3-4 ファントムの正体
フルスロックから西の地、その馬車道を一台の馬車が走っている。
クロコ達を乗せた馬車は荒野の道をひたすら走る。フルスロックを出て三日目の昼だ。
クロコは窓から顔を出し、道の先を見る。
するとクロコはあるものに気づいた。すぐに顔を引っ込めガルディアに声をかける。
「ガルディア、街だ。街が見えるぞ」
「んっ! ホントか!」
ガルディアも窓から顔を出す。クロコももう一度窓から顔を出す。
馬車道の先には城壁と建物の集団が見える。建物の集団には平べったい赤い屋根を付いていた。
「あの赤屋根は……間違いない、セウスノールだ」
「ついに着いたか」
「ああ、解放軍領の西の主都セウスノールだ」
馬車は間もなくセウスノールの石門を抜けた。
きれいに舗装された大通りを馬車は走る。立ち並ぶ赤屋根の巨大な建物が次から次へと過ぎてゆく。遠くの方を見渡せば、細長い塔のようなものがいくつか立っているのが見えた。
ガルディアが窓の景色を眺めながら説明する。
「セウスノールはもともと、そこそこでかい街ではあったんだが、解放軍の本部ができたことで一気に発展したんだ。今じゃあ劇場や商店街、酒場通りなんかの庶民の娯楽施設が多くできてる。東の首都ゴウドルークスは高級な雰囲気を持ってるらしいが、ここセウスノールはもっぱらの庶民肌な大都市だ」
「へぇ、西部の村や町は幼いころ転々としたけど、ここに来たのは初めてだよ」
クロコは窓の景色をジッと見ている。
「まぁ、今回はすぐ帰るから、多分どこも寄れないけどな」
「なんだよ、それ」
「怒るなって、割といま切羽詰まった状況なんだぜ、実は」
「チェッ、せっかく来たっていうのに」
クロコは不機嫌な声を出した。
「まあそう言うな。一番の目的はほぼ間違いなく果たせるから」
「…………」
(ファントム……)
それからしばらく馬車はセウスノールの道を走った。その間、様々な景色が目の前を通り過ぎる。灰色の家が所狭しと立ち並ぶ住宅地、巨大な建物が連なる商店街、工場地帯の横を通り過ぎた時は、塔のような巨大な煙突が立ち並んでいた。
「さて……そろそろかな」
揺れる馬車の中でガルディアがそう言って間もなく、馬車の前方に巨大な建築物が現れる。
……城だ。
巨大な純白の城が馬車の目の前に広がった。
形は複雑で、いくつもの巨大な屋敷が一か所に無理やり集められたかのようなだった。無数の壁、無数の屋根、無数の窓。そしてそれらから抜き出た形で城の中央部が高くそびえ、街全体を見下している。
馬車の窓から顔を出していたクロコは首をめいっぱいに上げてそれを見上げる。
「ここが……」
「シュルベルク城……。そう、ここがセウスノール解放軍本部だ」
馬車は間もなく敷地内に停車した。
クロコ達は大きな門から中へと入った。
入ってすぐの検問所をガルディアの顔パスで通過すると、目の前に壮大な広間の景色が広がった。美しい装飾が施された壁と天井が目の前を覆う。
クロコはそれを眺めながら口を開く。
「すげーな、解放軍にこんなトコ造る金があったとはな」
「ここを造ったのは解放軍じゃあないさ」
「……? どういうことだ」
「ここはブルテン皇帝がファルゼム皇子のために建てた城さ。解放軍領になってからは本部として利用してるってわけだ」
「なるほどな。でも本部って基地じゃないんだな」
「基地もあるさ。この城の東にな。おまえ側の窓からじゃ見えなかったみたいだな」
「でも、なんで本部が基地じゃなくて城なんだ?」
「オレ達解放軍が国から領地を奪ったからだよ。自治は解放軍がやらなきゃならない。そういう関係で本部はこういう所の方が都合がいいんだ」
「ふーん」
二人はその後、広間を抜けて廊下へと入った。そしていくつもの階段を上がり、いくつもの廊下を抜けていく。
(ずいぶんと高い所まで来たな……)
廊下を歩きながらクロコがそう思った時だった。
向かいから一人の解放軍人が歩いてきた。
その軍人は年齢四十代後半、黄色い髪に少しはねた黄色いひげを生やし、目は開けているのか開けていないのか分からないほど細かった。
