」
「えっ?」
「身長……前は同じぐらいだったよな……」
「ああ、背ですか、ここに来たあと急に伸びたんですよ。四カ月で……10cm近くですかね」
「……!!」
クロコはがく然とした、サキに見下されているその事実に。
(は、早く元の姿に戻らないと……!!)
「だけどクロコさん、ああ、本当に懐かしい」
わずかに震えるサキの声を聞いてクロコはすぐに我に返る。
「ああ、そうだな」
「またこうして会えることがすごくうれしいです」
サキの目が少しだけうるんでいた。
「大げさなやつだな。けど……」
クロコは少しほほえみ、手を差し出した。
「久しぶりだな、サキ」
「はい……クロコさん」
二人は握手した。
手を放した直後、サキがしゃべる。
「そうだ、クロコさん。今から少し付き合ってもらえませんか?」
「付き合う? 何にだよ」
「ボク、あのあとすごく剣が上達したんです。クロコさんに見てもらいたくて」
「へぇ、いいぜ、付き合ってやる」
「それじゃあ実技場に案内しますね」
その時だった。
「おや、おやおや」
突然、少し離れた所から声がした。二人は反応してその方向を見る。
すると一人の若い兵士が二人の方へと近付いてくる。
その兵士は年齢十八、九、黄色の流れるように立った髪に、細い目、高い鼻をしている。全体的にどこか軽い雰囲気を持っている。
その兵士が口を開く。
「女の子の兵士じゃないか。フルスロックの兵士だよね」
そう言って愛想よく笑いかけながらクロコに近づいてくる。
「こんにちは、お嬢さん」
「誰がお嬢さんだ!」
怒るクロコ、しかし男は動じない。
「あれっ? その呼び方はお気に召さないかな。じゃあなんて呼べばいいのかな」
「オレの名前はクロコだ」
「えっ、ファーストネームで呼んでいいの? クロコちゃん」
「てめぇ……!! もしもう一度ちゃん付けしたら、てめえのその舌を、先端から奥まで順々に斬ってソテーにしてやる!」
殺気立つクロコ。
「あ、あの落ち着いてください。クロコさん」
サキがなだめる。
「そうさ、落ち着きなよ。ク・ロ・コ」
「やっぱり叩き斬るッ!!」
サキが必死にクロコを押さえる。対してその兵士はヒョウヒョウとした態度だ。
「ああそうだ。そういえば名乗ってなかったね。オレはフィンディ、フィンディ・レアーズだ」
「フィンディ……?」
クロコはその名に反応する。
「おまえがこの基地のエースか」
「おや、すでにご存じだったとは、有名になるモンだね。君みたいなかわいい子に名前を覚えられるんだから」
「このヤロウ……!」
「どうだい、今から町を回らない? オレがこの町のいいトコ紹介するからさ」
フィンディはそう言ってほほえみかける。それを見てサキの方が反応する。
「ク、クロコさんはボクと実技場に行く約束があるんです!」
「どうせさっきしたばかりだろ? 決めるのはクロコだ。どうするクロコ、いい店紹介するぜ」
二人が同時にクロコを見る。
「よし、行くぞサキ」
「アレ、即答」
フィンディはガクッと肩を落とした。
クロコとサキはフィンディに背を向ける。去り際にクロコは気づいた。遠くで若い女の支援員が三人の方向を見つめていた。
「…………」
クロコとサキは広間から出た。
実技場、六角形の広い空間に木製の床。雰囲気全体はフルスロックの実技場とほとんど変わらない。
二人は木剣を持って向かい合う。
クロコは一回木剣をビュンっと振った。
「よし、来いサキ」
「はい」
サキは木剣を構える。そして静かにクロコをにらむ。
クロコは感じた、サキから出る強い気迫を。それだけでサキがずいぶんと強くなったことが分かった。クロコは思わず笑みをこぼす。
サキが動いた。
体を大きくかがめて、低い姿勢で突進してくる。
(……低いな)
クロコは身構える。
サキはそのまま真上に剣を振り上げる。
(真上……?)
クロコがそう思った瞬間だった。サキの姿が消えた。速さではなく、その場からいなくなった。
「え……?」
気づいた時にはサキは懐に入っていた。
「……!!」
素早く後ろに飛ぶクロコ。サキはすぐさま斬撃を放つ。
ビュンッ!
サキの木剣がクロコの体をきれいにとらえた。威力はそれほどでもないが、空中で当てられたためクロコはひっくり返った。
床に叩きつけられるクロコ。
クロコはむくりと体を起こしたあと、しばらく呆然とした。
サキが声を上がる。
「やった! ボクが……ボクがクロコさんに一撃当てた!!」
サキは歓喜の声で満面の笑みを浮かべる。
再びがく然とするクロコ。
(オ……オレが……サキに負けた!?)
