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2-12 スティアゴア台地からの刺客




 ケイルズヘル基地、その敷地内広場の高台にローズマン司令官は立っていた。南方の大地を見つめ戦いの行方を見守っている。

 隣でマルトフ副司令が口を開く


「先ほど聞こえた五回の爆音……あれがおそらくグラン・マルキノなのでしょうね」


「だろうな……」


「最後の一回、ずいぶん近くで聞こえたように思えました……」


「…………」


(あっちはあまり戦況が良くないようだ。そして、こっちもそろそろ……)


 ローズマンがそう思ってスティアゴア台地の方を見たその時、スティアゴア台地の斜面を駆け降りる無数の影が見えた。


「……!! 来やがった!」


 ローズマンの目が見開かれる。敵の奇襲部隊はざっと見て4000以上。

 ローズマンは信号銃を鳴らしたあと、大声で号令を出す。


「基地砲一斉砲撃!! 敵を近づけるなー!!」


 基地に装備されている大型大砲から砲撃が放たれる。

 斜面を駆け降りる大群のところどころから爆炎があがる。

 しかしケイルズヘル基地に取り付けられている大砲の数は、壁となっているスティアゴア台地側には少ない。4000人以上いる敵の奇襲部隊に与える被害は小さかった。

 奇襲部隊は斜面を下るとそのまま駆け出し、基地の方へと近づいてくる。

 味方の大砲部隊も砲撃を行う。

 無数の砲撃が奇襲部隊をとらえる。しかしそれにも動じずどんどん近付いてくる。



「出番か……」


 基地にいるミリアは静かに剣を抜く。


「第一部隊突撃ー!! 基地に近づけるなよ!」


 ローズマンの声とともに、3000人近い部隊がミリアを先頭にして駆け出す。

 互いに近づく解放軍と国軍。

 巨大な台地と基地の間の狭き大地、そこで二つの軍勢がぶつかり合おうとしていた。

 先頭のミリアは国軍が目の前にまで迫ると、迷いなく一気に敵陣へと飛び込む。


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!


 無数の斬撃の壁が国軍兵達を襲う。

 国軍の兵士はまるで紙切れのように次から次へと斬り伏せられる。

 まるで巨大な天災にでもあっているかのようだった。国軍の剣兵達はミリアの斬撃を目でとらえる事さえできず、ただ無抵抗に次々と斬り伏せられる。


 国軍兵達はその事態に混乱した。

 剣でも銃でもミリアをとらえることができない。大砲を持たない奇襲部隊はミリアに為す術なかった。

 その時だった。敵軍から疾風のように駆け抜ける剣兵が一人、ミリアに向かって近づいて来る。

 その若い剣兵の白い髪が自ら巻き起こした風によって流れる。スコア・フィードウッドがミリアの前に立ちふさがる。

 ミリアとスコア、二人の眼が合った。

 乾いた大地の上でスコアとミリア、互いに剣を構える。

 次の瞬間、ミリアの姿が消える。ミリアは一瞬でスコアの間合いに入った。


 ヒュンッ!


 ミリアの恐ろしく速い斬撃、しかしスコアはそれをかわす。


「……!」


 今度はスコアがミリアの横を一瞬でつく。


 ヒュンッ!


 空気を置き去りにするかのような高速の斬撃、ミリアはそれをかわす。


「なに……!」


 それと同時にミリアが反撃に出る。目にもとまらぬ連続の斬撃。スコアはそれに反応し剣を振るう。複数の斬撃が一瞬で飛び交う。

 その斬撃が全てぶつかり合い、はじけた。


 ギィィィン!


 二つの刃が勢いよくぶつかった時、二人の動きは止まった。

 そしてミリアとスコア、お互い同時に後ろへ飛び、距離を開ける。

 二人の表情がわずかに険しくなった。


 戦場において絶対的な力を持っていた二人、その中で、自分にこれほどまでに対抗できる者はいまだかつて存在しなかった。

 今まで出会った中で最強の敵、そしてそれに立ち向かう覚悟を二人は固める必要があった。


 ほんの一瞬の静寂、大砲の爆音と兵士のかけ声が響き渡る大地、しかしここだけはそこから切り離されたように静かな雰囲気に包まれていた。

 しかし、それは長くは続かなかった。

 二人はほぼ同時に動き出す。

 互いに目にもとまらぬスピード。

 スコアが一瞬でミリアの横をつき、空気を貫く強烈な突きを放つ。

 ミリアは体をそらし、それをかわすと一瞬で数発の斬撃を放つ。スコアはそれを見切り全て紙一重でかわす。スコアの鋭い蹴りが飛ぶ。

 ミリアは素早くそれをかわす。次の瞬間、

 ミリアは一歩踏み込む。

 体を構え、嵐のような無数の斬撃を放つ。スコアもそれに応戦する。

 無数の斬撃がぶつかり合う音があたりに響き渡る。その無数の音は止まることを知らず、その恐ろしく早いテンポは、まるで一つの音が連続で響いているかのような錯覚すら覚える。