「おお、ガルディア。来たか」
軍人はガルディアに気づき声をかける。
「ごぶさたしています。ランクストン総司令官」
二人は握手をした。
ランクストン総司令官はクロコの方を見た。
「彼女が噂の『戦乱の鷹』か」
「あっ、いえ、違いますよ。もう一人の方です」
「もう一人……ああ、最近入った。名前はク……ク……」
「クロコ・ブレイリバーだ」
クロコは少しにらみながら言った。
横でガルディアが笑う。
「ハッハッハッ、こんなやつですがよろしくお願いします」
「あ、ああ」
「それよりも……」
「ああ、もう来ているよ。奥の部屋だ。行くと良い」
ランクストン総司令はそう言ったあと二人を横切っていった。
二人は廊下の奥の部屋へと進んでいく。
部屋の立派な扉の前に立つとガルディアがクロコを見る。
「クロコ、おまえはちょっと待ってろ。まずオレが話すから」
「なんだよ。ここまできて……」
「まあそう言うなって、いろいろ事情もあるからな。ちゃんと待ってろよ」
ガルディアはそう言うと立派な扉を開け、一人中へと入っていった。
部屋の前に取り残されるクロコ。
三十分ほどが経ち、クロコが少しいらだち始めた頃、扉が少しだけ開かれる。ガルディアがヒョコッと顔を出す。
「クロコいいぞ。入れ」
クロコは部屋へと入った。きれいな部屋だった。様々な装飾が施されている。その部屋の奥に一人の男が座っていた。
その男は金属のヘルムで顔を隠していた。
ヘルムの奥から響く声がした。
「ほう……彼が呪いの少年クロコか……」
三、四十代ぐらいの声だ、クロコはそう感じた。
ガルディアが口を開く。
「またヘルムをかぶってるんですか」
「ああ、この目で見るまでは警戒しておこうと思ってな。ふむ、君の言うように変わった雰囲気を持つ子だ」
男はヘルム越しでクロコを見つめているようだった。
「あんたが『ファントム』か」
「ああ、その通り。私が『ファントム』だ」
クロコはファントムをジッと見た。無機質なヘルムからは何を考えているのか全く読み取れない。
そんなクロコをガルディアが見る。
「さて、クロコ。おまえは『ファントム』の正体が知りたくないか?」
「……正体? 素顔ってことか?」
「そうだ」
「確かに見てみたいけど。いいのか、オレが見ても」
「と言っておりますが、どうですか? ファントム」
ガルディアは笑みを浮かべながらファントムを見る。
「君が彼にも見せてほしいと言ったのだろう。大丈夫と言うのなら構わないよ」
「だとさ、大丈夫かクロコ」
「何がどう大丈夫なんだ」
「誰にも正体を言うなよ」
「……分かった、言わねぇよ」
「アールスロウにも言うなよ」
「言わねぇよ」
「フロウにも言うなよ」
「言わねぇよ」
「ソラだってダメだぞ」
「だから言わねぇって!」
「だそうです。ファントム」
「フッ……分かったよ。見せよう」
ファントムはそう言って鋼鉄のヘルムを両手で押さえた。
そしてゆっくりと持ち上げる。
持ち上げたヘルムをドスンと近くの机に置いた。
クロコはその顔をじっくりと見た。
その男は年齢四十代前半、茶色の髪に、柔らかい茶色の口ひげをはやしている。鋭い目つきをしているが、どこか全体的に落ち着いた印象を受ける。
ガルディアが口を開く。
「グラウドの軍務大臣ルイ・マスティン閣下だ」
「ルイ・マスティン……」
「とは言ってもクロコは分かんないだろうな」
ガルディアがそう言うと、マスティンはほほえむ。
「軍務大臣とは国軍の兵器開発や食糧確保、基地建設など、国軍を後ろで支える軍務省の責任者のことだよ」
「国軍を支える存在……」
クロコはマスティンをジッと見つめる。ガルディアが口を開く。
「そうだ。そしてこの方は若いころから軍務省の国務官として働いていた。その手腕と経験を生かして、この解放軍をまとめ上げ、組織化していったんだ」
「でも国の偉いやつなんだろ。よくバレないな」
「国内じゃあ、『ファントム』の正体は軍上層部の誰かって見方が強いからな。だからこの人はうまく追及を逃れてきたんだ、ついでにこの人が解放軍をまとめ上げたは若干三十ちょっとの頃だったからな。それもあるんだろう」