喜ぶサキを前にクロコは強烈なショックを受ける。
(オ……オレは今まで何をしてきたんだ…………)
クロコはここ最近では一番の落ち込みようだった。しおしおと小さくなる。
「あれはクロコが悪いよ」
突然、別の声がした。
声の方向を見ると実技場の入り口にフィンディが寄り掛かっている。
「サキの剣技は油断して見切れるモンじゃないからね。ちょっとしたカラクリがあるんだ」
「カラ……クリ……?」
「ま、まだいたんですか。フィンディさん!」
「用事が終わったあとクロコと町をまわろうと思ってね」
フィンディがそう言いながらクロコに近づく。
「立てるかいクロコ」
フィンディに引っ張られてフラフラと立ち上がるクロコ。
「ほら、元気だしなよ。気晴らしに一緒に町をまわろう」
フィンディは優しく声をかける。対して無言のクロコ、暗い顔をしている。
クロコはそのままフィンディに引っ張られるままに連れていかれる。
「ボクも行きます!」
サキが声を上げる。
「おいおい、サキ。邪魔すんなよ。負かした相手がついてきたら元気出ないだろ」
するとクロコが小さく声を出す。
「……サキも来てくれ」
「はい!」
「ちぇ……ッ」
その後、三人は馬で町へと向かう。クラットの町に着いた頃にはクロコは少し元気になっていた。
夕暮れの町の石畳の道を歩く三人。
「クロコ、ブドウ酒飲める?」
「フィ、フィンディさん! クロコさんはまだ十五ですよ」
「飲める」
クロコは一言そう言ったあと、これ以上なめられてたまるかとばかりにサキをにらむ。
サキは少し悲しそうな顔をした。
「よしっ! じゃあいい酒場があるんだ。一緒にいこーぜ」
三人は酒場へと向かう。
途中、クロコは町を見回す。とがった屋根の大きな建物が立ち並ぶ。夕暮れで小鳥の鳴き声が響くが、まだ人通りは多く、活気が残っている。
「この町はなんか有名なモノとかあるのか?」
それにフィンディが答える。
「そうだなぁ、ここはブドウ酒が割と有名だし、あとサーモン料理の種類が豊富だな」
「へぇ、魚料理か」
「あ、あとクロコさん、ここはドラゴンが初めて見つかったトコとしても有名なんですよ!」
「ドラゴン……?」
「はい、見つかったのは骨だけなんですが。ものすごく大きいらしいですよドラゴンって! ドラゴンですよ。クロコさん!!」
ドラゴンと口にするごとにサキのテンションが上がっていく。
「骨だけだろ……じゃあただのでかいトカゲだろ、どうぜ」
クロコは冷たく言った。
「ド、ドラゴンは山の奥深く今でも住んでるって話ですよ」
「でかいトカゲが住むのは岩石帯だろ。誰か山で見たのかよ」
「そ……それで、それで、翼で空を飛ぶって……」
「空飛ぶトカゲなんて聞いたことないぞ。飛ぶのは鳥と虫とコウモリだけだ」
「う……うう……それと、それと……火を吐くって……」
「口から何か出すのは毒ガエルぐらいだ」
「そろそろやめてやれよクロコ……サキが泣きそうだ」
フィンディはあきれている。
三人は酒場に着いた。
酒場のカウンターでフィンディがサッと注文する。
「マスター、特上のブドウ酒二つ、サキ、おまえは自腹だぞ」
「わ、分かってますよ。イエローピーチのジュースお願いします」
「あっ! フィンディだぁ」
突然横から声がした。三人の女の子の集団だ。
フィンディが愛想よく笑いかける。
「やあ、ミレーヌ、シンディ、ニーナ」
「なにー、もしかしてデート?」
「もちろん」
元気のないクロコをいいことに好き放題言うフィンディ。
「ボクもいますよ」
サキが少しにらみながら言った。
「デート、プラスアルファさ」
フィンディのその言葉にサキがさらににらむが、構わず女の子達に向けほほえみかける。
「もーう、今度は私を誘ってよ」
「もちろんさ。機会があればいつでも」
「約束よ。じゃあ、今度ね」
女の子達は立ち去った。
「モテるなフィンディ。さすが色男」
違うテーブルに座っていた中年の男が声をかける。
「よっ!! 町の英雄」
「また頼むぜ天才剣士ッ!!」
次々と声が上がる。
フィンディはそれに愛想よく答える。
「任せてよ。オレがいる限りここは安全だよ」
その様子をクロコは黙って見ていた。
「ずいぶん、人気者だな」
