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2-13 四人目の化け物




 乾いた大地を進む三台のグラン・マルキノ。

 その中央のグラン・マルキノの扉の前、その木製の足場に赤い滴がいくつもしたたり落ち、小さな赤い水たまりをいくつも作っていた。

 無数の刃を体に受け、それでもクレイド・アースロアは扉の前に立っていた。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」


 荒く息をするクレイド、足場を取り囲む十一人のアサシン。

 クレイドはそれでも前を見てニヤリと笑みを作る。


「どうした……、その程度か。こんなショボい傷の百や二百じゃあ俺のでかい体は倒れねぇぜ」


 アサシン達の中央に立つラギドはギリッと歯を鳴らした。

 そして手で指示を出した。

 それに応じアサシン達は陣形を動かす。

 その瞬間、クレイドの眼は集団から一瞬離れたアサシンの一人をとらえた。

 クレイドは足場からいきなり飛び出し、そのアサシンに向け強力な斬撃を振りまわす。アサシンは驚きながらもそれらをすべて避け、すぐさま斬撃を返す。しかしクレイドはさらに一歩踏み込む。


「おらぁっ!!」


 クレイドは一気に斬撃を振り下ろす。


 ギュンッ!!


 その斬撃はアサシンをとらえた。アサシンの体は切り裂かれ、勢いよく吹き飛んだ。

 クレイドもアサシンの斬撃を受け、肩をわずかに切り裂かれた。

 すぐさま無数のナイフがクレイドの方へ飛んで来るが、クレイドは後ろに飛びながら避け、サッと扉の前に戻る。


「ふん、俺が扉の前から動かないと思ったか。この単細胞」


 挑発するクレイド、ラギドの目は怒りに燃える。


「なにをやっている! こんな死にぞこない、とっとと始末しろ!!」


「ふん、上等だ。とっとと始末してみろ」


 力強いクレイドの表情。しかしそれとは逆に体からは無数の赤い滴がポタポタと流れ落ちる。


(クロコ、まだなのか…………?)




 グラン・マルキノの内部、木製の壁が延々と続く通路、そのあちこちに切り伏せられた国軍兵が倒れている。

 その通路の先、クロコはグラン・マルキノの通路を駆け抜けていた。

 前回も通った道、構造にほとんど違いはなかった。枝分かれしている入り組んだ通路の中を、クロコはほとんど迷いなく真っ直ぐ装着室に向かっていた。


(もうすぐだ。もうすぐ……)


 その時、駆け抜けるクロコの先に一人の剣兵が立っていた。

 クロコは足を止める。


「よう……」


 剣兵が話しかける。

 少し乱れた長めの灰色髪、赤い瞳が浮かぶ鋭い目。

 レイデル・グロウスがクロコの前に立ちふさがる。

 レイデルはクロコをゆっくりと見つめると、不敵に笑う。

 クロコもレイデルを見つめる。他の兵士達とはどこかが違う。異質で、そして危険な雰囲気を持つ男。クロコはそう感じた。

 レイデルはクロコの方をジーッと見る。


「どんなやつが来るかと思ったら、こりゃあ、また……」


「てめーと話してる時間はねーんだ。そこをどけ」


 クロコは剣先を向ける。

 レイデルはそれを見て笑う。


「くっくっくっくっくっ、特徴から見て『戦乱の鷹』じゃあないな……女の剣士か二人……こりゃあ珍しい」


「誰が女だ! 時間がねーんだ! 待ってるやつがいるんだよ……!」


 クロコは剣を構える。


「やる気まんまんじゃねーか……よし! いいだろう。女だし、ハンデをやるよ」


「ハンデ……?」


 レイデルは右手で剣を抜くと左手に持ち替えた。


「てめぇ、右利きだろ……!」


「そうだよ。だからなんだ?」


 レイデルはそう言うと、さらに床にドスッと腰を下ろし、足を組む。


「オレはここから動かねー……剣も左手、これがハンデだ」


 レイデルはニヤーッと笑う。


「てめぇ! ふざけてんのか!!」


「ふざけちゃいないさ。大マジだぜ?」


「てめぇ……!! これはゲームじゃねぇんだ。命を懸けた戦いだってこと、わかって言ってんのかよ!!」


 クロコはレイデルを嫌悪感のこもった目でにらむ。

 しかしレイデルは笑う。


「わかってねぇ……、わかってねぇな…………命を賭けた戦いでやるからこそ、最高にカッコつくんじゃねーか」


 レイデルの表情はその状況を心から楽しんでいるかのように見えた。

 クロコの剣を握る手がわずかに震える。


「そうか……ならっ! 遠慮はしねーっ!!」


 クロコはレイデルに向け一気に突進する。

 クロコがレイデルに斬撃を放とうとしたその瞬間、レイデルの持っている剣だけが、クロコの視界から突如消える。


「……!!」


 クロコは直感的に後ろへ飛ぶ。

 レイデルとクロコの距離が再び開く。レイデルはニヤリと笑う。


「いい勘だ……」


 ポタリ


 クロコの肩から血が流れる。クロコの肩はいつの間にか切り裂かれていた。

 クロコの顔から嫌な汗が流れる。


(……なにが起きた? 突然あいつの剣だけが消え、オレの方が切り裂かれた。まさか……だが……)


「確かめるしかねー」


 クロコはレイデルをにらむ。レイデルはなおも笑っている。


「確かめる……? 多分当たってると思うぜ」


 クロコは再びレイデルに突進する。

 クロコはレイデルの剣に目を凝らす。

 クロコが近づくと再びレイデルの剣が消えた。クロコはさらに目を凝らす。

 ……見えた!

 レイデルの剣は恐ろしいほどの速さでクロコに向かって来る。クロコはそれを避けようとするが……


(なんだ!? この剣速は、こんな速度、ありえない……!!)


 クロコとレイデルの距離がまた開く。クロコはもう片方の肩が切り裂かれていた。


「クソ、ちくしょう……」


「悔しがるなよ。すごいんだぜ。左手とはいえ、オレの剣を二度も避けるなんて、誇っていい」


 レイデルは笑みを浮かべる。

 クロコはそんなレイデルを静かに見つめた。そして悟った。


(そうか……こいつも、こいつもスコアやミリアと同じ……)


 クロコは歯をギリっと鳴らす。


(……化け物か)








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