「ふーん」
「さて、オレはそろそろ部屋を出るかな」
「えっ……もう終わりか」
クロコは驚く。
「そうじゃなくて二人きりにしようと思ってな」
「いや、別にいいよ」
「聞きたいことがあったら何でも聞いてみればいい」
バタン
ガルディアは出ていってしまった。
クロコとマスティンは二人きりになった。
「………………」
突然の事態にクロコは言葉を失った。マスティンを見たまま黙るクロコ。
するとマスティンはほほえむ。
「君の話はグレイから聞いたよ。女の姿をしているが、それは呪いで実は男。面白い話だな」
「あんたは信じるのか」
「グレイが言うなら信じようと思うよ」
「…………」
「それと君はスロンヴィア虐殺の生き残り、アークガルドにも長い間住んでいた。全てを失った君は、自分の生きる場所『希望』を求めて解放軍に入った」
「……そうだ」
「スフォードでグレイに初めてその話を聞いた時、機会があれば会ってみたいと言ったんだよ。そうしたら……まさか本当に連れてくるとはな」
マスティンは笑いながら言った。
その様子を見ながらクロコはボソッと口を開いた。
「…………あんたは貴族だろ」
それを聞いてマスティンは一瞬黙った。そして口を開く。
「そうだよ」
クロコはマスティンをジッと見ている。
「なんで貴族なのに、解放軍なんてものを作ったんだ」
「国をどうにかしたいと思うのに、農民も貴族もないだろう」
マスティンは落ち着いた口調で言った。
「けど、あんたは全てを持っていたはずだ」
「確かにな。物は持っている。しかしそれと引き換えに誇りを売り払うことは恥ではないのかね」
「誇り以外のものをそう簡単に捨てれるモンでもねーだろ」
その言葉を聞いてマスティンはほほえむ。
「…………君は面白いな。グレイの言っていた通りだ。だが私は捨てられた、結果論になるが、私はそういう人間だったのだよ」
「そういう人間?」
「人の気質や本質は様々だ。ひとくくりにはできない。だがまあ理由を挙げるとするのなら、私の思想とも深く結び付くな」
「思想……? 考え方か」
「そうだ、私はね、常々思っていた。農民、平民、貴族、そのあまりに開きのある生活を送っているその三者に、一体どのような違いがあるのだろうか? とね。生まれた境遇以外に違いはあるのかと。つじつま合わせの理屈ならいくらでも出てきたが、自らを納得させる答えは出なかったよ。だから私は考えた、この三者にはそもそも違いはない、全てが同じ存在なのだとね」
マスティンは強い口調だった。
「私は解放軍を作り、様々なものを見てきて、その思想は確信へと変わった。これでいいんだと、人にはそもそも違いなどないのだと。同じ一つの体と心を持つ人間には、貴族も農民も今置かれている立場ほどの大きな違いはないのだとね。だからこそ、国民には今の権力からの解放が必要だと思ったんだ」
「それがあんたの……考え方か。それじゃあ……」
クロコはマスティンの目を見つめた。
「それじゃあ聞かせてくれないか? あんたは国軍を、悪だと思うのか」
「思わないよ」
マスティンはすぐに答えた。
「それでも国軍と戦うのか」
「そうだね。今の人々を救うには戦うしかないと思っている。ブルテン皇帝が悪政を振るうようになってからは国が大きく荒れた。けれど議会も貴族も皇族も何も出来なかった、何もしなかった。そして今もそうだ。私が議会で何を呼びかけても状況は一向に変わらない。私ほどの立場でもだ」
マスティンの表情が少しだけ険しくなった。
「もう内側から変えるのは不可能だ。戦うことは正しいこととは思わないが、今は戦う以外の選択肢はない。そう私は考える」
「国軍が悪じゃなくてもか?」
「そうだ、国軍にも正義はある。しかし、新たな正義を立たせるには今ある正義を倒さねばならない。犠牲は出るだろう。しかし現状を放置すれば、貧困や虐げによる犠牲がどちらにしろ出る。戦う以外の改善方法がなければ、選択しなければならない、戦うか戦わないか」
「……なるほどな」
クロコはマスティンを真っ直ぐ見つめながら言った。