「確かに、人気者ですね」
サキはどこか浮かない表情だ。
「……町だと」
サキはボソッと付け加えた。
その後、夜の道を帰る三人。
「サキ~」
べろべろに酔ったクロコはサキに抱きつく。
「ちょっとクロコさん! くっつかないでしっかり歩いてください」
「アハハハハ」
ケラケラ笑うクロコ。
そんな様子を静かに見るフィンディ。
「ブドウ酒一杯であれか……ちょっとクロコちゃんには早すぎたかな。最初よりはずいぶん明るくなったけど、あの酔いっぷりはちょっとアウトかな。次回はもう少し調整しないと……」
三人は基地へと戻った。
基地に戻った頃にはクロコの酔いはさめていた。
「うーん、途中から記憶がないぞ……あれ? フィンディは?」
「もう個室に戻りましたよ」
「ああ、そうか」
「クロコさん、もう正気に戻りました?」
「……何の話だ」
「大丈夫そうですね」
そう言うとサキは急に真剣な表情になる。
「クロコさん……よく聞いてください」
「……? なんだ」
サキの様子にクロコは少し戸惑う。
「あの人……フィンディ・レアーズとはあまり関わらない方がいいですよ」
「……どういう意味だ?」
「あの人と……」
サキは一瞬言葉を止めた。
「あの人とクロコさんは、絶対に相容れません」
サキは最後にそれだけを言って、クロコの前から立ち去った。
それから数日、基地には次々と援軍の部隊が集まってきた。ここまで増えるとクロコ達の部隊もさすがに行動が制限された。クロコは基地内に缶詰め状態になってしまった。
クロコはサキと共に基地内のテラスから広間を眺めていた。また新たな援軍部隊が到着している。
「またか、ちびちびと集まってきたな」
「はい、元の基地戦力と合わせて30000の兵力が集まる予定だそうですよ」
「30000か……ずいぶんな数だな」
同じ頃、基地司令室の机に一人座るロイム司令官。
「ロ、ロイム司令官!!」
兵士が部屋に飛び込んでくる。
「どうした?」
「たった今、手紙鳥が飛んできて……」
「国軍の動きがつかめたのか?」
「は、はい……国軍はクラット基地を完全に攻める気です。国軍領北部のディズ基地に集められた敵戦力は推定で120000……」
「12!? 120000だと!?」
「はい……かなり確かな情報だと……」
「バカな……過去十一度の防衛の最多戦力と比べても、三倍以上の兵力だぞ……いや、それどころか、この内乱が始まってからの過去最大の戦力だ」
ロイム司令官はギリッと歯を鳴らす。
「国軍め……! ついに本気を出したな……」
ロイムはすぐに兵士の方を向く。
「国軍戦力が集まっているのはディズ基地と言ったな」
「は、はい!」
「あそこからならまだ距離がある……すぐに援軍要請を出せばギリギリで間に合うはずだ」
「で……ですが」
「まだ何かあるのか!」
「は……はい、すでに一部敵戦力がこのクラット基地に向け進軍を開始し、間もなくこの基地へと攻撃を行うだろうとのことで……」
「規模は?」
「およそ20000」
「……!! 援軍が来るまでなんとしても持ちこたえなければ……!! この基地が落ちれば一気に領土線が切り崩されるぞ」
この日を境にクラット基地は一気に臨戦態勢へと入った。
そして二日が経ったある日、国軍の大部隊がついに基地へと姿を現した。
クラット基地の東、そこには大草原が広がっている。南の連続した丘と、北のなだらかな下り斜面の荒れ地に挟まれたその草原は、東に真っ直ぐと伸びた形で広がっている。
その草原に20000以上のグラウド国軍の青い軍勢が姿を現した。
対してセウスノール解放軍も基地の立つ丘の前に向かい合う形で、ほぼ同戦力の20000の陣を構える。
クロコ達援軍は左翼を任されていた。
基地の塔からロイム司令官が戦況を見つめる。
「援軍の頼みの綱はビルセイルドとフルスロックの隊か…………そして我が基地の兵士達……頼むぞフィンディ・レアーズ」
解放軍の左翼、クロコはそこから敵軍を静かに見つめていた。
「いよいよ、始まるのか……」
クロコは静かに剣の柄に触れる。
同じ頃、解放軍の中央前衛でフィンディ・レアーズが国軍を見つめていた。
「さあ……ゲームの始まりだ」
フィンディはニヤリと笑った。