 斬撃の壁が音をたててぶつかり合う。

 斬撃は目にも止まらぬ速さでぶつかり合い、剣の閃光が火花のように、あたりを縦横無尽に飛び交う。

 剣だけではない、二人の足も体も、目の動きさえも常識とははるかに離れた速さで動き続けている。


 二人の回りを囲む兵士達は、解放軍も国軍も剣を止め、ただこの戦いに見入っていた。


「に、人間の動きじゃねぇ……」

「なにが起こってんだ……?」


 兵士達はまるで幻覚でも見ているかのように、呆然と立ち尽くしていた。



 もういくつの斬撃が飛び交ったかもわからない。二人とも、まだ一太刀すら浴びていない。

 しかし、戦況にわずかな変化が生じる。

 ミリアの剣がスコアの肩をわずかにとらえた。

 スコアの肩からわずかに血が飛ぶ。しかしスコアはひるまない。


「はあッ!!」


 スコアは掛け声と共に剣を力強く振り下ろした。その斬撃はあまりにも速く、刹那の閃光にさえ見えた。

 ミリアはそれにすら反応し、斬撃を受け止める。

 しかしその強力な一撃にミリアの体が一瞬よろめく。その瞬間だった。


 ヒュンッ!


 風切り音と共にミリアの腹が裂けた。ミリアの体は反射的に前に縮こまった。そのわずかな隙。


 ヒュンッ!


 ミリアの足が裂けた。

 その瞬間、まるで幻覚を見ているかのような攻防は止まった。

 地面に手をつけ、ひれ伏すミリア。


「う……!」


 そのミリアの姿を表情一つ変えずに見下ろすスコア。

 スコアは最後の一撃をミリアに向け放った。その斬撃がミリアの体を切り裂く……だろうその瞬間、


 ギィィィンッ!!


 スコアの剣が止まった。いや、止められた。

 スコアはその事態に驚く。

 最後の瞬間を覚悟していたミリア。

 その目の前を大きな背中が覆う。

 スコアと向かい合い、巨大な黒剣を片手に持ったグレイ・ガルディアが立っていた。


「よう、ミリアちゃん。久しぶり」


 ガルディアはスコアの方をにらみながらミリアに話しかける。

 ミリアはガルディアの背中をぼうぜんと見つめる。


「ガルディア……なぜあなたが……」


 ガルディア……その言葉に、スコアがわずかに反応した。

 しかし次の瞬間、スコアの姿が消える。スコアは一瞬でガルディアの横につく。それとほぼ同じタイミングでスコアの斬撃が飛ぶ。


 ズンッ!


 ガルディアは一瞬で黒剣を地面に突き立てた。その巨大な黒剣は柱となり、スコアの斬撃を阻んだ。黒剣は地面に深く潜りビクともしない。ガルディアは黒剣を壁にスコアの懐に一瞬で飛び込む。


 ズゥンッ!!


 ガルディアの蹴りがスコアの腹をとらえる。ガルディアの太い足から放たれる蹴り。その強烈な衝撃がスコアの体を貫いた。

 スコアの体は軽々と吹き飛んだ。

 後ろに飛ばされたスコアは素早く剣を構え、体勢を立て直す。しかし思わず腹を押さえてしまう。


「ぐ……あ……っ、ゴホッゴホッ……」


 せき込むスコア、その前に立つガルディアは不敵にほほえむ。

 スコアは構え直し、正面に立つガルディアを静かに見つめた。


(あれが、彼が……、国軍の最大の壁……セウスノール軍最強の剣士『黒の魔将』グレイ・ガルディア……)


 ガルディアはスコアをにらみながらほほえむと、巨大な黒剣を地面から引き抜き、そして構えた。


「さーて、やろうぜ。『瞬神の騎士の再来』よ……」







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