「納得できたかい?」
「あんたは演説が上手そうだ。解放軍をまとめ上げたっていうのも分かる気がする」
「どうやら納得できないようだね」
「少し考えてみるよ」
「そうしてみてくれ、自分の頭で考えることも大切だ」
そう言ってマスティンはほほえんだ。
「………………」
クロコが黙ると、一瞬その場を静寂が支配した。
するとマスティンは口を開く。
「話は変わるが……」
マスティンはそう言うと、鋭い目でクロコを見つめる。
「クロコ……私は先ほど、内側からでは国を変えられないと言ったね。それはなぜだかわかるかい?」
「議会の貴族どもが自分の地位を捨てたくないからじゃないのか?」
「それもある。しかしね、私はこうも思ってるんだ。何者かが国を、今の荒廃している状態に変えるように誘導している、とね」
それを聞いてクロコは驚いた。
「変えるように、誘導……!?」
「そう、本来グラウドの政治システムは皇帝政治と議会政治の両政治のバランスが取れた非常に優れたものだった。そのためそのシステムができて五十年以上、グラウドは大きな問題が起こることなく安定な状態を保ち続きていた。そしてブルテン皇帝がまだ『賢帝』とうたわれていた時代は過去に類をみないほど安定していた。しかし……」
マスティンは再び険しい表情をする。
「十二年前から突然、グラウドの政治が不自然に乱れ始めたんだ。私は現在、グラウド側にもセウスノール側にもいる。その二つの視点によって、私は『ダークサークル』の中心に立つ、ほんの一部の人間の邪悪な意思の存在に気づくことができた……」
「『ダークサークル』を起こした人間……そんなやつらがいるって言うのか」
クロコは呆然とした様子だ。
そんな様子のクロコをマスティンが鋭く見つめる。
「そうだ、そして我々解放軍は国民を救うという目的がある以上は、国軍だけではなく、その者たちとも戦わなければならない」
「…………!」
「もしかしたら君にも、その者たちと対峙する時が来るかもしれない」
「…………オレも……」
クロコはボーっと立ち尽くした。
するとマスティンは机に置かれた手持ち時計を見る。
「おっと、残念ながらもう時間だ。クロコ、グレイを呼んでくれないかい」
「んっ? あ、ああ」
クロコは扉を開け、ガルディアを中へ入れた。
部屋に入ったガルディアはマスティンの方を見て口を開く。
「どうでしたか? クロコは」
「なかなか楽しかったよ。また機会があれば話したいものだ」
それから間もなくして、クロコとガルディアは部屋を出た。
二人は城をあとにした。
馬車の中でガルディアが口を開く。
「どうだった、ファントムは」
「落ち着いた感じはあったけど、なんて言うか、熱血漢なオッサンだな」
「ハッハッハッ、確かに、それは違いないな」
「それと…………」
クロコは険しい表情をする。
「『ダークサークル』か……」
ガルディアはそう言ってクロコを見つめる。
「……ああ」
「なかなかびっくりするよな、初めて聞かされると」
「……ああ」
「けどなクロコ、よく聞けよ」
「なんだ?」
「おまえは今『真実』の先っぽに触れたんだ」
「『真実』……?」
「そうだ、おまえはいつか、その『真実』と正面から向き合うことになるかもしれない。だから忘れるな。『真実』とは常に目の前にある一つだけとは限らない。だからこそ、もしそれと向き合うことになった時、それによく目を凝らせよ」
「…………」
「まあ、オレが言いたいのはそれだけだ」
「そのためにオレをファントムに会わせたのか?」
「いや、本人が会いたいって言ったから」
「おい!」
「それよりクロコ、ちょっとこれから店まわろうぜ」
「切羽詰まった状況とか言ってなかったか?」
「細かいことは気にするな。数店回る時間ぐらいはあるさ、多分」
少しの間、街を走った時だった。
「見ろよクロコ!」
ガルディアが窓から顔を出して前方を指さした。クロコも顔を出し、その方向を見る。
街なかを大きな川が流れていた。その川の中央付近には大きな浮き島があった。そしてその島の上にカラフルなテントの集団が見えた。
「なんだ……アレ」
クロコはテントの集団を見つめながら言った。
「メロ大市場、世にも珍しい川の中の市場さ。ここなら時間も取られないだろ」
馬車は浮き島へと架けられている橋を渡る。
浮島に着くと、そこには所狭しとカラフルなテントの屋台が開かれている。
食べ物屋、ベル屋、花屋、布屋、アクセサリー屋など様々な店がある。商人同士で取引している姿も見える。川沿いには数匹の水猫が水とたわむれていた。
店を眺めながらガルディアが口を開く。
「どんな店を見たい? クロコ」
「どんな店か……そうだ! 呪い屋を探そう!」
「へぇ~、呪いを見たいのか。変わった趣味してるな」
「ふざけてんのか!」
ガルディアは辺りを見渡す。
「呪い屋か……そんな店あるかなぁ」
ガルディアは近くの食べ物屋に寄る。
「サンドイッチふたつ」
「あいよ400バル」
「はいよ、400バル。なあおっちゃん、ここらに呪いを扱ってる店知ってるか?」
「はい、二つ。あんたも物好きだね。あんな店に興味があるなんて」
「あるのか!」
横でクロコが声を上げる。
「ああ、ここの西端に確かあったな。興味があれば見ればいい」
二人は島の西端へと早歩きで向かった。
西端へ着くと、その店はすぐに見つかった。多くの屋台店の中に一つ、明らかに不気味な真っ黒の屋台店があった。
「間違いない!」
クロコはそう言うとその屋台店へと突進した。
屋台店はコウモリ羽のようなマントを着た太った男が経営していた。
「おい、オッサン、この指輪の呪いを解くのをくれ!」
クロコはいきなりそう言った。
店主は目を丸くする。
「この指輪……?」
「悪いおっちゃん」
ガルディアがクロコの横から店主に声をかける。
「ちょっと事情があるんだ。今から説明するよ」
ガルディアは端的に事情を説明した。
「なるほどねー」
店主はそう言いながらフンフン鼻息を立てた。
「指輪型の神具だと思うんだ。ここに置いてないか?」
「ないねー」
「クソッ! ないのかよ」
クロコが声を上げた。横でガルディアが聞く。
「それじゃあ同業者でそういう指輪型の商品を扱ってるやつは見たことないか?」
「仲間でね…………どうだったかなぁ……ん、待てよ」
「思い当たる節があるのか?」
「ああ、あるな」
「ホントか!」
クロコがまた声を上げた。
「旅の商人でな。確かそいつの商品に白い指輪があった。今思うとあれは呪具じゃなくて神具だ」
「旅の商人って言うとまさか……」
「ああ、もうここにはいないね」
「いない……」
クロコは呆然とした。
「いつ頃ここにいたんだ?」
ガルディアが聞いた。
「割と最近だね。一、二週間ぐらい前までいたかな」
「どこに向かったか分かるか?」
「詳しい場所は分からんが、確か東へ向かったよ」
「よし! 東だ! そこを徹底的に探してやる!」
「落ち着けクロコ、ここは西部だぞ、どれだけ東が広いと思ってるんだ」
「だけどあと一歩じゃないか!」
「まあそこらへんの司令官に手紙を飛ばしてみるよ。今回はここまでだな」
「クッソーッ!!」
クロコは悔しそうにうなる。
「ついでにその商人ってのはどんな顔だ」
ガルディアがそう聞くと店主は笑う。
「あいつか、ハハハ、顔は特徴的だからすぐわかるぞ。まんまるい顔でな、目がすごく離れてるんだ、さらに丸い鼻でな、赤いひげを生やしたコウモリみたいな顔してるぞ」
「赤いひげのコウモリか。ありがとな、おっちゃん。どれ、お礼になんか買ってくか」
「ガルディア、間違っても黒い指輪なんか買うなよ」
「ハッハッハッ、どっかのクロコじゃあるまいし、そんなことするか」
「このヤロウ……!!」
ガルディアは結局、相手に飲ませることにより一ヵ月間げっぷを止まらなくさせる石を買った。
「こんなでかい石どうやって飲ませんだよ」
帰りぎわに、ガルディアの持つこぶし大の石を見てクロコが言った。頭をかくガルディア。
「やっぱ呪いって扱いが難しいんだな。どうやってファイフに飲ませようかな」
「絶対メチャクチャ怒るぞ」
二人はその後セウスノールをあとにした。